[7月7日11時30分 天候:曇 千葉県千葉市若葉区貝塚町 千葉刑務所]
沖野献受刑者のあまりにも突拍子も無い真相の独白に、私はただ茫然とするしか無かった。
その為、後半はほぼ善場係長が質問する形となっていた。
呆然としていた私であったが、善場係長のある質問と、沖野受刑者の回答については我に帰ることができた。
善場「あなたの立場は、あくまでも白井伝三郎容疑者の秘書であって、助手ではないのですね?」
沖野「ええ。なので、研究施設に立ち入る機会はあっても、直接本部長の実験などに立ち会う機会はありませんでした」
善場「では何故あなたは、愛原氏と上野氏の体が入れ替わったことを御存知なのですか?」
沖野「それは……本部長がそのように仰っていたからです。『これで“転生の儀”の成功を確信した』とお喜びでしたから」
善場「つまり、あなた自身は直接は見ていないということですね?」
沖野受刑者の表場が硬くなる。
沖野「何が言いたいんですか?」
善場「いえ、何でも……。話は変わりますが、『転生の儀』とやらは、さぞかし大掛かりな実験なのでしょうね?」
沖野「そりゃあそうでしょう」
善場「となると助手が必要ですね。とても白井容疑者1人でできるとは思えません」
沖野「確かに助手はいましたね」
善場「それが誰かは御存知ですか?」
沖野「えーと……確か……。下の名前までは忘れましたけど、斉藤って言いましたよ」
愛原「……ファッ!?」
沖野「……ダメだ。下の名前は思い出せない」
善場「秀樹という名前ではありませんでしたか?」
沖野「あー……確か、そんな名前だったかも」
愛原「斉藤元社長が、白井の助手だったって!?」
善場「これで、また1つ斉藤容疑者の罪が増えましたね。助手という立場から、『転生の儀』の事はあなたよりも詳しく知る立場にありそうですね」
沖野「そりゃあ、私は所詮事務方の秘書ですから……」
善場「もう1つ確認ですが、その斉藤助手、今はどこで何をしておられるか御存知ですか?」
沖野「日本アンブレラを辞めて、大日本製薬の社長になられたんでしょう?器用な方ですね。潰れかかった製薬会社の役員となって、それを立て直したんですから」
善場「大日本製薬の立て直しには、日本アンブレラからも多大な支援があったと聞いていますが、なるほど……。ここで繋がったのですね。分かりました」
沖野「お話はこんなところで宜しいですか?」
善場「はい。本日は長々とありがとうございます。また何かありましたら、宜しくお願い致します」
沖野「分かりました」
善場「因みに今、刑務作業では何をされておられるのですか?」
沖野「革製品の製作です。バッグの製作を行っています。靴を作ることもありますので、もし宜しかったら……」
善場「なるほど。千葉刑務所では、革製品の製作もしていますね」
ここで面会は終わった。
善場「大丈夫ですか、愛原所長?」
愛原「え、ええ……」
面会室をあとにし、駐車場に向かう。
愛原「私は……上野医師なのでしょうか?」
善場「車の中で、取りあえずお話ししまょう。ただ……私は違うと思います。これは別に気遣いとかではなくて、本当にそう思っています」
愛原「そうなんですか?」
善場「はい」
駐車場に戻り、車に戻る。
車の中では、白峰主席が運転席で待っていた。
白峰「お疲れさまです。千葉駅に戻りますか?」
善場「そうですね……。いえ、本八幡駅まで送ってあげましょう」
白峰「本八幡ですか?しかし、まだ調査の途中……」
善場「私達は千葉県内を捜索することになっています。本八幡駅は千葉県市川市内ですので、千葉県を出ることにはなりません。出てなければ、上に対しては何とでも言い繕えます」
白峰「そ、そうですか。そういうことなら……」
白峰氏は車を発進させた。
善場係長は助手席ではなく、リアシートの私の横に座っている。
白峰「京葉道路経由でいいですか?」
善場「いいですよ」
白峰「分かりました」
車は刑務所を出て、まずは国道51号線に出た。
そこから最寄りの京葉道路の入口に向かうという。
京葉道路と言っても、名前のよく似たJR京葉線とはルートが違う。
