[10月9日12:00.東京・汐留のテレビ局(って、バレバレじゃん) 敷島孝夫、初音ミク、鏡音リン・レン]
敷島はプロデューサーとして、スタジオセットの裏にいた。
3人は情報番組にゲストとして呼ばれている。
(地方局もいいけど、こういうキー局に出られるなんていいなぁ……)
敷島はうんうんと頷く。
「……それでは歌ってもらいましょう。初音ミク、鏡音リン・レンで……」
歌の時間もある。
「お疲れさまでしたー」
3人の出演が終わり、スタジオを出る。
「よし。じゃあ出る準備したら、次の現場に行くぞ」
「はーい」
「たかおさん、本部の方はどんな感じですか?」
「実験は今のところ順調らしいな。だけど、どの曲がダメでどれがいいのかも分からないらしい」
「んー?」
「クラシックがダメってわけじゃないんだよ。比較的、ヒーリング系のものが危険らしいな」
「んじゃあ、リン達の歌なら大丈夫だよね。何たって、元気が出る歌ばっかりなんだから」
「そうだな。今のところ、ボカロ曲で危険なものは検出されていないらしい」
「おお~!」
「まあ、昔の旧ソ連製だからな。当たり前と言えば当たり前だが……」
[同日15:00.財団本部 敷島孝夫、初音ミク、鏡音リン・レン]
「よし。今度は夕方からボーカロイド劇場でのミニライブだからな、それまでちょっと休憩だ」
「はい」
敷島達が本部に戻る。
すると、まだ実験が行われていた。
「あっ、これ!KAITOっとの持ち歌じゃん!」
「ボク達が後ろでコーラスしてるヤツだね」
「かーごめ♪かーごめ♪カゴの中の鳥は♪」
「赤い月が空高く舞い上がる♪これは神の啓示か♪はたまた仏の智慧か♪」
「KAITOの歌も、結構激しいのが多いからな。それをピアノ、フルート、ヴァイオリンで演奏するんだからよくやるわ」
敷島は半分呆れた顔をした。
しかも同じ曲で、楽器を変えてやるらしい。
エミリーの場合は鍵盤楽器担当なので、ピアノだけでなく、チェンバロだったり、オルガンだったり……。
シンディはフルートだけでなく、ピッコロやオーボエも吹かせている。
で、キールはヴァイオリンだけでなく、チェロやコントラバスもだ。
「今度はルカ姉とMEIKOりんの歌だね。月の明るい夜は♪1人空を見上げ~♪」
「あの空の彼方へ♪飛んで行ける日を夢見てー♪」
「おっ、いいな。今度その歌、リンとレンのカバー曲としてリリースしてみるか」
敷島、ここで商売っ気が出る。
「ちょっと!いま実験中なんだからね、ボーカロイドの売り込みは外でやって!」
アリスが旦那に文句を言った。
「怒られちったねー」
「ごめんなさい、博士」
リンは舌をペロッと出し、レンは素直に謝った。
「どうやらお呼びではないようだな。休憩したら、すぐ現場に行こう」
「宿泊先のホテルは?」
「劇場近くのホテルだよ」
「おおっ!温泉付きの!」
「お前ら、水風呂しか入らんだろう」
「博士と一緒だと、変な耐久実験させられますから」
「はははっ!そうだな」
[同日18:00.東京・秋葉原 ボーカロイド劇場 敷島孝夫、初音ミク、鏡音リン・レン]
ミクがソロで歌う。
ボーカロイドの中でも随一の人気を誇るミクは、ステージに出るだけで大歓声だ。
入口に置かれたファンからのプレゼントやファンレター入れの箱は、いつもミクが真っ先に一杯になる。
「みくみく、凄いね……」
「何だか、圧倒されちゃうよね」
ステージ袖で見ているリンとレンは、ファンの大歓声を浴びて歌うミクに羨望の眼差しを向けていた。
歌い終えて、ミクがステージ裏に戻って来る。
「お疲れさん!」
「さすがみくみく!」
「ありがとうございます!」
「よし!次はリンとレンだ。スタンバイしてくれ」
