報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
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 実際のものとは異なります。

“戦う社長の物語” 「敷島エージェンシーの仕事始め」 2

2018-02-03 20:17:52 | アンドロイドマスターシリーズ
[1月4日07:30.天候:晴 東京都江東区豊洲 タクシー車内→豊洲アルカディアビル]

 

 敷島とシンディを乗せたタクシーが、敷島エージェンシーの入居するビルへ接近する。
 するとシンディ、自らのボディに搭載された通話機能でどこかに電話する。
 別に何も着けなくてもいいのだが、それだとまるで独り言を言っているかのように見えてしまう為、わざわざインカムを着けて喋る。

 シンディ:「おはようございます。こちら18階に入居しております敷島エージェンシーの者で、シンディと申します。……はい。まもなく敷島社長がお乗りのタクシーが到着致しますので、よろしくお願いします。……はい。会社名は日の丸リムジン、車番は6296、黒のホンダ・オデッセイです。あと5分ほどで到着の見込みです。……はい。よろしくお願い致します。失礼します」

 シンディ、そこで電話を切る。
 果たしてシンディはどこに電話したのだろうか。
 しかしながら、これが敷島の到着時に毎朝行われている光景なのである。

 運転手:「地下駐車場へお入りですか?」
 シンディ:「はい、お願いします。連絡はしておきましたので、駐車料金は掛かりません」
 運転手:「分かりました」

 アルカディアビル(架空のビル)は地下駐車場を有している。
 月極の駐車場から一般の時間貸し駐車場から荷捌き場もあり、入居する企業の役員車・ハイヤーの車寄せも同じ入口にある。
 ハイヤーや役員車で通勤する者はビルの管理会社に登録しておけばパスが支給され、駐車場の料金所ではそのパスを機械に通すだけで無料で行き来できる。
 月極駐車場の契約者もそこは同じである。
 ところがタクシーで来館しようとすると、予めビルの駐車場警備室に連絡を入れておかないと駐車料金が課金されるどころか、そもそも車寄せに進入できないのである。
 その為、タクシーで来館する者は1階のエントランス前で乗り降りするのがデフォとなっている。
 しかしながらビルの正面エントランスの開放時間は平日の朝8時からとなっており、敷島の通勤時間ではまだ入れない。
 尚、地下駐車場は24時間営業であり、車寄せも朝7時から開いている(単なる駐車場利用者の人の出入口は別にある)。
 その為、シンディが予め連絡したのだった。
 普段は第一秘書のエミリーが行っているが、シンディもそこは知っているし、人間と違って忘れることもない。

 駐車場の出入口に着くと、運転手は駐車券を取った。
 駐車券発券機の横に、パスの読取機が設置されている。
 タクシーが急坂を下り、地下2階の役員用車寄せに到着した。
 コートを着た警備員が立哨していて、何も登録や連絡の無い車はそこで根掘り葉掘り事情を聞かれ、場合によっては追い出される。

 運転手:「こちらでよろしいですか?」
 シンディ:「はい、お願いします。支払いはチケットで」
 運転手:「かしこまりました」

 シンディはタクシーチケットに料金を書き込んだ。

 警備員:「おはようございます」
 敷島:「おはよう。ご苦労様」
 シンディ:「おはようございます」

 敷島達は木目調のシックな壁や間接照明、ベージュ色のカーペットが敷かれた役員エリアに足を踏み入れた。
 この後で車寄せに立哨していた警備員は、運転手が入口で取った駐車券に無料スタンプを押してあげるのである。
 それで晴れてこのタクシーは、無料で駐車場から出られるというわけである。

 エレベーターに乗り込む。
 ドアが閉まって上昇してから、シンディが口を開いた。

 シンディ:「私や姉さんは特にあんな労は惜しみませんけど、ここの警備員さん達に余計な仕事をさせてしまってますわ。こういうこともあるので、ハイヤーにした方がよろしいと思います」
 敷島:「何か俺もそんな気がしてきた。やっぱ、来月からにしておくか」
 シンディ:「そうしてください」

 エミリーやシンディの電話を取る為に、受付を早めに開けておかなくてはならないという点と、敷島達のタクシーを出迎える為に車寄せの外で待たなくてはならないという点である。
 朝7時から開いているというのは、緊急の為に自動ドアだけ動かしておくという意味で、受付自体を開けているというわけではない。
 そりゃそうだ。
 重役出勤という言葉があるように、本来の役員は一般社員よりも遅めに出勤してくるものである。
 そもそもが敷島、役員のくせに出勤時間が早過ぎるのである。
 それでも予め登録されたハイヤーであれば、わざわざ車寄せの外に出て行く必要も無い(到着したタクシーが本当に連絡のあった物なのか確認しないといけない)為、まだ泊まり勤務の警備員は楽でいいのである。
 敷島の何気ない行動が実は、下々の者に余計な労力を掛けさせてしまっているのである。

 エレベーターが18階に到着する。

 敷島:「どーれ、ボーカロイド達は元気かな」
 シンディ:「年末年始の間はずっと電源を落としていましたからね。バッテリーがちょっと心配ですわ」
 敷島:「幸い今日は、まだ皆してそんな大きな仕事は無い。いざとなったら、バッテリー交換だけで今日1日終わらせてもいいな」

 シンディが共用のエレベーターホールから敷島エージェンシーに入るエントランスの電気錠を開けようとした。

 シンディ:「あら?もう空いてるわ」
 敷島:「俺が1番だと思っていたのに、もう誰か来てるのか」

 シンディは電気錠の出入管理データにアクセスし、今日の出入りの履歴を見た。

 シンディ:「井辺プロデューサーです。井辺プロデューサーが既に7時に出勤されてますわ」
 敷島:「なにっ?」

 敷島達は会社の中に入った。

 井辺:「社長、シンディさん。明けまして、おめでとうございます。今年もよろしくお願い致します」
 敷島:「あ、ああ。こちらこそ、どうぞよろしく」
 シンディ:「よろしくお願いします」
 敷島:「随分と早いね?何かあった?」
 井辺:「私の担当するMEGAbyteの3人の様子を見る為です。早めに動作チェックをしておこうと思いまして」
 敷島:「なるほど、そうか」
 井辺:「何しろ昨年は、結月ゆかりさんとLilyさんのバッテリーが上がっていましたから。幸いあの日は、何も仕事が無かったから良かったようなものの……」
 敷島:「あいつら、どこのメーカーだ?」
 井辺:「後で確認しておきます」
 敷島:「そう聞くとミク達が心配になってきた。あいつらも早いとこ起動させよう」

 敷島は社長室に入ると、更にその隣にある小部屋に入った。
 そこがボーカロイド達を遠隔監視する端末室になっているのである。
 ボーカロイドの管理権は敷島にあるということが分かる一面だ。
 ここにある端末が親機であり、それぞれのマネージャーが持つ端末が子機ということになる。
 敷島は端末を操作して、MEGAbyteの3人を除く残りのボーカロイド達を起動した。
 尚、MEGAbyteに関しては敷島が持っている方が子機、井辺の持っている方が親機である。

 敷島:「ぅあちゃー。MEIKOのバッテリーが切れ掛かってる。充電ケーブル外れてたな」
 シンディ:「予備バッテリーの方がまだ残量が多いです。そちらと交換しますか?」
 敷島:「MEIKOの今日の予定は?」
 シンディ:「午前中はオフ。午後は14時から都内でラジオの収録、あとは18時から都内のホテルでディナーショーです」
 敷島:「だったらメインバッテリーのまま、そいつをフル充電だ。電力をMEIKOに回してやれ」
 シンディ:「かしこまりました。……あと、リンのバッテリーも残量少なめです」
 敷島:「あいつ絶対、勝手に起動して社内で遊んでたな。むしろリンのメインバッテリーの方を外してやれ」
 シンディ:「かしこまりました」

 普通のアイドル事務所には無い光景。
 毎年行われている敷島エージェンシーの仕事始めである。
コメント
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