報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち”外伝 「導かれし見習魔道師たち」

2014-06-12 18:18:19 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[今年晩春〜初夏に掛けた時期 場所不明 現地時間15:00.エレーナ・マーロン&ポーリン・ルシフェ・エルミラ]

「先生、お茶が入りました」
「ありがとうよ……」
 ロングの黒い髪を、向かって右側にサイドテールにしたエレーナは老婆に化けた師匠にお茶を入れた。
 最近は妙薬作りに凝っているのか、大きな釜に火を掛けて、様々な薬草を入れてかき交ぜていることが多い。
「最近、日本が熱いみたいじゃのう」
 ポーリンはズズズと弟子に入れてもらったハーブティーを口に運んだ。
「はい。東京・大手町の気温が33度だそうです」
「いや……その『暑い』じゃなくての……。魔界の入口をイリーナ派が押さえてしまって、一歩出遅れた形になってしまったのう……」
「先生……」
「どうじゃろう?お前もだいぶ修行が詰まったことじゃし、日本に出張してみる気は無いか?」
「日本に……ですか?」
「ああ。これはわしの予想なのじゃが、今、魔界の王国は親日家の魔王と日本人の首相が国を運営しておる。日本に幻想郷という名の魔界の出入口が開きやすいのは、そこに理由があるのかもしれん」
「はい」
「今までは国土の狭い国に幻想郷の入口など、せいぜいイリーナ達が押さえている1ヶ所しか無いと思っておったのじゃが、可能性は高い。特に日本人首相は、今でも時折“帰国”しておるという。しかし、イリーナ達の所から出入りしておる形跡は無い。そこで、じゃ。お前、日本に行って調査してこい。成功したら、免許皆伝も視野に入れよう」
「本当ですか!」
「ああ」
「是非、行かせてください!」
「それでは、今度の満月の晩に出発するが良い。満月の夜は、1番魔力が上昇できる日じゃからの」
「はい!」

[同時期 長野県某所 15:00.マリアの屋敷 イリーナ・レヴィア・ブリジッド&マリアンナ・スカーレット]

「今日、総理大臣が来るよ」
 イリーナとマリアはリビングで寛いでいた。
 ポーリン達とは対照的に、かなりのまったり感だ。
「安倍総理は今、国会審議中のようですが……」
 マリアはテレビの国会中継を映した。
「いや、日本の安倍晋三晋相じゃなくて、アルカディア王国の安倍春明首相ね」
「……紛らわしい」
「しょうがないでしょ。今夜到着するみたいだから、お迎えに行くよ。ポーリン達にも警戒しないとね」
「ポーリン師、魔界の首相の命に興味があるんですか?」
「いや、そうじゃないけど、幻想郷〜日本のルートは非公式だからね。ポーリン達が知ったら、そのルートから反体制派にバレるかもしれないから」
「ポーリン師達、今ヨーロッパにいるのでは?」
「ポーリンのことだから、エレーナを寄越してくるかもしれないねぇ……」
「どうします?」
「どうするって言われてもなぁ……。師匠(大師匠)から、ポーリンとケンカすんなって言われちゃったしなぁ……」
 もっとも、イリーナ自身も大魔道師くらいの力が付いているので、今更大師匠から破門されても個人的には痛くないのだが、周囲から変に騒がれるのがウザいだけだ。
 で、今自分の元で修行しているマリアも、
『大師匠から破門された魔道師の弟子』
 なんて余計なレッテルを貼られることだろう。
 さすがにそれは可哀想だ。
 なので現段階では、まだ大師匠の指示に従う必要があった。
「あなたはエレーナが許せない?」
「許せません」
「だよねぇ……」
 週刊誌に醜聞を流された上、自分に好意を寄せてくれているだけでなく、見習魔道師も真っ青の予知夢で自分を助けてくれた稲生ユウタの御開扉を妨害した。
「多分それはポーリンの命令でやったことで、エレーナ自身に悪意は無かったと思うよ?」
「ですが!そういう問題ではありません!」
「いや、本当の話。だってあなたは最近になるまで、エレーナの存在すら知らなかったでしょ?」
「そうですけど……」
 皆で大師匠の元に集合した時、ハッキリ見たのが初めてだった。
「それは向こうも同じ。だからエレーナはあなたに悪意をぶつける理由は無いし、あったらそれはやっぱりポーリンの命令でやったことだね。だから、エレーナ個人を恨んではダメ」
「…………」
「師匠……大師匠が、あなた達に『切磋琢磨せよ』と言ったのは覚えてるよね?その意味をよく考えることね」
「……はい」
(もっとも、その言葉は中間管理職……もとい、私達には耳が痛いんだけど……)
 中間管理職!?

[6月某日 とある真夜中 長野県内の某中小規模駅 イリーナ・レヴィア・ブリジッド&マリアンナ・スカーレット]

「梅雨だねぇ……」
「梅雨ですねぇ……」
 誰もおらず、ほんの僅かな照明しか点灯されていない駅のホーム。
 ここで2人の魔道師は列車を待っていた。
 無論、時刻表に掲載されている列車は既に運行を終えている。
 降りしきる雨の中、来るはずの無い列車の音が響いて来た。
「来たね」
「来ましたね」
「ユウタ君なら、即座にどんな車両かなんて見極めてしまうんだろうけどねぇ……」
「鉄道好きにはたまらない、古めかしいヤツらしいですよ」
「興味の無い人が見たら、オンボロ電車なんだけどねぇ……」
 ゆっくり入線して来る焦げ茶色一色の電車。
 普通車は何故か超満員だった。
 しかし、乗っているのは普通の乗客ではない。
「今日もまた満員だねぇ……。どこかで、多数の死者が出るくらいに事件・事故でも発生したかねぇ……」
「どうでしょうね」
 真ん中くらいに連結されている、白い帯を巻いた車両だけがガラガラで、ちょうどイリーナ達が立っている辺りに停車した。
「冥界鉄道公社は、今日も鋭意運行中……か」

 プシュー、ガラガラ……。(←電車のドアが開く音)

 大きなエアーの音と引き戸の音がして、そこからホームに降り立つ1人の男。
 王城内なら燕尾服姿だが、今は半袖の開襟シャツにカジュアルなズボンをはいている。
「お疲れさまです。安倍春明首相」
 イリーナが頭を下げるのを見たマリアは、自分もそれに倣った。
「お出迎え頂き、ありがとう。ブリジッド先生」
 イリーナはフードを浅く被っていたので、前髪が見えるくらいだったが、マリアは深く被っていた。
 マリアはそこから春明の顔を見たが、とても魔界で魔王の直下、人間代表として王国の運営に当たっているとは思えなかった。
「お噂は、かねがね伺ってますよ。最近では東日本大震災の際、被害を最小限に食い止めて下さったとか……」
「でも、大津波までは食い止めることができませんでした。私の不徳の致すところです」
「うちのルーシーには、今度ビシッと言っておかないとダメですね」
「言ってあげてください」
 イリーナは微笑を浮かべた。

[同日 まだ真夜中 マリアの屋敷 イリーナ、マリア、安倍春明]

「どうぞ。中へ」
「申し訳無い。一晩の宿に預かります。明日の朝一番の列車で上京しますから」
「いいえ。ゆっくりなさってください」
「ところでさっきから気になっていたんですが、そちらのお嬢さんが噂の優秀なお弟子さんですかな?」
「お褒めに預かりまして。私が宮廷魔導師を辞めて、しばらく経った時に取った弟子ですので、まだ王宮に挨拶には行ってなくて……」
「今、人間界は危機に晒されていますからね。ルーシーへの顔出しは、慌てなくていいですから」
 マリアは緊張していた。
 師匠から聞かされていない、もう1つの顔を持った師匠の姿がここにいる。
 確かに昔、まだブラッドプール王朝になる前、大魔王バァル帝政だった頃、一時期請われてイリーナが宮廷魔導師を務めていたことがあったとはマリアも聞いていた。
 但し、これは大師匠からの肝煎りで、バァルが人間界に危害を加えないようにとの見張りの目的もあった。
 今、バァルは自身の王権を休止し、ルーシーに代行させて魔界の最深部に向かっている。
 今の王権は人間界に危害を加える要素が無いため、イリーナが魔界に行くことはない。
「ほら、マリア。首相に自己紹介してくれる?」
「あ、はい」
 マリアはフードを取った。
 金髪のボブカットに赤いヘアバンドを着けた髪が露わになる。
「イリーナ・レヴィア・ブリジッド師匠の弟子で、マリアンナ・スカーレットと申します。よろしくお願いします」
「アルカディア王国首相、アルカディア共和党代表の安倍春明です。よろしく」
 前王権だった頃は絶対君主制だったが、今は立憲君主制になっている。
 但し、日本の皇族と違って、女王たるルーシーにも王権がしっかりとある。
 議会が紛糾して収拾がつかなくなったら、それを首相に代わって取りまとめる権限があるし、逆にルーシーが暴走しようものなら、議会で王権を止めることができる。
 いずれにせよ、政治のありとあらゆる調整役をしなければならないのが、王国の首相である。
「そんなに今、人間界は危機なんですか?」
「例えて言えば、未だにパソコンでXPを使用し、尚且つIEの脆弱性を補わないまま使用し続けているようものです」
「それは危険ですねぇ……」
(例えが全然ファンタジーじゃない)
 と、マリアは思った。
 既に王国を運営している女性魔王やここにいる首相からして、今現代の人間界からやってきたことから、ファンタジー色は薄れているという。
 王都アルカディアシティは電化され、高架鉄道や地下鉄道、路面電車が縦横無尽に走っているという話を聞いた時、どこの人間界の国だと思ったくらいだ。
「やっと仕事も一段落したので、休暇を取ることができましたよ。さすがに私とルーシー、2人とも王国を離れるわけにはいかないので、交替でね。ルーシーはニューヨークに行くみたいですが、あちらの方も魔道師の方にお出迎え頂けるのですか?」
「ええ。私は当たっていませんけど、既に師匠のことですから、手配していると思います」
「そうですか」
 春明は安心して出されたお茶を口に運んだ。
 春明が客室で休むまで、表向き屋敷の主人たるマリアは緊張し通しだったという。
コメント (6)
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本日の雑感

2014-06-12 15:18:54 | 日記
 武闘派法華講員、坂井久美子氏のブログによると、あの樋田昌志氏がまた顕正会浅井会長宛てに公開法論の申し込みをされたそうだ。
 正式には「公開詰問状 及び 公開対論申込み」というらしい。
 はてさて、これで何回目の申し込みであろうか。
 前は確か、会長は華麗にスルーしたんだったかな。
 ま、今回もまたお決まりのパターンであろう。
 学会員・沖浦克治さんも樋田さんと対決したんだから、浅井会長もたまにはやろうよって思うのだが。
 沖浦さん未満だってことになっちゃうよ。
 バーズさんだったかな。確か、
「浅井先生は顕正会の代表役員である。それを一ヒラ信徒が法論申し込みなど、おこがましいにも程がある」
 みたいなことを仰っていたのは。
 まあ、確かにゲームではいきなりボスキャラと対戦するなど、裏ワザでも使わない限りは無いけどね。
 でも、本当に度胸のある人はあるもんだ。
 仮に私も折伏の熱意に立って、武闘派の仲間入りを果たしたとしよう。
 とはいえ、いきなり浅井会長に法論申し込みまではしないと思うな。
 お世話になった顕正会の上長達を相手にすることだろう。
 隊長クラスまでやり込めて、そこで、
「そろそろ浅井会長、やる?」
 となるかな。
 樋田さんはそこまでやられたのだろうか。
 いや、私も詳しくは知らないのだが。
 もっとも、今もお世話になった上長達が在籍して活躍しておられるのかは【お察しください】。
 未だに顕正新聞が勝手に送付されてくるところを見ると、ご健在ではあるのだろうけど。

 他の信仰者のブログは見ておくもんだ。
 坂井さんがブログやってなかったら、俺は知らなかったぞ。
 パラパラ茜さんやバーズさんからは嫌われてるみたいだけど。
 いいから茜さん、コメント欄常時開放してくださいよ、と。
 怨嫉者を怨嫉する所はアレだけど(←女ってホント怖っ!)、それ以外は結構いいこと書いてあったりするのにな。
「折伏は理論闘争ではない」
 と、浅井会長は自身の著書で述べているわけだけども、実質そうなってしまっているのには違和感があるよな。
 理論武装や理論闘争が苦手な私にはムリな部分だ。

