[7月3日10:00.静岡県富士市 JR新富士駅 視点:稲生勇太]
藤谷の車が駅前ロータリーに入る。
藤谷:「それじゃ、ここまでで申し訳ないですけど……」
イリーナ:「いえいえ、とんでもない。助かったよ」
稲生:「ありがとうございました」
イリーナ:「ここに、御礼の『儲け話』が書いてあるから、後で読んで」
イリーナは自分が予知した『儲け話』が書かれたメモを藤谷に渡した。
藤谷:「あ、こりゃどうもすいませんです」
藤谷は揉み手をし、照れ笑いにも似た笑みを浮かべてそのメモを受け取った。
稲生:「それじゃ、班長。ありがとうございました」
藤谷:「おう。ちゃんとお寺来いよ」
稲生:「分かりました」
稲生達は車から降りた。
時折、ゴーッという音が駅から聞こえてくるのは、通過列車の轟音である。
駅の中に入る。
稲生:「10時13分発です。その約5分前に入線してくるので、そろそろといったところですね」
イリーナ:「そうかい。じゃあ、もう行こうかね」
稲生:「キップは1人ずつ持ちましょう」
稲生はイリーナにグリーン券の付いたキップを渡した。
当初は自由席に座る予定の稲生とマリアだったが、なるべくイリーナと離れない方が良いということで指定席にした。
幸い、隣の普通車指定席が取れた。
まだ、コロナ禍による影響は大きいのだろうか。
それとも、元々空いている“こだま”だからか。
〔「今度の東京行きの電車は、10時13分発、“こだま”706号です。終点東京まで、各駅に停車致します。自由席は……」〕
ホームに上がると、マリアはホーム上の売店に立ち寄った。
何を買っているのかというと、ポッキーであった。
どうやら、朝食だけでは少し足りなかったらしい。
稲生:「先生は10号車。僕達は11号車です」
イリーナ:「寝てたら、起こしてちょうだいね」
稲生:「分かりました」
〔♪♪♪♪。新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。まもなく1番線に、10時13分発、“こだま”706号、東京行きが到着致します。安全柵の内側まで、お下がりください。この電車は、各駅に止まります。グリーン車は8号車、9号車、10号車。自由席は1号車から6号車と、13号車から16号車です。……〕
新富士駅の前後は線形が良い為、通過列車は最高速度の時速285キロで通過する。
入線してきた列車はN700系であり、N700Aではなかった。
“祈りとして叶わざるは無し”……とは限らない。
イリーナ:「それじゃ、アタシゃそっちへ行くよ」
稲生:「あ、はい」
列車が到着し、ドアが開くと、イリーナはグリーン車へ乗って行った。
稲生達は隣の普通車に乗り込んだが、その直前に轟音を立てて通過列車が通過していった。
風圧と振動で、こちらの列車も揺れる。
稲生:「ここですね」
マリア:「うん」
指定された2人席に腰かける。
人形達はいつもの通り、荷棚に乗せた。
ローブも脱いで、窓の横に付いている収納式のフックに掛ける。
本当はこれ、『帽子掛け』というらしい。
エレーナなどのホウキ乗りの魔女みたいに、いつも帽子を被っている者なら重宝するのかもしれない。
しかしそうでない魔法使いの場合は、ローブを掛けるのに使う。
〔「10時13分発、“こだま”706号、東京行きでございます。只今、通過列車の通過待ちを行っております。発車まで、しばらくお待ちください」〕
マリアはテーブルを出すと、その上にジュースとポッキーを置いた。
マリア:「一本食べる?」
稲生:「うん、ありがとう」
稲生は一瞬ポッキーゲームをしたくなったが、何とか抑え込んだ。
マリア:「? なに?」
稲生:「い、いや、何でも無い」
[同日10:13.JR東海道新幹線706A11号車内 視点:稲生勇太]
〔「レピーター点灯です」〕
東京駅なら発車メロディが流れるが、ここでは普通の発車ベルが鳴り響く。
〔1番線、“こだま”706号、東京行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕
〔「ITVよーし!乗降、終了!」〕
マリアはポッキーを食べていたが、今は荷棚に乗っていた人形達も下りてきて、一緒にポッキーをポリポリ食べている。
稲生:「“こだま”、車内販売無いからねぇ……」
人間形態だと凛としたメイドであり、他のメイド人形達のリーダー的存在として働くが、人形形態だとコミカルな動きを見せてくれる。
そんなのを眺めているうちに、“こだま”706号は発車した。
乗客A:「こっちだ、こっちだ」
乗客B:「急げ!」
後ろの車両に向かって、スーツ姿の男性乗客達が走って行く。
何のことはない。
イリーナが乗車していると聞いて、占ってもらおうと思っているのだ。
イリーナは門内ではヘタレ師匠として通っているが、占いの腕前に関しては文句をつける1期生はいない。
そんな彼女の占いの見料は【お察しください】。
特に定額というわけでもなく、イリーナが相手を見て値段を決めることもあるし、向こうの方から言い値を払ってくる場合もある。
イリーナが持っているプラチナカードだって、とある世界の大物を占いで助けてあげた見料の1つである。
そんな彼らにとって、弟子である稲生やマリアは歯牙にもかけない存在であろう。
さっきの男性達も、稲生達には目もくれずに走り去って行った。
いや、そもそもイリーナに弟子がいることすら知らないのかもしれない。
マリア:「師匠はどこでも稼げるな」
稲生:「凄いよねぇ……」
マリア:「私もまだ予知夢を見る程度だからなぁ……」
稲生:「それで夢占いとかできるんだから、大したものだと思うよ」
マリア:「いや、それだって確実ってわけじゃないし。もっと、より確実なものにしないと……。勇太だって、予知夢を見たりしない?」
稲生:「たまーにね。でも、『たまーに』程度じゃ、占いで生活できないし」
マリア:「ま、それもそうだ」
マリアはまた一本ポッキーを齧った。
藤谷の車が駅前ロータリーに入る。
藤谷:「それじゃ、ここまでで申し訳ないですけど……」
イリーナ:「いえいえ、とんでもない。助かったよ」
稲生:「ありがとうございました」
イリーナ:「ここに、御礼の『儲け話』が書いてあるから、後で読んで」
イリーナは自分が予知した『儲け話』が書かれたメモを藤谷に渡した。
藤谷:「あ、こりゃどうもすいませんです」
藤谷は揉み手をし、照れ笑いにも似た笑みを浮かべてそのメモを受け取った。
稲生:「それじゃ、班長。ありがとうございました」
藤谷:「おう。ちゃんとお寺来いよ」
稲生:「分かりました」
稲生達は車から降りた。
時折、ゴーッという音が駅から聞こえてくるのは、通過列車の轟音である。
駅の中に入る。
稲生:「10時13分発です。その約5分前に入線してくるので、そろそろといったところですね」
イリーナ:「そうかい。じゃあ、もう行こうかね」
稲生:「キップは1人ずつ持ちましょう」
稲生はイリーナにグリーン券の付いたキップを渡した。
当初は自由席に座る予定の稲生とマリアだったが、なるべくイリーナと離れない方が良いということで指定席にした。
幸い、隣の普通車指定席が取れた。
まだ、コロナ禍による影響は大きいのだろうか。
それとも、元々空いている“こだま”だからか。
〔「今度の東京行きの電車は、10時13分発、“こだま”706号です。終点東京まで、各駅に停車致します。自由席は……」〕
ホームに上がると、マリアはホーム上の売店に立ち寄った。
何を買っているのかというと、ポッキーであった。
どうやら、朝食だけでは少し足りなかったらしい。
稲生:「先生は10号車。僕達は11号車です」
イリーナ:「寝てたら、起こしてちょうだいね」
稲生:「分かりました」
〔♪♪♪♪。新幹線をご利用くださいまして、ありがとうございます。まもなく1番線に、10時13分発、“こだま”706号、東京行きが到着致します。安全柵の内側まで、お下がりください。この電車は、各駅に止まります。グリーン車は8号車、9号車、10号車。自由席は1号車から6号車と、13号車から16号車です。……〕
新富士駅の前後は線形が良い為、通過列車は最高速度の時速285キロで通過する。
入線してきた列車はN700系であり、N700Aではなかった。
“祈りとして叶わざるは無し”……とは限らない。
イリーナ:「それじゃ、アタシゃそっちへ行くよ」
稲生:「あ、はい」
列車が到着し、ドアが開くと、イリーナはグリーン車へ乗って行った。
稲生達は隣の普通車に乗り込んだが、その直前に轟音を立てて通過列車が通過していった。
風圧と振動で、こちらの列車も揺れる。
稲生:「ここですね」
マリア:「うん」
指定された2人席に腰かける。
人形達はいつもの通り、荷棚に乗せた。
ローブも脱いで、窓の横に付いている収納式のフックに掛ける。
本当はこれ、『帽子掛け』というらしい。
エレーナなどのホウキ乗りの魔女みたいに、いつも帽子を被っている者なら重宝するのかもしれない。
しかしそうでない魔法使いの場合は、ローブを掛けるのに使う。
〔「10時13分発、“こだま”706号、東京行きでございます。只今、通過列車の通過待ちを行っております。発車まで、しばらくお待ちください」〕
マリアはテーブルを出すと、その上にジュースとポッキーを置いた。
マリア:「一本食べる?」
稲生:「うん、ありがとう」
稲生は一瞬ポッキーゲームをしたくなったが、何とか抑え込んだ。
マリア:「? なに?」
稲生:「い、いや、何でも無い」
[同日10:13.JR東海道新幹線706A11号車内 視点:稲生勇太]
〔「レピーター点灯です」〕
東京駅なら発車メロディが流れるが、ここでは普通の発車ベルが鳴り響く。
〔1番線、“こだま”706号、東京行きが発車致します。ドアが閉まります。ご注意ください。お見送りのお客様は、安全柵の内側までお下がりください〕
〔「ITVよーし!乗降、終了!」〕
マリアはポッキーを食べていたが、今は荷棚に乗っていた人形達も下りてきて、一緒にポッキーをポリポリ食べている。
稲生:「“こだま”、車内販売無いからねぇ……」
人間形態だと凛としたメイドであり、他のメイド人形達のリーダー的存在として働くが、人形形態だとコミカルな動きを見せてくれる。
そんなのを眺めているうちに、“こだま”706号は発車した。
乗客A:「こっちだ、こっちだ」
乗客B:「急げ!」
後ろの車両に向かって、スーツ姿の男性乗客達が走って行く。
何のことはない。
イリーナが乗車していると聞いて、占ってもらおうと思っているのだ。
イリーナは門内ではヘタレ師匠として通っているが、占いの腕前に関しては文句をつける1期生はいない。
そんな彼女の占いの見料は【お察しください】。
特に定額というわけでもなく、イリーナが相手を見て値段を決めることもあるし、向こうの方から言い値を払ってくる場合もある。
イリーナが持っているプラチナカードだって、とある世界の大物を占いで助けてあげた見料の1つである。
そんな彼らにとって、弟子である稲生やマリアは歯牙にもかけない存在であろう。
さっきの男性達も、稲生達には目もくれずに走り去って行った。
いや、そもそもイリーナに弟子がいることすら知らないのかもしれない。
マリア:「師匠はどこでも稼げるな」
稲生:「凄いよねぇ……」
マリア:「私もまだ予知夢を見る程度だからなぁ……」
稲生:「それで夢占いとかできるんだから、大したものだと思うよ」
マリア:「いや、それだって確実ってわけじゃないし。もっと、より確実なものにしないと……。勇太だって、予知夢を見たりしない?」
稲生:「たまーにね。でも、『たまーに』程度じゃ、占いで生活できないし」
マリア:「ま、それもそうだ」
マリアはまた一本ポッキーを齧った。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます