2016年の大河は「真田丸」でした。三谷幸喜さんが脚本を書いて、アサヒの夕刊とかにもうちわネタを書いていたように思います。三谷さんとしては、自分のファンをドラマに引き入れなきゃいけないし、いろいろと工夫されてたんだと思われます。私はその連載をちゃんと読んでいなくて、「真田丸」のことも語る資格はありません。
でも、奥さんが見ているのを立ち見して、ハハーン、今ごろこういうところをやってるんだなと、スポーツ中継を見るみたいに、試合経過を見るような気分でチラ見していたように思います。そして、すぐにテレビの前から去っていくのでした。
最大の山場は、大坂夏の陣だったと思われますが、それさえちゃんと見ていないし、きっと兄弟が別れ別れになり、幸村さんがあんなに将来を期待されていた雰囲気だったのに、豊臣方に付かざるを得ず、そのまま歴史のかなたに消えていくのをドラマチックに描いたのでしょうね。見ていないので、全くわかりません。
けれども、人々の心には響いたんじゃないでしょうか。たくさんの大河ファンが生まれました。NHKバンバンザイでした。
その流れで、うちの奥さんは「直虎」も見ていました。最初のころはイマイチだったようです。もう見るのを止めたのかという雰囲気もありました。でも、スダくんが出るようになってから、興味津々で見るようになったということでした。直政の出世物語がおもしろかったのかな……。
私は、昨日も、チラッと海老蔵さんのノブナガさんが、光秀さんを蹴飛ばすところを見ました。なかなかはまり役だなと感心して、デフォルメはあるだろうけど、狂気というのか、悲壮というのか、悲劇的な結果を招来する動きというのか、フロンティア精神にあふれているから、古くさいモノや人が嫌いで、古くささの代表格の光秀さんと衝突する場面があった。それからしばらくしたら、もうノブナガさんはドラマ世界から消えたみたいでした。すごくあっけない、いつ消えたのかわからないくらいの本能寺の変だったようです。
それだけで1話分くらいできそうなネタなのに、ほんの数分かで切り捨てたみたいです。
物音だけで判断する限りでは、本能寺の変も一切テレビで再現せず、ただその知らせを聞いた徳川の面々がうろたえて伊賀越えをしたらしい。……というのをネットで見て、私はそうだったのかと知った状況です。
2年連続の「伊賀越え」の再現だけれど、今年の演出は喜劇タッチだったということでした。
そして、改めて思うのは、今年の直虎さんは、徹底して合戦シーンを描かないで、合戦があったらしいが、それを人々はどう受け止め、どう動いていったかを描いていたのだという合戦のあとさきを描くことで合戦があったことをわからせるやり方の演出だったのだと今ごろ気づきました。
確か、昨日も柴咲コウさんは、「いくさのない世の中を作るために、私はがんばる」みたいなことを言っていたような気がします。
そしてそれは、今年1年ずっとドラマの中で希求されてたことだったのでしょう。
大河といっても、日本各地を移動するわけではなくて、ずっと静岡県西部の山奥の村が中心でした。ここからどこか他のところに移動したのか、それさえわからないけれど、ずっと直虎さんが、この地方からいくさの世をながめ、いつかこのいくさの世を終わらせなくてはならなくて、とりあえず自分たちの小国というのか、井伊の谷という世界を守ろうとした。
まるで柴咲コウさんがナウシカに見えてきました。井伊の谷はまるで風の谷みたいじゃないですか。ジブリの世界で、世の中の再生のために小さなところからコツコツ変えていくみたいな、あのパターンを踏まえているような気がしました。
でも、これはジブリのぱくりでもなくて、直虎さんのオリジナルでもなくて、もとは二千五百年前の老子さんのアイデアだったと、今さらながら気づきました。
小さな国でもいい。善良な人々が集まり、争いごとをせず、自らで足りることを知り、欲望を持たず、他の国には侵略せず、小さな桃源郷を山あいの集落に作っていく。これが理想の世界であり、よそを見れば際限がなく、目先の小さな世界の平和だけを求めて行く。これは老子さんの教えでした。
それをドラマの中の直虎さんは実現しようとしていた。それがうまくいったのか、私はわかりませんが、その直虎さんのもとから、徳川四天王の井伊家が生まれていくなんて、まあ、できた話だなと思うのです。
本当なのか、フィクションなのか、イマイチわからない部分もありますが、今年の大河は、老子さんの思想を実践しようとした直虎さんの生涯を描くことになり、それが戦国の世を描いたドラマにしては、ギトギトしないし、カラッとした、ドラマチックな展開はあまりないけれども、小さな集落をいかにして平和に守るかをずっと求めたドラマとして、いつもとは違った切り口の大河ドラマとして成功したのかなという気がしました。
だから、うちの奥さんも、最終回まで引きつけることができた。夫の私は、チラ見しかしていないけど、徳川さんたちの描き方はおもしろいなと見ていました。
小国寡民。また、どこかで特集組まなきゃいけないので、とりあえず、ドラマにそれを感じたというところでした。