[今年晩春〜初夏に掛けた時期 場所不明 現地時間15:00.エレーナ・マーロン&ポーリン・ルシフェ・エルミラ]
「先生、お茶が入りました」
「ありがとうよ……」
ロングの黒い髪を、向かって右側にサイドテールにしたエレーナは老婆に化けた師匠にお茶を入れた。
最近は妙薬作りに凝っているのか、大きな釜に火を掛けて、様々な薬草を入れてかき交ぜていることが多い。
「最近、日本が熱いみたいじゃのう」
ポーリンはズズズと弟子に入れてもらったハーブティーを口に運んだ。
「はい。東京・大手町の気温が33度だそうです」
「いや……その『暑い』じゃなくての……。魔界の入口をイリーナ派が押さえてしまって、一歩出遅れた形になってしまったのう……」
「先生……」
「どうじゃろう?お前もだいぶ修行が詰まったことじゃし、日本に出張してみる気は無いか?」
「日本に……ですか?」
「ああ。これはわしの予想なのじゃが、今、魔界の王国は親日家の魔王と日本人の首相が国を運営しておる。日本に幻想郷という名の魔界の出入口が開きやすいのは、そこに理由があるのかもしれん」
「はい」
「今までは国土の狭い国に幻想郷の入口など、せいぜいイリーナ達が押さえている1ヶ所しか無いと思っておったのじゃが、可能性は高い。特に日本人首相は、今でも時折“帰国”しておるという。しかし、イリーナ達の所から出入りしておる形跡は無い。そこで、じゃ。お前、日本に行って調査してこい。成功したら、免許皆伝も視野に入れよう」
「本当ですか!」
「ああ」
「是非、行かせてください!」
「それでは、今度の満月の晩に出発するが良い。満月の夜は、1番魔力が上昇できる日じゃからの」
「はい!」
[同時期 長野県某所 15:00.マリアの屋敷 イリーナ・レヴィア・ブリジッド&マリアンナ・スカーレット]
「今日、総理大臣が来るよ」
イリーナとマリアはリビングで寛いでいた。
ポーリン達とは対照的に、かなりのまったり感だ。
「安倍総理は今、国会審議中のようですが……」
マリアはテレビの国会中継を映した。
「いや、日本の安倍晋三晋相じゃなくて、アルカディア王国の安倍春明首相ね」
「……紛らわしい」
「しょうがないでしょ。今夜到着するみたいだから、お迎えに行くよ。ポーリン達にも警戒しないとね」
「ポーリン師、魔界の首相の命に興味があるんですか?」
「いや、そうじゃないけど、幻想郷〜日本のルートは非公式だからね。ポーリン達が知ったら、そのルートから反体制派にバレるかもしれないから」
「ポーリン師達、今ヨーロッパにいるのでは?」
「ポーリンのことだから、エレーナを寄越してくるかもしれないねぇ……」
「どうします?」
「どうするって言われてもなぁ……。師匠(大師匠)から、ポーリンとケンカすんなって言われちゃったしなぁ……」
もっとも、イリーナ自身も大魔道師くらいの力が付いているので、今更大師匠から破門されても個人的には痛くないのだが、周囲から変に騒がれるのがウザいだけだ。
で、今自分の元で修行しているマリアも、
『大師匠から破門された魔道師の弟子』
なんて余計なレッテルを貼られることだろう。
さすがにそれは可哀想だ。
なので現段階では、まだ大師匠の指示に従う必要があった。
「あなたはエレーナが許せない?」
「許せません」
「だよねぇ……」
週刊誌に醜聞を流された上、自分に好意を寄せてくれているだけでなく、見習魔道師も真っ青の予知夢で自分を助けてくれた稲生ユウタの御開扉を妨害した。
「多分それはポーリンの命令でやったことで、エレーナ自身に悪意は無かったと思うよ?」
「ですが!そういう問題ではありません!」
「いや、本当の話。だってあなたは最近になるまで、エレーナの存在すら知らなかったでしょ?」
「そうですけど……」
皆で大師匠の元に集合した時、ハッキリ見たのが初めてだった。
「それは向こうも同じ。だからエレーナはあなたに悪意をぶつける理由は無いし、あったらそれはやっぱりポーリンの命令でやったことだね。だから、エレーナ個人を恨んではダメ」
「…………」
「師匠……大師匠が、あなた達に『切磋琢磨せよ』と言ったのは覚えてるよね?その意味をよく考えることね」
「……はい」
(もっとも、その言葉は中間管理職……もとい、私達には耳が痛いんだけど……)
中間管理職!?
[6月某日 とある真夜中 長野県内の某中小規模駅 イリーナ・レヴィア・ブリジッド&マリアンナ・スカーレット]
「梅雨だねぇ……」
「梅雨ですねぇ……」
誰もおらず、ほんの僅かな照明しか点灯されていない駅のホーム。
ここで2人の魔道師は列車を待っていた。
無論、時刻表に掲載されている列車は既に運行を終えている。
降りしきる雨の中、来るはずの無い列車の音が響いて来た。
「来たね」
「来ましたね」
「ユウタ君なら、即座にどんな車両かなんて見極めてしまうんだろうけどねぇ……」
「鉄道好きにはたまらない、古めかしいヤツらしいですよ」
「興味の無い人が見たら、オンボロ電車なんだけどねぇ……」
ゆっくり入線して来る焦げ茶色一色の電車。
普通車は何故か超満員だった。
しかし、乗っているのは普通の乗客ではない。
「今日もまた満員だねぇ……。どこかで、多数の死者が出るくらいに事件・事故でも発生したかねぇ……」
「どうでしょうね」
真ん中くらいに連結されている、白い帯を巻いた車両だけがガラガラで、ちょうどイリーナ達が立っている辺りに停車した。
「冥界鉄道公社は、今日も鋭意運行中……か」
プシュー、ガラガラ……。(←電車のドアが開く音)
大きなエアーの音と引き戸の音がして、そこからホームに降り立つ1人の男。
王城内なら燕尾服姿だが、今は半袖の開襟シャツにカジュアルなズボンをはいている。
「お疲れさまです。安倍春明首相」
イリーナが頭を下げるのを見たマリアは、自分もそれに倣った。
「お出迎え頂き、ありがとう。ブリジッド先生」
イリーナはフードを浅く被っていたので、前髪が見えるくらいだったが、マリアは深く被っていた。
マリアはそこから春明の顔を見たが、とても魔界で魔王の直下、人間代表として王国の運営に当たっているとは思えなかった。
「お噂は、かねがね伺ってますよ。最近では東日本大震災の際、被害を最小限に食い止めて下さったとか……」
「でも、大津波までは食い止めることができませんでした。私の不徳の致すところです」
「うちのルーシーには、今度ビシッと言っておかないとダメですね」
「言ってあげてください」
イリーナは微笑を浮かべた。
[同日 まだ真夜中 マリアの屋敷 イリーナ、マリア、安倍春明]
「どうぞ。中へ」
「申し訳無い。一晩の宿に預かります。明日の朝一番の列車で上京しますから」
「いいえ。ゆっくりなさってください」
「ところでさっきから気になっていたんですが、そちらのお嬢さんが噂の優秀なお弟子さんですかな?」
「お褒めに預かりまして。私が宮廷魔導師を辞めて、しばらく経った時に取った弟子ですので、まだ王宮に挨拶には行ってなくて……」
「今、人間界は危機に晒されていますからね。ルーシーへの顔出しは、慌てなくていいですから」
マリアは緊張していた。
師匠から聞かされていない、もう1つの顔を持った師匠の姿がここにいる。
確かに昔、まだブラッドプール王朝になる前、大魔王バァル帝政だった頃、一時期請われてイリーナが宮廷魔導師を務めていたことがあったとはマリアも聞いていた。
但し、これは大師匠からの肝煎りで、バァルが人間界に危害を加えないようにとの見張りの目的もあった。
今、バァルは自身の王権を休止し、ルーシーに代行させて魔界の最深部に向かっている。
今の王権は人間界に危害を加える要素が無いため、イリーナが魔界に行くことはない。
「ほら、マリア。首相に自己紹介してくれる?」
「あ、はい」
マリアはフードを取った。
金髪のボブカットに赤いヘアバンドを着けた髪が露わになる。
「イリーナ・レヴィア・ブリジッド師匠の弟子で、マリアンナ・スカーレットと申します。よろしくお願いします」
