[9月20日17:02.天候:不明 神奈川県相模原市緑区 国家公務員特別研修センター地下医療施設]
愛原:「…………」
ここはどこだ……?
まだ……夢の続きなのだろうか……?
私は周りを見渡した。
どうやら、病院らしい。
しかし、どうしてここにいるのか分からない。
あれか?
やはり私は空襲の爆発に巻き込まれて、その後、病院に搬送されたのだろうか。
しかし、その割には設備は近代的なものだが……。
看護師:「失礼します」
そこへ、女性の看護師が入って来た。
看護師:「意識が戻られましたね。すぐに、先生が来ますから」
愛原:「ここはどこなんです?」
看護師:「『藤野の地下』と言えば、分かりますか?」
愛原:「藤野の地下……えっ!?」
私はすぐに国家公務員特別研修センターの地下研究施設のことを思い出した。
私がそう言うと、看護師は大きく頷いた。
看護師:「そうです」
愛原:「どうして私はここに……?」
看護師:「それは……」
医師:「失礼します」
そこへ、白衣を着た男性医師が入って来た。
医師:「愛原学さん。意識が戻りましたね。ご家族や関係者への連絡は、こちらでしますので、愛原さんはしばらく安静にしてください」
愛原:「私は今、どういう状態なのでしょう?何だか……体がよく、動かないのですが……」
医師:「ええ。1ヶ月も意識が無い状態でしたから、筋肉の機能が衰えているのでしょう。復帰の為には、リハビリが必要です」
愛原:「い、1ヶ月!?」
医師:「はい。愛原さんは8月20日、東京で起きたバイオテロに巻き込まれ、まるっと1ヶ月、意識不明だったのです。そして今、意識を取り戻されたのです」
愛原:「あ、あの……それって、清住白河駅の……?」
医師:「そうです」
愛原:「都内で起きたバイオテロに巻き込まれて、どうして私はここに?都内の病院じゃ、ダメだったんですか?」
医師:「最初は都内の大学病院に搬送されました。しかし、愛原さんには高濃度のTウィルスが注入されたことが分かり、最終的にはここの施設に移されたのです」
愛原:「しかし、私はTウィルスに対する抗体を持っているはずですが……」
医師:「その抗体の力をも上回る高濃度です。もしも抗体が無かったら、愛原さんはいわゆるゾンビにはならず、そのまま死亡していたと思われます」
愛原:「それで、今の私の状態は……?」
医師:「高濃度のワクチンを投与しまして、今は体内のウィルスは死滅している状態です。ただ、その副反応として、筋力の低下などを起こしているわけです。この後、検査などを行いますので、よろしくお願いします」
愛原:「あ、はい。お願いします。あの……よく都合良く、高濃度のワクチンなんて用意できましたね?」
医師:「日本アンブレラの開発したBOWリサ・トレヴァー『2番』。彼女からワクチンの材料を抽出しました。それから精製したものです」
愛原:「リサが!」
段々と思い出して来た。
私は都営大江戸線の終電車内で、白い仮面を着けた少女に襲われた。
恐らく、リサ・トレヴァーの亜種だろう。
どうやらこの時に、高濃度のTウィルスを注入されたようだ。
リサ・トレヴァーやネメシスなど、BOWから直接ウィルスを注入されてしまえば、例え抗体を持っていたとしても感染・発症してしまう。
だが、『2番』のリサは本種である為、そこからワクチンを作ることは可能だ。
なるほど。
リサのおかげで助かったのか。
[同日20:00.天候:不明 同施設]
脳の検査が大掛かりだったような気がする。
Tウィルスは脳も侵食し、ここがやられると完全にゾンビになる。
検査技師:「うーむ……。検査の結果、脳に異常は見当たらずです」
医師:「よし。それでは愛原さん、ご苦労さまでした。明日も頑張りましょう」
愛原:「はい」
私はベッドに乗せられたまま、検査室をあとにした。
そして最初に目が覚めた病室へと戻される。
そこは、総合病院の個室のような雰囲気だった。
といっても、応接セットとかまで付いている高い個室というわけではなく、大部屋をコンパクトに個室にしただけといった感じの部屋。
看護師:「愛原さん、連絡が付きまして、23日に面会に来られるようですよ」
愛原:「そうですか」
看護師:「その前に、デイライトの職員さんが面会に来られると思いますが……」
愛原:「善場主任ですね。分かります」
随分と寝たわけであるから、眠くないはずなのだが、それでもまだ頭がボーッとする。
まあ、質問されれば何とか答えられる感じの意識レベルといったところか。
寝る前に注射を打たれた。
看護師:「少し、眠くなりますよ」
愛原:「…………」
なるほど……。
確かに……眠くなる……な……。
[9月21日10:00.天候:不明 同施設]
朝の7時に看護師に起こされると、まず検温をされた。
体温は平熱である。
それから、まだ筋力が衰えて、ろくに物も掴むことができなくなっていた私は、朝食は点滴で取ることになった。
恐らく、こういった食事とかのリハビリもこれから行うことになるのだろう。
しかし……それくらいだったら、もう普通の病院に移っても良いのではないだろうか?
善場:「失礼します」
私が検査室から出て病室に戻ると、善場主任が訪ねて来た。
善場:「御無事で何よりです」
愛原:「善場主任……」
善場:「体内のTウィルスは死滅したようですが、ワクチン投与前に体内のあちこちがやられたようですね」
愛原:「あー、そういうことか」
新型コロナウィルスだって、ウィルスに痛めつけられた肺は、例えウィルスがいなくなったとしても、しばらく傷ついたままだから後遺症として残るのだろう。
私の体もTウィルスに痛めつけられたというわけか。
筋力が衰えたのはワクチンの副反応だというが、Tウィルスの後遺症も否定できないそうだ。
愛原:「リサからワクチンを作ったそうですね。リサに感謝しないといけない」
善場:「これもまた、我々がBSAAにリサの助命を願い出た理由の1つでもあります。『0番』たる私でも代行できたのでしょうが、しかし私の場合はもう既に人間に戻っているということもあって、弱いワクチンしか作れないでしょう」
BSAAは、とにかくBOWの存在自体を認めない主義である。
にもかかわらず、今年2月のルーマニアで起きたバイオハザード事件において、BSAA本部がBOWを作戦に投入していた疑いが持たれている。
愛原:「私はいつまで、ここにいるのでしょう?リハビリだけでいいなら、普通の病院でもいいはずですが……」
善場:「今、ブルーアンブレラが国内でリサ・トレヴァー亜種の掃討作戦と、白井伝三郎の追討作戦を行っておりますので、それが終了するまでは……といったところですね」
愛原:「え?でも、ブルーアンブレラは国内での活動が認められていないんじゃ?」
すると善場主任は、溜め息をついた。
善場:「米国からの圧力に、政府は屈したのですよ。BSAA極東支部が中国にあるのは御存知ですね?日本地区本部は日本国内にありますが、BSAA極東支部が中国にあるのを警戒した米国政府が、なるべくブルーアンブレラを使うように迫ったようです。今、米中関係は緊張状態にありますので……」
なるほど。
確かに、ブルーアンブレラが中国に支部があるという話は聞いたことがない。
しかし、BSAA極東支部には中国人民解放軍からの出向者や退役者も多く所属しているという。
米国政府は、それを警戒したようである。
愛原:「政治的な理由ですか。それなら、高野君も無罪放免に……」
善場:「は?できるわけないでしょ?彼女は東京拘置所を脱獄したんですよ?お忘れですか?」
愛原:「あ、ハイ。すいません……」
いつもポーカーフェイスの善場主任が、この時ばかりは表情を変えた。
よほど高野君のことが嫌いなんだな。
善場:「とはいえ、状況は刻一刻と変わりますから、それによっては早めに移れるかもしれません」
愛原:「そうなってほしいものですね。何しろここ、地下施設だから外が全く見えないもので」
善場:「ですよね。私からも、上申はしてみます」
愛原:「ありがとうございます。是非、お願いします」
愛原:「…………」
ここはどこだ……?
まだ……夢の続きなのだろうか……?
私は周りを見渡した。
どうやら、病院らしい。
しかし、どうしてここにいるのか分からない。
あれか?
やはり私は空襲の爆発に巻き込まれて、その後、病院に搬送されたのだろうか。
しかし、その割には設備は近代的なものだが……。
看護師:「失礼します」
そこへ、女性の看護師が入って来た。
看護師:「意識が戻られましたね。すぐに、先生が来ますから」
愛原:「ここはどこなんです?」
看護師:「『藤野の地下』と言えば、分かりますか?」
愛原:「藤野の地下……えっ!?」
私はすぐに国家公務員特別研修センターの地下研究施設のことを思い出した。
私がそう言うと、看護師は大きく頷いた。
看護師:「そうです」
愛原:「どうして私はここに……?」
看護師:「それは……」
医師:「失礼します」
そこへ、白衣を着た男性医師が入って来た。
医師:「愛原学さん。意識が戻りましたね。ご家族や関係者への連絡は、こちらでしますので、愛原さんはしばらく安静にしてください」
愛原:「私は今、どういう状態なのでしょう?何だか……体がよく、動かないのですが……」
医師:「ええ。1ヶ月も意識が無い状態でしたから、筋肉の機能が衰えているのでしょう。復帰の為には、リハビリが必要です」
愛原:「い、1ヶ月!?」
医師:「はい。愛原さんは8月20日、東京で起きたバイオテロに巻き込まれ、まるっと1ヶ月、意識不明だったのです。そして今、意識を取り戻されたのです」
愛原:「あ、あの……それって、清住白河駅の……?」
医師:「そうです」
愛原:「都内で起きたバイオテロに巻き込まれて、どうして私はここに?都内の病院じゃ、ダメだったんですか?」
医師:「最初は都内の大学病院に搬送されました。しかし、愛原さんには高濃度のTウィルスが注入されたことが分かり、最終的にはここの施設に移されたのです」
愛原:「しかし、私はTウィルスに対する抗体を持っているはずですが……」
医師:「その抗体の力をも上回る高濃度です。もしも抗体が無かったら、愛原さんはいわゆるゾンビにはならず、そのまま死亡していたと思われます」
愛原:「それで、今の私の状態は……?」
医師:「高濃度のワクチンを投与しまして、今は体内のウィルスは死滅している状態です。ただ、その副反応として、筋力の低下などを起こしているわけです。この後、検査などを行いますので、よろしくお願いします」
愛原:「あ、はい。お願いします。あの……よく都合良く、高濃度のワクチンなんて用意できましたね?」
医師:「日本アンブレラの開発したBOWリサ・トレヴァー『2番』。彼女からワクチンの材料を抽出しました。それから精製したものです」
愛原:「リサが!」
段々と思い出して来た。
私は都営大江戸線の終電車内で、白い仮面を着けた少女に襲われた。
恐らく、リサ・トレヴァーの亜種だろう。
どうやらこの時に、高濃度のTウィルスを注入されたようだ。
リサ・トレヴァーやネメシスなど、BOWから直接ウィルスを注入されてしまえば、例え抗体を持っていたとしても感染・発症してしまう。
だが、『2番』のリサは本種である為、そこからワクチンを作ることは可能だ。
なるほど。
リサのおかげで助かったのか。
[同日20:00.天候:不明 同施設]
脳の検査が大掛かりだったような気がする。
Tウィルスは脳も侵食し、ここがやられると完全にゾンビになる。
検査技師:「うーむ……。検査の結果、脳に異常は見当たらずです」
医師:「よし。それでは愛原さん、ご苦労さまでした。明日も頑張りましょう」
愛原:「はい」
私はベッドに乗せられたまま、検査室をあとにした。
そして最初に目が覚めた病室へと戻される。
そこは、総合病院の個室のような雰囲気だった。
といっても、応接セットとかまで付いている高い個室というわけではなく、大部屋をコンパクトに個室にしただけといった感じの部屋。
看護師:「愛原さん、連絡が付きまして、23日に面会に来られるようですよ」
愛原:「そうですか」
看護師:「その前に、デイライトの職員さんが面会に来られると思いますが……」
愛原:「善場主任ですね。分かります」
随分と寝たわけであるから、眠くないはずなのだが、それでもまだ頭がボーッとする。
まあ、質問されれば何とか答えられる感じの意識レベルといったところか。
寝る前に注射を打たれた。
看護師:「少し、眠くなりますよ」
愛原:「…………」
なるほど……。
確かに……眠くなる……な……。
[9月21日10:00.天候:不明 同施設]
朝の7時に看護師に起こされると、まず検温をされた。
体温は平熱である。
それから、まだ筋力が衰えて、ろくに物も掴むことができなくなっていた私は、朝食は点滴で取ることになった。
恐らく、こういった食事とかのリハビリもこれから行うことになるのだろう。
しかし……それくらいだったら、もう普通の病院に移っても良いのではないだろうか?
善場:「失礼します」
私が検査室から出て病室に戻ると、善場主任が訪ねて来た。
善場:「御無事で何よりです」
愛原:「善場主任……」
善場:「体内のTウィルスは死滅したようですが、ワクチン投与前に体内のあちこちがやられたようですね」
愛原:「あー、そういうことか」
新型コロナウィルスだって、ウィルスに痛めつけられた肺は、例えウィルスがいなくなったとしても、しばらく傷ついたままだから後遺症として残るのだろう。
私の体もTウィルスに痛めつけられたというわけか。
筋力が衰えたのはワクチンの副反応だというが、Tウィルスの後遺症も否定できないそうだ。
愛原:「リサからワクチンを作ったそうですね。リサに感謝しないといけない」
善場:「これもまた、我々がBSAAにリサの助命を願い出た理由の1つでもあります。『0番』たる私でも代行できたのでしょうが、しかし私の場合はもう既に人間に戻っているということもあって、弱いワクチンしか作れないでしょう」
BSAAは、とにかくBOWの存在自体を認めない主義である。
にもかかわらず、今年2月のルーマニアで起きたバイオハザード事件において、BSAA本部がBOWを作戦に投入していた疑いが持たれている。
愛原:「私はいつまで、ここにいるのでしょう?リハビリだけでいいなら、普通の病院でもいいはずですが……」
善場:「今、ブルーアンブレラが国内でリサ・トレヴァー亜種の掃討作戦と、白井伝三郎の追討作戦を行っておりますので、それが終了するまでは……といったところですね」
愛原:「え?でも、ブルーアンブレラは国内での活動が認められていないんじゃ?」
すると善場主任は、溜め息をついた。
善場:「米国からの圧力に、政府は屈したのですよ。BSAA極東支部が中国にあるのは御存知ですね?日本地区本部は日本国内にありますが、BSAA極東支部が中国にあるのを警戒した米国政府が、なるべくブルーアンブレラを使うように迫ったようです。今、米中関係は緊張状態にありますので……」
なるほど。
確かに、ブルーアンブレラが中国に支部があるという話は聞いたことがない。
しかし、BSAA極東支部には中国人民解放軍からの出向者や退役者も多く所属しているという。
米国政府は、それを警戒したようである。
愛原:「政治的な理由ですか。それなら、高野君も無罪放免に……」
善場:「は?できるわけないでしょ?彼女は東京拘置所を脱獄したんですよ?お忘れですか?」
愛原:「あ、ハイ。すいません……」
いつもポーカーフェイスの善場主任が、この時ばかりは表情を変えた。
よほど高野君のことが嫌いなんだな。
善場:「とはいえ、状況は刻一刻と変わりますから、それによっては早めに移れるかもしれません」
愛原:「そうなってほしいものですね。何しろここ、地下施設だから外が全く見えないもので」
善場:「ですよね。私からも、上申はしてみます」
愛原:「ありがとうございます。是非、お願いします」