[5月20日23:45.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]
稲生家の玄関前に1台のタクシーが停車した。
種別表示は『定額』となっている。
明らかに空港定額タクシーであった。
大抵、空港までタクシーの需要がある地域のタクシー会社ではどこでもやっているサービスだ。
その為、タクシー会社の公式サイトを見れば大抵載っている。
マリア:「タクシーが来たようです」
マリアは外にいたメイド人形からの知らせを聞いて報告した。
稲生勇太:「父さんが通勤に使っているハイヤーの所の会社か」
稲生宗一郎:「そういうことだ。本当はタクシーではなく、ハイヤーを手配して差し上げたかったんだが、さすがに直前の申し込みはダメだったようだ」
空港定額タクシーも事前予約制である為、これまたタイミングが悪い(直前過ぎる)と断られることがあるという。
しかし今回はOKだったようだ。
地元のタクシー会社を利用するし、そもそも宗一郎がそこのタクシー会社(日本交通?飛鳥交通?)のハイヤーを利用しているので融通が利いたのかも。
稲生:「先生、タクシーが到着しましたよ」
イリーナ:「了解。ベイカーさん、準備はOK?」
ベイカー:「私はいいんだけどねぇ……」
マリア:「ルーシー。ほら、ベイカー先生をお待たせしてるから早く!」
ルーシーは思いっ切り後ろ髪を引かれる思いで、客間から出て来た。
稲生:「ルーシー、帰りたくないのは分かるけど、先生がお帰りになるんだから」
ルーシー:「分かってるわよ……」
玄関に行って、そこに置いていた自分のキャリーバッグを取った。
因みに稲生家で休憩中、ベイカー組は稲生家の風呂を借りている。
夜中の1時55分に羽田空港を離陸し、現地のロンドンヒースロー空港には朝7時前に到着するダイヤだ。
文字通りの夜行便と言えるが、もちろん日本とイギリスとでは時差が大きいので、実際の所要時間は【ハーイ!ナビタイム!】。
宗一郎:「もし宜しかったら!」
宗一郎はベイカーに贈答品を渡した。
ベイカー:「あらまぁ、却って気を使って頂いちゃって……」
イリーナ:「うちの新弟子の御両親は、私達の活動に理解力のある方々なんですよ」
勇太:(というより、強大な力を持ったこの先生方に媚びているだけだと思うけど……)
マリア:(あの包装紙からして、中身は『温泉の素』か……)
イリーナとマリアが日本の温泉を気に入ったことを知った宗一郎が、贈答用の『温泉の素』を用意しているという話を勇太がしていたのを思い出したマリアだった。
イリーナはともかく、マリアの場合は体の傷痕を治す為の湯治の意味合いが大きいのだが。
そして今回、ルーシーも結果的にはである。
ベイカー:「ルーシー、あなたのバッグの中に入れといて」
ルーシー:「はい」
玄関の外に出ると、手を前に組んで立っていた運転手が恭しく助手席後ろのドアを開けた。
タクシーに使われているごく普通のクラウンセダンだが、コンフォートと違い、シートはグレーのモケットである。
そして、トランクを開けた。
運転手:「お荷物、お預かりします」
運転手はルーシーの白いキャリーバッグを持ち上げると、それをトランクの中に入れた。
イリーナ:「それじゃルーシー、ベイカー先生の言う事をよく聞いて頑張るのよ」
ルーシー:「はい。色々と……ありがとうございました」
マリア:「また来なよ。永住は無理かもしれないけど……。観光ビザなら、いつでも来れるからさ」
ルーシー:「先生の許可が無いと、国外へは出れないのよ」
マリアが日本への永住権を取ったのは、イリーナからの無言の圧でもある。
つまり、“魔の者”の脅威が無くなるまで、マリアは逆に帰国できないとうことだ。
マリア:「それもそうだな……」
ベイカーは運転席の後ろに座り、ルーシーは助手席の後ろに座った。
ドアが閉められる。
ルーシーはパワーウィンドウを開けた。
稲生:「気をつけて。また来てくださいよ」
マリア:「一番の理想は、ルーシーが代わりに“魔の者”を倒してくれるとすっごくラクなんだけど」
ルーシー:「後ろのベルフェゴールの代弁をするんじゃない」
キリスト教の七つの大罪の悪魔達ですら、“魔の者”のことは知らない。
別次元の悪魔であろう、ということだけ。
別次元、それは別の宗教ということでもある。
最後に握手を交わすと、タクシーは走り去って行った。
方向的に首都高速さいたま新都心線の新都心西入口に向かったものと思われる。
首都高に入ってしまえば、よほどのことが無い限り、ほぼ羽田空港までそれで行ける。
空港定額タクシーは通常のメーター料金が定額というだけで、高速代は別料金らしい。
だからメーターは回さない。
種別表示の『定額』とは、空港定額タクシーとして走行中という意味だ。
イリーナ:「それじゃ見送りもしたし、私達もそろそろ寝ようかねぃ……」
稲生:「そうですね」
イリーナ組は稲生家に入って行った。
稲生:「先生、ベイカー先生とルーシーは帰りの飛行機はビジネスクラスですか?」
イリーナ:「そういうことになるだろうね」
弟子が師匠と同じ席に座れるのは、『師匠による引率』或いは『師匠の付き人』として乗る時。
イリーナ:「ああ、稲生君。私達の帰りの足も確保してくれた?」
勇太:「ええ。まさか、先生も御一緒に帰られるとは……」
イリーナ:「何とか仕事が一段落したからね。帰りは私に『付いて』くれればいいよ」
勇太:「分かりました」
イリーナ:「悪いね。手数取らせちゃって」
勇太:「いえ。僕としては高速バスをキャンセルして、代わりに新幹線を手配すればいいだけなので……」
イリーナ:「そうかい。私達も明日……ああ、そろそろ日付変わるね。明日には帰るから、よろしく」
勇太:「はい」
マリア:「了解しました」
イリーナ:「それまでは自由時間よ」
イリーナは目を細めて言った。
この直弟子達はもちろん、同門の他の組の者でさえも、イリーナが目を細めているうちは大丈夫という認識が伝わっている。
稲生家の玄関前に1台のタクシーが停車した。
種別表示は『定額』となっている。
明らかに空港定額タクシーであった。
大抵、空港までタクシーの需要がある地域のタクシー会社ではどこでもやっているサービスだ。
その為、タクシー会社の公式サイトを見れば大抵載っている。
マリア:「タクシーが来たようです」
マリアは外にいたメイド人形からの知らせを聞いて報告した。
稲生勇太:「父さんが通勤に使っているハイヤーの所の会社か」
稲生宗一郎:「そういうことだ。本当はタクシーではなく、ハイヤーを手配して差し上げたかったんだが、さすがに直前の申し込みはダメだったようだ」
空港定額タクシーも事前予約制である為、これまたタイミングが悪い(直前過ぎる)と断られることがあるという。
しかし今回はOKだったようだ。
地元のタクシー会社を利用するし、そもそも宗一郎がそこのタクシー会社(日本交通?飛鳥交通?)のハイヤーを利用しているので融通が利いたのかも。
稲生:「先生、タクシーが到着しましたよ」
イリーナ:「了解。ベイカーさん、準備はOK?」
ベイカー:「私はいいんだけどねぇ……」
マリア:「ルーシー。ほら、ベイカー先生をお待たせしてるから早く!」
ルーシーは思いっ切り後ろ髪を引かれる思いで、客間から出て来た。
稲生:「ルーシー、帰りたくないのは分かるけど、先生がお帰りになるんだから」
ルーシー:「分かってるわよ……」
玄関に行って、そこに置いていた自分のキャリーバッグを取った。
因みに稲生家で休憩中、ベイカー組は稲生家の風呂を借りている。
夜中の1時55分に羽田空港を離陸し、現地のロンドンヒースロー空港には朝7時前に到着するダイヤだ。
文字通りの夜行便と言えるが、もちろん日本とイギリスとでは時差が大きいので、実際の所要時間は【ハーイ!ナビタイム!】。
宗一郎:「もし宜しかったら!」
宗一郎はベイカーに贈答品を渡した。
ベイカー:「あらまぁ、却って気を使って頂いちゃって……」
イリーナ:「うちの新弟子の御両親は、私達の活動に理解力のある方々なんですよ」
勇太:(というより、強大な力を持ったこの先生方に媚びているだけだと思うけど……)
マリア:(あの包装紙からして、中身は『温泉の素』か……)
イリーナとマリアが日本の温泉を気に入ったことを知った宗一郎が、贈答用の『温泉の素』を用意しているという話を勇太がしていたのを思い出したマリアだった。
イリーナはともかく、マリアの場合は体の傷痕を治す為の湯治の意味合いが大きいのだが。
そして今回、ルーシーも結果的にはである。
ベイカー:「ルーシー、あなたのバッグの中に入れといて」
ルーシー:「はい」
玄関の外に出ると、手を前に組んで立っていた運転手が恭しく助手席後ろのドアを開けた。
タクシーに使われているごく普通のクラウンセダンだが、コンフォートと違い、シートはグレーのモケットである。
そして、トランクを開けた。
運転手:「お荷物、お預かりします」
運転手はルーシーの白いキャリーバッグを持ち上げると、それをトランクの中に入れた。
イリーナ:「それじゃルーシー、ベイカー先生の言う事をよく聞いて頑張るのよ」
ルーシー:「はい。色々と……ありがとうございました」
マリア:「また来なよ。永住は無理かもしれないけど……。観光ビザなら、いつでも来れるからさ」
ルーシー:「先生の許可が無いと、国外へは出れないのよ」
マリアが日本への永住権を取ったのは、イリーナからの無言の圧でもある。
つまり、“魔の者”の脅威が無くなるまで、マリアは逆に帰国できないとうことだ。
マリア:「それもそうだな……」
ベイカーは運転席の後ろに座り、ルーシーは助手席の後ろに座った。
ドアが閉められる。
ルーシーはパワーウィンドウを開けた。
稲生:「気をつけて。また来てくださいよ」
マリア:「一番の理想は、ルーシーが代わりに“魔の者”を倒してくれるとすっごくラクなんだけど」
ルーシー:「後ろのベルフェゴールの代弁をするんじゃない」
キリスト教の七つの大罪の悪魔達ですら、“魔の者”のことは知らない。
別次元の悪魔であろう、ということだけ。
別次元、それは別の宗教ということでもある。
最後に握手を交わすと、タクシーは走り去って行った。
方向的に首都高速さいたま新都心線の新都心西入口に向かったものと思われる。
首都高に入ってしまえば、よほどのことが無い限り、ほぼ羽田空港までそれで行ける。
空港定額タクシーは通常のメーター料金が定額というだけで、高速代は別料金らしい。
だからメーターは回さない。
種別表示の『定額』とは、空港定額タクシーとして走行中という意味だ。
イリーナ:「それじゃ見送りもしたし、私達もそろそろ寝ようかねぃ……」
稲生:「そうですね」
イリーナ組は稲生家に入って行った。
稲生:「先生、ベイカー先生とルーシーは帰りの飛行機はビジネスクラスですか?」
イリーナ:「そういうことになるだろうね」
弟子が師匠と同じ席に座れるのは、『師匠による引率』或いは『師匠の付き人』として乗る時。
イリーナ:「ああ、稲生君。私達の帰りの足も確保してくれた?」
勇太:「ええ。まさか、先生も御一緒に帰られるとは……」
イリーナ:「何とか仕事が一段落したからね。帰りは私に『付いて』くれればいいよ」
勇太:「分かりました」
イリーナ:「悪いね。手数取らせちゃって」
勇太:「いえ。僕としては高速バスをキャンセルして、代わりに新幹線を手配すればいいだけなので……」
イリーナ:「そうかい。私達も明日……ああ、そろそろ日付変わるね。明日には帰るから、よろしく」
勇太:「はい」
マリア:「了解しました」
イリーナ:「それまでは自由時間よ」
イリーナは目を細めて言った。
この直弟子達はもちろん、同門の他の組の者でさえも、イリーナが目を細めているうちは大丈夫という認識が伝わっている。