報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“ユタと愉快な仲間たち” 「快速“ムーンライト信州”81号」

2014-10-10 20:10:00 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[10月10日22:40.JR大宮駅西口→埼京線ホーム 稲生ユウタ&威吹邪甲]

 大宮駅西口のバスプールに、1台の中型バスが到着する。
 本来なら系統番号の所に『新都11』という系統番号が書かれているところ、今は『終バス』と表示されていた。
「この前来た時は凄い大雨だったけども……」
 1番後ろの席に座る威吹は訝しげな顔をしている。
「今日は大丈夫か……」
「まあ、台風19号は後で来るけどね。それまでに到着できれば問題無い」

〔「ご乗車ありがとうございました。終点、大宮駅西口です」〕

 プシュー、ガタッ……。

「うん。月は……見えないや」
「空は曇ってる」
 バスを降りて、そんなことを話す2人。
 大きなバッグを持って、階段を登る。
「本当に大丈夫なのかい?奴らの目的は、キミを奴らの仲間にすることだ。大事な話ってのも、きっとそれだよ」
「それなら僕だけが呼ばれるはずさ。マリアさん達からしてみれば、威吹はくっついて来てるだけだって」
「悪かったな」

 2人は週末でごった返する駅構内に入った。
 幸い埼京線は西口から1番近い路線(と言っても地下深く)なので、改札口に入ってしまえば少しの距離で済む。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。22番線に停車中の電車は、22時47分発、各駅停車、大崎行きです。発車まで、しばらくお待ちください〕

 大宮駅に到着する電車は混雑していたが、これから都内へ向かう方の電車は空いていた。
 空いている緑色の座席に座った。

〔この電車は埼京線、各駅停車、大崎行きです〕

 ユタは服のポケットの中から、1枚のキップを出した。
 それは指定席券。『ムーンライト信州 81号』と書かれている。新宿から白馬まで。
「これに乗るのも2回目だ」
「しかし、下りしか無いとは……」
「そうなんだよね。上りはどうやって回送してるんだろう?」
「冥界鉄道公社は、そもそも下り列車しか運転しないという話だが……」
 だから生きたまま乗り込むと、そのままあの世に連れて行かれるとされる。
 終電が出たにも関わらず、次の電車がやってきて、尚且つそれがやたら古めかしい電車だったら要注意だ。
「189系も相当古いからねぇ……。まあ、151系か181系電車が来たら要注意だ」

[同日22:50.JR埼京線2222K 10号車内 ユタ&威吹]

 ♪♪(発車メロディ)♪♪。
〔22番線、ドアが閉まります。ご注意ください。次の電車をご利用ください〕

 ガタッ……ピンポーンピンポーンピンポーン♪……バン。

「ユタ、夜行列車の時間は何時だい?」
 威吹が聞いて来た。
「23時54分」
 威吹は懐から懐中時計を出す。
「この電車の新宿到着は?」
「23時30分になってるね」
「少し早くないか?」
「いいんだよ。もしかしたら、遅延するかもしれないんだからね」
「ふーむ……」

〔JR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。この電車は埼京線、各駅停車、大崎行きです。次は北与野、北与野。お出口は、右側です〕

 

 威吹はユタの真意を測ろうとして断念した。
 元々鉄道好きなユタのことだ。
 多少の遅延発生など気にならないよう、余裕を持って到着したいという言葉に偽りは無いだろうが、そもそも電車を見たいというのもあるかもしれない。
 マリアに会いたいというのもあるだろうが、それならわざわざ夜行列車でなくても良いはずだ。
 表向きは時間を有効に使いたい、特急“スーパーあずさ”より運賃の掛からない(特急料金不要の)夜行快速の方が安いということだが、やっぱり夜行バスの台頭で縮小傾向にある夜行列車に乗りたいというのもあるだろう。
 威吹はドアの上にあるモニタを見た。
 こんな夜遅い電車でも、元気に左のモニタでは広告やらニュースを流している。

 