「はい!」
[同日20:00.同場所 同メンバー]
「ありがとうございまーす!」
「みんなー!どうもありがとー!」
ボーカロイド達のライブが終わる。
控え室に戻ると、アリスとエミリー、シンディがいた。
「おっ、いたのか」
「タカオの仕事は終わった?」
「ああ。今日のところはな。そっちはどうだ?」
「ええ。何曲か危ない曲が分かったわ。それ以外は大丈夫だと思う。ボカロ曲は特にね」
「それは良かった」
敷島はホッとした。
「危険な曲はどうして危険なんだ?」
「いや、まだ分かんない。どういうメカニズムなのかはね。もしかしたら、脳科学の分野に入るかもしれない」
「ええっ!?」
「音楽を聴いて脳幹が停止するなんて、そんなのアタシ達の分野じゃないよ」
「確かに……」
「“アヴェ・マリア”を演奏させると、特殊な波長が検出されるのよ。それと同じものが検出された曲が、危険な曲だと思う」
「へえ……」
敷島はバッグを取り出した。
「まあ、とにかく今日のところはホテルに入って休もう。実験は明日もあるんだろ?」
「そう」
「いずれはあの3人に演奏会でもやらせてみたいな。あ、もちろん、安全な曲でな」
「んでー、リン達が歌う」
リンが右手を大きく挙げて言った。
「それじゃ、どっちがメインか分からんだろー?」
「えーっ!だってボカロ曲でしょう?」
「ボカロ曲以外でも、安全が確認されたクラシック曲ならいいの」
「ふふふっ!」
劇場からホテルまでは同じ秋葉原界隈ということもあって、歩いて向かう。
その時、キールが連絡してきた。
{「情報の共有としての連絡なんですが、少し十条博士の体調がよろしくないようです。もし具合が悪いようなら、博士は来られないかもしれません」}
とのことだった。
「まあ、御年80代だもんな。無理はできんよ。十条理事には、お大事になさるように伝えてくれ」
連絡を受けた敷島は、キールにそう言った。
敷島はプロデューサーとして、スタジオセットの裏にいた。
3人は情報番組にゲストとして呼ばれている。
(地方局もいいけど、こういうキー局に出られるなんていいなぁ……)
敷島はうんうんと頷く。
「……それでは歌ってもらいましょう。初音ミク、鏡音リン・レンで……」
歌の時間もある。
「お疲れさまでしたー」
3人の出演が終わり、スタジオを出る。
「よし。じゃあ出る準備したら、次の現場に行くぞ」
「はーい」
「たかおさん、本部の方はどんな感じですか?」
「実験は今のところ順調らしいな。だけど、どの曲がダメでどれがいいのかも分からないらしい」
「んー?」
「クラシックがダメってわけじゃないんだよ。比較的、ヒーリング系のものが危険らしいな」
「んじゃあ、リン達の歌なら大丈夫だよね。何たって、元気が出る歌ばっかりなんだから」
「そうだな。今のところ、ボカロ曲で危険なものは検出されていないらしい」
「おお~!」
「まあ、昔の旧ソ連製だからな。当たり前と言えば当たり前だが……」
[同日15:00.財団本部 敷島孝夫、初音ミク、鏡音リン・レン]
「よし。今度は夕方からボーカロイド劇場でのミニライブだからな、それまでちょっと休憩だ」
「はい」
敷島達が本部に戻る。
すると、まだ実験が行われていた。
「あっ、これ!KAITOっとの持ち歌じゃん!」
「ボク達が後ろでコーラスしてるヤツだね」
「かーごめ♪かーごめ♪カゴの中の鳥は♪」
「赤い月が空高く舞い上がる♪これは神の啓示か♪はたまた仏の智慧か♪」
「KAITOの歌も、結構激しいのが多いからな。それをピアノ、フルート、ヴァイオリンで演奏するんだからよくやるわ」
敷島は半分呆れた顔をした。
しかも同じ曲で、楽器を変えてやるらしい。
エミリーの場合は鍵盤楽器担当なので、ピアノだけでなく、チェンバロだったり、オルガンだったり……。
シンディはフルートだけでなく、ピッコロやオーボエも吹かせている。
で、キールはヴァイオリンだけでなく、チェロやコントラバスもだ。
「今度はルカ姉とMEIKOりんの歌だね。月の明るい夜は♪1人空を見上げ~♪」
「あの空の彼方へ♪飛んで行ける日を夢見てー♪」
「おっ、いいな。今度その歌、リンとレンのカバー曲としてリリースしてみるか」
敷島、ここで商売っ気が出る。
「ちょっと!いま実験中なんだからね、ボーカロイドの売り込みは外でやって!」
アリスが旦那に文句を言った。
「怒られちったねー」
「ごめんなさい、博士」
リンは舌をペロッと出し、レンは素直に謝った。
「どうやらお呼びではないようだな。休憩したら、すぐ現場に行こう」
「宿泊先のホテルは?」
「劇場近くのホテルだよ」
「おおっ!温泉付きの!」
「お前ら、水風呂しか入らんだろう」
「博士と一緒だと、変な耐久実験させられますから」
「はははっ!そうだな」
[同日18:00.東京・秋葉原 ボーカロイド劇場 敷島孝夫、初音ミク、鏡音リン・レン]
ミクがソロで歌う。
ボーカロイドの中でも随一の人気を誇るミクは、ステージに出るだけで大歓声だ。
入口に置かれたファンからのプレゼントやファンレター入れの箱は、いつもミクが真っ先に一杯になる。
「みくみく、凄いね……」
「何だか、圧倒されちゃうよね」
ステージ袖で見ているリンとレンは、ファンの大歓声を浴びて歌うミクに羨望の眼差しを向けていた。
歌い終えて、ミクがステージ裏に戻って来る。
「お疲れさん!」
「さすがみくみく!」
「ありがとうございます!」
「よし!次はリンとレンだ。スタンバイしてくれ」
「はい!」
[同日20:00.同場所 同メンバー]
「ありがとうございまーす!」
「みんなー!どうもありがとー!」
ボーカロイド達のライブが終わる。
控え室に戻ると、アリスとエミリー、シンディがいた。
「おっ、いたのか」
「タカオの仕事は終わった?」
「ああ。今日のところはな。そっちはどうだ?」
「ええ。何曲か危ない曲が分かったわ。それ以外は大丈夫だと思う。ボカロ曲は特にね」
「それは良かった」
敷島はホッとした。
「危険な曲はどうして危険なんだ?」
「いや、まだ分かんない。どういうメカニズムなのかはね。もしかしたら、脳科学の分野に入るかもしれない」
「ええっ!?」
「音楽を聴いて脳幹が停止するなんて、そんなのアタシ達の分野じゃないよ」
「確かに……」
「“アヴェ・マリア”を演奏させると、特殊な波長が検出されるのよ。それと同じものが検出された曲が、危険な曲だと思う」
「へえ……」
敷島はバッグを取り出した。
「まあ、とにかく今日のところはホテルに入って休もう。実験は明日もあるんだろ?」
「そう」
「いずれはあの3人に演奏会でもやらせてみたいな。あ、もちろん、安全な曲でな」
「んでー、リン達が歌う」
リンが右手を大きく挙げて言った。
「それじゃ、どっちがメインか分からんだろー?」
「えーっ!だってボカロ曲でしょう?」
「ボカロ曲以外でも、安全が確認されたクラシック曲ならいいの」
「ふふふっ!」
劇場からホテルまでは同じ秋葉原界隈ということもあって、歩いて向かう。
その時、キールが連絡してきた。
{「情報の共有としての連絡なんですが、少し十条博士の体調がよろしくないようです。もし具合が悪いようなら、博士は来られないかもしれません」}
とのことだった。
「まあ、御年80代だもんな。無理はできんよ。十条理事には、お大事になさるように伝えてくれ」
連絡を受けた敷島は、キールにそう言った。