芥川賞受賞作です。もう単行本化されているようですが、雑誌で読みました。なので、まずは選考委員の選評から。
◎川上弘美 不穏さが満ちていて、その不穏さはこの作者にはいつもたゆたっていたものではありますが、たくらみを凝らして見せよう、というものを作者が試みてたことがおもしろい。
○小川洋子 自分が書くべきものを確かにつかんでいる。掌の肉に食い込むほど強く握り締めている。その痛みをこらえてこちらに見せようとしない柴崎さんの粘り強さに祝福を送りたい。
×村上龍 評価できない。感情移入できなかった。描写は作者にとってもっとも重要で、ほとんど唯一の武器である。(冒頭の記号がよくない)
◎ 山田詠美 目の良い書き手には本来見えないものも映し出せる。
などなど。一流の作家というのは、借り物ではない自分の強い言葉があることに、まずは感服してしまいます。受賞作を読む前に、選評に感心してしまうというのは、いつものこと。
で、当の作品ですが、雑誌を私に廻してくれた友人は、おもしろくなくて途中でやめたとのことでした。私は案外おもしろく、最後まで読みました。でも終始主人公が住んでいて、取り壊されることが決まっているアパート(巳とか辰とかという部屋の名前がある)と隣の家への興味で貫かれていて、写真集にもなっている隣の家が、だんだんとその姿(中身も)が現れてくる、というストーリーとは呼べない内容。
私は「家」が好きなので、この作品を興味深く読めたのであって、「人」が好きな人にはダメなのかも。そして児童文学ではこの手の作品はあり得ないなあとも思った次第でした。最後のほうで、視点がいきなり、それまでは出ていなかった主人公の姉になってしまうのは中途半端でいただけなかった。他にもネタバレになるので具体的には書きませんが、ラストのほうは、好きじゃなかったです。でも全体を通して細部の描写がよく見えて、ふっと「家」の「部分」が目の前に現れるような作りに好感が持てました。というところです。
犬蓼(イヌタデ)