報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“私立探偵 愛原学” 「仕事の依頼」

2019-07-14 20:49:59 | 私立探偵 愛原学シリーズ
[7月10日09:00.天候:曇 東京都墨田区菊川 愛原学探偵事務所]

 愛原:「ここ最近ずっと曇や雨のせいか涼しいな」

 私はそう呟きながら事務所の窓を開けた。
 確かにそんなに暑くはないものの、ムワッとした湿気が事務所の中に入って来る。

 高野:「先生。不快指数が上がりますので、エアコン使って下さいな」
 愛原:「あ、はい」

 私は窓を閉めてエアコンのスイッチを入れた。
 まあ、確かにこちらの方が涼しくて良い。
 電気代は掛かるが。

 愛原:「それよりどうする?この仕事、引き受けるか?」
 高橋:「俺は先生のご判断に従います」
 高野:「私としては仕事を受けて下さった方が事務所の財政が良くなって助かるんですけども」
 愛原:「分かった分かった」

 怪しい仕事であっても引き受けなければならないところが、零細事務所の弱い所だ。

 高橋:「結局、どういう仕事なんですか?」
 愛原:「工事中のトンネルを調べて欲しいんだと」
 高橋:「トンネル!?」
 愛原:「そう。何か出るらしい」
 高橋:「それ、メチャクチャホラーっすよ!?マジで言ってんスか!?」
 愛原:「それがマジなんだな。怖いか?」
 高橋:「先生、何言ってんスか?俺らはあの地獄の霧生市から生還したんスよ?今更幽霊くらい怖くないっスよ」
 愛原:「それは頼もしい。それじゃ、引き受けるという返事をボスにするからな」

 私はファックスに仕事を引き受ける旨の文章を書いて、探偵協会に返信した。
 返信先がそこなのだから、ボスはやはり探偵協会の人なんだろうか。

 高野:「それじゃ今日の予定ですが、特にありません」
 愛原:「マジかよ。浮気調査と身辺調査とかでも来てないの?」
 高野:「それくらいうちでなくても、他の事務所に依頼が行ってしまうんですね」
 愛原:「全く。リサの面倒を看るという契約が無かったら、とっくにうちは潰れてるな」
 高野:「いや、全くですよ」

 そこへ事務所に電話が掛かって来た。

 愛原:「ああ、いいよ。俺が出る」

 私は電話に出た。

 愛原:「はい、愛原学探偵事務所です」
 依頼人:「あ、あの、所長さんですか?」
 愛原:「はい。所長の愛原と申します」
 依頼人:「あの、私、トンネル工事会社の現場責任者の者ですが……」
 愛原:「ああ、クライアントの方ですね。当事務所を御指名頂き、ありがとうございます」
 依頼人:「変な依頼で申し訳ないんですが、お引き受け下さるということで、よろしくお願いします」
 愛原:「いえ、とんでもない。こちらこそ、よろしくお願いします。御依頼の詳しい内容や契約のことについてお話させて頂きたいんですけれども、そちら様の御都合は如何でしょうか?」
 依頼人:「昼間の作業が終わった後でしたら、いつでも結構です」
 愛原:「了解しました。それでは早速今日、お話を伺いましょう」
 依頼人:「もう引き受けて下さるんですか?」
 愛原:「ええ。こちらはヒマでしょうがない……もとい、予定が空いておりますので」
 依頼人:「そうですか。それじゃ、すぐ本社に言って、本社の人間にそちらの事務所に行くよう伝えておきます」
 愛原:「ありがとうございます。……それでは、よろしくお願いします」

 私は電話を切った。

 愛原:「どうやら協会からクライアントの所に電話が行ったらしい。喜んで電話掛けて来たよ」
 高野:「よっぽどお困りのようですね」
 高橋:「先生、思いっ切り足元見れますよ、それ」
 愛原:「こら、高橋」

 とはいえ、相手は大手ゼネコン。
 高額の依頼料は期待できそうである。

[同日13:00.天候:雨 同事務所]

 午後からついに雨が降ってきた。

 高橋:「先生、ついに雨降って来ましたよ」
 愛原:「そうか。洗濯物は大丈夫か?」
 高橋:「俺はいつも休みの日にやってますから。夜やる時は乾燥機使ってますんで」
 愛原:「それもそうだな」

 リサも最近は高橋の家事を手伝うようになってきた。
 1番最初にやり始めたのが洗濯。
 段々と自分の服や下着を洗ってもらうことに抵抗を感じるようになってきたのだろうか。
 自分の部屋も自分で掃除するようになってきた。
 学校で誰かに言われたのか、はたまた本当に自主性でやっているのかそれは分からない。
 因みに服とかは同級生と一緒に出掛けたり、或いは高野君の買い物に付き合ったりしている時に買っているようだ。
 小遣いは善場氏が所属する部署から出ている。
 その時、事務所の外にあるエレベーターが到着する音がした。
 幸いエレベーターはチャイムが鳴ったり、音声ガイド付きなので、事務所が静かだとすぐに分かる。

 高野:「どうやら大手ゼネコンの担当者が来られたみたいですね」
 愛原:「どれ、ちゃんと話を進めなきゃな。高橋、失礼の無いようにしろよ?」
 高橋:「はい!」

 私は高橋にスーツを着させたのだが、どう見ても裏稼業の人のようになってしまう。
 明るくさせようとするとホストになり、シックに決めさせようとすると、どこかの組の人のように見えてしまう。
 やはり、10代の時に矯正施設や更生施設に入り浸っていた人間は違うな。

[同日15:00.天候:雨 同事務所]

 約2時間の話を終えて、大手ゼネコンの担当者達が帰って行った。

 愛原:「おいおい、場所があの霧生市の近くかよ……。何かヤバくね?」
 高橋:「確かにあそこなら、化け物が出てもおかしくはないでしょうねぇ……」
 高野:「でも、霧生市は今でも自衛隊が直に閉鎖と警備に当たっているわけでしょう?化け物が町から出ようとすると、すぐに射殺されると思いますけど」

 そこが福島第一原発と違う所である。
 霧生市は未だに化け物が跋扈している町だというイメージが付いてしまっている。
 それは私達が政府関係者と一緒に荒廃した市内を探索している時、自衛隊や在日米軍の掃討作戦から逃れたゾンビが未だに生き残っていたことが世間を震撼させた。
 もっとも、『歩く死体』が『まだ生き残っている』という日本語もおかしいとは思うが。

 愛原:「ま、行ってみないと分からないさ」

 本当は今夜にでも行ってみたいところだが、場所が場所なだけに周到な準備をしておく必要がある。
 これは本当にリサの出番かもしれない。
 だから私達が行動するのは、今週末ということにさせて頂くことにした。
 金曜日の夜ならリサもとっくに学校から帰って来てるし、『強力な武器』も揃えられると思ったからだ。

 愛原:「そういうわけだ。高橋、準備の方よろしくな?」
 高橋:「はい!任せてください!」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする