うめと愉快な仲間達

うめから始まった、我が家の猫模様。
犬好きな私は、チワワの夢を見ながら、
今日も癖が強めの猫達に振り回される。

ウフフのウヒヒ 

2022年10月02日 | カズコさんの事

金曜日は、かずこさんのデイサービスの日だ。

かずこさんは、毎週嫌がらずに出かけていく。

 

おはようございます。

デイサービスを理解していないし、覚えてもいない。

毎週、金曜の朝に説明をすることから始まる。

「今日は、お出かけするで~。」

「どこへや?」

「女の園へ行くんやで~。」

かずこさんが行く金曜日は、

利用者さんが、みな女性なのだ。

施設のスタッフさんも、ドライバー以外は、みな女性だ。

金曜日は、紛れもなく、女の園なのだ。

 

9月から通い出したデイサービス、

毎週、休まず嫌がらず出かけるが、帰宅は毎度早引きだ。

午前の部で、手作業(塗り絵など)を済ませ昼食を食べた頃、

決まって、私の携帯が鳴る。

「デイサービスのカミヤです~、すみませ~ん。うふふ、うふふふふふ・・・」

「おかっぱです~、ごめんなさ~い。うふふ、うふふふふふ・・・」

カミヤさんと私も女同士、この『うふふの呼吸』で、全て伝わる。

かずこさんが帰りたいと言えば、いつでも迎えに行くということは、

初めからの話だった。

その時の状況で、私が迎えに行ったり、施設側に送迎してもらったりしている。

とにかく、かずこさんも施設側も、私も、

なるべく無理をごり押ししないように心掛けている。

ケアマネージャーさんも、

「気長に行きましょっ!」と、ドンと構える男前な女性だ。

 

かずこさんが関わっている男性医師も2人いて、

今、かずこさんは力強いプロ集団に守られている。

それでも、どうにもならない時はある。

先週の金曜日、かずこの中の化け物が久しぶりに暴れた。

そうなると、気丈なはずの父が

「体の震えが止まらん。お前、来てくれ。」

と、私を呼ぶ。

私は、化け物になったかずこを、恐れはしない。

私にとって、昔から、あの人は化け物だった。

 

母は昔から、自分のことを「神さんの子」「神に選ばれた人間」と、

よく言っていた。

「お前みたいな者とは、違うんや」

と言って、私を虐げることで、心のどこかを慰めていた気がする。

そんな時の母は、神々しいどころが、おどろおどろしい化け物に見えた。

そのくせ、着飾って外を歩く母は、

全身の神経が研ぎ澄まされた野良猫みたいに美しかった。

そして、誰かの嘘にはズバ抜けて敏感だった。

半面、見え透いた煽ては真に受けてしまうものだから、

昔、信仰していた宗教家の煽てに乗せられて、

自分が神に選ばれた者だと信じ込んでしまったのだ。

母は、それほどに、外を恐れていたのだろう。

この世を、この社会を、人を、恐れていた。

「神さんの子」であることが、母の唯一の支えだったに違いない。

一歩でも外へ出れば、神経を研ぎ澄ませ、

誰かの嘘に傷付き、疲れ果て酒をあおり、そうしてやっと、母は笑った。

母が笑う顔を見るのは、酒に酔っている時だけだった。

 

金曜日、

かずこさんは、デイサービスを早退した2時間後、

今度は、父からの電話で、私は会社を早退した。

「ババが暴れとる。どうにもならん。」

かずこの中の化け物のお出ましだ。

私は、道中、作戦を練るながら実家へ向かった。

「かずこさん、どうした?」

「なにがや?」

へっ?

「母さんが暴れとるで、抑えつけに来たんやん?

紐でも持ってきたろかっと思ったけど、こうしてからに、こうしてやろうと

腕ずくで抑え込んで、そこらへん引きずり回してやろうと思ってさ。」

と、大げさに羽交い絞めの恰好をしながら、

「だで、買い物行くかい?」

と、言った。

すると、かずこさんの不気味に据わっていた目が、細くなった。

 

笑った、笑った、かずこが笑った!

 

しめしめと思ったら、後は本当に引きずり回す。

なるべく広いショッピングセンターへ連れ出し、歩き回るのだ。

文字通り、日が暮れるまで、私とかずこさんは

ウィンドウショッピングに興じた。

それでも、まだまだ、かずこさんの責め苦は終わらない。

帰宅後、

「明日もやで~。明日もヘトヘトになるまで、遊ぼうな~。ウヒヒヒ」

一旦、化け物が起き出すと、数日出しゃばっている。

要は、アルツハイマーのせいで、脳の興奮が抑えられなくなるのだ。

鎮めるために、さらに興奮させて、疲れさせるという作戦だ。

怒りの興奮を、楽しい興奮に置き換えてから、疲れさせる。

人の記憶は、認知症によって失われるが、感情の記憶は失わないとされている。

現に、かずこさんはデイサービスの経験は忘れるが、

そこが楽しかったという感情は忘れていないから、行くのを楽しんでいるのだろう。

 

不敵に笑う私に、かずこは、呆れた風に言った。

「お前は、化け物みたいな奇妙は人間やな~。」

そうだ、その通り。目には目を、化け物には化け物だ。

少なくとも今は、私はかずこを上回る、奇妙な化け物であり続けるつもりだ。

名付けるとするならば、『お笑いお化け』だろうか。

そして、今のかずこなら、容易い。

昔、酒をあおらないと笑わなかった化け物は、

皮肉にも認知症になったおかげで、酒がなくとも笑えるようになった。

その笑顔は、陽だまりに佇む飼い猫のように愛らしい。

だから私は、かずこを笑わせるのが癖になってしまった。

かずこの笑顔に憑りつかれた、お笑いお化けだ。

そう考えると、やっぱり、かずこは恐ろしい化け物だ。

 

さて、我が家にも、化け物?

のんちゃん、また、ベッド着てるのか?!

そんなことしてると、誰か踏まれるよ?

 

とはいえ、さすがに気付くよねって・・・

たれ蔵?

いや、たれ蔵?

 

たれ蔵「はっ?!のんちゃん、居たの?」

今、気付いたの~?

 

たれ蔵「ごめんごめん、急ぐね」

気付いても、一応踏みつけていくのね?

もう引けないのね?

 

たれ蔵「あぁ、びっくりした。」

 

たれ蔵「まさか、のんちゃんが居るとは」

 

まさか、たれちゃん?

よい子のたれちゃん、わざとやってない?

たれ蔵「うふふ、うひひ」