京葉線の横を通るのは首都高湾岸線、京葉道路はあくまでもJR総武線の横を通る。
愛原「ふう……」
私はペットボトルの水を一気に半分くらい飲んだ。
善場「お疲れさまでした。色々とショッキングな話が出てきましたが……」
愛原「全くですね」
善場「私がその体、上野医師のものではないと申し上げたのは、根拠が無いからです。あくまでも沖野受刑者は、白井容疑者の元秘書として実験の成功を信じていたでしょう。その気持ちが、今でも残っているのだと思われます。実際、私が質問したところ、やや歯切れの悪い回答をしましたね?そういうことです」
愛原「顔を整形したとか、随分と生々しいことを言ってましたが……?」
善場「私が見た限り、所長の顔には整形の跡は見られません。また、それ以前にも所長、色々と身体検査をしたことがありましたね?」
愛原「ええ」
善場「もしアンブレラに体を弄られた形跡があるのなら、その時に分かるはずです」
愛原「そ、それもそうですね」
善場「ただ……これは脅かすつもりは無く、本当に正直な気持ちで話すだけなのですが……」
愛原「はい?」
善場「所長の体は最初からTウィルスの抗体ができていました。その為、霧生市ではゾンビの攻撃を受けても、感染することは無かったのでしょう。そこは高橋容疑者とは対照的です」
愛原「確かに……」
その為、大山寺で感染した高橋の為に、抗ウィルス剤を探しに行ったりした記憶がある。
愛原「高野君は……最初からワクチンを打っていたんでしたっけ」
善場「そうです。でも、所長はどちらでもありませんでした。滅多に無いことです。恐らくは、白井に捕まって実験をさせられた時に、そういう抗体が作られたのでしょう」
愛原「すると、私も色々と薬を投与されたと?」
善場「可能性はあります。ただ、検査では何も見つかりませんが……」
抗体検査ではTウィルスやTアビス、Cウィルスなど、様々な生物兵器ウィルスの抗体が見つかっている。
白井の研究の対象外であった特異菌だけは別だが。
善場「ですので、どうかお気になさらず。それでも万が一仮に体調に異常を感じましたら、すぐに御連絡ください」
愛原「分かりました」
沖野献受刑者のあまりにも突拍子も無い真相の独白に、私はただ茫然とするしか無かった。
その為、後半はほぼ善場係長が質問する形となっていた。
呆然としていた私であったが、善場係長のある質問と、沖野受刑者の回答については我に帰ることができた。
善場「あなたの立場は、あくまでも白井伝三郎容疑者の秘書であって、助手ではないのですね?」
沖野「ええ。なので、研究施設に立ち入る機会はあっても、直接本部長の実験などに立ち会う機会はありませんでした」
善場「では何故あなたは、愛原氏と上野氏の体が入れ替わったことを御存知なのですか?」
沖野「それは……本部長がそのように仰っていたからです。『これで“転生の儀”の成功を確信した』とお喜びでしたから」
善場「つまり、あなた自身は直接は見ていないということですね?」
沖野受刑者の表場が硬くなる。
沖野「何が言いたいんですか?」
善場「いえ、何でも……。話は変わりますが、『転生の儀』とやらは、さぞかし大掛かりな実験なのでしょうね?」
沖野「そりゃあそうでしょう」
善場「となると助手が必要ですね。とても白井容疑者1人でできるとは思えません」
沖野「確かに助手はいましたね」
善場「それが誰かは御存知ですか?」
沖野「えーと……確か……。下の名前までは忘れましたけど、斉藤って言いましたよ」
愛原「……ファッ!?」
沖野「……ダメだ。下の名前は思い出せない」
善場「秀樹という名前ではありませんでしたか?」
沖野「あー……確か、そんな名前だったかも」
愛原「斉藤元社長が、白井の助手だったって!?」
善場「これで、また1つ斉藤容疑者の罪が増えましたね。助手という立場から、『転生の儀』の事はあなたよりも詳しく知る立場にありそうですね」
沖野「そりゃあ、私は所詮事務方の秘書ですから……」
善場「もう1つ確認ですが、その斉藤助手、今はどこで何をしておられるか御存知ですか?」
沖野「日本アンブレラを辞めて、大日本製薬の社長になられたんでしょう?器用な方ですね。潰れかかった製薬会社の役員となって、それを立て直したんですから」
