報恩坊の怪しい偽作家!

 自作の小説がメインのブログです。
 尚、ブログ内全ての作品がフィクションです。
 実際のものとは異なります。

本線場内中継、制限!

2013-09-23 01:40:38 | 日記
 “ボカロマスター”より。 前回の続き。

[14:00.東京都内の総合病院 平賀太一]

「申し訳ありませんでした!!」
 自分……いや、私は入院している妙観講員の皆さんに土下座して謝罪した。私のプログラミングは完璧だったはずだ。だが、それにどこか驕りがあったのだろう。それとも、驕り高ぶっていたのは財団の方だろうか。
「太一君、もういいよ」
 ベッドの上でそう言うのは、私が最愛の姉を失って失意の底にいたところを付きっ切りで支えてくれた田中晃さん。遠い親戚の叔父に当たる。
 姉は私が小学生の頃、前方不注意のトラックに轢かれて死んだ。正確に言えば、本当は轢かれるのは私のところが、私なんかを庇って……。だからエミリーではないが、仲の良い鏡音リン・レンの姉弟を見ると、微笑ましく感じていたものだ。
「キミがわざとやったわけじゃないことは分かった」
「でも、自分が余計なことをしたばっかりに……!」
 国際指名手配犯のマッド・サイエンティスト、ウィリアム・フォレスト。通称、ドクター・ウィリーと称されるこの男は、私のロボット研究の師である南里志郎先生の宿敵でもある。ヤツが権威の誇示の為に作り出したテロ兵器ロボット、“バージョン・シリーズ”。イメージ的にはガンダムのザクをコンパクトにしたような感じだが、エミリーなどがこの個体を何体か捕獲した。そこで財団は、このテロ兵器を平和目的に転用できないかという研究を始めることにした。私がそのチーム・リーダーに抜擢され、最大の謎にして特長である『神出鬼没な機動性』のメカニズム解明に奔走することになった。その解明は完全には至らなかったが、それでもプログラミングについては明らかになり、私はバージョン・シリーズを『神出鬼没な機動性』を生かした“メッセンジャー”としての活用を考えた。その実験を兼ねて私は先日、誕生日を迎えた田中晃さんの元へバージョン・シリーズを送り込んだのだ。
 本来の計画はこうだ。信心興盛な妙観講員の田中さんが、足しげくその本部に足を運んでいることは知っていた。そしてほぼ間違いなく、あの日の日曜日も本部にいることを予想した。その予想はちゃんと当たっていたわけだが。サプライズとして祝砲を空に向かって打ち上げ、バージョン達に搭載した歌唱機能でもって、『ハッピーバースデー・トゥー・ユー』を歌ってもらう。1曲歌った後で、再びまた祝砲を打ち上げた後にバースデーケーキとプレゼント、そして私のメッセージを進呈するという演出だ。
 田中さんの話では、バージョン達が妙観講本部に到着した後、少し動きを止めたそうである。そしてその直後、バージョン達は腕に仕込まれた祝砲を建物内に向かって乱射したそうだ。それだけではなく、持ち前の強い馬力を悪用して……。
「まあ、幸いケガ人だけで、死者は出なかったからね。それに、御本尊様も無事だ」
 田中さんはそう言ったが、とにかく私はこれで除名処分になるだろう。
 タイマー設定で機能停止に陥るようになっていたそうだが、私はそんな設定していない。きっとどこかで、狂ってしまったのだろう。そこまで予想しないで実験した私は、研究者失格だ。
「ただ、うちの信徒だけがケガしたわけじゃないから、むしろそっちが心配だ」
 と、田中さん。
「まさか、御僧侶もお怪我を?」
「いや、というか、あれは誰だったんだろうなぁ……」
「ご近所の方?」
「うーん……」
 どうも的を得ない。一体、妙観講員以外に私の実験の巻き添えになってしまった人は誰なのだろう?
「太一君、あのロボット達以外に、イベント会社とかに依頼したかい?」
「は?いいえ。私はバージョン4.0を5機しか送り込んでませんが……」
「何か、特撮ヒーローのような格好をしてたよ」
「何ですか?」
「確か、ケンショー・レンジャーとか言ってたな」
「はあ!?」
「彼らが1番、重傷らしいよ」
「な、何ですか、それ?」
 本当に不思議なこともあるものだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 何だかいきなりネットが復旧になったので、昨日投稿できなかった分を先に投稿する。登山のことは、また後ほど……。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第1閉塞、注意!

2013-09-21 13:34:06 | 日記
 “ボーカロイドマスター”より。 もうそろそろ終わり?

 目が覚めた時♪僕は1人♪黒く塗り潰された部屋♪何も見えず♪何も聞こえず♪1人震える闇の中♪……

 るりらるりら♪響く歌声は♪キミに届いているのかな♪……

[??? ??? 鏡音レン]

『鏡音レン、起動します』

 目が覚めた時、僕は1人……じゃなかった。僕のカメラ(目)には南里博士と、なっちゃん……赤月奈津子博士がボクの顔を覗き込んでいるのが分かった。
「先生、起動値、正常です」
「うむ。……ソフトウェア、メモリー等のバックアップについても異常なし」
「あ、あの……」
 ボクは声を出した。
「ふむ。意識レベル、規定値。全ての数値、全て規定通りじゃ」
「レン、これで修理が終わったよ」
 なっちゃんがボクに言った。
「しかし、まだデータのバックアップに、少し手間取っているようじゃな」
 そう。ボクの頭の中には自分の持ち歌や、ボーカロイド仲間の持ち歌がループしている。
 ……瞬間、思い出した♪全ての記憶♪自らが重ねた罪の数々♪
 いや、思い出したけど、罪の数々じゃなくて……。
「2度も自殺志願の人間を助けるとは、大したもんじゃ」
 先日、ボクを激しく叱責したのとは別人のように、南里博士はにこやかな顔をしていた。確かボクは、団地から飛び降り自殺を図った由紀奈を追って……。
「! 由紀奈は!?由紀奈はどうなりましたか!?」
「まあ、落ち着きたまえ。お前がシャットダウンしてから、まずは3日経っておる。タイマーの自動設定は完了したかね?」
「あ……はい」
 確かに、3日経っていた。
「その間、色々あったのよ」
 なっちゃんも言った。

 ボクが混乱しないよう、なっちゃんは順を追って説明してくれた。由紀奈は地面に叩きつけられる直前、ボクに抱えられ、掠り傷で済んだそうだ。頭や胸を強く打ったわけではなく、入院も数日で済む程度のケガとのこと。
「ただいまぁ」
 ボクが研究室から事務室に移動すると、ちょうどプロデューサーが戻って来た。
「おっ、レン。修理終わったんだな。いや、お手柄だ」
「ありがとうございます。営業に行かれてたんですか?」
「違う違う。あっ、そうそう。池波さん親子な、顕正会辞めたから」
「えっ?」
「漁夫の利みたいで申し訳ないけど、平賀先生があんな状態だし、放っておけなかったから。俺の所属寺院で御受戒してもらったよ」
「ちょ、ちょっと待ってください!プロデューサーって……」
「今まで黙ってたけど、俺は退転中の元信徒だったんだよ。色々ワケありでね。でもさすがに池波さん達が放っておけなかったから。俺は俺で勧誡したよ」
 また漢字変換のできない単語が飛んできたけども、どうやら少しは状況が改善されるのかなと思った。
「でも団地を追い出され……」
「それも無くなった。潔白を証明したから」
「潔白?」
「お前のメモリーを解析して、エミリーが池波さんが嘘を付いていないと言ったんだ。エミリーには嘘発見器が搭載されてるからな」
 ボク達にはそんなものは無いけど、さすがスパイ活動もしていたマルチタイプなだけのことはある。
「代わりに団地を出て行ってもらったのは、管理人の方さ」
「ええっ!?」
「顕正会員から見れば、『学会の謀略部隊』にカテゴライズされるのかねぇ。顕正会の評判を貶めるべく、精力的に活動していた池波さんが追い出されるように仕向けてたらしいよ」
「プロデューサー、どうやって証明したんですか?」
 しかし、プロデューサーは咳払いをしただけで、答えてくれなかった。
「まあ……ガサ入れ数回入っているという時点で評判も何も無いから放っといたっていいと思うんだけど、余計なことをした時点で運のツキってことだ」
「そうだったんですか」
「因みに由紀奈ちゃんには、リンが付き添ってる。あの子、顕正会活動のせいで友達がいなくて、それで孤独感から自殺衝動に駆られていたらしいな。でもまあ、リンがいるからもう大丈夫だ」
 リンなら誰とでも仲良くできるからな、そこはプロデューサーの言う通りだ。
「あの、平賀博士は……?」
 その話になると、途端にプロデューサーの顔が曇り始めた。
「こっちは芳しくない。多分もうすぐ平賀先生は、逮捕されるだろう」
「ええーっ!?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 因みに池波とは、私が顕正会時代にお世話になっていた上長達の名字を一文字ずつ合わせたものです。
 もうお分かりとは思いますが、あくまでフィクションですので念のため。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第2閉塞、進行!

2013-09-21 00:21:53 | 日記
 “ボーカロイドマスター”より。 前回の続き。

[13:00.市営中吉台団地1号棟4F 平賀太一]

 自分が目にした光景は半分想定内で、半分想定外である。
 自分には信仰上、大変お世話になった御方が妙観講におられる。あいにくと仏縁からか、結局自分は違うお寺に縁してしまったが、それでも大事な人に他ならない。今日はその方の誕生日であり、自分としては何としてでもお祝いをしたかった。だが、仕事が忙しく、上京は叶わなかった。そこで自分は一計を案じた。自分が今手がけているプロジェクト、ドクター・ウィリーの産物であるバージョン・シリーズを平和利用に転用できないかというものだが、このロボット達の最大の特長とも言える神出鬼没な機動性を利用し、サプライズ・イベントを考えたのだ。GPSで確認したが、自分の用意した5体はちゃんと大事な人が常に出入りしている本部へ着いたようだ。今頃は大騒ぎになっていることだろう。ここまでは想定内、というか計画通り。
 想定外というのは、自分の折伏対象である顕正会員が同じ団地住民により、集団抗議を受けてしまっていることだった。団地内で相当な苦情が出ているというのは調査したが、まさか住民達がこのタイミングで動くとは思わなかった。
「池波さん、いい加減にしてください!今度は2号棟と3号棟にポスティングしたそうですね!?」
「今度やったら出て行くという約束を忘れたのか!?」
「いくら被災者だからって、やっていいことと悪い事があるんですよ!」
 正に集中砲火だ。顕正会員の場合、『在所追い放たれて』という御金言を曲解しているからな。『退去させられた』という形で退去して、『不思議な御守護で、すぐに新しい新居が見つかり』というベタな流れで行くのだろう。『退去を求めて来た住民達の中には学会員がいた』というオチ付きでね。しかし、だ。
「私、知りません!約束通り、勧暁書も新聞もお配りしてません!」
 と、顕正会員は否定している。
「ウソを付きなさい!この封筒の連絡先、池波さんになってるでしょう!」
 抗議団の1人、中年男性が勧暁書の入っている封筒を掲げた。
「何かの間違いです!私、何もしてません!」
「この団地で、顕正会の信者は池波さんしかいないんですから、言い逃れできませんよ!」
 別の中年女性も言い放った。
 何だか、話の流れが微妙だな……。そう思っていると、レンが開け放たれた玄関ドアから部屋に入った。
「由紀奈!」
 自分もレンを視線で追うと、奥のダイニングですすり泣く少女の姿があった。レンは彼女を慰めると、部屋から連れ出した。
「博士、由紀奈は取りあえず公園にでも連れて行きます」
 と言った。
「ああ。そうしてくれ」
 その方がいいだろう。こんな醜い言い争いを子供に見せるわけには行かない。さて、自分はどこで割って入ろうか。タイミングを計っていると、抗議団の別の中年男性がトドメの一言を言い放った。
「とにかく、近いうちにここから出て行ってもらいましょう!どうですか、皆さん!」
 拍手が起こる。
「まあ、ちょっと、皆さん……」
 自分がやっと割って入ろうとした時だった。
「由紀奈!!」
 背後でレンの叫び声がした。自分が振り返るのと、由紀奈という名の少女が飛び降りたのは同時だった。
 その直後、レンも飛び降りた。
「レン!」
 何秒も経たないうちに、言葉では表現できない大きな音が聞こえた。レンは下のアスファルトに叩きつけられたようだ。体から火花が飛び散っているのが見えた。
「子供達が落ちたぞ!」
「ひゃ、119番だ!は、早く救急車を呼ぶんだ!!」
「急いで!」
 抗議団は抗議どころではなくなったようだ。パニックを起こした。

 くそっ!何てことだ!まさか、こんな展開になるなんて!

