[11月1日09:00.仙台市泉区のぞみヶ丘 アリスの研究所 エミリー&シンディ]
エントランスホールのアップライトピアノでエミリーが伴奏を、シンディがフルートで主旋律を吹く。
曲はジョルジュ・ビゼー作曲、“アルルの女”第1組曲より、メヌエットだ。
これが敷島達へのモーニングコール代わりなのだが、
「……起きないわね、博士達」
その曲の演奏を終えても、居住区から敷島達の姿は無かった。
「2曲目・行く・か?」
エミリーが振り向いて、髪型と髪色、衣装だけが違う妹に聞いた。
「いいよ。アタシが起こしに行く。姉さんは朝ご飯でも作っててあげて」
「OK.というか、もうできてる」
「そうだったわね」
だが奥から、
「Oh,no!I’m late!(しまった!寝過ごしたわ!)」
アリスがバタバタとやってきた。
「アリスっ!上着ろ!上!」
後から敷島もやってくる。
手にはアリスが着ていたタンクトップを持っていた。
「福島行く前に風邪引くぞ!」
「あー、そうか。今日から出掛けるんだもんね」
シンディがポンと手を叩いた。
「休日は休日で、イベント出演が目白押しなんだぞ。今せっかくボカロが売り出し中だってのに……」
「だーいじょーぶだよ、プロデューサー」
鏡音リンがニッと笑った。
「もうリン達、自分達のスケジュール管理は完璧ですから〜」
「そ、そうか?そりゃ頼もしい。だが、俺も本当は新たな売り込み先を探さないといけないんだけど……」
「まあ、イザとなったら、ボーカロイド劇場もありますから」
「アキバまで行くの大変だろー?本当は仙台にも、そういうの作りたいんだけどなぁ……」
[同日11:05.同場所 のぞみヶ丘バス折返し場 敷島、アリス、エミリー、シンディ]
「アリス、急げっ!バスが出るぞ!」
「車じゃないのね」
「当たり前だ!」
研究所下にある路線バスの折返し場までバタバタと階段を下りる。
「だいたい、何だって、たかが1泊2日の旅行でそんな大きなバッグを持って行くんだ?」
しかし持っているのはシンディである。
人間が普通に持てば重いだろうに、シンディはまるでセカンドバッグを持つかの如く、片手でヒョイと持っている。
「こう見えてもお泊りセット以外に、マルチタイプの整備道具なんかも持って行かないとね」
「それだけでこんなにか?」
「あとはテロ対策用にグレネードガンとか、ロボット・デコイとか……」
「アホかーい!」
〔「泉中央駅行き、まもなく発車します」〕
バスのエンジンが掛かり、運転手の声が車外スピーカーから聞こえた。
「しゃーない!そのまま行くぞ!中身がばれないようにしろよ!」
「OK!」
4人は急いでノンステップバスに乗り込んだ。
バスは4人の乗客を乗せると、折返し場内をグルッと回って、のぞみヶ丘ニュータウン内に出た。
「しかし……」
2人席にアリスと座る敷島。
エミリーとシンディは折り畳み座席(右前輪の後ろにある、車椅子の乗客がいたら折り畳む座席。バス会社、路線によってはラッシュ時にも折り畳むことがある)の前に立っている。
運行約款上、必ず着席していなければならない乗り物以外は立つのがマルチタイプだ。
メイドロボと執事ロボは状況に応じるらしい。
「泉中央駅に着く頃には満席状態の立ち客ありの状態になるんだろうが、まだガラ空き状態で立っているのもな……」
「まあ、そういう仕様だからねぇ……。アサシン(暗殺者)だったことを裏返すと、SPにもなれるわけだけど、SPって座らないでしょ?それと同じよ」
「なるほどな……」
[同日12:50.JR仙台駅在来線ホーム 上記メンバー]
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の5番線の列車は、13時3分発、快速“仙台シティラビット”4号、福島行きです。この列車は、4両です〕
「さっき、サンドイッチ食ってなかった?」
敷島が呆れたのは、アリスがシンディに駅弁を買いに行かせたことだった。
「まだランチは続くのよ」
「あー、そーかい」
「敷島さんも・どうぞ」
「あー、悪いな。もしかして、紐引っ張ると温かくなるヤツ?」
「ノー。その方が・良かった・ですか?」
「いや、いいよ。テーブル無いし」
「テーブル無いの?」
「無いよ!在来線の鈍行列車で、贅沢言うなや!」
〔まもなく5番線に、当駅始発、快速“仙台シティラビット”4号、福島行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。この列車は、4両です〕
首都圏のATOSと呼ばれる形式の放送がホームに鳴り響く。
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(JR東日本719系。南東北でしか乗れない)
下り方向から回送状態で、4両編成の電車がやってきた。
ボタンを押してドアを開けて、車中の人となる。
外観もそうだが、車内はほんの最近まで都内発着の中距離電車で使用されていた211系と呼ばれるものとよく似ている。
違うのは、座席のレイアウト。
ドア横が横向き席なのは同じだが、進行方向と対面する座席が変則的である。
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(文字や口頭では説明しにくいので、この写真参照。全国探しても、こんな変なレイアウトはこの電車だけ)
「エミリー達も座れよ」
ど真ん中の4人用ボックスシートを確保した敷島。
「だーかーらーっ。プロデューサー、別にアタシ達は立ってても『疲れない』んだって」
新幹線は法規上、必ずしも着席しなければならないわけではないが、指定席に乗ることが多いため、例外としている。
しかし、この電車は全部自由席だ。
「いいのよ。移動の時くらい一緒に楽しみなさい」
アリスがそう言った。
「逆に俺達の隣にいてくれた方が、護衛にもなるんじゃないか?」
「そういう・こと・でしたら・失礼・致します」
「ま、命令ならしょうがないか」
エミリーとシンディも、通路側に座った。
〔「ご案内致します。この電車は13時3分発、東北本線上り、快速電車の“仙台シティラビット”4号、福島行きです。停車駅は名取、岩沼、槻木、船岡、大河原、白石、藤田、桑折、伊達、東福島、終点福島の順です。……」〕
「どれ、弁当食うか」
窓の桟に飲み物を置いて、敷島は弁当の蓋を開けた。
「さすがに、充電コンセントは無いのね?」
シンディは座席の下などを見て言った。
「在来線の鈍行じゃなぁ……。乗り換え先の飯坂線も、そんなもん無いと思うぞ」
「しょうがないわね。イザとなったら、上から取ればいいか」
シンディは天井を見上げた。
「何言ってんだ」
敷島は苦笑い。
(照明器具からどうやって電源取るんだよ)
と、敷島は思ったのだが、
「シンディ。東北本線の・黒磯から・北は・AC(交流)だ。アダプターが・必要に・なるぞ」
「そっかぁ……。じゃあ、他の路線から取らないとね」
「お前らな、交流2万ボルトと直流1500ボルトから電源取ったら、爆発するぞ」
敷島は口に運んだ米を噴き出しそうになった。
正に、噴飯である。
電車は定刻通りに、仙台駅を発車した。
今のところ、これといったテロの脅威は無い。
とはいうものの、平賀の動きが分からなかった。
目的地は一緒とのことだが、一緒に行かない理由と、夜間だけエミリーを使うという理由が。
エントランスホールのアップライトピアノでエミリーが伴奏を、シンディがフルートで主旋律を吹く。
曲はジョルジュ・ビゼー作曲、“アルルの女”第1組曲より、メヌエットだ。
これが敷島達へのモーニングコール代わりなのだが、
「……起きないわね、博士達」
その曲の演奏を終えても、居住区から敷島達の姿は無かった。
「2曲目・行く・か?」
エミリーが振り向いて、髪型と髪色、衣装だけが違う妹に聞いた。
「いいよ。アタシが起こしに行く。姉さんは朝ご飯でも作っててあげて」
「OK.というか、もうできてる」
「そうだったわね」
だが奥から、
「Oh,no!I’m late!(しまった!寝過ごしたわ!)」
アリスがバタバタとやってきた。
「アリスっ!上着ろ!上!」
後から敷島もやってくる。
手にはアリスが着ていたタンクトップを持っていた。
「福島行く前に風邪引くぞ!」
「あー、そうか。今日から出掛けるんだもんね」
シンディがポンと手を叩いた。
「休日は休日で、イベント出演が目白押しなんだぞ。今せっかくボカロが売り出し中だってのに……」
「だーいじょーぶだよ、プロデューサー」
鏡音リンがニッと笑った。
「もうリン達、自分達のスケジュール管理は完璧ですから〜」
「そ、そうか?そりゃ頼もしい。だが、俺も本当は新たな売り込み先を探さないといけないんだけど……」
「まあ、イザとなったら、ボーカロイド劇場もありますから」
「アキバまで行くの大変だろー?本当は仙台にも、そういうの作りたいんだけどなぁ……」
[同日11:05.同場所 のぞみヶ丘バス折返し場 敷島、アリス、エミリー、シンディ]
「アリス、急げっ!バスが出るぞ!」
「車じゃないのね」
「当たり前だ!」
研究所下にある路線バスの折返し場までバタバタと階段を下りる。
「だいたい、何だって、たかが1泊2日の旅行でそんな大きなバッグを持って行くんだ?」
しかし持っているのはシンディである。
人間が普通に持てば重いだろうに、シンディはまるでセカンドバッグを持つかの如く、片手でヒョイと持っている。
「こう見えてもお泊りセット以外に、マルチタイプの整備道具なんかも持って行かないとね」
「それだけでこんなにか?」
「あとはテロ対策用にグレネードガンとか、ロボット・デコイとか……」
「アホかーい!」
〔「泉中央駅行き、まもなく発車します」〕
バスのエンジンが掛かり、運転手の声が車外スピーカーから聞こえた。
