うめと愉快な仲間達

うめから始まった、我が家の猫模様。
犬好きな私は、チワワの夢を見ながら、
今日も癖が強めの猫達に振り回される。

本当の、初めて物語 (補足的に追記したです)

2022年10月12日 | うんこの事

思い出さないように、

いつも通りを過ごそう。

 

おはようございます。

「今日は、そんな感じでいこう」と決める前に、

午前3時、不意に目が覚めた。

おかしな時刻に目が覚めるもんだと寝直そうとしても、

どうにも眠れない。

「そうか・・・」

10月11日の午前3時は、うんこが死んだ時刻だった。

こうなると、思い出さずにはいられない。

そして私は、うんこと初めて出会った日を思い出した。

 

「俺も、姉さんの猫になりたい」

男は、鳴き疲れて喉が潰れた捨て猫みたいな声で言った。

思いもしない言葉に、私はハッとして男を見た。

捨て猫みたいな声をした男の眼は、捨て猫とはまるで違っていた。

捨て猫は、こんな眼をしない。

絶望の最中に、強烈な希望の光を放つものだ。

けれど男の眼は、絶望の闇で濁っていた。

私は怖気づいたが、それに気付かれたくなくて、

虚勢を張るように、男に名前を付けてやった。

「じゃあ・・・そうだ。ミーちゃんって呼んであげる。」

私のボキャブラリーの中では、もっとも猫らしいと思える名前だった。

 

それ以来、

男は当たり前のように、私のボロアパートに住み着いたように見えた。

離婚して引っ越したばかりの部屋には、

猫3匹とキャットタワーと猫のトイレ以外、ほとんど何もなかった。

4月、夜はまだ冷えたが、男の体が大きかったおかげで、

私も猫らも、暖を取るにはちょうど良かった。

「ミーちゃんは暖かいわね。」

女とメス猫3匹に集られる男は、静かに微笑んでいたが、

その眼は、相変わらず、奥深くまで濁っているように見えて、

私は言い知れない不安を抱いていた。

 

男は猫らしく、ふらっと出かけて行った。

何日も帰らないと思えば、当たり前のように帰ってくる。

何度目かのミーちゃん不在日、夜中に携帯が鳴った。

「姉さん、助けて!お願い、助けて!」

男は一旦出かけると、2~3日は連絡もなく帰ってこなかった。

私は、それを問いただしたことがない。

猫だもの。仕方ない。

きっと、他でもご飯を貰っているのだろうと覚悟していた。

それが、この日は珍しく電話を寄こしてきたのだ。

「どうしたの?ミーちゃん?」

「昨日から、子猫がいるの。

昨日の夕方、歩いていたら、俺の目の前に落ちてきたんだ。

カラスが糞したのかと思ったら、違うの。

よく見たら、小さな子猫。

でも、俺・・・拾えるような状況じゃないから、植木の下に置いた。

姉さん、ごめん。

もうすぐ産まれるんだ。別れたはずの女が出来てて、

今更、産みたいから責任取れって言ってきかないの。

そいつが、子猫なんて放っておけばいいって言うんだよ。

俺、俺・・・どうしたらいい?」

 

男からの電話は、思いがけない内容だった。

子猫も子供も、あまりに唐突だ。

何が正解かなんて考えも出来ないまま、私は言葉を発していた。

「ミーちゃん、今すぐ来て。子猫を連れて来て。早く!」

 

しばらくして、男は来た。

待っている間、男に何を言ってやろうかと身構えていたけれど、

男の手の中の子猫は、想像していたより、遥かに小さくて驚いてしまった。

「うわ~、まだ赤子じゃない?!よく頑張ったね。」

24時間以上、外で生き抜いた割に、悲壮感を感じない子猫だ。

むすっとした顔が、まるで貫禄のある、どこぞの親方みたいだった。

「姉さん、ごめんね。ごめんね。」

ひたすら謝る男に、疑問も苛立ちも、悲しみも湧いてこない。

いや、あったのかもしれない。

けれど、男から手渡された小さな子猫が生きている。

私は、それだけで、充分な気がした。

だから、

「私は、この子を私の子として育てる。

ここからは、私だけの手で、必ず幸せにする。

貴方は、もう、ここへ来てはダメ。逃げてはダメよ。」

と伝えて、玄関のドアを閉めた。

 

涙は、不思議と出なかった。

「負けるもんか。負けるんじゃない。

この子は、誰よりも幸せにするんだから。あたしの子なんだから。」

私はそう決意して、ミーちゃんという名前を完全に捨て切るように、

子猫に、なんとも猫らしくない名前を付けた。

「うんこだ!お前は、うんこだよ。あたしの子だよ。」

 

あれ以来、私は誰にも、この話をしていない。

「うんこは、私の元へ空を飛んでやって来たんだよ。」

うんこ自身にも、そう嘘をつき続けた。

私を親だと疑わない、うんこに、一度でも

「放っておけばいい」だなんて言葉を掛けられた記憶を、

絶対に思い出させたくはなかった。

寒い4月を独りきりで乗り切ったことも、カラスに食べられそうになったことも、

何もかも、思い出させたくはなかったんだ。

 

あぁ、やっと白状した。

うんこ、もういいよね?

 

嘘をつき続けて、皆さん、申し訳ありませんでした。

これが、本当の、うんこの初めて物語でした。

 

昨日の夜は、仕方ないから、

うんこの好きなケーキを食べたよ。

うんこ、これだろう?

これが食べたいから、午前3時に私を叩き起こしたのだろう?