いくつかの記憶をたぐり寄せて、
見えてなかったものをよみがえらせようとしても、
それはニセモノなのかもしれない。
でも、確かにボクはそこにいた。
そして、その時のボクはただ時間の中で、
やみくもにもがいていただけだから、
なにもつかめていなかったにちがいない。
空気だけをかきまわし、まわりの人に怪しまれ、
自分自身はまわりの人を見ないふりをして、
挙動不審を繰り返していたはず。
海はボクそのもので、不安定で、カリカリしていて、せっかちだった。
でも、海は全くボクとは違っていて、深くて、広くて、勇ましくて、
たくさんの命を抱えながら、全体としては何かを受け入れ、受け流す存在として
ボクらの前で動いていた。
海は偉大だし、ボクはチッポケで、はかない。
でも、そういうことは、いつもと違う海を見ないことには感じられない。
違うところで、違う海を見て、ボクは自分のあるべき姿を探す。
もちろん、見つからないけれど、考えるチャンスをくれる。
人の中で生きていくしか、人の生きる道はない。
海の上にいても、山の中で暮らしても、都会でも、人は人の中で生きる。
たくさんいけないことをする。たくさんダメな気持ちになる。
いろんなふうにして人の気持ちをふみにじる。
それでも、人の中で生かしてもらうしか、ボクたちの生きる道はない。
そして、人のために、つまらないことをして、怒られたり、喜ばれたり、
悲しくなったり、しみじみしたりしながら、生きさせてもらわなくては!
もうすぐ発車するかな。
でも、次の電車まで待つことにしよう。
次の電車まで、どれくらいの時間があるのか、
時計を見たらわかるのかもしれないけど、
そんなことはどうでもいいや。
とにかく、あとしばらく、みんなのところまでたどり着けるように、
ボクらしく過ごすことにしよう。