「アルカディア王国首相、アルカディア共和党代表の安倍春明です。よろしく」
前王権だった頃は絶対君主制だったが、今は立憲君主制になっている。
但し、日本の皇族と違って、女王たるルーシーにも王権がしっかりとある。
議会が紛糾して収拾がつかなくなったら、それを首相に代わって取りまとめる権限があるし、逆にルーシーが暴走しようものなら、議会で王権を止めることができる。
いずれにせよ、政治のありとあらゆる調整役をしなければならないのが、王国の首相である。
「そんなに今、人間界は危機なんですか?」
「例えて言えば、未だにパソコンでXPを使用し、尚且つIEの脆弱性を補わないまま使用し続けているようものです」
「それは危険ですねぇ……」
(例えが全然ファンタジーじゃない)
と、マリアは思った。
既に王国を運営している女性魔王やここにいる首相からして、今現代の人間界からやってきたことから、ファンタジー色は薄れているという。
王都アルカディアシティは電化され、高架鉄道や地下鉄道、路面電車が縦横無尽に走っているという話を聞いた時、どこの人間界の国だと思ったくらいだ。
「やっと仕事も一段落したので、休暇を取ることができましたよ。さすがに私とルーシー、2人とも王国を離れるわけにはいかないので、交替でね。ルーシーはニューヨークに行くみたいですが、あちらの方も魔道師の方にお出迎え頂けるのですか?」
「ええ。私は当たっていませんけど、既に師匠のことですから、手配していると思います」
「そうですか」
春明は安心して出されたお茶を口に運んだ。
春明が客室で休むまで、表向き屋敷の主人たるマリアは緊張し通しだったという。
「先生、お茶が入りました」
「ありがとうよ……」
ロングの黒い髪を、向かって右側にサイドテールにしたエレーナは老婆に化けた師匠にお茶を入れた。
最近は妙薬作りに凝っているのか、大きな釜に火を掛けて、様々な薬草を入れてかき交ぜていることが多い。
「最近、日本が熱いみたいじゃのう」
ポーリンはズズズと弟子に入れてもらったハーブティーを口に運んだ。
「はい。東京・大手町の気温が33度だそうです」
「いや……その『暑い』じゃなくての……。魔界の入口をイリーナ派が押さえてしまって、一歩出遅れた形になってしまったのう……」
「先生……」
「どうじゃろう?お前もだいぶ修行が詰まったことじゃし、日本に出張してみる気は無いか?」
「日本に……ですか?」
「ああ。これはわしの予想なのじゃが、今、魔界の王国は親日家の魔王と日本人の首相が国を運営しておる。日本に幻想郷という名の魔界の出入口が開きやすいのは、そこに理由があるのかもしれん」
「はい」
「今までは国土の狭い国に幻想郷の入口など、せいぜいイリーナ達が押さえている1ヶ所しか無いと思っておったのじゃが、可能性は高い。特に日本人首相は、今でも時折“帰国”しておるという。しかし、イリーナ達の所から出入りしておる形跡は無い。そこで、じゃ。お前、日本に行って調査してこい。成功したら、免許皆伝も視野に入れよう」
「本当ですか!」
「ああ」
「是非、行かせてください!」
「それでは、今度の満月の晩に出発するが良い。満月の夜は、1番魔力が上昇できる日じゃからの」
「はい!」
[同時期 長野県某所 15:00.マリアの屋敷 イリーナ・レヴィア・ブリジッド&マリアンナ・スカーレット]
「今日、総理大臣が来るよ」
イリーナとマリアはリビングで寛いでいた。
ポーリン達とは対照的に、かなりのまったり感だ。
「安倍総理は今、国会審議中のようですが……」
マリアはテレビの国会中継を映した。
「いや、日本の安倍晋三晋相じゃなくて、アルカディア王国の安倍春明首相ね」
「……紛らわしい」