『デモ隊の特別警備に当たる作者』
『映像はその前に点呼を受ける様子』
『「警備員もまた実態は派遣労働者と変わらず」と作者』

 実は顕正会が2013年9月11日に本部会館の家宅捜索を受けた際も、このモニタに映し出されたというトリビア。
 埼京線と京浜東北線では、良い宣伝になったかどうかは【お察しください】。

[同日23:30.JR新宿駅 ユタ&威吹]

〔「ご乗車ありがとうございました。まもなく新宿、新宿です。3番線に到着致します。お出口は、右側です。新宿を出ますと渋谷、恵比寿、終点大崎の順に止まります。……」〕

 電車がゆっくりと新宿駅に入線する。
 元々が貨物線だったこともあり、線形は良くなく、後から取って付けたホームも狭い。

「9番線だから、特急ホームだな」
 ユタは電車を降りて、取りあえず中央線乗り場に向かいながら言った。
 途中に発車票があり、中央快速線のオレンジ色や中央・総武線の黄色と違って、青色で表示してある中央本線特急乗り場の案内板に、『快速 23:54 ムーンライト信州81号 白馬』と書かれていた。
 その前にトイレに行ったり、自販機で飲み物やら買ったり……。
「酒のいいヤツ1つ頼む」
 と、威吹。
「マジですか?」
「マジです。……ていうかユタは寝酒いいのかい?」
「いや、僕はいいよ」
 ユタはしょうがないので、ワンカップ大吟醸を買い求めた。

〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。9番線に停車中の列車は、23時54分発、快速“ムーンライト信州”81号、白馬行きです。発車まで、しばらくお待ちください。……〕

 ホームに行くと6両編成の特急型の車両が停車していた。
 緑色の帯が目立つ『あさま色』と呼ばれる塗装で、その名の通り、元々は高崎線を走っていた特急“あさま”号で使用されていた車両である。
 特急として運行する際は座席の頭部分に白いカバーが付けられるのだろうが、臨時快速とあってはカバーは無い。
「ここだな」
 中間車である。
 臨時列車では、なかなか指名買いもできない。
 窓口では指名買いもできるのだろうが、そこまでする必要は無いと思っている。
 やはり客層は若者が多いかと思いきや、青春18きっぷの期間ではない(秋の乗り放題パスは販売している)せいか、年配者の姿も見受けられた。

〔「ご案内致します。この電車は23時54分発、中央本線臨時快速“ムーンライト信州”81号、大糸線直通の白馬行きです。6両編成全部の車両が指定席です。お手持ちの指定席券をお確かめの上、指定の席にお掛けください。……」〕

 荷物を棚の上に置くと、網ポケットの中や窓の桟にペットボトルなどを置く。
 威吹は早速、ワンカップを開けていた。
 夜なので、窓ガラスに2人の姿がよく映る。
 今では暗闇でボウッと光る威吹の金色の瞳には慣れたが、昔は怖かったものだ。
「着いたら迎えが来るという件はどうなんだ?」
 威吹が聞いた。
「迎えの車が来るってよ」
 ユタは意外そうに答えた。
「タクシーか?だったら、駅前から……」
「いや、違う。ちゃんとした迎えの車だそうだ」
「あいつら、自動車を運転できるのか?」
 威吹は訝しげに首を傾げた。
「いや、だったら『迎えを寄越す』なんて言い方しないじゃない?」
「それもそうか」
「そもそもあの人達、車自体持ってないし」
「謎だな」
「魔道師さん達だから、何でもありなんだろうさ」

 そんなことを話している間に、列車は定刻通りに発車した。
 車掌の放送では、座席はもう満席ということだが、空席が目立っている所を見ると、途中から乗って来るらしい。
 実際、停車駅は快速と言えども、昼間の“あずさ”と大して変わらない。
「どれ、改札終わったら歯磨きして寝よ」
「照明って、どの辺で消えてたっけ?」
「八王子過ぎたらじゃなかった?」
「だっけ?」
 メチャ込みの中央・総武線の乗客から見れば、正に異空間に見えることだろう。
コメント (12)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする