うめと愉快な仲間達

うめから始まった、我が家の猫模様。
犬好きな私は、チワワの夢を見ながら、
今日も癖が強めの猫達に振り回される。

風が吹くまで、四日間

2022年10月22日 | 日記

ある日、私は、

壁に留まるアシナガバチに気が付きました。

 

おはようございます。

会社のトイレには窓が着いており、その窓から、たまに虫が迷い込む。

それが、蜂であることも珍しくはありません。

 

一日目、

便座に座ってから、天井近くの高い壁に、それは居ました。

黒と黄色の縞模様をした、大きなアシナガバチです。

便座に座っていては、もう逃げることはできなかった。

私は身をかがめて用を足し、慌ててトイレを出たのです。

「次は、こうしよう」

頻尿の私は、トイレの回数が人より多い。

何度も行くとなれば、比較的穏やかとされる種類の蜂であっても、

刺される確率が上がる。

そう思い、私は白いタオルを頭にほっ被りして、トイレへ行くことにしました。

蜂は、黒い物に危険を感じて攻撃をするということを、私は知っていたからです。

だから、黒髪を隠そうと思い立ったのですが、

この日の服装は、全身真っ黒であったことは、見落としていました。

それほどに、私は蜂が怖かった。

闇雲に頭だけ白いほっ被りをして、全身真っ黒なまま、

5回ほどトイレへ行っては蜂に慄いて、

それでもこの日は、何事もなく無事に終わりました。

 

二日目、

私は真っ白なカーディガンを羽織って会社へ行きました。

とはいえ、さすがに蜂は窓から出て行っただろう。

そう願いながら、会社に着くなり、真っ先にトイレへ向かいました。

けれど私は、真っ先に蜂を確認せず、流れるように便座へ座ってしまった。

これが条件反射です。

トイレを見ると、自ずと下着を下げる条件反射なのです。

そのまま便座に座ってから、

恐る恐る天井近くの壁に目をやると、蜂は居ました。

昨日居た場所とほとんど変わらない位置に、同じように留まっていた。

けれど、蜂の様子は、昨日とは、少し違って見えました。

「あらっ、生きてる?」

目を凝らすと、蜂は、足のように長い触角を小刻みに動かした。

「あぁ、生きてる。」

この日私は、仕事をしていても、頭の中はトイレのことばかり考えていました。

窓は開いている。

なのになぜ、あの蜂は出て行かないのだろう。

気付けば、私はパソコンで『アシナガバチ』を検索していました。

そして、『10月~11月にかけて、女王バチ以外は死んでしまう。』という事を知ったのです。

私は思わず席を立ちました。

便意も尿意も感じていないけれど、トイレへ入ったのです。

「ねえ貴方、こんな所で死んでしまうつもり?」

すると、蜂は体に張り付いていた羽をピンと立たせた。

「死ぬ?誰がそんなことを決めたんだい?」

「だって貴方、もう蜂じゃないみたいよ。

昨日は黄色かったところが、黒くくすんでいて、羽だってシワシワよ。」

上向きに留まっていた蜂は、体を反転させた。

「ならば、俺は蜂じゃなくなったというのかい?」

「いえ・・・。ねえ、どうしてここに居るの?」

窓から覗く空は真っ青だ。

「ねぇ、私がここから出してあげましょうか?」

蜂は、立たせていた羽を寝かせた。

「俺は今、風を待っているんだ。」

「風?」

「俺を正しい場所へ乗せて運ぶ風さ。」

「何処から吹くの?」

「この体から風は吹く。それを待っている。」

「正しい場所って、どこ?」

「今は、どこかなんて分からないさ。」

再び窓の外に目をやると、やはり空は青く太陽は頼もしい。

野原に舞う黄色い蝶々が、この陽気に包まれて喜んでいるように見えた。

「こんな所で独りで待っているなんて、怖くないの?」

「何が怖いことがあるものか。

お前は自分に吹く風を信じていないのか?

俺達は、いつだって、風を信じている。

この体に吹く風に乗って生きて来たんだ。何も、怖いことなど無い。」

これ以来、何度見ても、蜂は羽を立たせることは無かったけれど、

私は蜂を、そっとしておくことに決めました。

 

3日目、

私はトイレに入り、まず床を見ました。

死んだ蜂が転がっているのではないかと思っていたからです。

けれど、落ちているのは取り損ねたトイレの紙の破片だけでした。

まさかと見上げると、蜂は居ました。

「まだだったか。」

風は吹かなったし、命は尽きなかった。

私は一応と思い、5センチほど開けられている窓を全開にしておきました。

何度トイレに入っても、蜂は動かない。

体はさらに、黒ずんできたように見えて、

私は蜂に話しかける気にもなれませんでした。

蜂を気にするのは、もう止めておこうとさえ思ったのです。

 

4日目、

私の服装は、また真っ黒でした。

もう蜂に刺される心配など全くする必要はないと諦めていました。

けれど、蜂はまだ、壁に留まっていた。

そして私は、驚きました。

真っ黒にくすんでいたはずの体の縞模様が、ハッキリ見えたのです。

体も、大きく膨らんでいるようにさえ感じ、

私は反射的に「怖い」と感じました。

この時の蜂には、蜂が怖い、という普通の感覚を覚えたのです。

同時に、胸が高鳴りました。

これまで私は、蜂の亡骸を見ることしか、想像していませんでした。

あの萎れた羽では、到底飛ぶこともできないだろうと。

けれど、力強い蜂の姿に、もしやと思えたのです。

そして思わず、声に出してしまったのです。

「風よ、吹け!」

仕事の合間に外へ出てみれば、

空は真っ青で、汗ばむほど気温が上がっていました。

ここ最近、天気がいいわりに肌寒いと感じていたくせに、

この日は、むしろ暑かった。

風よ、吹け!

 

午後2時、

私は蜂の様子を伺うために、トイレへ行きました。

しかし、蜂はどこにもいなかった。

床の隅々まで探し、トイレ用のスリッパを振ってみた。

窓のサンに挟まっていないかも確認した。

けれど、蜂の姿はどこにも無かったのです。

トイレを出て、私は外へ飛び出しました。

念のため、玄関から乗り出せば見える、トイレの窓も外から確認した。

そして私は、空を見上げて、

「風・・・本当に吹いた。」と呟きました。

 

再び飛び立つならば今だという日に、

蜂は、自分の行くべき正しい場所へと風に乗って行ったようです。

最近の私は、自分を信じることに萎えていた。

独りで待っていることに怖れてもいた。

だからか、あの蜂が気になって仕方なかったのかもしれない。

そして、一匹の蜂に、

自分の風を信じようと、思い直したのでした。

 

さて、我が家のたれちゃんも、

風のようにやってきたけど・・・

たれちゃん?

母ちゃんの足、踏んでるよ?

ちょっと、おどんなたれ蔵は、そんなことは気にしない訳で、

お尻トントンをして欲しいらしい。

 

たれ蔵「母ちゃん、トントンして」

はいはい、お尻トントン

 

たれ蔵「ぴぴぴぴぴー」

お尻は、スイッチみたいだね。