「しょうがないでしょ。今夜到着するみたいだから、お迎えに行くよ。ポーリン達にも警戒しないとね」
「ポーリン師、魔界の首相の命に興味があるんですか?」
「いや、そうじゃないけど、幻想郷〜日本のルートは非公式だからね。ポーリン達が知ったら、そのルートから反体制派にバレるかもしれないから」
「ポーリン師達、今ヨーロッパにいるのでは?」
「ポーリンのことだから、エレーナを寄越してくるかもしれないねぇ……」
「どうします?」
「どうするって言われてもなぁ……。師匠(大師匠)から、ポーリンとケンカすんなって言われちゃったしなぁ……」
もっとも、イリーナ自身も大魔道師くらいの力が付いているので、今更大師匠から破門されても個人的には痛くないのだが、周囲から変に騒がれるのがウザいだけだ。
で、今自分の元で修行しているマリアも、
『大師匠から破門された魔道師の弟子』
なんて余計なレッテルを貼られることだろう。
さすがにそれは可哀想だ。
なので現段階では、まだ大師匠の指示に従う必要があった。
「あなたはエレーナが許せない?」
「許せません」
「だよねぇ……」
週刊誌に醜聞を流された上、自分に好意を寄せてくれているだけでなく、見習魔道師も真っ青の予知夢で自分を助けてくれた稲生ユウタの御開扉を妨害した。
「多分それはポーリンの命令でやったことで、エレーナ自身に悪意は無かったと思うよ?」
「ですが!そういう問題ではありません!」
「いや、本当の話。だってあなたは最近になるまで、エレーナの存在すら知らなかったでしょ?」
「そうですけど……」
皆で大師匠の元に集合した時、ハッキリ見たのが初めてだった。
「それは向こうも同じ。だからエレーナはあなたに悪意をぶつける理由は無いし、あったらそれはやっぱりポーリンの命令でやったことだね。だから、エレーナ個人を恨んではダメ」
「…………」
「師匠……大師匠が、あなた達に『切磋琢磨せよ』と言ったのは覚えてるよね?その意味をよく考えることね」
「……はい」
(もっとも、その言葉は中間管理職……もとい、私達には耳が痛いんだけど……)
中間管理職!?
[6月某日 とある真夜中 長野県内の某中小規模駅 イリーナ・レヴィア・ブリジッド&マリアンナ・スカーレット]
「梅雨だねぇ……」
「梅雨ですねぇ……」
誰もおらず、ほんの僅かな照明しか点灯されていない駅のホーム。
ここで2人の魔道師は列車を待っていた。
無論、時刻表に掲載されている列車は既に運行を終えている。
降りしきる雨の中、来るはずの無い列車の音が響いて来た。
「来たね」
「来ましたね」
「ユウタ君なら、即座にどんな車両かなんて見極めてしまうんだろうけどねぇ……」
「鉄道好きにはたまらない、古めかしいヤツらしいですよ」
「興味の無い人が見たら、オンボロ電車なんだけどねぇ……」
ゆっくり入線して来る焦げ茶色一色の電車。
普通車は何故か超満員だった。
しかし、乗っているのは普通の乗客ではない。
「今日もまた満員だねぇ……。どこかで、多数の死者が出るくらいに事件・事故でも発生したかねぇ……」
「どうでしょうね」
真ん中くらいに連結されている、白い帯を巻いた車両だけがガラガラで、ちょうどイリーナ達が立っている辺りに停車した。
「冥界鉄道公社は、今日も鋭意運行中……か」
プシュー、ガラガラ……。(←電車のドアが開く音)
大きなエアーの音と引き戸の音がして、そこからホームに降り立つ1人の男。
王城内なら燕尾服姿だが、今は半袖の開襟シャツにカジュアルなズボンをはいている。
「お疲れさまです。安倍春明首相」
イリーナが頭を下げるのを見たマリアは、自分もそれに倣った。
「お出迎え頂き、ありがとう。ブリジッド先生」
イリーナはフードを浅く被っていたので、前髪が見えるくらいだったが、マリアは深く被っていた。