 結果は、何となく浅井会長が「先行逃げ切り」で華麗にスルーする方に単勝3万円入れておくかw
 
コメント (7)
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“アンドロイドマスター” 「ロスト・メモリー」 6

2014-06-12 02:26:18 | アンドロイドマスターシリーズ
[6月19日10:00.仙台市泉区 泉北病院 敷島孝夫&平賀太一]

「どうもお世話になりましたー」
 1週間後、敷島な無事に退院した。
「さあさあ、財団事務所まで行きましょう」
「すいませんでした。色々と……」
「いやいや。こういうのはお互い様ですから」
 敷島は荷物を平賀の車に積み込み、助手席に乗り込んだ。
 車が市街地に向かって走り出す。
「アリスからは往復ビンタは食らうわ、スタンガンは食らうわで大変でしたよ」
「それでも記憶は戻らないんですか?」
「そうなんですよねぇ……」
「そろそろ十条先生が帰国する頃なんですよ。先生は知り合いの心理学者を紹介すると言ってました」
「十条名誉教授ともなると、知り合いの学者さんも相当名高い権威の先生っぽいですね」
「何だったら、脳科学者も紹介するということです」
「あれだけ精密検査しても、脳には何の異常も無かったんですよ」
「精神衛生が及ぼす記憶障害について研究されている人らしいので、敷島さんにピッタリではないかと」
「うーん……」
「突然、意識を失ったんだから、絶対何かありますって。1度、会ってみたらどうです?」
「そうですねぇ……」
「このまま研究所に戻っても、またアリスに何されるか分かりませんよ?」
「今度こそ、殺されるのが関の山ですか……」

[同日13:00.仙台市泉区 アリスの研究所 敷島&太一]

 財団で支部長ら幹部と面談した後、昼食を挟んで研究所に戻って来た。
「どうしましょ?いきなり襲ってきたら……」
「まあ、大丈夫だと思いますけど……」
 公道から研究所までの坂を駆け上る。
 かつてこの坂道の途中で、暴走した鏡音レンの凶刃にやられた記憶はちゃんとある。
 昔の記憶はあるのに、逆に最近の記憶が無いという不思議。

「あ、兄ちゃん……じゃなかった。プロデューサーだよ」
「おおー」
 研究所のエントランス前で、敷島の帰りを待っていた鏡音リン・レンの姉弟。
「お帰りー」
「お帰りなさい」
「ああ、帰ったぞ」
 敷島は出迎えてくれたボーカロイドの双子に笑い掛けた。
「アリスは?」
「うん……」
「まあ、その……。ちょっと入ってみてください」
「うん?」
 敷島はエントランスのドアを開けた。
 すると、
「アリス!?」
 アリスはホッケーマスクを被り、手にチェーンソーを持っていた。
 チェーンソーのエンジンを掛けて向かってくる。
「お前はジェイソンか!」
 慌てて外に飛び出す。
(あれ?でも、これってどこかで……)
「どうしました、敷島さん?」
 と、平賀。
「どうしたもこうしたも、アリスのヤツ、ジェイソンのコスプレで……」
 更に、フラッシュバックが敷島の頭を駆け巡る。
 同じセリフを敷島が喋った記憶が蘇った。
「大丈夫ですか?」
「ボク、肩貸しましょうか?」
「ああ。大丈夫……です」
「アリスが何かしてきましたか?」
「そうなんですよ。どうやら私を中に入れたくないようです」
「そんなことないですよ。自分と一緒に行きましょう」
「ボク達も行きますから」
 敷島は恐る恐る研究所の中へ再入館した。
 今度はアリスの姿は無かった。
「ナツはいないのかな?」
 エントランスホール内にあるソファに座る平賀。
「奈津子先生もいらっしゃるんですか?」
「まあ……敷島さんが入院されてる間、アリスも体調を崩し気味でしたからね。精神的にも不安定だったみたいで」
「さっきのジェイソンのコスプレもそうなんですかね」
「さあ……。他に何か心当たりは無いですか?」
「他に……ですか?何だろう……?」
 敷島が首を傾げていると、エントランスの前に1台の車が止まるのが分かった。
「ナツかな?」
 平賀がソファから立ち上がった。

 しばらくして、太一の予想通り、奈津子とエミリーが入って来た。
「敷島さん、退院おめでとうございます」
「どうも、ご心配をお掛けしました」
「太一から聞いたと思いますが、十条先生が心理学の権威を紹介してくれるということで……」
「ああ、伺いましたよ」
「そのことなんですが、アリスの話を聞いていて、ちょっと気になった点があったものですから」
「気になった点?」
「かいつまんで言うと、敷島さんが心療内科を受けるよりも、アリスが産婦人科を受診した方がいいということです」
「確かに1週間前、アリスにあんなことされましたが、1週間で妊娠……っっ!!」
 敷島は目まいのようなものを覚えた。
 またフラッシュバックだ。
 何故だか、座り込むアリスの姿があった。
「敷島さん?」
「おかしいな……。脳に異常は無いはずなのに……」
「記憶が戻りつつあるんですよ。『本当は逃避したい現実』の記憶が!」
 奈津子は断罪するように言った。
「逃避したい現実?いや、私は『現実から目を背けるな!とことん向き合え!』をモットーにしてますんで……」
「それも限界だったようですね」
「ナツ、それは一体何なんだ?」
 太一も目を丸くしていた。
「いや、敷島さんもアリスと一緒に行った方がいいかもしれませんね」
「だから、それはどういう……」
「今まで、『敷島さんに何が起きた?』ってことで騒いでたでしょ?敷島さんは現実から逃げ出しただけよ。本当は異常が起きていたのは、アリスの方だったってこと」
「ええっ!?」
「まあ、もしかしたら、敷島さんの方に原因があるかもしれないし、両方かもしれないですけど……」
「……!!」
 敷島は頭を抱えて俯いてしまった。
 太一は妻の発した単語を頭の中で羅列させ、1つの仮説を立てた。
「……で、敷島さんが記憶を失う前日に何があったんだ?」
「そこがミソなの。皆、敷島さん本人に何があったのかを気にしていたから、答えが見つからなかったの。あったのは、アリスの方」
「アリス?」
「そう。そして、アリスの身に起きた現象を目の当たりにして、敷島さんはあること確信してしまった。それが受け入れられなかったので、防衛反応として記憶を封印してしまった。こんなところですよね?敷島さん?」
 奈津子が確認するように質問するが、敷島は答えなかった。
「で、アリスの身に何が起きたってんだ?」
 太一は妻に答えを求めた。
「生理よ」
「は?」
「!!!」
「敷島さんの想定なら、アリスはとっくに妊娠してもいいのにしなかったの。ですよね?敷島さん?」
「……ああ、そうですよ」
「思い出しましたか?」

[真相]

 現実主義がモットーを自称していた敷島。
 “狂科学者の孫娘”に情など有り得ないと思っていた彼だったが、そうでは無かった。
 アリスもまた孤独に生き続けることに限界を感じていたこともあり、避妊しないで体の関係を交わした後、敷島の求婚を受け入れた。
 結婚後、すぐに妊娠する想定だった敷島だが、その計画は崩れて行った。
 実はアリスへの求婚の表向きの理由として、
「避妊に失敗したから責任を取る」
 というものだったからだ。
 つまり、アリスが妊娠してくれないと、その理由が成り立たなくなるのである。
 アリス的にはもう本当の理由に気づいていたので、それで破局にさせようとかは思っていなかったが。
 敷島は今年で36歳になることから、焦りもあったのかもしれない。
 そして、脳裏に浮かんだのは不妊症という言葉である。

 それからすぐに、敷島が無精子症だと分かった。
 実は敷島がアリスに暴行を受けた時、彼女は敷島から検査用に精子を採取していたのであった。

 今では敷島は現実を受け入れ、定期的に通院しているようである。

                                           終
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