善場「大日本製薬の立て直しには、日本アンブレラからも多大な支援があったと聞いていますが、なるほど……。ここで繋がったのですね。分かりました」
沖野「お話はこんなところで宜しいですか?」
善場「はい。本日は長々とありがとうございます。また何かありましたら、宜しくお願い致します」
沖野「分かりました」
善場「因みに今、刑務作業では何をされておられるのですか?」
沖野「革製品の製作です。バッグの製作を行っています。靴を作ることもありますので、もし宜しかったら……」
善場「なるほど。千葉刑務所では、革製品の製作もしていますね」
ここで面会は終わった。
善場「大丈夫ですか、愛原所長?」
愛原「え、ええ……」
面会室をあとにし、駐車場に向かう。
愛原「私は……上野医師なのでしょうか?」
善場「車の中で、取りあえずお話ししまょう。ただ……私は違うと思います。これは別に気遣いとかではなくて、本当にそう思っています」
愛原「そうなんですか?」
善場「はい」
駐車場に戻り、車に戻る。
車の中では、白峰主席が運転席で待っていた。
白峰「お疲れさまです。千葉駅に戻りますか?」
善場「そうですね……。いえ、本八幡駅まで送ってあげましょう」
白峰「本八幡ですか?しかし、まだ調査の途中……」
善場「私達は千葉県内を捜索することになっています。本八幡駅は千葉県市川市内ですので、千葉県を出ることにはなりません。出てなければ、上に対しては何とでも言い繕えます」
白峰「そ、そうですか。そういうことなら……」
白峰氏は車を発進させた。
善場係長は助手席ではなく、リアシートの私の横に座っている。
白峰「京葉道路経由でいいですか?」
善場「いいですよ」
白峰「分かりました」
車は刑務所を出て、まずは国道51号線に出た。
そこから最寄りの京葉道路の入口に向かうという。
京葉道路と言っても、名前のよく似たJR京葉線とはルートが違う。
京葉線の横を通るのは首都高湾岸線、京葉道路はあくまでもJR総武線の横を通る。
愛原「ふう……」
私はペットボトルの水を一気に半分くらい飲んだ。
善場「お疲れさまでした。色々とショッキングな話が出てきましたが……」
愛原「全くですね」
善場「私がその体、上野医師のものではないと申し上げたのは、根拠が無いからです。あくまでも沖野受刑者は、白井容疑者の元秘書として実験の成功を信じていたでしょう。その気持ちが、今でも残っているのだと思われます。実際、私が質問したところ、やや歯切れの悪い回答をしましたね?そういうことです」
愛原「顔を整形したとか、随分と生々しいことを言ってましたが……?」
善場「私が見た限り、所長の顔には整形の跡は見られません。また、それ以前にも所長、色々と身体検査をしたことがありましたね?」
愛原「ええ」
善場「もしアンブレラに体を弄られた形跡があるのなら、その時に分かるはずです」
愛原「そ、それもそうですね」
善場「ただ……これは脅かすつもりは無く、本当に正直な気持ちで話すだけなのですが……」
愛原「はい?」
善場「所長の体は最初からTウィルスの抗体ができていました。その為、霧生市ではゾンビの攻撃を受けても、感染することは無かったのでしょう。そこは高橋容疑者とは対照的です」
愛原「確かに……」
その為、大山寺で感染した高橋の為に、抗ウィルス剤を探しに行ったりした記憶がある。
愛原「高野君は……最初からワクチンを打っていたんでしたっけ」
善場「そうです。でも、所長はどちらでもありませんでした。滅多に無いことです。恐らくは、白井に捕まって実験をさせられた時に、そういう抗体が作られたのでしょう」
愛原「すると、私も色々と薬を投与されたと?」
善場「可能性はあります。ただ、検査では何も見つかりませんが……」
抗体検査ではTウィルスやTアビス、Cウィルスなど、様々な生物兵器ウィルスの抗体が見つかっている。
白井の研究の対象外であった特異菌だけは別だが。
善場「ですので、どうかお気になさらず。それでも万が一仮に体調に異常を感じましたら、すぐに御連絡ください」
愛原「分かりました」