マリアはそこから春明の顔を見たが、とても魔界で魔王の直下、人間代表として王国の運営に当たっているとは思えなかった。
「お噂は、かねがね伺ってますよ。最近では東日本大震災の際、被害を最小限に食い止めて下さったとか……」
「でも、大津波までは食い止めることができませんでした。私の不徳の致すところです」
「うちのルーシーには、今度ビシッと言っておかないとダメですね」
「言ってあげてください」
イリーナは微笑を浮かべた。
[同日 まだ真夜中 マリアの屋敷 イリーナ、マリア、安倍春明]
「どうぞ。中へ」
「申し訳無い。一晩の宿に預かります。明日の朝一番の列車で上京しますから」
「いいえ。ゆっくりなさってください」
「ところでさっきから気になっていたんですが、そちらのお嬢さんが噂の優秀なお弟子さんですかな?」
「お褒めに預かりまして。私が宮廷魔導師を辞めて、しばらく経った時に取った弟子ですので、まだ王宮に挨拶には行ってなくて……」
「今、人間界は危機に晒されていますからね。ルーシーへの顔出しは、慌てなくていいですから」
マリアは緊張していた。
師匠から聞かされていない、もう1つの顔を持った師匠の姿がここにいる。
確かに昔、まだブラッドプール王朝になる前、大魔王バァル帝政だった頃、一時期請われてイリーナが宮廷魔導師を務めていたことがあったとはマリアも聞いていた。
但し、これは大師匠からの肝煎りで、バァルが人間界に危害を加えないようにとの見張りの目的もあった。
今、バァルは自身の王権を休止し、ルーシーに代行させて魔界の最深部に向かっている。
今の王権は人間界に危害を加える要素が無いため、イリーナが魔界に行くことはない。
「ほら、マリア。首相に自己紹介してくれる?」
「あ、はい」
マリアはフードを取った。
金髪のボブカットに赤いヘアバンドを着けた髪が露わになる。
「イリーナ・レヴィア・ブリジッド師匠の弟子で、マリアンナ・スカーレットと申します。よろしくお願いします」
「アルカディア王国首相、アルカディア共和党代表の安倍春明です。よろしく」
前王権だった頃は絶対君主制だったが、今は立憲君主制になっている。
但し、日本の皇族と違って、女王たるルーシーにも王権がしっかりとある。
議会が紛糾して収拾がつかなくなったら、それを首相に代わって取りまとめる権限があるし、逆にルーシーが暴走しようものなら、議会で王権を止めることができる。
いずれにせよ、政治のありとあらゆる調整役をしなければならないのが、王国の首相である。
「そんなに今、人間界は危機なんですか?」
「例えて言えば、未だにパソコンでXPを使用し、尚且つIEの脆弱性を補わないまま使用し続けているようものです」
「それは危険ですねぇ……」
(例えが全然ファンタジーじゃない)
と、マリアは思った。
既に王国を運営している女性魔王やここにいる首相からして、今現代の人間界からやってきたことから、ファンタジー色は薄れているという。
王都アルカディアシティは電化され、高架鉄道や地下鉄道、路面電車が縦横無尽に走っているという話を聞いた時、どこの人間界の国だと思ったくらいだ。
「やっと仕事も一段落したので、休暇を取ることができましたよ。さすがに私とルーシー、2人とも王国を離れるわけにはいかないので、交替でね。ルーシーはニューヨークに行くみたいですが、あちらの方も魔道師の方にお出迎え頂けるのですか?」
「ええ。私は当たっていませんけど、既に師匠のことですから、手配していると思います」
「そうですか」
春明は安心して出されたお茶を口に運んだ。
春明が客室で休むまで、表向き屋敷の主人たるマリアは緊張し通しだったという。