[9月9日17:28.天候:曇 JR東京駅・東北新幹線ホーム 敷島孝夫、3号機のシンディ、平賀太一、1号機のエミリー]
エミリーの修理と起動実験を終えた平賀とエミリーは、拠点である仙台へ帰るべく、新幹線乗り場にいた。
敷島とシンディが見送りをしている。
シンディはエミリーの両手を握って、未だにキールのことが忘れられない(消去しようとすると、ブロックが掛かってしまう)エミリーを案じている。
エミリーは何も心配しなくて良いようなことを言っているが、その顔は無表情の中に未練がましい部分もあって、とても妹を納得させられるものではなかった。
〔「22番線、お待たせ致しました。17時28分発の東北新幹線“やまびこ”151号、仙台行きは信号が変わり次第、発車致します。ご利用のお客様は、ご乗車になりまして、お待ちください」〕
一部のマニアからは“はつね”と呼ばれる“はやぶさ”用の車両。
「それじゃ敷島さん、あとは作戦通りに……」
「分かりました」
平賀は意味深なことを言って、9号車に乗り込んだ。
グリーン車であるが、“はやぶさ”と違い、“やまびこ”ではシートサービスは無い。訂正!一部を除く“やまびこ”ではシートサービスを行っているもよう。
「おい、エミリー」
平賀がエミリーを呼ぶ。
「……イエス。敷島社長、シンディ。……失礼・致します」
エミリーは敷島には深々お辞儀して、平賀の後に乗車した。
ようやく信号が開通したのか、発車ベルがホームに鳴り響く。
〔22番線から、“やまびこ”151号、仙台行きが発車致します。次は、上野に止まります。黄色い線まで、お下がりください〕
列車は甲高い客終合図の音と共にドアを閉め、これまたリズミカルなVVVFインバータの音色を奏でて発車していった。
「エミリーは大丈夫かな?」
「……アタシ、姉さんと戦うの、もうイヤだよ」
「分かってるさ。何とかしないと……」
キールに誑かされて、また悪堕ちしないかが心配だ。
「取りあえず、俺達も帰ろう。このまま、次の各駅停車“やまびこ”に乗っちゃうか?大宮なんて、すぐだぞ?」
「無駄使いすんなって、アリス博士に言われたでしょ?上野東京ラインにしな」
「へーい……」
シンディは敷島エージェンシーにおいては、社長である敷島の秘書兼護衛という立ち位置だが、ここでは既に敷島家の家令ロイドという風に変わっている。
で、何故か世帯主の敷島の方が家令より下という変な家なのであった。
[同日19:30.天候:雨 宮城県仙台市青葉区 “やまびこ”151号9号車内→JR仙台駅 平賀太一、エミリー、平賀奈津子]
列車はほぼ定刻通りに高架線を走行している。
仙台市内ではカーブが多いのと騒音対策で、減速して走行する。
通路側の席に俯くようにして座っているエミリー。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、仙台です。東北新幹線、盛岡、新青森方面、仙石線、仙山線、常磐線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
車内放送を合図とするかのように省電力モードが解除され、ウィィィンと顔を上げる。
「充電は終わったか?」
と、平賀。
「イエス。ドクター平賀」
エミリーが答えると、自分で体に装着していたコンセントとケーブルを抜いた。
“はやぶさ”用のE5系車両は、普通車なら窓側席の下とデッキ前の席の全て、グリーン車とグランクラスなら全ての座席にコンセントが付いている。
手荷物は平賀が自分で持つが、デッキの荷物置き場に置いてある大きなキャリーバッグはエミリーが持つ。
列車はポイント通過で車体を揺らしながら、仙台駅14番線ホームに滑り込んだ。
〔「ご乗車ありがとうございました。終点、仙台、終点、仙台です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。……」〕
ドアが開くと、乗客達が吐き出された。
その中に平賀達も混じる。
