報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

“大魔道師の弟子” 「イリーナ組はまだ少し滞在」

2019-07-05 18:55:53 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月20日23:45.天候:晴 埼玉県さいたま市中央区 稲生家]

 稲生家の玄関前に1台のタクシーが停車した。
 種別表示は『定額』となっている。
 明らかに空港定額タクシーであった。
 大抵、空港までタクシーの需要がある地域のタクシー会社ではどこでもやっているサービスだ。
 その為、タクシー会社の公式サイトを見れば大抵載っている。

 マリア:「タクシーが来たようです」

 マリアは外にいたメイド人形からの知らせを聞いて報告した。

 稲生勇太:「父さんが通勤に使っているハイヤーの所の会社か」
 稲生宗一郎:「そういうことだ。本当はタクシーではなく、ハイヤーを手配して差し上げたかったんだが、さすがに直前の申し込みはダメだったようだ」

 空港定額タクシーも事前予約制である為、これまたタイミングが悪い(直前過ぎる)と断られることがあるという。
 しかし今回はOKだったようだ。
 地元のタクシー会社を利用するし、そもそも宗一郎がそこのタクシー会社(日本交通?飛鳥交通?)のハイヤーを利用しているので融通が利いたのかも。

 稲生:「先生、タクシーが到着しましたよ」
 イリーナ:「了解。ベイカーさん、準備はOK?」
 ベイカー:「私はいいんだけどねぇ……」
 マリア:「ルーシー。ほら、ベイカー先生をお待たせしてるから早く!」

 ルーシーは思いっ切り後ろ髪を引かれる思いで、客間から出て来た。

 稲生:「ルーシー、帰りたくないのは分かるけど、先生がお帰りになるんだから」
 ルーシー:「分かってるわよ……」

 玄関に行って、そこに置いていた自分のキャリーバッグを取った。
 因みに稲生家で休憩中、ベイカー組は稲生家の風呂を借りている。
 夜中の1時55分に羽田空港を離陸し、現地のロンドンヒースロー空港には朝7時前に到着するダイヤだ。
 文字通りの夜行便と言えるが、もちろん日本とイギリスとでは時差が大きいので、実際の所要時間は【ハーイ!ナビタイム!】。

 宗一郎:「もし宜しかったら!」

 宗一郎はベイカーに贈答品を渡した。

 ベイカー:「あらまぁ、却って気を使って頂いちゃって……」
 イリーナ:「うちの新弟子の御両親は、私達の活動に理解力のある方々なんですよ」
 勇太:(というより、強大な力を持ったこの先生方に媚びているだけだと思うけど……)
 マリア:(あの包装紙からして、中身は『温泉の素』か……)

 イリーナとマリアが日本の温泉を気に入ったことを知った宗一郎が、贈答用の『温泉の素』を用意しているという話を勇太がしていたのを思い出したマリアだった。
 イリーナはともかく、マリアの場合は体の傷痕を治す為の湯治の意味合いが大きいのだが。
 そして今回、ルーシーも結果的にはである。

 ベイカー:「ルーシー、あなたのバッグの中に入れといて」
 ルーシー:「はい」

 玄関の外に出ると、手を前に組んで立っていた運転手が恭しく助手席後ろのドアを開けた。
 タクシーに使われているごく普通のクラウンセダンだが、コンフォートと違い、シートはグレーのモケットである。
 そして、トランクを開けた。

 運転手:「お荷物、お預かりします」

 運転手はルーシーの白いキャリーバッグを持ち上げると、それをトランクの中に入れた。

 イリーナ:「それじゃルーシー、ベイカー先生の言う事をよく聞いて頑張るのよ」
 ルーシー:「はい。色々と……ありがとうございました」
 マリア:「また来なよ。永住は無理かもしれないけど……。観光ビザなら、いつでも来れるからさ」
 ルーシー:「先生の許可が無いと、国外へは出れないのよ」

 マリアが日本への永住権を取ったのは、イリーナからの無言の圧でもある。
 つまり、“魔の者”の脅威が無くなるまで、マリアは逆に帰国できないとうことだ。

 マリア:「それもそうだな……」

 ベイカーは運転席の後ろに座り、ルーシーは助手席の後ろに座った。
 ドアが閉められる。
 ルーシーはパワーウィンドウを開けた。

 稲生:「気をつけて。また来てくださいよ」
 マリア:「一番の理想は、ルーシーが代わりに“魔の者”を倒してくれるとすっごくラクなんだけど」
 ルーシー:「後ろのベルフェゴールの代弁をするんじゃない」

 キリスト教の七つの大罪の悪魔達ですら、“魔の者”のことは知らない。
 別次元の悪魔であろう、ということだけ。
 別次元、それは別の宗教ということでもある。

 最後に握手を交わすと、タクシーは走り去って行った。
 方向的に首都高速さいたま新都心線の新都心西入口に向かったものと思われる。
 首都高に入ってしまえば、よほどのことが無い限り、ほぼ羽田空港までそれで行ける。
 空港定額タクシーは通常のメーター料金が定額というだけで、高速代は別料金らしい。
 だからメーターは回さない。
 種別表示の『定額』とは、空港定額タクシーとして走行中という意味だ。

 イリーナ:「それじゃ見送りもしたし、私達もそろそろ寝ようかねぃ……」
 稲生:「そうですね」

 イリーナ組は稲生家に入って行った。

 稲生:「先生、ベイカー先生とルーシーは帰りの飛行機はビジネスクラスですか?」
 イリーナ:「そういうことになるだろうね」

 弟子が師匠と同じ席に座れるのは、『師匠による引率』或いは『師匠の付き人』として乗る時。

 イリーナ:「ああ、稲生君。私達の帰りの足も確保してくれた?」
 勇太:「ええ。まさか、先生も御一緒に帰られるとは……」
 イリーナ:「何とか仕事が一段落したからね。帰りは私に『付いて』くれればいいよ」
 勇太:「分かりました」
 イリーナ:「悪いね。手数取らせちゃって」
 勇太:「いえ。僕としては高速バスをキャンセルして、代わりに新幹線を手配すればいいだけなので……」
 イリーナ:「そうかい。私達も明日……ああ、そろそろ日付変わるね。明日には帰るから、よろしく」
 勇太:「はい」
 マリア:「了解しました」
 イリーナ:「それまでは自由時間よ」

 イリーナは目を細めて言った。
 この直弟子達はもちろん、同門の他の組の者でさえも、イリーナが目を細めているうちは大丈夫という認識が伝わっている。
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“大魔道師の弟子” 「大宮に到着」

2019-07-05 15:18:41 | ユタと愉快な仲間たちシリーズ
[5月20日19:46.天候:晴 福島県福島市栄町 JR福島駅・新幹線ホーム]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、福島です。山形新幹線、山形線、阿武隈急行線と福島交通飯坂線はお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。福島の次は、郡山に止まります〕

 稲生達を乗せた各駅停車の“やまびこ”は、2つ目の停車駅に近づいた。

〔「……福島の駅で通過列車の待ち合わせを致します。5分ほど停車致します。発車までしばらくお待ちください」〕

 列車が上り副線に入線する。
 通過列車は“はやぶさ”“こまち”である為、同じ編成で各駅停車のE5系とE6系を同じ編成のE5系とE6系が追い抜くわけである。

〔福島、福島です。ご乗車ありがとうざいました。……〕

 稲生:「ちょっと家に電話して来ます」
 マリア:「うん、よろしく。ルーシー、ちょっと降りてみる?」
 ルーシー:「通過するのはそっちでしょ。ホームに降りても無理よ」
 マリア:「いや、まあ、そりゃそうだけどさ……」

 ルーシーが不機嫌なのは何も動物園に行けなかったからではなく、先ほどイリーナからベイカー組の帰国が突然伝えられたからだ。
 それも翌日なのだが、翌日も翌日。
 夜中の出発になる。
 確かに羽田空港や成田空港には深夜・早朝発着の便もあるのだが、ロンドン行きにもそういうのがあるようだ。

 稲生:「あー、父さん?僕だけど……」

 デッキに移動して電話する稲生。

 稲生:「いや、『オレオレ詐欺』じゃないから!そっちの電話機に僕の番号出てるでしょ!そうじゃなくて!……タクシーを予約しておいて欲しいんだ。いや、家から羽田空港まで。夜中に出発する人達がいて……」

 稲生は経緯を父親の宗一郎に伝えた。
 その間、“はやぶさ”と“こまち”が轟音を立てて通過して行く。
 振動と風圧で、停車中の“やまびこ”が大きく揺れる。

 稲生宗一郎:「……つまり、空港定額タクシーをその時間に予約すればいいんだな?」
 稲生勇太:「そういうこと」
 宗一郎:「その間、イリーナ先生の同僚の方とお弟子さんが家で休憩したいということなんだな?」
 勇太:「そういうこと」
 宗一郎:「そういうことなら任せてくれ」
 勇太:「よろしく」

 稲生は電話を切った。

 稲生:「マリアさん、父さんにタクシー頼んでもらうようにお願いしておきました」
 マリア:「ありがとう。多分、ベイカー先生のことだから、うちの師匠みたいにカードで支払うと思う」
 稲生:「ええ。もちろん、カードの使えるタクシー会社にほぼ100%連絡すると思いますので」
 マリア:「それなら大丈夫」

〔「お待たせ致しました。19時51分発、東北新幹線“やまびこ”220号、東京行き、まもなく発車致します」〕

 発車の時間が迫る。
 外からはオリジナルの発車メロディ、“栄冠は君に輝く”が流れて来た。

 ルーシー:「帰りたくない……」
 稲生:「えっ?」
 ルーシー:「帰りたくないよ……」

 客終合図が聞こえて来て、ドアが閉まるのが分かった。
 そして、最新型のインバータの音が響いて来て発車する。

 マリア:「ルーシー。気持ちは分かるけど、ベイカー先生の方針じゃ、しょうがないだろう」
 ルーシー:「マリアンナはいいよね。“魔の者”の眷属を倒したんだから……」
 マリア:「眷属程度じゃ、何とも……。また襲って来るかもしれないのは、日本もイギリスも同じさ」

 日本でベイカー組が襲われたわけだが、ルーシーだけが生き残り、イリーナが代わりに眷属を倒したことになっている。
 しかし、イギリスに行けば“魔の者”本体が待ち構えているかもしれないのだ。

 稲生:「どうしてこう正体が分からないものなんですかね」
 マリア:「そりゃ姿を現さないからさ。“魔の者”に関しては、あの大魔王バァルでさえも正体が分からないというよ?」
 稲生:「大師匠様と同輩の老翁がねぇ……」
 マリア:「危なくなったら、日本に避難してくればいいよ。飛行機に乗ってしまえば、こっちのものだ」

 飛行機に乗ったりして、墜落させられないかと思うが、何故か今“魔の者”はそこまでしてこない。
 以前はしてきたことがあった。
 イリーナがそれに巻き込まれたものだ。
 しかし結局その手法は魔道師には通用しないと分かったのか(墜落前に瞬間移動魔法で脱出してしまえばそれまでなので)、今ではあまり飛行機を墜落させるという手法は使って来ない。
 昔ながらの手法、才能のある者の芽を早めに摘むという手を使っているようだ。

 ルーシー:「この国にいたい……」
 マリア:「別の意味で帰りたくないのか!?」
 稲生:「沈没!?」

[同日21:14.天候:晴 埼玉県さいたま市大宮区 JR大宮駅]

〔♪♪(車内チャイム)♪♪。まもなく、大宮です。上越新幹線、北陸新幹線、高崎線、京浜東北線、埼京線、川越線、東武アーバンパークラインとニューシャトルはお乗り換えです。お降りの際はお忘れ物の無いよう、お支度ください。大宮の次は、上野に止まります〕

 利根川のトラス橋を渡って埼玉県に入ると、進行方向左手にラウンドワンのボーリングのピンが見える。
 それからしばらく走ると、今度は東北自動車道と立体交差する。
 オレンジ色の街灯がズラリと並んだ区間を越える所は印象的である。
 夜だと分かりにくい上、左手に上越新幹線・北陸新幹線、更にはニューシャトルの軌道が並行するが、ちゃんと鉄道博物館の横を通るのも一応分かる。
 そこまで来れば、大宮駅はもう間近だ。
 作者は大栄橋と『カニトップ』の看板が見えたら、デッキに移動するようにしている。

〔「ご乗車ありがとうございました。おおみや〜、大宮です。車内にお忘れ物の無いよう、お降りください。14番線の電車は21時14分発、東北新幹線“やまびこ”220号、東京行きです。上野、終点東京の順に停車致します。……」〕

 ドアが開くと稲生達はホームに降り立った。

 稲生:「それじゃ一旦、僕の家まで行きましょう。そこでお時間まで御休憩ください」
 ベイカー:「お手数掛けるわねぇ……」

 大宮駅でもニューシャトル以外は発車メロディが導入されて久しいが、新幹線は相変わらずのベルである。

〔14番線から、“やまびこ”220号、東京行きが発車致します。次は、上野に止まります。黄色いブロックまで、お下がりください〕

 ベイカー:「最後に目に焼き付けておきなさい。日本にはしばらく来れないのだから」
 ルーシー:「はい……」
 マリア:(私は永住者で良かったんだなぁ……)

 ルーシーにとっては今日が最後の新幹線となる。
 それを見送ってから、改札口へと向かった。
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