[1日 10:00.長野県某所の森の中にある洋館 マリア&イリーナ]
穏やかな秋の日が差し込む応接間。そこで2人の女魔道師達は、紅茶を啜っていた。
「師匠は、この国で何が起こると思われますか?」
弟子のマリアが口を開いた。
「んー……お察しください」
「作者のネタは結構ですから」
師匠のボケをピシャリと跳ねる弟子だった。
「厳しい弟子だね。正直、『目下のところ調査中』としか言えないのよ」
「ここの人間達の予想通り、火山の噴火と大地震ですか?」
「それもあるかもしれないしね。結局、大元に飛び込まないとダメみたい」
「大元というと幻想郷……つまり、魔界ですね?」
「あそこの王朝がブラッドプールになってから、逆に人間界が分からなくなってる。その下にいるアルアキ・アベ首相なんか、『魔界を幻想郷にする』という大風呂敷広げちゃってるからね」
「東日本大震災が魔王城の閉鎖区域にあるとされる“黒い大水晶”の暴走のせいだってのは本当ですか?」
「……知らない。あの女王様も、何考えてるか分かんないから。……おかわりちょうだい」
イリーナは空になったティーカップを、給仕をしている人形に向けた。人形は恭しく頷くと、奥へ引っ込んだ。
「魔王が女ってのも珍しいパターンなのでは?」
「暫定王権とはいえ、ヴァールのジジィもヤキが回って来たのかもね」
イリーナは、いたずらっぽく笑った。
そこへ件の人形が何かを持ってやってきた。
「ん?」
どこから持ってきたのか、スポーツ新聞だった。その一面記事には、
『中村剛也、勝利!!』『埼玉西武マジック点灯へ』
という記事があり、そこに1人のプロ野球選手が大きく写っていた。
「確かに『おかわり』だわ!」
イリーナはソファから落ちそうになった。
「いいギャグセンスのある人形ね!」
当の人形は、
「え?私、何か間違ってました?」
とでも言いたげな反応だ。
「す、すいません!こら!師匠は紅茶のおかわりを所望だ!誰がライオンズの『おかわり君』だと言った!」
いつも無表情のマリアも、この時は狼狽した形になり、件の人形を叱責した。
「申し訳ありません、師匠」
「まあ、いいわ。別の意味で、魔力は向上してるみたいね。でも……それにしても……」
「?」
イリーナは部屋の周りを見渡した。
「ちょっと、人形増えすぎてない?」
「そうですか?」
「何か、『片付けられないアラサーOLの部屋』みたいになってるし」
「まだ私、23ですけど?」
「若いっていいね!……そうじゃなくて、中には魔法が掛けられない失敗作とかもあるんでしょう?そういうのはちゃんと処分しなきゃ」
「でも皆、かわいくできてますよ?」
「そういう問題じゃないの。仮にもマリアはもう一人前の『人形使い』魔道師なんだから、管理にもシビアでないとダメよ。断捨離ってヤツね」
「はあ……。でも、どうすれば?」
ようやく人形が紅茶のおかわりを持ってきた。
「私にいい考えがあるの。お茶飲んだら、私も手伝うから」
「はい」
[1日 15:00. 同場所 マリア&イリーナ]
イリーナのアイディアは、不良品から番号を割り振って行き、番号順に処分していくものだった。
「師匠、気に入ったコがいたら、持って行っていいですよ」
と、マリア。
「もう既に10体はもらってるからねぇ……。しゃあない。あとは魔術の実験用に何体か……」
「は?モルモットにするってこと!?」
マリアが突然、冷たい目をしてイリーナを睨みつけた。
「……いえ、何でもないです」
いかに無二の師匠と言えども、『人形使い』の前で人形を粗末にする行動はもちろん、言動も慎まなくてはならない。
「本当は処分だんて……もう……」
マリアの不機嫌さは高レベルである。それすら『人形使い』の前ではタブーなのである。師匠であるイリーナだからこそだ。イリーナは師匠として弟子に指導したわけであり、弟子は必ずそれに従わなくてはならない。これが魔道師の掟である。
「文句言わないの。だいたい、この人形の部屋だって埃っぽいじゃない。こんな所に押し込めてちゃ、大事にしてるとは言えないよ?」
「…………」
「番号札貼った?」
「おおかた」
「よし。じゃ、あとはお人形さん達が逆恨みしないように、『魂抜き』の儀式を……ックシュン!!」
イリーナは3回ほどくしゃみをした。その度に舞い上がる埃。
「あー、もうっ!」
イリーナは窓を開けた。
「少し風通し良くしとくからね」
窓からは爽やかな秋風が入り込んでくる。
「師匠、『魂抜き』って魔法陣どうやって書くんですか?」
「だから、そういうこともちゃんと勉強しておきなさい。資料室に『魔法陣一覧』があったでしょ?あれ持って来て。私は道具用意するから」
「はーい」
2人の魔道師は部屋から出た。
そこへ突風が吹き込んで来る。
カサカサと揺れる番号札。
その1枚が剥れて、別の人形の背中に貼り付いた。
しかし、魔道師達は誰もそのことに気がつかなかった。
これが、遠く離れた別の地方に事件を巻き起こしたことも知らずに。
穏やかな秋の日が差し込む応接間。そこで2人の女魔道師達は、紅茶を啜っていた。
「師匠は、この国で何が起こると思われますか?」
弟子のマリアが口を開いた。
「んー……お察しください」
「作者のネタは結構ですから」
師匠のボケをピシャリと跳ねる弟子だった。
「厳しい弟子だね。正直、『目下のところ調査中』としか言えないのよ」
「ここの人間達の予想通り、火山の噴火と大地震ですか?」
「それもあるかもしれないしね。結局、大元に飛び込まないとダメみたい」
「大元というと幻想郷……つまり、魔界ですね?」
「あそこの王朝がブラッドプールになってから、逆に人間界が分からなくなってる。その下にいるアルアキ・アベ首相なんか、『魔界を幻想郷にする』という大風呂敷広げちゃってるからね」
「東日本大震災が魔王城の閉鎖区域にあるとされる“黒い大水晶”の暴走のせいだってのは本当ですか?」
「……知らない。あの女王様も、何考えてるか分かんないから。……おかわりちょうだい」
イリーナは空になったティーカップを、給仕をしている人形に向けた。人形は恭しく頷くと、奥へ引っ込んだ。
「魔王が女ってのも珍しいパターンなのでは?」
「暫定王権とはいえ、ヴァールのジジィもヤキが回って来たのかもね」
イリーナは、いたずらっぽく笑った。
そこへ件の人形が何かを持ってやってきた。
「ん?」
どこから持ってきたのか、スポーツ新聞だった。その一面記事には、
『中村剛也、勝利!!』『埼玉西武マジック点灯へ』
という記事があり、そこに1人のプロ野球選手が大きく写っていた。
「確かに『おかわり』だわ!」
イリーナはソファから落ちそうになった。
「いいギャグセンスのある人形ね!」
当の人形は、
「え?私、何か間違ってました?」
とでも言いたげな反応だ。
「す、すいません!こら!師匠は紅茶のおかわりを所望だ!誰がライオンズの『おかわり君』だと言った!」
いつも無表情のマリアも、この時は狼狽した形になり、件の人形を叱責した。
「申し訳ありません、師匠」
「まあ、いいわ。別の意味で、魔力は向上してるみたいね。でも……それにしても……」
「?」
イリーナは部屋の周りを見渡した。
「ちょっと、人形増えすぎてない?」
「そうですか?」
「何か、『片付けられないアラサーOLの部屋』みたいになってるし」
「まだ私、23ですけど?」
「若いっていいね!……そうじゃなくて、中には魔法が掛けられない失敗作とかもあるんでしょう?そういうのはちゃんと処分しなきゃ」
「でも皆、かわいくできてますよ?」
「そういう問題じゃないの。仮にもマリアはもう一人前の『人形使い』魔道師なんだから、管理にもシビアでないとダメよ。断捨離ってヤツね」
「はあ……。でも、どうすれば?」
ようやく人形が紅茶のおかわりを持ってきた。
「私にいい考えがあるの。お茶飲んだら、私も手伝うから」
「はい」
[1日 15:00. 同場所 マリア&イリーナ]
イリーナのアイディアは、不良品から番号を割り振って行き、番号順に処分していくものだった。
「師匠、気に入ったコがいたら、持って行っていいですよ」
と、マリア。
「もう既に10体はもらってるからねぇ……。しゃあない。あとは魔術の実験用に何体か……」
「は?モルモットにするってこと!?」
マリアが突然、冷たい目をしてイリーナを睨みつけた。
「……いえ、何でもないです」
いかに無二の師匠と言えども、『人形使い』の前で人形を粗末にする行動はもちろん、言動も慎まなくてはならない。
「本当は処分だんて……もう……」
マリアの不機嫌さは高レベルである。それすら『人形使い』の前ではタブーなのである。師匠であるイリーナだからこそだ。イリーナは師匠として弟子に指導したわけであり、弟子は必ずそれに従わなくてはならない。これが魔道師の掟である。
「文句言わないの。だいたい、この人形の部屋だって埃っぽいじゃない。こんな所に押し込めてちゃ、大事にしてるとは言えないよ?」
「…………」
「番号札貼った?」
「おおかた」
「よし。じゃ、あとはお人形さん達が逆恨みしないように、『魂抜き』の儀式を……ックシュン!!」
イリーナは3回ほどくしゃみをした。その度に舞い上がる埃。
「あー、もうっ!」
イリーナは窓を開けた。
「少し風通し良くしとくからね」
窓からは爽やかな秋風が入り込んでくる。
「師匠、『魂抜き』って魔法陣どうやって書くんですか?」
「だから、そういうこともちゃんと勉強しておきなさい。資料室に『魔法陣一覧』があったでしょ?あれ持って来て。私は道具用意するから」
「はーい」
2人の魔道師は部屋から出た。
そこへ突風が吹き込んで来る。
カサカサと揺れる番号札。
その1枚が剥れて、別の人形の背中に貼り付いた。
しかし、魔道師達は誰もそのことに気がつかなかった。
これが、遠く離れた別の地方に事件を巻き起こしたことも知らずに。