仙台駅の新幹線改札口は、東京駅と違って基本的に在来線を通って行くことはない(在来線との乗換改札口はある)。
東京駅の東海道新幹線乗り場のように独立している。
3階にある改札口まで行くと、そこに行くと平賀奈津子が待っていた。
「お帰りなさい」
「ああ」
「ドクター奈津子、御迷惑を・お掛け・してしまい、申し訳・ありません・でした」
エミリーは奈津子の姿を見ると、深々とお辞儀した。
「まあ、しょうがないよ。あなたの感情レイヤーが、それだけ一途だってことが証明されたってわけね。だからでしょ?意外と長く東京にいたのって?」
「まあな」
平賀は苦笑いした。
仙台でもそうなのだが、東京にいると、もっとエミリーを見に来る研究者が後を絶たないのだ。
それだけ世界的にも珍しいということだ。
敷島エージェンシーでは研究目的での来訪を断っているので、同じ穴のムジナとも言える平賀の方に矛先が向けられるのだ。
「それじゃ、行きましょう。まずはエミリーを記念館に置いてくるのね?」
「そういうことだ」
3人は駅の駐車場に向かった。
[9月10日02:00.東北工科大学・南里志郎記念館 エミリー]
記念館は大学キャンパスの外れに打ち棄てられていた旧・研究棟を改築したものだ。
なので建物的には古く、天候や時間帯によっては、ホラー映画のような要素を醸し出すことがある。
その為、演劇部が自主制作の映画撮影をする際に使用することもある。
『洋館に閉じ込められた主人公が、狂ったメイドに凶器片手に追い回される』シーンにおいて、そのメイドの役で協力したこともあった。
マルチタイプのエミリーは、そんな人間達の恐怖のことなど知らない。
人型兵器だった頃は、粛清相手が恐怖におののき逃げ惑う姿を認識することで、任務の完遂を確信したということくらいだ。
建物は古いが、改築時にセキュリティは最新型の物が備え付けられ、休んでいるエミリーと連動して、侵入者を捕捉することができるようになっている。
だが、そんなセキュリティをエミリーは無断で解除してしまった。
館内であれば展示室に限らず、自由に行動できる権限がある。
更に裏口を勝手に開錠する。
すると、そこから入ってきたのはキールだった。
「キール……!」
分かっている。
本当はこれは良くないことなのだと。
昔の自分であれば、絶対に考えられないことだ。
与えられた命令に違反することなど……。
だが、どうしても目の前に現れた男の姿が視界に入ると、全てその命令が消えてしまうのだった。
「エミリー、会いたかったよ」
キールはエミリーを抱きしめて、唇を重ねた。
「ん……」
[同日同時刻 埼玉県さいたま市中央区 敷島のマンション 敷島孝夫&アリス・シキシマ]
その様子をPCのモニタで監視している敷島達。
「よーし!飛んで火に入る夏の虫だな、キールめ!」
隠しカメラで、ロイド達の逢引を監視していた敷島だった。
そしてガッツポーズをする。
「絶対、エミリーに夜這い掛けるパターンだと思っていたんだ!」
「タカオ、本当にいいの?」
後ろでアリスが首を傾げていた。
「心配するな。もう既に平賀先生と大学側には許可を取っている。エミリーは頑丈だから大丈夫だが、元・執事ロイドのキールはそこまでの強度は無いだろう」
敷島はマウスで画面を半分切り替え、そこに現れた表示をクリックした。
それはドクロマーク。
「記念館ごと吹っ飛ばしてやるぜ、キールぅ!!」
何と!いつの間にか敷島は、記念館に爆弾を仕掛けていたのであった。
「ポチッとな!」
敷島はエンターキーを叩いた。
ブツッと画面が消える。
「!?……あれ?……れれれ?」
敷島は何回かエンターキーを叩き、あとはキーボードのキーを適当に叩いた。
が、画面は消えたままだ。
「ちょっと!どうなってるの?」
妻の詰問に対し、
「は……はは……ははははははははは……(乾笑)」
「HAHAHAHA……(乾笑)」
と、2人して笑った後、
「……分かりません」
「……!」
敷島は肩を竦めた。
「多分、エミリーかキールにバレたな、こりゃ……」
「全くもうっ!Shit!」
で、実際に翌日、天井に穴が開いていたそうだ。
レーザーで焼かれた跡だったので、キールが隠しカメラと起爆装置のケーブルを焼き切ったのだろう。
エミリーの修理と起動実験を終えた平賀とエミリーは、拠点である仙台へ帰るべく、新幹線乗り場にいた。
敷島とシンディが見送りをしている。
シンディはエミリーの両手を握って、未だにキールのことが忘れられない(消去しようとすると、ブロックが掛かってしまう)エミリーを案じている。
エミリーは何も心配しなくて良いようなことを言っているが、その顔は無表情の中に未練がましい部分もあって、とても妹を納得させられるものではなかった。
〔「22番線、お待たせ致しました。17時28分発の東北新幹線“やまびこ”151号、仙台行きは信号が変わり次第、発車致します。ご利用のお客様は、ご乗車になりまして、お待ちください」〕
一部のマニアからは“はつね”と呼ばれる“はやぶさ”用の車両。
「それじゃ敷島さん、あとは作戦通りに……」
「分かりました」
平賀は意味深なことを言って、9号車に乗り込んだ。
グリーン車であるが、“はやぶさ”と違い、
「おい、エミリー」
平賀がエミリーを呼ぶ。
「……イエス。敷島社長、シンディ。……失礼・致します」
エミリーは敷島には深々お辞儀して、平賀の後に乗車した。
ようやく信号が開通したのか、発車ベルがホームに鳴り響く。
〔22番線から、“やまびこ”151号、仙台行きが発車致します。次は、上野に止まります。黄色い線まで、お下がりください〕
列車は甲高い客終合図の音と共にドアを閉め、これまたリズミカルなVVVFインバータの音色を奏でて発車していった。
「エミリーは大丈夫かな?」
「……アタシ、姉さんと戦うの、もうイヤだよ」
「分かってるさ。何とかしないと……」
キールに誑かされて、また悪堕ちしないかが心配だ。
「取りあえず、俺達も帰ろう。このまま、次の各駅停車“やまびこ”に乗っちゃうか?大宮なんて、すぐだぞ?」
「無駄使いすんなって、アリス博士に言われたでしょ?上野東京ラインにしな」
「へーい……」
シンディは敷島エージェンシーにおいては、社長である敷島の秘書兼護衛という立ち位置だが、ここでは既に敷島家の家令ロイドという風に変わっている。
で、何故か世帯主の敷島の方が家令より下という変な家なのであった。
[同日19:30.天候:雨 宮城県仙台市青葉区 “やまびこ”151号9号車内→JR仙台駅 平賀太一、エミリー、平賀奈津子]
列車はほぼ定刻通りに高架線を走行している。
仙台市内ではカーブが多いのと騒音対策で、減速して走行する。
通路側の席に俯くようにして座っているエミリー。
〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく終点、仙台です。東北新幹線、盛岡、新青森方面、仙石線、仙山線、常磐線はお乗り換えです。お忘れ物の無いよう、お支度ください。本日もJR東日本をご利用くださいまして、ありがとうございました〕
車内放送を合図とするかのように省電力モードが解除され、ウィィィンと顔を上げる。
「充電は終わったか?」
と、平賀。
「イエス。ドクター平賀」
エミリーが答えると、自分で体に装着していたコンセントとケーブルを抜いた。
“はやぶさ”用のE5系車両は、普通車なら窓側席の下とデッキ前の席の全て、グリーン車とグランクラスなら全ての座席にコンセントが付いている。
手荷物は平賀が自分で持つが、デッキの荷物置き場に置いてある大きなキャリーバッグはエミリーが持つ。
列車はポイント通過で車体を揺らしながら、仙台駅14番線ホームに滑り込んだ。
〔「ご乗車ありがとうございました。終点、仙台、終点、仙台です。お忘れ物の無いよう、ご注意ください。……」〕
ドアが開くと、乗客達が吐き出された。
その中に平賀達も混じる。
仙台駅の新幹線改札口は、東京駅と違って基本的に在来線を通って行くことはない(在来線との乗換改札口はある)。
東京駅の東海道新幹線乗り場のように独立している。
3階にある改札口まで行くと、そこに行くと平賀奈津子が待っていた。
「お帰りなさい」
「ああ」
「ドクター奈津子、御迷惑を・お掛け・してしまい、申し訳・ありません・でした」
エミリーは奈津子の姿を見ると、深々とお辞儀した。
「まあ、しょうがないよ。あなたの感情レイヤーが、それだけ一途だってことが証明されたってわけね。だからでしょ?意外と長く東京にいたのって?」
「まあな」
平賀は苦笑いした。
仙台でもそうなのだが、東京にいると、もっとエミリーを見に来る研究者が後を絶たないのだ。
それだけ世界的にも珍しいということだ。
敷島エージェンシーでは研究目的での来訪を断っているので、同じ穴のムジナとも言える平賀の方に矛先が向けられるのだ。
「それじゃ、行きましょう。まずはエミリーを記念館に置いてくるのね?」
「そういうことだ」
3人は駅の駐車場に向かった。
[9月10日02:00.東北工科大学・南里志郎記念館 エミリー]
記念館は大学キャンパスの外れに打ち棄てられていた旧・研究棟を改築したものだ。
なので建物的には古く、天候や時間帯によっては、ホラー映画のような要素を醸し出すことがある。
その為、演劇部が自主制作の映画撮影をする際に使用することもある。
『洋館に閉じ込められた主人公が、狂ったメイドに凶器片手に追い回される』シーンにおいて、そのメイドの役で協力したこともあった。
マルチタイプのエミリーは、そんな人間達の恐怖のことなど知らない。
人型兵器だった頃は、粛清相手が恐怖におののき逃げ惑う姿を認識することで、任務の完遂を確信したということくらいだ。
建物は古いが、改築時にセキュリティは最新型の物が備え付けられ、休んでいるエミリーと連動して、侵入者を捕捉することができるようになっている。
だが、そんなセキュリティをエミリーは無断で解除してしまった。
館内であれば展示室に限らず、自由に行動できる権限がある。
更に裏口を勝手に開錠する。
すると、そこから入ってきたのはキールだった。
「キール……!」
分かっている。
本当はこれは良くないことなのだと。
昔の自分であれば、絶対に考えられないことだ。
与えられた命令に違反することなど……。
だが、どうしても目の前に現れた男の姿が視界に入ると、全てその命令が消えてしまうのだった。
「エミリー、会いたかったよ」
キールはエミリーを抱きしめて、唇を重ねた。
「ん……」
[同日同時刻 埼玉県さいたま市中央区 敷島のマンション 敷島孝夫&アリス・シキシマ]
その様子をPCのモニタで監視している敷島達。
「よーし!飛んで火に入る夏の虫だな、キールめ!」
隠しカメラで、ロイド達の逢引を監視していた敷島だった。
そしてガッツポーズをする。
「絶対、エミリーに夜這い掛けるパターンだと思っていたんだ!」
「タカオ、本当にいいの?」
後ろでアリスが首を傾げていた。
「心配するな。もう既に平賀先生と大学側には許可を取っている。エミリーは頑丈だから大丈夫だが、元・執事ロイドのキールはそこまでの強度は無いだろう」
敷島はマウスで画面を半分切り替え、そこに現れた表示をクリックした。
それはドクロマーク。
「記念館ごと吹っ飛ばしてやるぜ、キールぅ!!」
何と!いつの間にか敷島は、記念館に爆弾を仕掛けていたのであった。
「ポチッとな!」
敷島はエンターキーを叩いた。
ブツッと画面が消える。
「!?……あれ?……れれれ?」
敷島は何回かエンターキーを叩き、あとはキーボードのキーを適当に叩いた。
が、画面は消えたままだ。
「ちょっと!どうなってるの?」
妻の詰問に対し、
「は……はは……ははははははははは……(乾笑)」
「HAHAHAHA……(乾笑)」
と、2人して笑った後、
「……分かりません」
「……!」
敷島は肩を竦めた。
「多分、エミリーかキールにバレたな、こりゃ……」
「全くもうっ!Shit!」
で、実際に翌日、天井に穴が開いていたそうだ。
レーザーで焼かれた跡だったので、キールが隠しカメラと起爆装置のケーブルを焼き切ったのだろう。