報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“アンドロイドマスター” 「ロスト・メモリー」 2

2014-06-06 19:25:22 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月10日11:00.宮城県仙台市泉区 泉北病院(架空の病院) 敷島孝夫&アリス・シキシマ]

「頭部への外傷は確認できませんし、脳にも損傷は見受けられません。また、脳波にも異常は見受けられません」
 敷島はアリスに半ば強制されるようにして、区内の総合病院にある脳神経外科を受診した。
 しかしそこでの担当医の診断は、意外なものだった。
「本日起床時より約3ヶ月前までの記憶が無く、しかしそれ以前の記憶はあると……」
「はい」
「そして本日起床時より現在に至るまでの記憶はハッキリしているわけですね?」
「はい」
「こんなことってあるのかしら……」
 アリスは首を傾げた。
 ロボット工学や電子工学には精通しているアリスも、脳科学には全く疎かった。
「これは恐らく、精神的なものが原因でしょう。うつ病や統合失調症などでも、記憶障害の例があります」
「えっ、俺がうつ!?」
 敷島は目を丸くした。
「別に……ヘコんだりはしてないけどなぁ……」
 信じられないといった顔で、敷島は首を傾げた。
「時間と共に障害が回復するという例もありますが、こればかりは何とも申し上げられません」

[同日11:30.同場所・駐車場 敷島&アリス]

「この病院、心療内科は無いのね。とにかく、別の病院の心療内科は紹介してもらったわ。今日はもう初診受付は終わりみたいだから、明日行くわよ?OK?」
「OKじゃないよ。明日はミクについて行って、テレビの出演があるんだ」
「記憶が無いまま仕事してどうするの?」
「少なくとも俺がアリスの研究所で、再びボカロ・プロデューサーの仕事を始めたってことが分かればいいよ。そのうち思い出すだろう。時間と共に回復するって、先生も言ってた」
「それは低い確率だって」
 雨が降る中、敷島とアリスは車に乗り込んだ。
「アタシが運転するから」
「えっ?いや、いいよ。俺が運転で」
「ダメよ。ただでさえ記憶障害の原因が分からないってのに、それで運転中に意識障害でも起こしたらどうするの!」
「先生は脳に異常は無いって言ってただろ?」
「意識障害は精神的な原因でも起こることがあるの。いいからおとなしくそこに座ってなさい」
「……分かったよ。……って、お前、免許は?」
「国際免許取ってるって、前に教えたでしょ?」
「そうだっけ?」
「3ヶ月以上前に言ってたはずよ」
「そうだっけ?」
 研究所の社用車としてリースしているハイブリット・カー。
 アリスの母国、アメリカにも輸出されて大都市でもよく見かける車種だ。

 車は病院を出た。
 公道を研究所に向けて走らせる。
「昨日、俺、何か変わったことしたか?」
「別に。フツーに寝たじゃない。アタシと2人で」
「ああ、そうか。……お前と2人で!?」
「なにオドロイてるの?結婚したんだから当たり前じゃない」
「……あれー?」
 確かにエミリーに見せられた動画や画像。
 エミリーは一応、“従者兼護衛”として敷島とアリスの新婚旅行にも同行していた。
 しかしその動画や画像たるや、まるで再現VTRを敷島やアリスのそっくりさんに演じてもらっているといった感覚だった。
 とにかく、全く思い出せない。
「アタシへのプロポーズの言葉も忘れたとか言うつもりでしょ?」
「俺からプロポーズしたの!?嘘だろー!?」
 さすがそれはエミリーのメモリーには無かった。
 因みに鏡音リン・レンにも、敷島の記憶喪失の部分のメモリーを見せてもらった。
 仕事場に同行している敷島の姿はあったが、それとて敷島の記憶回復には繋がらなかった。
「ホントだよ。どうせ、その時のシチュエーションも覚えてないとか言うんでしょ?」
「ご名答。言っておくけど、酔っぱらった勢いってわけじゃないよな?」
「それは無いね」
「参ったなぁ……」
「参ったのはこっちだよ!」

[同日12:00.アリスの研究所 敷島、アリス、エミリー、初音ミク]

「シックな南里研究所時代が羨ましい……」
 敷島はしみじみと言った。
 今はだいぶ模様が変えられて、外壁の色もピンクなどに変えられている。
 敷島は車から降りて、研究所内へと入った。
「ただいまァ……」
「お帰りなさい。敷島・さん」
「たかおさん、大丈夫ですか?」
 ポーカーフェイスで出迎えるエミリーに対し、初音ミクは心配そうな顔で敷島に近寄ってきた。
「ああ。病院での診察は、所見なしだったよ。それより、またドラマへの出演が決まったんだよ。頑張ってくれな?」
「はい」
「ドラマ?どういうの?」
 後から所内に入ってきたアリスが聞いてきた。
「“ユタと愉快な仲間たち”っていう小説が原作のドラマで、ミクは魔道師マリアの操る“歌を歌う人形”ミカエラの役だ。本当に歌を歌うシーンもあるから、いつもの歌唱力も期待されてるぞ?」
「はい!」
「明日、テレビで映宣をやるんだ。だから、俺もついていってやろうと思って」
「ダメよ。明日は心療内科に行くの。仕事は原因が判明するまで休み!」
「アリス。俺は確かに3ヶ月間の記憶が無いけど、でもそれだけなんだ。この3ヶ月の間に何があったかは知らないけど、少なくともボーカロイド達が俺を頼って、この研究所に戻って来たというのは分かった。彼女達はトップアイドルを目指して……」
「シャラップ!もういいわ!」
「それに、ドクター・アリス」
「何よ!?」
「その・紹介状に・あります・仙塩クリニックですが・明日は・休診日です」
「What!?」
「何だ、そうか。それなら、しょうがないなー。はっはっはっ」
「なに笑ってんの!」
「それよりたかおさん、アリス博士。お昼ご飯、エミリーが作ってくれましたよ」
 と、ミクが言った。
「おう、そうか。せっかく今日は休みを取ったんだから、ゆっくりさせてもらうか」
「こ、このっ……!」
 危機感の無い敷島に、アリスは苛立ちを隠せなかった。

[同日13:00.同場所 敷島、アリス、エミリー、平賀太一&平賀奈津子]

「敷島さん、記憶喪失になったって本当ですか!?」
 かつてのこの研究所の主、南里志郎の唯一の弟子、平賀夫妻が飛び込んできた。
「私を覚えてますか?」
「ああ、平賀太一先生と奈津子先生。お久しぶりです」
「あれ?記憶がある?」
 太一は眼鏡を掛け直した。
「無くなったのは今年3月から昨日までの記憶ですよ。その前の記憶はちゃんとありますし、今朝からの記憶もあります。新しいことも覚えられているので、脳の病気では無いようです」
「何だ、そうですか……」
 太一はホッとした様子だった。
「ちょっと、あなた。何ホッとしてんの」
 隣にいた奈津子がたしなめた。
「それってつまり、アリスとの結婚を覚えてないってことでしょう?」
「赤月(※)……じゃなかった。平賀奈津子先生、やっぱり私はアリスと結婚したんですか?」
 ※平賀奈津子の旧姓。
「ええ。敷島さん、何だか太一君に『やっちまいました』っていう電話を掛けたみたいですよ?」
「……何をやったんだろう?覚えてない……」
「分かってるくせにw」
「いや、マジで記憶に無いです」
 平賀はタバコをくわえながら、吹き出しそうになった。
 この夫婦には既に、よちよち歩きの子供が2人いる。
 なので、スモーカーの平賀は家庭内禁煙を余儀無くされており、こういった出先で吸う習慣がついているようだ。
 因みにこの2人の家には、太一が設計した日本初のメイドロボット七海が専属しており、今ではベビーシッターとしての一面も見せている。
「新婚旅行、さすがにアリスの母国には行けないから、国内でってことになったじゃないですか」
 と、奈津子。
「……覚えてません。何だかエミリーのメモリー画像によると、北海道に行ったみたいですが」
「ええ。飛行機で行くか鉄道で行くかモメた上、更に鉄道は何で行くかすったもんだの末に、フェリーで行きましたよね」
「フェリーで行ったの!?……全然覚えてない」
 敷島は頭を抱えた。
「で、医師は何と?」
 太一が聞いた。
「脳や脳波には何の異常も無いそうで、精神的なものが原因ではないかと」
「精神的なもの……」
 平賀夫妻は互いに顔を見合わせた。
「何か私、記憶を失うようなことしましたか?」
「いや、少なくとも自分達から見て、敷島さんは普通でしたよ」
 と、太一。
「ええ。ボーカロイド・プロデューサーを再開することが決まって、敷島さん、思いっきりはしゃいでいたじゃないですか。とてもあれを見た限り、精神的なものが原因とも思えないんですけどねぇ……」
 奈津子は首を傾げた。
コメント (11)
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“アンドロイドマスター” 「ロスト・メモリー」

2014-06-06 17:10:01 | アンドロイドマスターシリーズ
[??? ??? ??? ??? 敷島孝夫]

 どのくらいの時間、どこで、何をしていたのか……。

 ぼんやりと薄明るい風景。

 それ以外は何も見えない。

 何か映るようで映らない。

 見えるようで見えない。

 何だかよく分からない……。

[??? ??? ??? ??? 敷島孝夫]

 気がつくと敷島はベッドの上で目が覚めた。
「……?」
 仰向けで寝ていたらしく、真っ白な天井が目に入る。
 しかし、その天井には見覚えが無い。
 窓にはカーテンが引かれているが、もう朝なのか昼なのか、明かりが漏れて室内を照らしていた。
(ここは……?)
 見渡すと、どこかの寝室のようだった。
 それまで住んでいたマンションの中ではないことは分かった。
(何で俺はここに……?)
 何だか頭が重い。
 重いというのは、例えば二日酔いのそれとか、風邪引いた時のそれとか、そういうことではない。
 それと、ポッカリと穴が開いた感じ。
(てか、ここはどこだ?)
 誰かに捕まってここに……?
 いや、それ以前に……。

 ジリリリリリリリ!

「うわっ!?」
 突然、非常ベルが鳴ってビックリした。
 が、よく見たら枕元の目覚まし時計だった。
 ちょうど今、7時になったようだ。
 目覚まし時計は、マンションで使っていたものと同じものだ。
 急いで敷島はベルを止めた。
「……誰かに捕まって監禁されてるわけじゃない?」
 敷島はベッドに座って考え込んだ。
 着ているパジャマは、着たことがない。
「ダメだ。考え込んでもラチが明かねぇ」
 敷島は部屋の外に通じているであろう、木製のドアに目をやった。
 これでもし外側から鍵が掛かっていたら……。
「……開いた」
 掛かってはいなかった。
「出た途端、レーザービームかロボットが襲ってくるなんてことは無いだろうな……?」
 敷島はそーっと部屋の外を覗いてみた。
 いつでも部屋の中に戻れる体勢にして。
「おはようございます。敷島さん」
「! うわっ!?」
 敷島は部屋に転がり込んだ。
 ロボットが襲ってきた!?……ではなかった。
「どうか・なさいましたか?」
 エミリーであった。
「何だ、エミリーか……」
「朝ご飯の・ご用意が・できております。どうぞ」
 故人である南里志郎の遺言で、未だに旧式の音声ソフトを使用しているせいか、たどたどしい言葉を話すのが特徴のエミリー。
 しかしその高性能さは、とても冷戦時代の旧ソ連製を思わせない。
「あ、ああ。てか、エミリー。ちょっと聞きたいことがある」
「何でしょう?」
「ここはどこだ?」
「? ドクター・アリスの・研究所・ですが?」
 敷島がどういう意図で聞いてきたのかまでは判定できなかったエミリーは、額面通りの答えを返した。
「アリス?……ああ、アリスか……。は?アリスのヤツ、研究所持ったのか?」
「? 持ちました」
 さすがのエミリーも首を傾げた。
「で、何で俺はここで寝てるんだ?」
「こちらは・居住区です」
「? ますますワケが分からん」
 取りあえず、エミリーが来たことで少しは安心した。
 敷島はエミリーについて行った。

[??? 07:30.アリスの研究所 ダイニング? 敷島孝夫、エミリー、アリス]

「おそーい!いつまで寝てんの!?」
 ダイニングのテーブルには、頬杖をついて不機嫌そうな顔をするアリスの姿があった。
「あ、ああ。てか、お前、いつの間に研究所持ったんだ?」
「What?」
「確か、俺とマンション住まいだったはずだが……」
「何言ってんの?アタマ大丈夫?」
「大丈夫……だと、思う……けど」
「いいから、早く食べましょう」
「ああ」
 敷島はダイニングの椅子に座った。
「あれ?」
「今度は何?」
「カレンダーが6月になってんぞ?」
「だって6月でしょう?」
「は?いや、今日は3月……何日だ?」
「なに寝ぼけてんの?何だったら、エミリーから電気ショック受けてみる?一発で目が覚めるわよ?」
「いや、いいよ。……寝ぼけてんのか、俺?顔、最初に洗っときゃ良かったな……」
 敷島は皿に乗ったトーストを左手で取り口に運ぼうとした。
 その時、また衝撃が走る。
「!? わあっ!?」
 敷島はトーストを落としてしまった。
 皿の上からバウンドして、テーブルの上に落ちる。
「熱かった?」
「い、いや、違う!」
 敷島は自分の左手を見てビックリした。
 具体的には左手の薬指。そこに指輪がはまっていた。
「な、何だこりゃ!?」
「何だこりゃって、リング(指輪)に決まってるじゃない」
「だから何で!?まるで結婚したみたいじゃないか!」
「まるでって……。結婚したじゃない?」
 アリスは自分の左手を見せた。
 そこの薬指にも指輪がはまっていた。
「へ!?ひょえーっ!?」

[6月10日? 08:00.アリスの研究所 敷島孝夫&アリス……シキシマ?]

「フザけるのもいい加減にして!」
「フザけてねーよ!俺は身に全く覚えが無ぇっての!!」
「エミリー!タカオに電気ショック与えてやりな!」
「こ、こら!エミリー、やめろ!」
「あー……」
 エミリーは自らの人工知能をフル稼働させた。
「落ち着いてください。敷島さん、ドクター・アリス。敷島さんは・嘘をついて・おられないもようです」
「ほら!さすがエミリーだ!エミリーには嘘発見器が搭載されてるからな!お前と結婚した覚えは無ェよ!」
「敷島さん。記憶が・無いのですね?」
「そうなんだ。そうなんだよ。そうだ。エミリー、お前なら俺の欠落した記憶の部分を記録してるだろ?」
「イエス」
「それを教えてくれ!」
「ドクター・アリス」
 エミリーはアリスを見た。
「ああ。教えてやりな」
 アリスは腕組みをして、こめかみをピクピク動かしていた。
「敷島さん・いつからの・記憶が・ありませんか?」
「2014年3月の……何日くらいからかなぁ……」
「分かりました。約3ヶ月間の・記憶が無いのですね?」
「そのようだ」
「都合良く3ヶ月だけ記憶が無いなんて、聞いたことないわ!」

[6月10日 09:00.アリスの研究所 鏡音リン・レン]

「おはようございまーす!」
 製造から数年経つボーカロイド達だが、スペックや設定年齢などは一切変わらない。
 それもまた純粋なアイドルとしての人気の1つでもあるようだった。
「プロデューサー、今日の仕事ですが……」
 ヒョイと事務室を覗くレン。
 しかし、敷島の姿は無かった。
「お前達」
 そこへエミリーがやってきた。
「あっ、エミリー」
「敷島さんは・急きょ・休みだ。現場には・自分達で行け」
「えっ?兄ちゃ……じゃなかった。プロデューサー、何かあったの?」
「ちょっとした・体調不良だ。今日は・休む。それ以上は・話せない」
「何だろう?」
「何だろうね?」
 2人の双子ボーカロイドは顔を見合わせた。
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