報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

"新アンドロイドマスター" 「豪雨の中を進む」

2015-09-26 22:03:24 | アンドロイドマスターシリーズ
[9月10日11:15.天候:雨 JR北与野駅 敷島孝夫、アリス・シキシマ、3号機のシンディ]

 北関東は豪雨で大変なことになっているらしい。
 だが、埼玉は霧雨程度であった。
 エミリーが注意を無視して、敵対者と逢引したことは重大なことである。
 敷島達は急きょ、仙台に向かうことにした。
 シンディは連れて行くか迷ったが、
「妹として責任取らせて。約束通り、あの姉貴をブッ飛ばしてやるから!」
 と主張したので、どうしても連れて行かざるを得なかった。

〔まもなく1番線に、各駅停車、新宿行きが参ります。危ないですから、黄色い線までお下がりください〕

 背後を新幹線が通過して行く。
 今のところ新幹線は動いているが、既に在来線には運休が発生している。
 このままでは新幹線も危ういと思ったので、別ルートで行くことにした。
 幸い元々が閑散期で、こんな豪雨(今の埼玉は霧雨だが)の中、旅行に行く者も少ないのか、簡単に予約できた。

 りんかい線の電車が入線してくる。
 先頭車はガラガラだった。

〔北与野、北与野。ご乗車、ありがとうございます〕

 因みにこの時点で、5分の遅れ。
 既に、嫌な予感が立ち込めている。

〔1番線、ドアが閉まります。ご注意ください〕

 電車はすぐにドアを閉めて発車した。
 敷島とアリスは着席するが、シンディは荷物を手に立っている。

〔「次は与野本町、与野本町です」〕

 ポロロロン♪とドアの上からチャイムが流れて来ると、右から左にLED表示の運行情報が流れて来る。
 JRもそうだが、北関東を走る東武線もズタズタらしい。
 本来は敷島達も雨をやり過ごしてから行きたかったのだが、(ある程度想定していたとはいえ本当に)エミリーが命令を違反して男を選んだことは重大な裏切り行為であり、敷島達も彼女から直接事情を聞きたいという気持ちが強かった。
 ……というのは正直でありながら実は表向きの理由である。
 実際は、
「シンディ。落ち着け。バッテリーとラジエーターが勿体ない」
 放っておくと、今度はシンディが暴走しかねなかったからだ。
「2〜3発張り倒すのはいいけど、壊すなよ?絶対だぞ?」
「……分かってるよ」
 シンディは小さく頷いた。
 アリスは苦笑にも微笑とも取れる顔で、
「シンディ。あれでもエミリーは大事な研究対象でもあるんだから、姉妹ゲンカで壊されたら困るのよ?」
「……分かっております」
 敷島は小声でアリスに、
「どうする?こりゃ2〜3発ブン殴るだけで、機嫌が収まりそうな感じじゃないぞ?」
 アリスも小声で、
「いざとなったら、緊急シャットダウンするわよ」
 と、答えた。

[同日11:55.JR新宿駅 上記メンバー]

 電車は基本的に4〜5分遅れのまま新宿駅に到着した。
 ここでも湘南新宿ラインのダイヤが豪雨でメチャクチャになっており、東海道本線や横須賀線との相互直通運転が中止との放送が流れていた。
「財団の元事務所に寄って行くの?」
「いや、いいよ。このまま、バスターミナルまで行こう」
 敷島達は高速バスを予約していた。
 バスなら迂回運行するなどして、何とか運行すると考えたからだ。
 豪雨の酷い所が終点だったり、どうしてもそこを通らざるを得ないような路線は運休のようだが、仙台行きが運休との情報は無かった。
 新宿駅の新南口を出て、代々木方面に向かう。
 そこのJRバスターミナルは、確かに新宿駅よりも代々木駅の方が近い。
 しかし、代々木駅の東口はバリアフリー化されておらず、未だに階段しか無い為、大きな荷物があったりする場合、少し歩いてでもエスカレーターが完備されている新宿駅側からアクセスした方が良い。
 屋根の無い所は傘を差すが、そこでも霧雨であった。
 とても、北関東などで集中豪雨で被害が出ているとは信じ難い。
「途中で昼飯食って行こう。シンディは待っててくれ。くれぐれも、勝手に行くなよ?」
「いい子にして待ってるのよ、シンディ?」
「かしこまりました」
 それには淡々と答えて頷くシンディだった。

[同日同時刻 天候:雨 宮城県仙台市青葉区・東北工科大学・南里志郎記念館 平賀太一&1号機のエミリー]

 エミリーは記念館の地下研究室に監禁されていた。
 シャットダウンはされていない。
 薄暗い監禁室の片隅に体育座りして、顔を足と足の間に埋めていた。
(鏡音レンと・逆に・なってしまった……)
 かつてレンが暴走して、敷島に襲い掛かったことがある。
 財団ではレンに処分を下すかどうか協議の為、財団事務所にあった監禁室に閉じ込めていたことがあった。
 あの時はエミリーが気に掛けて、よく面会に行ったものだが、今はそんなことはない。
 ここは遠く離れた仙台だ。
 それに、レンは不可抗力的なウィルス感染が原因だが、エミリーのしたことは意図的な命令違反である。
 どちらが罪が重いかは明白だ。
 エミリーもそれは十分に分かっていることであり、どうせならこのまま舌を噛み千切って自爆したいくらいであった(舌を噛み切ると、ロイドの体内に仕掛けられている自爆装置が起動する)。
 だが平賀に取っては想定内なのか、エミリーには特殊なギャグボールが装着されていた。
 これで舌が噛めないようになっている。
(どうせ・なら……シンディの・手で……。いや……却って・シンディが・可哀想……か……)
 シンディがこちらに向かって来ることは、平賀から聞いていた。
 どの面下げて、敷島達や妹機に合わせれば良いのだろうと思った。
 間違い無く、シンディは烈火の如く、鬼のような形相でエミリーに殴り掛かってくるだろう。
 妹との約束を破ってしまったのだから、しょうがない。
(ごめん……シンディ……。私……やっぱり・役立たず……)
「おい、エミリー」
 監禁室の小窓から、平賀の声がした。
 エミリーは顔を上げたが、ギャグボールを装着されているせいで、喋れない。
 仕方が無いので、スピーカーによる音声に切り替えようかと思ったが、
「いや、喋る必要は無い。ただ、聞いてくれるだけでいい。実はお前も既に何度も警報を受信していると思うが、折からの天候悪化で、もしかしたら敷島さん達の到着が遅れるかもしれないんだ。到着時間の如何によっては、今日中に会えないかもしれない。それだけを伝えに来た」
「…………」
「敷島さん達の意向もあるから、別にお前を処分したりはしないよ。ただ、敷島さん達の尋問には協力するように。分かったか?」
 エミリーは大きく頷いた。
「分かったら、敷島さん達が到着するまで、しばらくここにいてくれ」
 そう言って、平賀は監禁室の前をあとにした。
(敷島さんも甘いなぁ……。まあ、自分も南里先生の形見を処分したくはないが……)
 記念館の地上1階に出ると、外の雨足の強さに一抹の不安を感じたのだった。
 それは逆に、その間はキールの襲撃は無いということでもあるのだが……。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする