Cape Fear、in JAPAN

ひとの襟首つかんで「読め!」という、映画偏愛家のサイト。

『Cape Fear』…恐怖の岬、の意。

シネマしりとり「薀蓄篇」(1)

2012-04-15 00:15:00 | コラム
新ブログにおける、新連載の第二弾。

映画にまつわる人名・作品名・用語を「しりとり形式」でつなぐ―それだけでは芸もクソも? ないので、
必ず我流の解説をつけていく・・・目標は10年続けることで、果たして自分は、そのくらい続けられるほど知識を有しているのか、、、というのが裏のテーマ。

しりとりだから「あ」から始めるのが常識? っぽいけれど、まずこれを語りたい・・・というのがあるので、「ほ」から始めてみる。


「ボディダブル」。

ボディダブル(=Body double)とは、簡単にいえば代役。
もっと正確にいえば、替え玉。

出演者が「なんらかの事情・理由」により、そのシーンを演じることが出来ない場合に活躍する「裏方」俳優のこと。

たとえば、大物俳優のヌードシーンとか。
たとえば、大物俳優のアクションシーンとか。(この場合は、スタントマンともいう)
たとえば、特殊な技術を有するシーン―ピアノ演奏や舞踏場面―とか。

だから、代わってもらうほうが無名/代わったほうも無名―というケースはほとんどなく、基本的には前者が有名で後者は無名、、、という構造になる。

鬼才ブライアン・デ・パルマによる同名映画(84)が発表されたことにより、一般的に知られるようになった専門用語。

メラニー・グリフィス―このころ、大好きだった―の出世作としても有名だが、ヒッチコッキアン(=ヒッチコック信者)を自称するデ・パルマらしさに溢れた怪作となっている。

だって、
(1)覗き趣味が高じて事件に巻き込まれる(=54年の『裏窓』)、
(2)ふたりの美女と、閉所恐怖症の主人公(=58年の『めまい』…ただしこっちは、高所恐怖症)という、ふたつの設定をいただいているのだから。

しかしどれだけ設定を真似ても、ヒッチコック映画のような優雅さを獲得せず、どこまでも破廉恥で猥雑―そんなところに、(90年代までの)デ・パルマの憎めなさがある、、、と結んだら、どの程度の映画小僧が頷いてくれるだろうか。


ボディダブルを主要キャラクターとして登場させた映画で有名なのは、恋愛群像劇の『ラブ・アクチュアリー』(2003)。
この映画では、ベッドシーンを演じる男女のボディダブルが、撮影中(しかも、ほとんど全裸)に恋を実らせていく、、、というチャーミングな展開をみせていた。

最近の映画で有名なボディダブルは、ナタリー・ポートマンの『ブラック・スワン』(2010)。
ナタリー嬢も頑張っていたけれど、「ここぞ!」という場面ではプロのダンサー、サラ・レーンが演じて(踊って)いる。


一般的には明かされていないけれど、誰もが気づく「ボディダブルなシーン」を紹介。

(1)『ターミネーター2』(91)・・・新型ターミネーターに追われるジョンを、旧型ターミネーター(シュワ氏)がバイクに乗って助けるシーン。

バイクでジャンプ→着地。
この着地のワンショットで、ボディダブルであることを見抜ける。シュワ氏と体型は似ているが、頬が出過ぎているんだよね。

(2)『ビバリーヒルズ・コップ』(84)・・・会員制レストランで、刑事アクセル(エディ・マーフィー)が悪党を背負い投げするシーン。

投げられるほうなら分かるけれど、なぜ投げるほうでボディダブルを? 投げる相手も、べつに大柄というわけでもないのに・・・という疑問が残る、?なシーンなのだった。


で、語りたかったのはここから。

自分のバイブル、『タクシードライバー』(76)。
この映画で、ある意味においてデ・ニーロよりも鮮烈だったのが、10代の娼婦を演じたジョディ・フォスターである。

殺戮描写の多いこの映画は、成人指定を避けるために「敢えて」画面を薄暗く「加工」していることでも知られている。
いろいろと手を尽くしたが、実際に10代なかばだったジョディの年齢を偽るわけにはいかなかった。

教育課程にある少女に性的なキャラクターを演じさせるのは法的にも問題があるし、そもそも社会の倫理あるいは道徳が許さない―だから通常のシーンはともかく、デ・ニーロのズボンを下げるといった性的なシーンでボディダブルを用意する必要があった。

登場したのはなんと、ジョディの実姉だったのである。

トップ画像を見てほしい。
顔は「それほど・・・」だが、背格好がそっくり。これで、撮りようによっては「本人に見える」というわけだ。


『タクドラ』神話―もはや、神話だ―を語りだしたら切りがない、、、ので、やめておくが、
脚本家シュレイダー×監督スコセッシ×主演デ・ニーロの怒りだけで創ったとされるこの名画も、いろんなひとの努力と知恵によって生み出されたことが分かる。


関係者全員に、無条件降伏するのが映画小僧の正しいありかた、、、なのではないか。





というわけで、明日は・・・
ボディダブルの「る」を取って、「ルーカス・フィルム」を取り上げてみる。

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明日のコラムは・・・

『シネマしりとり「薀蓄篇」(2)』


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トラビスは、憤慨する。

2012-04-14 00:54:24 | コラム
最近は(多少)落ち着いてきた・・・というのもあって誘われなくなったが、
もう少し若い頃は、ヒトナミ程度には合コンというものに参戦? していた。

異性のほとんどが初対面であることが多いわけで、最初の1~2時間は「好みに対する質問と、その答え」が展開されるのが常である。

ある合コンで「好きな映画は?」と聞かれ、
待ってました! な感じで『タクシードライバー』(76)と答えたら、

「え? どういう映画? 感動系? 『スタンド・バイ・ミー』みたいなの?」

と返され、数メートルほど吹っ飛ばされた経験もあったが、
まぁその作品を知らなかったら、そういう答えだってあるだろう。(ただ、なぜ吹っ飛ばされたのかというと、彼女が「映画好き。しかもコアなほう」と自称していたから、、、なのだけれども)


その出会いから、友人関係や男女関係へと発展する可能性―は「ゼロではない」かもしれないが、
大抵の合コンは「一期一会」の雰囲気が濃厚であり、
だからこそ「自身を出す必要はなく」、それよか「好感触を得られる回答」を狙うべきなんだ、そうすりゃエッチ出来る可能性もあるかもよ? などと、自分の3倍ほど軽薄な友人はいう。

分かる。
分かるが、そもそも自分は自己主張の強い、こういう感じの勝負Tシャツを着ていくわけで、
そんなヤツが女子受けのいい、誰もが納得の好みを述べたところでリアリティのかけらもないでしょうよ。

逆に一期一会だからこそ、「そのよさ」を分かってくれる異性に出会いたいものだ―そんな風に思うわけだが、
今週の『週刊プレイボーイ』(=『飲み会 合コンで女のコに聞かれた質問に最も好印象な答えはこれだ!』)や最近のネット記事を読むと、みんなエッチをするために? いろいろ考えているのだなぁ、、、と感心する。


以下、20代女子200人アンケートを軽く引用しながら展開。

<趣味は?>

好感触の1位は当然「スポーツ全般」、
2位は「サッカー・フットサル」、3位が「料理」ときたもんだ。

じゃあスポーツをやっていればいいのかというと、そういうわけでもなく、
「野球はオッサンくさいイメージがある」(24歳)、 「体を鍛え過ぎているのはちょっと引く」(25歳)そうだ。

自分の分野「柔道」「格闘技」に反応する女子が稀なことは、この調査結果を見るまでもなく「経験」で知っている。
しかしいっぽうで「守ってもらえそう」とか、「護身術、習いたい」という女子だって居るけれどね。

だから大きく出るが、この記事読んで同じように答えようとするヤツよりかは、モテる自信がある。

ごめ。強がった。
前言に補完? し、少しだけ自信ある・・・としておく。

<好きなミュージシャンは?>

1位は「Mr.Childlen」の48人。

まぁ分かる。
実際、日本を代表するミュージシャンだし自分も好きだ。
しかし当たり前過ぎて意外性はないと思うけど。

以下、 「FUNKY MONKEY BABYS」「BUMP OF CHICKEN」「ゆず」とつづく。

なるほどねー。
でも、ほんとうに最新の調査かな? と思うのは、斉藤和義あたりが入っていないこと。

自分はいつも「林檎」「ストーンズ」、最近では「Perfume」「サカナクション」も加えるが、どうなんだろうね。

<好きな女性芸能人は誰?>

好感度ランキングだと上位は・・・
ベッキー、関根麻里、中川翔子、ローラ、梨花、、、
あたりだが、「相手の女性とどこか外見や中身が似ているひと」をチョイスすべき―なんだそうだ。

なんか、めんどくせーな。

このあたりまで読んで、あぁそうか、自分は根本的にハウツー系? の記事や本が苦手であったことを思い出す。
『ジョークが上手くなる本』みたいなのがあるが、それを読んでいる図が最大のジョークであって、そのとおり実践したひとが人気者になった話―なんて聞いたことがないぞ。

だから、とりあえず「かしゆか」「こじはる」「北乃きい」「夏目三久」「忽那汐里」と正直に答える。

<好きなお笑い芸人は?>

1位は「さまぁ~ず」の32人、
2位以下は、「ダウンタウン」「チュートリアル」「バナナマン」「くりぃむしちゅー」などなど。

へぇ、意外。
2位以下より、1位が。
それに、コンビばかりでピンが居ないのね。

自分?
1位は不動で松本人志だが、次にくるのはザキヤマ山崎弘也、あるいは有吉弘行か。

この回答にかぎっては「差異」をあまり感じないものの、いずれにせよあれだ、

戦略練ってポカをするくらいだったら、ありのままで引かれちゃったほうがいい。


とはいえ自分だって・・・
そういった「事前にリサーチする」みたいなことはしないが、多少のハッタリはかますわけで。

しかし、少し前にAV女優にインタビューしたとき、
「合コンで深夜になって、下ネタが解禁されたの。それはいいんだけれど、“俺、すごいから”というのにかぎって、ぜんぜんすごくなかったりする」といっていたからね、

自分をコトサラ大きく見せるより、
逆に小粒感を出しちゃったほうが、現在の女子には可愛がって? もらえるのかもしれない。


・・・って、結局、女子受けを期待してんじゃねーか!!

そう自分ツッコミをしてみたら、背後にトラビスの影が。

怒っている。
ご立腹である。
いやもうこれは、憤慨といっていいレベルだ。
銃があったら、まちがいなく撃たれているだろうね。


ごめんよトラビス、自分は、君にはなれんのだ。


※最近は、(女子受けを狙っているわけでなく)このひとたちの曲も割と好きだ。





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好感と悪感

2012-04-13 00:15:00 | コラム
出会うひとすべてに好かれようと思って生きていない。だってそんなの、疲れるから・・・というひとも多いだろうが、自分だってそう。

ただ好いているひとには好かれたいし、
「どうとも思っていないひと」に対しても、積極的に嫌われようとしているわけではない。
ないけれども、大抵? は、その思いの逆となり、好かれたいひとに嫌われ、嫌われてもいいひとに好かれる、、、というのが、この世の不思議というか、面倒なところ。

理想をいえば・・・
同性限定では、
嫌いなんだけれど、無視出来ない―そんな存在でありたいし、
異性限定では、
そりゃまぁ、全員に好かれたいがな。やっぱりね。


英国の映画雑誌『Total Film』が、粋なランキングを発表した。
題して「好感のもてる映画キャラクター50人」。

以下がその20位までだが、こういう楽しい企画、『キネ旬』とかでもやればいいのに。


(1)マーティ(マイケル・J・フォックス)=『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)
(2)ジョシュ(トム・ハンクス)=『ビッグ』(88)
(3)サリー(メグ・ライアン)=『恋人たちの予感』(89)
(4)ジーニー(声:ロビン・ウィリアムズ)=『アラジン』(92)
(5)ジョージ(ジェームズ・スチュワート)=『素晴らしき哉、人生!』(46)
(6)アメリ(オドレイ・トトゥ)=『アメリ』(2001)
(7)マクマーフィ(ジャック・ニコルソン)=『カッコーの巣の上で』(75)
(8)ショーン(サイモン・ペッグ)=『ショーン・オブ・ザ・デッド』(2004)
(9)アティカス・フィンチ(グレゴリー・ペック)=『アラバマ物語』(62)
(10)インディアナ・ジョーンズ(ハリソン・フォード)=『レイダース/失われたアーク』(81)
(11)マージ(フランシス・マクドーマンド)=『ファーゴ』(96)
(12)チューバッカ(だれが入ってる?)=『スター・ウォーズ』(77)
(13)ドク(クリストファー・ロイド)=『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
(14)サムワイズ(ショーン・アスティン)=『ロード・オブ・ザ・リング』(2001)
(15)ウッディ(声:トム・ハンクス)=『トイ・ストーリー』(95)
(16)アルフレッド(マイケル・ケイン)=『バットマン・ビギンズ』(2005)
(17)アンディ(スティーブ・カレル)=『40歳の童貞男』(2005)
(18)ビル(アレックス・ウィンター)&テッド(キアヌ・リーブス)=『ビルとテッドの大冒険』(89)
(19)レイモンド(ダン・エイクロイド)=『ゴーストバスターズ』(84)
(20)バディ(ウィル・フェレル)=『エルフ サンタの国からやってきた』(2003)


なーるほど、それなりに納得。
個人的にはドク(13位)のほうが好きだが、マーティが1位であることに異論はない。
うれしいのは7位のマクマーフィ、
笑ったのが12位のチューバッカ、
意外なのは3位のサリーか。
魅力的なキャラクターであることは確かだけれど、ここまで支持を集めるとは。


というわけで、自分もやってみた。

1位は「やっぱりね!」なチョイスだし、ひとによっては嫌悪しか抱かないだろう。
しかし愛しちゃっているのだからしょうがない。


(1)トラビス・ビックル(ロバート・デ・ニーロ)=『タクシードライバー』(76)
(2)ロイ・バティー(ルトガー・ハウアー)=『ブレードランナー』(82)
(3)権藤金吾(三船敏郎)=『天国と地獄』(63)
(4)工員・浮浪者チャーリー(チャールズ・チャップリン)=『モダン・タイムス』(36)
(5)マクマーフィー=『カッコーの巣の上で』
(6)エイダ(ホリー・ハンター)=『ピアノ・レッスン』(93)
(7)セーラー服の少女(久我美子)=『酔いどれ天使』(48)
(8)スパッド(ユエン・ブレムナー)=『トレインスポッティング』(96)
(9)エイドリアン(タリア・シャリア)=『ロッキー』(76)
(10)コウ(成龍)=『奇蹟』(89)

本家のランキングのほうにバティーが入っていないのは、ブレラン支持者からブーイングが起こると思うけど。


ただ、この世に嫌われ者が絶えないのと同様、
好感を持つキャラクターだけではドラマは成り立たない、、、というのが、表現の面白さでもあり難しさでもある。

では忘れたころに、悪感キャラクターを特集した企画でもやってみようかしら。
『セブン』(95)のジョン・ドゥに、『エクソシスト』(73)の悪魔、究極的にいえば『ゆきゆきて、神軍』(87)の奥崎さんもそうだし・・・・・。


※観ていないひとは、すぐにレンタル屋さんで借りてきてほしい。
『カッコーの巣の上で』予告編。





あすは、まったく別の方向から、同じテーマを語ってみる。

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『トラビスは、憤慨する。』


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初体験 リッジモント・ハイ(3)

2012-04-12 00:20:00 | コラム
「おはつ」アルバイトの話、最終回。

「―はい、『清流』です」

受話器から聞こえてくるこの声だけで、支配人・新名さんであることが分かった。

「すいません、『眠る男』の上映時間を知りたいのですけれど」
「申し訳ありません、『眠る男』は既に上映終了しています」
「あ、そうなんですか」
「はい」
「・・・入りは、、、どうでしたか」
「そうですねぇ、“そこそこ”といったところでしょうか」
「そうですか、ありがとうございました」


結局、自分を名乗ることをせずに電話を切ってしまった。

デートの誘いじゃあるまいし、なにをそんなに緊張しているんだか。
『眠る男』は話すきっかけに過ぎず、ほんとうは、
東京でちゃんと映画の勉強を続けている―という報告と、
タランティーノ元気ですね、もちろんデビューまで知らなかったアンちゃんだけれども、レンタルビデオ店で働きながらシナリオを書き続けた日々・・・って、感慨深くないですか―という質問をしたかったのに。

『眠る男』(96)は、役所広司が主演した群馬県出資の観光PRとはいえない? ちょっと哲学の入った映画である。
ハリウッドがなにかを記念する作品にテレンス・マリックを指名するようなもので、群馬出身だからと小栗康平に制作依頼してしまうところが、なんとも渋い県ではある。
小栗は疑いようもない名匠ではあるが、そういう類の? 映画は向かない。
群馬県民であれば500円で鑑賞出来たということもあり、入りは上々。しかしほとんどの観客はタイトルのごとく「眠って」しまったというのだから、ちょっと質の悪い冗談になってしまった。
いい映画、なのだけれどもね。


この電話の2年後―場末の映画館『清流』は潰れてしまう。
自分はこの話を「ねーちゃんからの手紙」で知ったが、「ひょっとしたら建て替えるのかも、、、」という甘い期待を少しだけ抱いていた。

が、

それから2年を経て、隣の太田市にシネマ・コンプレックスがオープンする。
これを聞いて、あぁ、もうないな・・・と思った。

ほぼ同じ時期に・・・
自分が専門学校を卒業して働き始めた映画館『多摩カリヨンシアター』も閉鎖。
ついでにいえば、多摩地域で唯一営業していた「ドライブ・イン・シアター」も業績不振により閉鎖。
この90年代末~2000年代はじめこそ、映画業界の変革期であったのだ。


自分の給料は、夏休みでもせいぜい13万円前後。
しかし、その程度の給料でさえ「牧野、申し訳ない。今月は苦しくて、一気には出せない。二ヶ月に分けても構わないか?」といってきた新名さんの恥ずかしそうな顔が忘れられない。

このアルバイト先で「社会に出て、役立つこと」を教えてもらったわけではないけれど、
商売の厳しさと、映画界の裏側を「軽く」覗き見ることは出来た。
だからこそ電話で、感謝のヒトコトくらいはいうべきだったよなぁ、、、とイマサラながらに思うのであった。


一般には人気の高い『ニュー・シネマ・パラダイス』(89)は、
じつは映画マニアのあいだでは「ベタ過ぎる」という理由から、好きな映画として挙げると馬鹿にされる傾向にあったりする。

そんな阿呆な! と思うが、実際にそうなんだ。
しかし、たとえベタと馬鹿にされようが、同じような経験をしてきた自分にとっては宝物のような映画である。

町・街の映画館の危機―いま、それが都心のミニシアター業界を襲っている。

みなさん、映画館に行きましょう。
映画の日でも女性サービスデーでもいいから、とにかく行ってください。


「おはつ」アルバイトの話、おしまい。


※映画のなかで登場した、印象的な映画館のシーン。
『ケープ・フィアー』より、葉巻をくわえながら大袈裟に笑う悪人デ・ニーロ。
このライターが、ほしくてたまらない。
かかっている映画もまた、スコセッシらしくてよろしい。





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『好感と悪感』


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初体験 リッジモント・ハイ(2)

2012-04-11 00:15:00 | コラム
きのうのつづきで、「おはつ」アルバイトの話。

映画館『清流』で、自分の手により映写した作品をいくつか挙げてみる。


(順不同)

『バック・トゥ・ザ・フューチャー PART3』(90)…「PART2」を鑑賞した帰りに「バイト募集」の貼り紙に気づき、そのまま面接をした。

『トータル・リコール』(90)
『フィールド・オブ・ドリームス』(89)
『稲村ジェーン』(90)
『息子』(91)
『タスマニア物語』(90)
『ダイ・ハード2』(90)


自分が執拗なまでに『稲村ジェーン』を嫌悪・罵倒しているのは、これほどつまらない作品を、少なくとも50回は観なければいけなかったから、、、なのかもしれない。

ほかの映画小僧に聞いても、「『稲村ジェーン』? あぁ、そんなのあったね。桑田さんもキャリアから消したいんじゃないの」という程度の認識なのに、
自分はいつまで経っても「最悪の出来だった。映画史上で揺るぎないワーストに輝く、唾棄すべき作品だよ」と、いい続けているのだから。

逆に『フィールド・オブ・ドリームス』は何度観ても飽きることがなく、楽日を迎えることが悲しかった。


『清流』には、ふたつの「箱」があった。
ともに座席数は400~500、スクリーンも大きく、ただ座席そのものの座り心地は「う~~ん、、、」という感じ。

ハリウッド産のビッグバジェットがかかれば、初日から数日間は7割程度の入りを確保出来る。
しかし基本的には5割以下の入りで、ぎりぎりの経営が続いていた。

好きでなければやっていられない―そういう仕事なのだろう。
支配人は脚の悪かった新名という中年男性で、実際に「超」のつく映画小僧だった。

ただ商売というのも自覚していて、自分が「『稲村ジェーン』なんかより、武の『3-4X10月』をかけてくださいよ」というと、
「いい映画かもしれんが、あれはダメだ。客が入らないもの」と切り捨てたのである。

新名さんの若かりしころは、知らない。
いまの自分には他者の過去に「ずけずけと」入り込んでいく無神経さがあるが、
当時はまだ童貞野郎だったのである、基本的には聞き役で「はぁ」とか「はい」とか相槌を打ち続けるようなガキだった。

ただ分かっていたのは、新名さんも映画監督あるいは脚本家に憧れていた―ということ。
事務所には、万年筆と原稿用紙が置かれていた。暇を見つけては、シナリオを書いていたのだ。

自分が休憩中に専門誌『月刊シナリオ』を読んでいると・・・

「なんだ、牧野もホンを書きたいのか」
「えぇ、ちょっとやってみようかな、、、と」
「これ、読んでみるか」

表紙に『ちょうちん』と書かれた、新名さんのオリジナルシナリオだった。

「書き上げるのに、3年も要したよ」
「・・・3年、、、も」
「時間がないんじゃない、ふだん映画についていろいろいっているけれど、いざ自分がやってみようとすると、その無力さを痛感する、、、というかね」
「・・・・・」

その『ちょうちん』、どんな物語だったか、はっきりいって覚えていない。
感心はしなかったが、映画への表現への深い愛情だけは感じられた。(なんかエラソーだな、自分)

「牧野はこれからの人間だし、東京に行ったほうがいいんだろうな」
「自分も、東京に憧れています」
「うん、なにより情報量がちがう。映画館だって、同じ街に沢山ある」

まるで『ニュー・シネマ・パラダイス』(89)の世界だが、ほんとうにそんな日常だった。


ほとんど同じ時期に「新名さんと同じような状況下で」シナリオを書いていた若者が米国に居た。
QTこと、クエンティン・タランティーノである。

映画学校には通わず、また、8mmで自主制作を展開したわけでもなく、映画監督への道を切り開いた先駆者。(QTに対する思い入れの強さは、その独特なキャリアによる・・・と自負するのは、自分以外にも沢山居ると思う)

QTが出現したとき、まず想起したのが新名さんだった。
すでに上京していた自分はQTについて新名さんの感想が聞きたくて、久し振りに『清流』へ電話をしたのだった。


※トップ画像は、ジェニファー・コネリー主演の『恋の時給は4ドル44セント』(90)。
バイト青年の前に現れた美女、、、という米産のコメディ。
憧れるシチュエーションだが、場末の劇場にそんな美女は現れなかった。


※へぇ、『トータル・リコール』がリメイクされたのか。





あすに、つづく。

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『初体験 リッジモント・ハイ(3)』


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