[05:15.埼玉県秩父市のとある山道]
人形の背中にはぜんまいが付いており、それがカタカタ音を立てて回る。それが動力源なのか。
威吹と人形は同時に、互いの間合いに飛び込んだ。
「消えた!?」
人形はマリアの屋敷にいた時のようにフワリと飛び上がり、フッと消えた。
そして、パッと現れた場所はユタの目の前。
「うわっ!」
「くっ!」
威吹は自分の髪の毛を数本抜くと、人形に向かって投げた。
たちまち、忍者が使っていたクナイや棒手裏剣の形に変わって、人形に飛んで行く。
「バカ!そんなことしたら、稲生君に当たる!」
藤谷が叫ぶと、人形はまた消えた。クナイや棒手裏剣も、それに合わせて消えた。
正確に言えば、髪の毛に戻った。
「お前は……わたしを壁に投げたヤツか……」
人形は威吹を見て呟いた。
「やっぱりあの時の人形か!何故、ユタを狙う!?オレは確かにお前を投げつけたりしたが、ユタは何もしてないぞ!」
「わたしは……こいつに捨てられた……!許さない……!許さない……!」
「僕は知らない!何も知らないんだ!」
「だそうだ!変な言い掛かりもいい加減にしろ!」
「変な言い掛かりじゃない。わたしには、証拠があるの」
「何だその証拠ってのは!?」
すると人形はユタの前に現れた。
「ユタ、逃げろ!」
威吹が叫ぶ。しかし人形は持っていた包丁をユタに向けるわけでもなく、着ているワンピースのポケットから、1枚の紙切れを出した。
そこには『39』という英数字が書かれていた。
「何だこれ?」
「39で『みく』という語呂……ギャグじゃないよな?」
「これは……イリーナ師の鶴の一声で始まった、『人形の間引き』によるもの」
「イリーナさんの?」
「イリーナ師は増え過ぎた人形に苦言を呈し、御主人様に間引きを命じられた。本来なら魂すら持たぬ失敗作が、その対象となるはずだった……」
ミク人形は遠い目をして言ったかと思うと、また憎悪の目に変わる。
「ところが何を血迷ったか、わたしに……大勢の人形達の中で唯一歌が歌える、このわたしを処分の対象に選んだの!わたしのどこが気に入らないの!?服も髪もキレイにしてるのに!歌だって褒めてくれたのに!」
「……ゴメン。やっぱ、何言ってるんだかさっぱり分からない」
「少なくとも、あの女達が、増え過ぎた人形を処分しようとして、何かの手違いがあったというのだけは分かった」
威吹は刀を持ったままやってきて言った。
「で、それとユタと何の関係があるってんだ?少なくとも、今のキサマの話に、ユタは一切出てきてないぞ?」
威吹もまた金色の瞳をギラつかせていた。
かくなる上は、今の第1形態から本当に狐耳に尻尾も生える第2形態に変化してもいいくらいだと思っていた。
そうなると半分理性と知性が飛ぶので、刀を使うことはできなくなる。
もっとも、その刀が効かないと分かっているのだから、頃合いではあるが。
「これだ」
ミク人形は先ほどの番号札を出した。
ただのメモ用紙の裏紙に書かれただけのような気がする。
裏返してみると、何かが書かれていた。
『処分 080-○○××-△△□□』
と。
「この番号に掛けたら、お前が出た。だから、お前の責任だ!」
「そんなムチャクチャな!超メンヘラ人形だぜ!」
藤谷は吹いた。
「……ちょ、ちょっと待って」
ユタは変な顔をした。
「そうだ!そんな端書みたいなもの、何の証拠能力もない!」
威吹は左手から青白い炎を出した。
「ただの言い掛かり決定。刃物は効かないようだが、焼却はどうだ?」
「う、うん。言い掛かりというか……」
ユタは言い難そうだった。
「いいから、ユタ!ガツンと言ってやれ!」
「そうだそうだ!」
「僕のケータイなんだけど……080じゃなくて、090だよ?」
「はい?」
「ちょっと、稲生君!」
藤谷はユタからユタのスマホを取ると、それで自局番号表示をやった。
「本当だ。……おい」
更に藤谷はメモ用紙もひったくる。
「きったねぇ字だな、おい!……って、これ、真ん中の『8』が『9』に見えるし!」
ミク人形も驚いた顔をしていたが、
「だが!その後の番号は合っている!やはり、お前の番号で間違いない!」
「でもねぇ、今はケータイ供給過剰で、番号も飽和状態だって言うからねぇ……」
ユタは試しに『080』から始まる、それ以降の自分の番号で掛けてみた。
{「……もしもし?」}
気だるそうな若い女の声がした。
「も、もしもし!僕、稲生ユウタと申しますが、緑色の長いツインテールのお人形さんに、何か心当たりは無いでしょうか?背中にぜんまいが付いていて、歌まで歌えるそうなんですが……」
{「ああ。そうだな……」}
「その声はマリアさん!?」
{「やはり、お前か……」}
「どういうことなんですか!?」
{「すまん。後でまた連絡する」}
「えっ!?ちょっと!もしもし?もしもーし!」
しかし、電話が切れていた。
「マリアさんの電話番号だった!」
「なにいっ!?」
「マリアって誰?てか稲生君、謗法厳戒だよ?」
「聖母マリアじゃありません!」
「ある意味、キリシタンとは正反対の存在だな。……おい、キサマ!これは一体、どういうことだ!?ああっ!?」
威吹はミク人形に詰め寄った。
「えっと……その……。番号、間違えたみたい……です、ね……。はは……」
ミクは最後、『てへっ♪』という顔になった。
[11日 05:30.マリアの屋敷 マリア&イリーナ]
『キサマ、このクソ人形!間違えましたで済むか!せめて自決しろ!!』
『クルマ弁償しろっ、この!クソ人形!あ!?何とか言えよ、クソ人形!』
『都市伝説オバケが、間違い電話されちゃ困るよー!ヒドいオチだ……』
威吹と藤谷にリンチされるミク人形だった。
「うーむ……」
マリアは水晶球で、埼玉県で起きた惨事を確認していた。
「これは今、私が出て行くべきなのか……?」
さすがの惨状に、マリアも気が引いた。
「じゃあね、マリアちゅわん♪先生はヨーロッパ1周の旅で、しばらく来ないからー」
素知らぬ顔で屋敷から出て行こうとするイリーナだった。
「ちょっと!このままにして旅立つ気ですか?!」
後でマリアがズタボロになったミク人形を引き取り、車の修理代を弁償したそうである。
人形の逆ギレ呪いは怖いというお話ですた。
人形の背中にはぜんまいが付いており、それがカタカタ音を立てて回る。それが動力源なのか。
威吹と人形は同時に、互いの間合いに飛び込んだ。
「消えた!?」
人形はマリアの屋敷にいた時のようにフワリと飛び上がり、フッと消えた。
そして、パッと現れた場所はユタの目の前。
「うわっ!」
「くっ!」
威吹は自分の髪の毛を数本抜くと、人形に向かって投げた。
たちまち、忍者が使っていたクナイや棒手裏剣の形に変わって、人形に飛んで行く。
「バカ!そんなことしたら、稲生君に当たる!」
藤谷が叫ぶと、人形はまた消えた。クナイや棒手裏剣も、それに合わせて消えた。
正確に言えば、髪の毛に戻った。
「お前は……わたしを壁に投げたヤツか……」
人形は威吹を見て呟いた。
「やっぱりあの時の人形か!何故、ユタを狙う!?オレは確かにお前を投げつけたりしたが、ユタは何もしてないぞ!」
「わたしは……こいつに捨てられた……!許さない……!許さない……!」
「僕は知らない!何も知らないんだ!」
「だそうだ!変な言い掛かりもいい加減にしろ!」
「変な言い掛かりじゃない。わたしには、証拠があるの」
「何だその証拠ってのは!?」
すると人形はユタの前に現れた。
「ユタ、逃げろ!」
威吹が叫ぶ。しかし人形は持っていた包丁をユタに向けるわけでもなく、着ているワンピースのポケットから、1枚の紙切れを出した。
そこには『39』という英数字が書かれていた。
「何だこれ?」
「39で『みく』という語呂……ギャグじゃないよな?」
「これは……イリーナ師の鶴の一声で始まった、『人形の間引き』によるもの」
「イリーナさんの?」
「イリーナ師は増え過ぎた人形に苦言を呈し、御主人様に間引きを命じられた。本来なら魂すら持たぬ失敗作が、その対象となるはずだった……」
ミク人形は遠い目をして言ったかと思うと、また憎悪の目に変わる。
「ところが何を血迷ったか、わたしに……大勢の人形達の中で唯一歌が歌える、このわたしを処分の対象に選んだの!わたしのどこが気に入らないの!?服も髪もキレイにしてるのに!歌だって褒めてくれたのに!」
「……ゴメン。やっぱ、何言ってるんだかさっぱり分からない」
「少なくとも、あの女達が、増え過ぎた人形を処分しようとして、何かの手違いがあったというのだけは分かった」
威吹は刀を持ったままやってきて言った。
「で、それとユタと何の関係があるってんだ?少なくとも、今のキサマの話に、ユタは一切出てきてないぞ?」
威吹もまた金色の瞳をギラつかせていた。
かくなる上は、今の第1形態から本当に狐耳に尻尾も生える第2形態に変化してもいいくらいだと思っていた。
そうなると半分理性と知性が飛ぶので、刀を使うことはできなくなる。
もっとも、その刀が効かないと分かっているのだから、頃合いではあるが。
「これだ」
ミク人形は先ほどの番号札を出した。
ただのメモ用紙の裏紙に書かれただけのような気がする。
裏返してみると、何かが書かれていた。
『処分 080-○○××-△△□□』
と。
「この番号に掛けたら、お前が出た。だから、お前の責任だ!」
「そんなムチャクチャな!超メンヘラ人形だぜ!」
藤谷は吹いた。
「……ちょ、ちょっと待って」
ユタは変な顔をした。
「そうだ!そんな端書みたいなもの、何の証拠能力もない!」
威吹は左手から青白い炎を出した。
「ただの言い掛かり決定。刃物は効かないようだが、焼却はどうだ?」
「う、うん。言い掛かりというか……」
ユタは言い難そうだった。
「いいから、ユタ!ガツンと言ってやれ!」
「そうだそうだ!」
「僕のケータイなんだけど……080じゃなくて、090だよ?」
「はい?」
「ちょっと、稲生君!」
藤谷はユタからユタのスマホを取ると、それで自局番号表示をやった。
「本当だ。……おい」
更に藤谷はメモ用紙もひったくる。
「きったねぇ字だな、おい!……って、これ、真ん中の『8』が『9』に見えるし!」
ミク人形も驚いた顔をしていたが、
「だが!その後の番号は合っている!やはり、お前の番号で間違いない!」
「でもねぇ、今はケータイ供給過剰で、番号も飽和状態だって言うからねぇ……」
ユタは試しに『080』から始まる、それ以降の自分の番号で掛けてみた。
{「……もしもし?」}
気だるそうな若い女の声がした。
「も、もしもし!僕、稲生ユウタと申しますが、緑色の長いツインテールのお人形さんに、何か心当たりは無いでしょうか?背中にぜんまいが付いていて、歌まで歌えるそうなんですが……」
{「ああ。そうだな……」}
「その声はマリアさん!?」
{「やはり、お前か……」}
「どういうことなんですか!?」
{「すまん。後でまた連絡する」}
「えっ!?ちょっと!もしもし?もしもーし!」
しかし、電話が切れていた。
「マリアさんの電話番号だった!」
「なにいっ!?」
「マリアって誰?てか稲生君、謗法厳戒だよ?」
「聖母マリアじゃありません!」
「ある意味、キリシタンとは正反対の存在だな。……おい、キサマ!これは一体、どういうことだ!?ああっ!?」
威吹はミク人形に詰め寄った。
「えっと……その……。番号、間違えたみたい……です、ね……。はは……」
ミクは最後、『てへっ♪』という顔になった。
[11日 05:30.マリアの屋敷 マリア&イリーナ]
『キサマ、このクソ人形!間違えましたで済むか!せめて自決しろ!!』
『クルマ弁償しろっ、この!クソ人形!あ!?何とか言えよ、クソ人形!』
『都市伝説オバケが、間違い電話されちゃ困るよー!ヒドいオチだ……』
威吹と藤谷にリンチされるミク人形だった。
「うーむ……」
マリアは水晶球で、埼玉県で起きた惨事を確認していた。
「これは今、私が出て行くべきなのか……?」
さすがの惨状に、マリアも気が引いた。
「じゃあね、マリアちゅわん♪先生はヨーロッパ1周の旅で、しばらく来ないからー」
素知らぬ顔で屋敷から出て行こうとするイリーナだった。
「ちょっと!このままにして旅立つ気ですか?!」
後でマリアがズタボロになったミク人形を引き取り、車の修理代を弁償したそうである。
人形の