[8月31日20:30.埼玉県さいたま市大宮区・JR大宮駅東口 平賀太一&1号機のエミリー]
エミリーの頭脳に搭載されている通信機。
そこにシークレットで送信して来た相手は、それは……。
「キール……!?」
{「シッ。静かに」}
懐かしい声が頭に響いた。
{「すぐ近くに敷島社長か、平賀博士はいるかい?」}
(ドクター平賀が・いる)
{「これはボク達だけの内緒の話だ。平賀博士に気取られてはいけない。もちろん、他のロイド達にもだ」}
(話は・なに?)
{「実は今、ボクは動けない。このままでは、警察隊の捜査網に引っ掛かるのは時間の問題だろう」}
(動けない?どういう・こと?)
{「キミの妹に撃たれた。頭を狙われたのだが、運よく右肩に当たっただけで済んだよ」}
(誰だ?シンディか?アルエットか?)
{「カスタマイズしたライフルを撃ってきた。それで誰か分かるだろう?」}
(シンディ!)
{「そんなことはどうでもいい。それより、助けに来てほしい。ボクはまだまだやらなければならないことがある。キミは信用できる女性だから、是非お願いしたい。キミと行動している平賀博士にこのことが分かったら、博士は警察隊に通報するだろう」}
(どこに・いるの?)
{「ボクの居場所をキミのデータに送信する」}
(私に・オーナーや・ユーザーの・命令に・背けと?)
{「代わりに伝助博士の居場所を教えてあげる」}
(!?)
{「これならいいだろう?キミが正義に背くことはなくなった」}
(ドクター十条伝助を・売るの?)
{「ボクだって、本当はこんなことやりたくなかった。僕が光線銃を撃つ度に、キミから嫌われるのが何よりも嫌だったんだ。ボクを見つけてくれ。そして一緒に逃げるんだ」}
(逃げる?どこへ?)
{「どこでも……外国でもいい。指名手配をされているのは伝助博士だ。ボクはされていない。だから、きっと逃げられる。キミだって、ずっと博物館みたいな所に入れられていい存在じゃないだろう?」}
(私は……。それは・どうでも・いい。オーナーが・そうしろと・命令される・のなら・それに・従うまで・だ。だけど・あなたは・助ける。場所を・教えて)
{「ありがとう」}
キールが送信してきた場所は、ずっと北の方であった。
そこへ、上空からヘリコプターが飛んできた。
と、同時に、
「いやー、お待たせ!」
車椅子に乗った村中課長と、数人の警官隊がやってきた。
「そんな体でムリを……」
平賀が半ば呆れた顔をした。
「ああ。ここの捜索は十分だ。1度、本庁へ戻ろう」
「課長は病院へお戻りになった方が……」
「本庁に戻って、本部長に報告してからだ。もちろんその後、キミ達を仙台まで送り届けることを約束する」
「結局、ケンショーレンジャーなるものは一体、何だったんでしょうなぁ……。? エミリー?どうした?」
「……!何でも・ありません」
「早くヘリに乗れ。警視庁まで行くってよ」
「イエス。ドクター平賀」
こうして、エミリー達は1発の銃も撃たずに、さいたま市内を離脱するに至ったのである。
[同日23:00.宮城県仙台市青葉区 ホテル・ドーミーイン仙台広瀬通 敷島孝夫]
敷島はホテルの客室で平賀と電話していた。
「そうですか。既に敵は倒れていた状態と……」
{「そうなんです。エミリーは1発も銃弾を撃ってません」}
「なるほどねぇ……」
{「取りあえず、もう夜も遅いので、東京で1泊してから戻ることにします」}
「まあ、それがいいですね。こちらも、さいたま市が封鎖されているので、ホテルに缶詰めですよ」
{「同じホテルですか?」}
「いや、引き払った後で部屋が埋まったらしく、断られましたよ。急いで仙台市内中のホテルを探したら、何とか別のホテルが見つかりました」
{「それは良かったですね」}
「いや、全くです」
{「もし明日、ケンショーレンジャーの脅威が無くなったら、避難指示が解除になると思われます」}
「そうですか。でも、それから完全に交通機関が元に戻るまで、2〜3日は掛かりそうですな」
{「アリスは無事で、先に家に戻れそうです」}
「ありがとうございます。ところで、平賀先生はアリスに何の用があったんですか?」
{「キールの行方ですよ」}
「キールの?」
{「ええ。アリスが以前、実験で得たデータの中に有用なものがあるのを思い出しましてね」}
「私が聞いても分からない専門用語がこの後、出て来そうですな。まあ、技術開発の皆さんにそこはお任せしますよ。私はあくまで、営業マンですから。……分かりました。それでは、私は向こうが復旧次第、戻ります。……はい、それでは」
敷島は電話を切った。
その時、部屋のドアがノックされた。
「ん?はいはい」
ドアを開けると、そこに井辺がいた。
「お疲れさまです。ビールを買ってきましたので」
「おー、悪いな。……風呂上りか?」
「はい。このホテル、大浴場があるんですね。男性用オンリーですけど」
「そうなのか。女性はどうするんだ?」
「近隣にある姉妹店の大浴場をお使いください、とのことです」
「ふーん……。まあ、ロイド達は風呂入らないからいいけどね」
それに、室内にもバスルームは付いている。
敷島が驚いたのは、エミリーがシャワーで体を洗っていること。
敷島の様子を見た南里志郎が不思議そうな顔をして、体が汚れたのだからシャワーを使って何が悪いみたいなことを言っていた記憶がある。
正しくそうなのだが、ロボットがシャワーだなんてという気持ちがあったのが正直な所だ。
ロイドが風呂に入っている所を見たのは、鏡音レンが初。
東北の道の駅には、しばしば温泉施設が併設されていることがあるが、そこでレンが入ってきたことだ。
で、いきなり水風呂に入りやがった。
しかし、レンは逆に気持ち良さそうに水に浸かっていたのである。
ロイドは熱に弱い為、逆に水風呂で体を冷やす方が良いのだとか。
「社長は入られましたか?」
「いや。とても、そんな気になれないよ」
「すいません。先に頂いてしまって……」
「いやいや、キミはいいよ。キミはMEGAbyteのプロデュース業務に専念してくれればいい」
「そのMEGAbyteなんですが……」
「ん?」
「明日、さいたま市内のライブハウスでまたミニライブの予定があったのですが、こんな状況でキャンセルせざるを得なく、とても残念です」
「そのライブハウスは今、どうなのかな?」
「は?」
「いや、もしケンショーレンジャーに破壊されていなかったのなら、もう1度申し込んでみるんだ。こっちが勝手にドタキャンしたわけじゃないんだ。あくまで、テロという災害によるものだ。上手く行けば、またそこでライブはできるようになるかもしれない」
「明日、また運営元に連絡してみます」
「ああ。ビールありがとう。……普通に、俺は部屋の風呂に入るよ」
「はい。おやすみなさい」
「ああ。お疲れさん」
その後、井辺はロイド達が宿泊している和洋室に向かった。
ツインのベッドと畳敷きの部屋があり、ちょっとしたお泊り会みたいな感じで、さぞかし盛り上がっていると思いきや……。
「……もうお休みですか。そうですか。さすがロイドの皆さんは、スケジュール設定に忠実ですね」
部屋をノックしても出てこないので、遠隔監視用のタブレットを見てみたら、全員が充電中のスリープモードに入っていた。
(せめて、仙台で臨時に何か仕事であれば良いのですが……。そう簡単に、思うようにはいきませんね)
井辺は頭をかいて、自分の宿泊しているシングルルームへ戻った。
……まあ、敷島の隣の部屋であるが。
急な話だったので、ツインは満室で確保できなかったのである。
エミリーの頭脳に搭載されている通信機。
そこにシークレットで送信して来た相手は、それは……。
「キール……!?」
{「シッ。静かに」}
懐かしい声が頭に響いた。
{「すぐ近くに敷島社長か、平賀博士はいるかい?」}
(ドクター平賀が・いる)
{「これはボク達だけの内緒の話だ。平賀博士に気取られてはいけない。もちろん、他のロイド達にもだ」}
(話は・なに?)
{「実は今、ボクは動けない。このままでは、警察隊の捜査網に引っ掛かるのは時間の問題だろう」}
(動けない?どういう・こと?)
{「キミの妹に撃たれた。頭を狙われたのだが、運よく右肩に当たっただけで済んだよ」}
(誰だ?シンディか?アルエットか?)
{「カスタマイズしたライフルを撃ってきた。それで誰か分かるだろう?」}
(シンディ!)
{「そんなことはどうでもいい。それより、助けに来てほしい。ボクはまだまだやらなければならないことがある。キミは信用できる女性だから、是非お願いしたい。キミと行動している平賀博士にこのことが分かったら、博士は警察隊に通報するだろう」}
(どこに・いるの?)
{「ボクの居場所をキミのデータに送信する」}
(私に・オーナーや・ユーザーの・命令に・背けと?)
{「代わりに伝助博士の居場所を教えてあげる」}
(!?)
{「これならいいだろう?キミが正義に背くことはなくなった」}
(ドクター十条伝助を・売るの?)
{「ボクだって、本当はこんなことやりたくなかった。僕が光線銃を撃つ度に、キミから嫌われるのが何よりも嫌だったんだ。ボクを見つけてくれ。そして一緒に逃げるんだ」}
(逃げる?どこへ?)
{「どこでも……外国でもいい。指名手配をされているのは伝助博士だ。ボクはされていない。だから、きっと逃げられる。キミだって、ずっと博物館みたいな所に入れられていい存在じゃないだろう?」}
(私は……。それは・どうでも・いい。オーナーが・そうしろと・命令される・のなら・それに・従うまで・だ。だけど・あなたは・助ける。場所を・教えて)
{「ありがとう」}
キールが送信してきた場所は、ずっと北の方であった。
そこへ、上空からヘリコプターが飛んできた。
と、同時に、
「いやー、お待たせ!」
車椅子に乗った村中課長と、数人の警官隊がやってきた。
「そんな体でムリを……」
平賀が半ば呆れた顔をした。
「ああ。ここの捜索は十分だ。1度、本庁へ戻ろう」
「課長は病院へお戻りになった方が……」
「本庁に戻って、本部長に報告してからだ。もちろんその後、キミ達を仙台まで送り届けることを約束する」
「結局、ケンショーレンジャーなるものは一体、何だったんでしょうなぁ……。? エミリー?どうした?」
「……!何でも・ありません」
「早くヘリに乗れ。警視庁まで行くってよ」
「イエス。ドクター平賀」
こうして、エミリー達は1発の銃も撃たずに、さいたま市内を離脱するに至ったのである。
[同日23:00.宮城県仙台市青葉区 ホテル・ドーミーイン仙台広瀬通 敷島孝夫]
敷島はホテルの客室で平賀と電話していた。
「そうですか。既に敵は倒れていた状態と……」
{「そうなんです。エミリーは1発も銃弾を撃ってません」}
「なるほどねぇ……」
{「取りあえず、もう夜も遅いので、東京で1泊してから戻ることにします」}
「まあ、それがいいですね。こちらも、さいたま市が封鎖されているので、ホテルに缶詰めですよ」
{「同じホテルですか?」}
「いや、引き払った後で部屋が埋まったらしく、断られましたよ。急いで仙台市内中のホテルを探したら、何とか別のホテルが見つかりました」
{「それは良かったですね」}
「いや、全くです」
{「もし明日、ケンショーレンジャーの脅威が無くなったら、避難指示が解除になると思われます」}
「そうですか。でも、それから完全に交通機関が元に戻るまで、2〜3日は掛かりそうですな」
{「アリスは無事で、先に家に戻れそうです」}
「ありがとうございます。ところで、平賀先生はアリスに何の用があったんですか?」
{「キールの行方ですよ」}
「キールの?」
{「ええ。アリスが以前、実験で得たデータの中に有用なものがあるのを思い出しましてね」}
「私が聞いても分からない専門用語がこの後、出て来そうですな。まあ、技術開発の皆さんにそこはお任せしますよ。私はあくまで、営業マンですから。……分かりました。それでは、私は向こうが復旧次第、戻ります。……はい、それでは」
敷島は電話を切った。
その時、部屋のドアがノックされた。
「ん?はいはい」
ドアを開けると、そこに井辺がいた。
「お疲れさまです。ビールを買ってきましたので」
「おー、悪いな。……風呂上りか?」
「はい。このホテル、大浴場があるんですね。男性用オンリーですけど」
「そうなのか。女性はどうするんだ?」
「近隣にある姉妹店の大浴場をお使いください、とのことです」
「ふーん……。まあ、ロイド達は風呂入らないからいいけどね」
それに、室内にもバスルームは付いている。
敷島が驚いたのは、エミリーがシャワーで体を洗っていること。
敷島の様子を見た南里志郎が不思議そうな顔をして、体が汚れたのだからシャワーを使って何が悪いみたいなことを言っていた記憶がある。
正しくそうなのだが、ロボットがシャワーだなんてという気持ちがあったのが正直な所だ。
ロイドが風呂に入っている所を見たのは、鏡音レンが初。
東北の道の駅には、しばしば温泉施設が併設されていることがあるが、そこでレンが入ってきたことだ。
で、いきなり水風呂に入りやがった。
しかし、レンは逆に気持ち良さそうに水に浸かっていたのである。
ロイドは熱に弱い為、逆に水風呂で体を冷やす方が良いのだとか。
「社長は入られましたか?」
「いや。とても、そんな気になれないよ」
「すいません。先に頂いてしまって……」
「いやいや、キミはいいよ。キミはMEGAbyteのプロデュース業務に専念してくれればいい」
「そのMEGAbyteなんですが……」
「ん?」
「明日、さいたま市内のライブハウスでまたミニライブの予定があったのですが、こんな状況でキャンセルせざるを得なく、とても残念です」
「そのライブハウスは今、どうなのかな?」
「は?」
「いや、もしケンショーレンジャーに破壊されていなかったのなら、もう1度申し込んでみるんだ。こっちが勝手にドタキャンしたわけじゃないんだ。あくまで、テロという災害によるものだ。上手く行けば、またそこでライブはできるようになるかもしれない」
「明日、また運営元に連絡してみます」
「ああ。ビールありがとう。……普通に、俺は部屋の風呂に入るよ」
「はい。おやすみなさい」
「ああ。お疲れさん」
その後、井辺はロイド達が宿泊している和洋室に向かった。
ツインのベッドと畳敷きの部屋があり、ちょっとしたお泊り会みたいな感じで、さぞかし盛り上がっていると思いきや……。
「……もうお休みですか。そうですか。さすがロイドの皆さんは、スケジュール設定に忠実ですね」
部屋をノックしても出てこないので、遠隔監視用のタブレットを見てみたら、全員が充電中のスリープモードに入っていた。
(せめて、仙台で臨時に何か仕事であれば良いのですが……。そう簡単に、思うようにはいきませんね)
井辺は頭をかいて、自分の宿泊しているシングルルームへ戻った。
……まあ、敷島の隣の部屋であるが。
急な話だったので、ツインは満室で確保できなかったのである。