「しゃーない!そのまま行くぞ!中身がばれないようにしろよ!」
「OK!」
4人は急いでノンステップバスに乗り込んだ。
バスは4人の乗客を乗せると、折返し場内をグルッと回って、のぞみヶ丘ニュータウン内に出た。
「しかし……」
2人席にアリスと座る敷島。
エミリーとシンディは折り畳み座席(右前輪の後ろにある、車椅子の乗客がいたら折り畳む座席。バス会社、路線によってはラッシュ時にも折り畳むことがある)の前に立っている。
運行約款上、必ず着席していなければならない乗り物以外は立つのがマルチタイプだ。
メイドロボと執事ロボは状況に応じるらしい。
「泉中央駅に着く頃には満席状態の立ち客ありの状態になるんだろうが、まだガラ空き状態で立っているのもな……」
「まあ、そういう仕様だからねぇ……。アサシン(暗殺者)だったことを裏返すと、SPにもなれるわけだけど、SPって座らないでしょ?それと同じよ」
「なるほどな……」
[同日12:50.JR仙台駅在来線ホーム 上記メンバー]
〔本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございます。今度の5番線の列車は、13時3分発、快速“仙台シティラビット”4号、福島行きです。この列車は、4両です〕
「さっき、サンドイッチ食ってなかった?」
敷島が呆れたのは、アリスがシンディに駅弁を買いに行かせたことだった。
「まだランチは続くのよ」
「あー、そーかい」
「敷島さんも・どうぞ」
「あー、悪いな。もしかして、紐引っ張ると温かくなるヤツ?」
「ノー。その方が・良かった・ですか?」
「いや、いいよ。テーブル無いし」
「テーブル無いの?」
「無いよ!在来線の鈍行列車で、贅沢言うなや!」
〔まもなく5番線に、当駅始発、快速“仙台シティラビット”4号、福島行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください。この列車は、4両です〕
首都圏のATOSと呼ばれる形式の放送がホームに鳴り響く。
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(JR東日本719系。南東北でしか乗れない)
下り方向から回送状態で、4両編成の電車がやってきた。
ボタンを押してドアを開けて、車中の人となる。
外観もそうだが、車内はほんの最近まで都内発着の中距離電車で使用されていた211系と呼ばれるものとよく似ている。
違うのは、座席のレイアウト。
ドア横が横向き席なのは同じだが、進行方向と対面する座席が変則的である。
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(文字や口頭では説明しにくいので、この写真参照。全国探しても、こんな変なレイアウトはこの電車だけ)
「エミリー達も座れよ」
ど真ん中の4人用ボックスシートを確保した敷島。
「だーかーらーっ。プロデューサー、別にアタシ達は立ってても『疲れない』んだって」
新幹線は法規上、必ずしも着席しなければならないわけではないが、指定席に乗ることが多いため、例外としている。
しかし、この電車は全部自由席だ。
「いいのよ。移動の時くらい一緒に楽しみなさい」
アリスがそう言った。
「逆に俺達の隣にいてくれた方が、護衛にもなるんじゃないか?」
「そういう・こと・でしたら・失礼・致します」
「ま、命令ならしょうがないか」
エミリーとシンディも、通路側に座った。
〔「ご案内致します。この電車は13時3分発、東北本線上り、快速電車の“仙台シティラビット”4号、福島行きです。停車駅は名取、岩沼、槻木、船岡、大河原、白石、藤田、桑折、伊達、東福島、終点福島の順です。……」〕
「どれ、弁当食うか」
窓の桟に飲み物を置いて、敷島は弁当の蓋を開けた。
「さすがに、充電コンセントは無いのね?」
シンディは座席の下などを見て言った。
「在来線の鈍行じゃなぁ……。乗り換え先の飯坂線も、そんなもん無いと思うぞ」
「しょうがないわね。イザとなったら、上から取ればいいか」
シンディは天井を見上げた。
「何言ってんだ」
敷島は苦笑い。
(照明器具からどうやって電源取るんだよ)
と、敷島は思ったのだが、
「シンディ。東北本線の・黒磯から・北は・AC(交流)だ。アダプターが・必要に・なるぞ」
「そっかぁ……。じゃあ、他の路線から取らないとね」
「お前らな、交流2万ボルトと直流1500ボルトから電源取ったら、爆発するぞ」
敷島は口に運んだ米を噴き出しそうになった。
正に、噴飯である。
電車は定刻通りに、仙台駅を発車した。
今のところ、これといったテロの脅威は無い。
とはいうものの、平賀の動きが分からなかった。
目的地は一緒とのことだが、一緒に行かない理由と、夜間だけエミリーを使うという理由が。