 大聖人様の尊き仏法を、邪法に変えることの何と恐ろしい罪深さよ。

 大人の勝手な異流儀活動で、未入信の子弟や無関係な知人を巻き添えにするなんて……!
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

第3閉塞、進行!

2013-09-19 22:09:13 | 日記
 “ボカロマスター”より。まだ続きます。

[12:30.ラジオ局、政宗放送スタジオ MEIKO]

「政宗放送をお聴きの皆さん、こんにちは。MEIKOです。早速ですが、ここで1曲お送りしたいと思います。初音ミクで、“初音ミクの消失”」

[同時刻 市営中吉台団地駐車場 鏡音レン]

 平賀博士が来客用駐車場に車を止める。ミクの歌が聴こえてきて、もう少し聴きたかったんだけど、しょうがない。
「行くぞ!」
「はい!」
 博士が車を飛び降りた。そして、団地住民駐車場に向かう。
「すいません!」
 ちょうど由紀奈とお母さんは、車から降りてきたところだった。
「はい、何でしょうか?」
「失礼ですが、顕正会の方ですか?」
「!」
 お母さんは何かびっくりした様子だったが、
「はい、そうですけど?」
 と、答えた。
「私、法華講の平賀と申します」
 すると、お母さんの顔色が変わった。
「名刺をどうぞ」
 博士が名刺を出す。チラッとしか見えなかったが、法華講員としての名刺らしい。大学名や財団のことは書いてなかった。
「本当の正しい信心について、少しお話させて頂けませんか?」
「……法華講員の方と話すことなんてありません!」
「そう仰らずに。私もまた顕正会のことはよく分かっていない。で、あるなら私を折伏するチャンスなのではないですか?ただ、これだけは分かる。もうすぐ最終日なんでしょう?ノルマ……いや、“誓願”は達成できそうですか?」
「帰ってください!」
 博士は尚も食い下がろうとしたが、お母さんは由紀奈を連れて、建物の中に逃げるように入っていった。
「博士……?」
 博士は何がしたいんだろう?何故か、にやけた顔をしている。
「レン。今の、『見て』いたか?」
「えっ?あ、はい。それが何か……?」
「ご苦労。行くぞ」
「は、はい……」
 ボクはこのまま博士の言う通りにしていいのかどうか、心配になってきた。
 ボーカロイドだって、マルチタイプと同じく自分で考えて行動することはできる。そこは、七海などのメイドロボットと違う。
「ん?」
 駐車場に戻ろうとすると、何人かの住民の人達らしき集団が1号棟に入っていった。
「……作戦変更。戻ろう」
「は?」
「いいから、来てくれ」
「……はい」

[12:45.ラジオ局、政宗放送スタジオ MEIKO]

「ではこの時間、ニュースをお送りします。KAITO、よろしく」
 私は相方のKAITOに振った。
「はい、KAITOです。たった今入ったニュースです。今日午前11時頃、東京都杉並区に本部を置く日蓮正宗妙観講で、ロボット数体による襲撃事件がありました。当時中には信者が数多く訪れており、多くのケガ人が出ているもようです。尚、このロボット達は国際指名手配を受けているウィリアム・フォレスト容疑者が開発した“バージョン4.0”と見られ、侵入経路、また動機についてもまだ不明です。このロボット達はタイマー設定で機能停止するようになっており、日本ロボット研究開発財団が調査に当たっています」
「私達もウィリアム容疑者には、ほとほと痛い目に遭わされています。1日でも早い逮捕を望んでいます」
「では、次のニュースです」
 バージョンシリーズが宗教施設を襲った?珍しいこともあるものね。そんなとこ襲ってどうするのかしら?確か、ドクター平賀がチームを作って、バージョン達の全容を解明しているはずだけど……。

[同時刻 市営中吉台団地 鏡音レン]

 スマホのようなタブレット端末を見て、にやける平賀博士の姿があった。
 ボクはこっそり、その端末と無線LANを接続してみた。
 何だろう?東京都杉並区の地図が出てきた。そして、バージョン4.0が5機?何だ?あの悪名高いバージョン達が、東京に現れて暴れてるのだろうか?でも、どうしてそれで博士がにやけてるんだろう?
「池波さん、ちょっといいですかー!」
 住民の皆さん達が、由紀奈の部屋の前で何かやっていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 妙観講の皆さん、ごめんなさい。あくまで、ボツネタです。リメイク後のOKネタでは、宗教色の全く無い違う話の流れになっています。
 で、平賀が何か怪しいけど、OKネタでは特段普通で、逆に影が薄いです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ダサク続行

2013-09-19 00:26:50 | 日記
 “ボカロマスター”より。 ケンショーコキ下ろし……?

[12:00.南里ロボット研究所 敷島孝夫]

 どーれ。昼休みの時間だ。本当はバック・オフィスである事務員は日曜日は休みなのだが、ボーカロイド・プロデューサーなんか始めちゃったせいで、休めなくなってしまった。今日は赤月先生が、ミクとルカの仕事に付き添ってもらっている。平賀先生がいる間は七海がいてくれるので、彼女に事務作業は任せてもいい。メイドロボのはずなのだが、ここ最近は事務作業ロボットとしてのイメージが強い。実際、率なくこなしてくれるし。
「敷島さん。お昼ごはん、何にしますか?」
「そうだなぁ……。それより、平賀先生はいつ戻ってくるんだ?はっきり言って、謹慎中のレンを勝手に連れ出したりしたらマズいだろ?」
「南里博士とエミリーが出かけていて良かったですね」
 そう。所長とエミリーは財団事務所に行ってしまった。おおかた、昼食会でもやっているのだろう。もしいたら、さすがの所長も平賀先生の勝手な行動に怒っていたんじゃないかな?それとも、もう付き合いも長いから呆れて苦笑いか?
「ミートソース・パスタなんかどうでしょう?」
「お、いいね。頼むよ」
「はい」
 七海は席を立って、台所へ向かった。
「あっ、そうだ。12時から、MEIKOとKAITOがラジオに出るんだった」
 私はスマホのアプリで、ラジオを点けた。
〔ポロロロン♪「そうか~♪がっかい~♪」〕
「! びっくりした、CMか!……真っ昼間に宗教のCMかよ……」
 私はチャンネルを変えた。
〔「せいきょうしんぶん♪」〕
「んっ!?」

[同時刻 市営中吉台団地入口付近・車中 鏡音レン]

〔「……あなたのあしたをあたらしく」「そうか~♪がっかい~♪」〕
 ボクは平賀博士の車の中にいる。ラジオから聴こえて来た、よく分からないCMが流れてくると、途端に博士の機嫌が悪くなった。
「博士、ボクのお使い、お役に立てませんでしたか?」
 ボクが聞くと、アンパンをかじる博士は潜めた眉を元に戻した。
「いや、いいんだよ。アンパンと牛乳なんて、ベタ過ぎるチョイスだ」
「前にリンが、『張り込みの基本はこれだー!』って言ってたものですから……」
「やっぱりな」
 平賀博士は納得してくれたようだ。但し、仕方なくといった感じだったが。
 そう、ボク達は今、張り込みをしている。最初、顕正会仙台会館に行こうという話もあったのだが、入れ違いになると面倒だし、とっくに朝の勤行や浅井会長なる教祖の指導もとっくに終わってるだろうから、ここで待つことにしたのだ。
「レン、ここ最近、仕事の方は順調だそうじゃないか」
 牛乳を飲み干した先生が、仕事のことについて聞いてきた。
「敷島さんから聞いたぞ」
「あ、はい。おかげさまで」
「でも、逆にリンと一緒に仕事をする機会は減ったそうだな?」
「ええ。まあ、しょうがないです。本当はリンと一緒に仕事したいけど、リンも単独でレギュラーの仕事とっちゃったですし……」
「健気だな。実は自分も本当はリンとレン、2人で一ユニットだと思ってる」
「えっ?」
「まあ、自分はただの研究者で、プロデューサーじゃないから何とも言えないんだけど……」
 その時、ボクは博士の言葉を遮った。
「博士、来ましたよ!」
 由紀奈を乗せた、白い軽乗用車が団地内に入って行くのをボクは見つけたからだ。
「よし、行くぞ!」
 博士は急いで車を動かし、団地の中へハンドルを切った。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 地方のAM局じゃ、昼間でも創価学会や聖教新聞のCMをやってることがある。
「少しは仏法の話をせんかい!」
 とは、私の顕正会入信当初の上長の言。創価学会のCMを聴いて、全力で突っ込んでいたのを今でも覚えている。
コメント (2)
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする