maria-pon

お着物Enjoy生活からバレエ・オペラ・宝塚etcの観劇日記に...

英国ロイヤルバレエ団「白鳥の湖」 千秋楽

2013-07-29 02:28:39 | BALLET
2013年7月14日(日)に千秋楽を迎えた英国ロイヤルバレエ団のJapanTour,
最終日の「白鳥の湖」ダウエル版について、舞台の感想を・・・。

2013年7月14日(日)13:00 東京文化会館にて 


このダウエル版は初演が1987年3月12日。
時代設定を、この作品が作曲された19世紀後半に改めた、というのが独自の視点。
ですので、王子の衣装は宮廷における士官服の趣、執事のフロックコートや燕尾は現代に近く、ご婦人たちのドレスはバッスルスタイル、民族衣装は従来の「白鳥の湖」とさほど変わらないため、若干時代が錯綜しているようにも見えますが、ちょうど時代の転換点を舞台にしているためとわかって納得。
振付に関しては、20世紀に考案された重要な改訂は保持しつつ、可能な限り1895年のプティパ=イワノフ版を再現している、とのこと。
1幕で酔っぱらった家庭教師ベンノを翻弄する娘2人が、小学高学年くらいの子役(日本人のバレエ学校生?が出演していました^^)だったり、宮廷の外で羽目を外すジークフリートの前で披露される若者と娘達による田舎の踊りが、メイポ―ルをセンターにしてそこから伸びたリボンの端をダンサーが持って、複雑な動きの群舞が進むにつれてリボンが編まれていく・・という「リーズの結婚」などで観られる手法が取り入れられていたり・・がなんとなくロイヤル・バレエ風味。
実際には、1幕のワルツはデヴィット・ビントリー、3幕のナポリがフレデリック・アシュトン、で他はすべて、プティパ=イワ―ノフの原典重視だそう。

宮廷場面の白眉はジ―クフリ―ドの母である王妃役のエリザベス・マクゴリアン。
長身・美貌の彼女は10頭身はあろうかという驚異のバランスと存在感で、ドレスシャツのような白い胸当てがついた簡素な上半身にこれでもかと装飾の施されたスカート部分の対比が独特な赤いベルベットのドレスで登場して、目を惹きます。彼女とギャリーが王妃とロットバルトに入ってくれるだけで、もうロイヤルバレエの白鳥の湖は完成したも同然?!
配役表をみて小さくガッツポーズをした瞬間その1、です。

主役のジ―クフリ―ド王子、ディアゴ・ソアレスはこの版独特の簡素な濃紺の軍服が似合います。
更に言うなら、王子の友人6人衆が日本人ダンサーの平野亮一さん、蔵健太さんを含めて長身でがっちりとバランスのとれた男性的な体躯のダンサーで固められたキャスティングのため、若い士官集団として、やや体育会系の独特な存在感を示していて、宝塚で軍服を見慣れているわたくしでも、2度見する新鮮さ^^;
ソアレスは白鳥オデットと出会ってからは恋のとりことなるわけですが、それまではやや不機嫌そうな苦虫をかみつぶしたようなニヒルな表情で、ちょっとコワモテ。
誰かに似ている・・・と思ったら、鷹の爪団の吉田君でした^^;(こら)



対するオデット、マリアネラ・ヌニェスは、豊かな表情とやや筋肉質なアームスで、静謐・高貴なマリインスキーのロパートキナのオデットを持ってして「白鳥の湖」であるとするわたくしの定義からは大きく外れる役作りでしたが、ソアレスとのパートナーリングもさすがに息が合っていて、互いに一目で心から惹かれあい、オデットが自分の人生を託すに至る心の動きを丁寧に見せて、これはこれで、物語重視のロイヤル版「白鳥」としてはアリなのでは・・・と。

もう一つ好悪が分かれそうなのが、白鳥群舞の衣装。
「グランジ・チュチュ」と評される膝までに幾重にも重なったシフォンの布でコク―ンシルエットになったそのチュチュが、ダンサーの脚を隠し、動きにつれてふわふわと弾む様は、リアル白鳥の胴体を思わせて、演劇的には悪くありませんが(ちょっとマシュー・ボーンのAMP版「SWAN LAKE」っぽいかも)、「白鳥の湖」と言えば短いクラシックチュチュ、という定番を愛するバレエ・ファンからは不評のよう。



トロワを踊る日もあったという、注目の日本人ダンサー、ソリストの高田茜さんも群舞で確認。丁寧なアームス、憂いを帯びた表情が美しかったです。

この日のトロワはエリザベス・ハロッド、エマ・マグワイア、ヴァレンティノ・ズケッティ。
特にエマ・マグワイアの踊りが活き活きとして良かったかと。
彼女は2幕(1幕の後、続けて上演)の白鳥のひなたち、の4人口にも入っていますね。

そして・・・
ダウエル版の白眉は第3幕!



Kバレエでもお馴染みのヨランダ・ソナ-ベント ワールド全開!なダークな背景に陰影の深いアンティークゴールドのゴシックな装飾がゴージャスな民族衣装を引き立てます。

まずは花嫁候補の6人の姫君。
先に注目したエマもここに含まれていますね。あと、ソリストのひとつ下の階級であるファースト・ア―ティストながら、キトリ・デビューも果たしたという日本人ダンサー金子扶生さんが休演、というのがとても残念でしたが、ソアレス王子にガン無視されて、ちょっと失礼じゃない?と憤る姫、とか、さすがは演劇の国イギリスを代表するバレエ団。

と感心していたらギャリー・エイヴィス扮するロットバルトが引き連れた民族舞踊団が登場!

豪華です。

まずはスペイン。
ここに、吉田都さんの退団公演「ロミオとジュリエット」でとても魅力的でエレガントなパリスを踊って好印象だったヨハン・ステパネクを確認。今回の「アリス」で血ぬられた料理女!だったクリステン・マクナリ―、リアル・スペイン美女のファースト・ソリストのイツァ―ル・メンディザバル。

チャルダッシュはファーストソリストのヘレン・クロフォードとソリストのジョナサン・ハウエルズ。

そして、今回の、配役表を見て小さくガッツポーズその2.
ナポリに雀由姫(チェ・ユフィ)さん。

抜群の音楽性、エネルギッシュでパワフルなのですが、指先まで優美なコントロールの行きとどいたエレガントさもあり、なんともチャーミングな踊りで・・・。
彼女自身の個性と魅力、~CUTEで力強いしなやかさを持つ・・・という持ち味が発揮された演技でした。
ポール・ケイとのアイコンタクト、笑顔を交わしながら踊りを盛り上げていく様子も含め、今後とも目の離せないダンサーですね。

そしてマズルカ・・・。
ここに、蔵健太さんと、アリスで主役を務めたベアトリス・スティクス=ブルネルが入っていますが、8人口の群舞でヘッドドレスもあり、確認しつつともいかず・・・。



途中、舞台中央にしつらえられた大きな楕円形の鏡にオデットが写って必死にこのオディールは私ではない!とアピールしようとしているのですが、民族舞踊団が鏡の前に何重にも立ちはだかり、王妃や王子に話しかけて気をそらしたり・・・と大奮闘。
オディールもはつらつとした踊りで、魅力的な健康美をアピール、王子はメロメロ、王妃もこの女性を王子が気にいったというなら良いのではないかしら・・・と好感を持つ様子、そしてギャリーのロットバルトがオディールに頻繁に指示を出し、王妃にはねっとりと取り入りつつ、娘オディールをどうです、素晴らしい娘だとお思いになりませんか!とアピール。

マリアネラは求心的な濃いラテン系フェイスがオデットにはちょっと濃すぎる感じがしないでもないのですが、オディールはぴったり。
小気味よく、緩急も自在なその演技で、王子と観客をノックアウトするさまはいっそ清々しいほど・・・。



ちなみにロットバルトのヘアスタイルは、スキンヘッドではなく、モヒカン頭、でした^^;
髑髏の顔の小人たちをお小姓として従えて・・。という拵えはちょっと悪趣味?
もっとカッコ良い紳士に作る方が好みですが・・・。

色々とてんこ盛りの楽しさがはじける3幕。
王子が愛を誓った瞬間、民族舞踊団全員とオデット、ロットバルトがだまされおったなと大笑いで手の平返しをするのが、残酷で、背景には火花が散るはスモークが焚かれるはで阿鼻叫喚の空間と化し、真実を知って後悔するソアレス王子とめまいを起こす美しき王妃が驚き嘆く宮廷に取り残される・・・という賑々しくもドラマチックな終焉を。

そして第4幕。

皆さん聴いてください、王子ったら・・・;;のオデットの嘆きをともに悲しむ白鳥群舞。
この版では2羽の大きな白鳥(小林ひかるさんがフワリとした空気感で、アンニュイでやや陰のある良い雰囲気をだしていて秀逸)が全体をリードしつつ、8羽口がそのサブとなり、ヴィジュアル的にはその8羽のうち4羽が黒い白鳥の子供、という設定になってアクセント的な役割を果たしています。
高田さんはこの黒い白鳥の子供の1人となっていて、目立つポジで踊っていらっしゃるのがちょっと嬉しい。


駆けつけたソアレス王子が、隠れていたオディールに再会し、後悔しながらの懺悔・赦し、そしてロットバルトとの対立・・・とドラマが進み、最後2人は湖に身を投げ心中。
それとともに彼らが身を投げた湖の畔でロットバルトも落命。
しかし、死後の世界で、愛の勝利を得る2人の神々しいまでのシルエットが・・・というラスト。


美しく、情感豊かなマリアネラ・ヌニェスのオデット/オディール、
こわもてながら、大柄な恵まれた肢体を今や完全にコントロールできる力量を身に付け、その踊りのダイナミックさとシャープな存在感、そして、パートナーに対する献身を体現できるまでに成長したティアゴ・ソアレスのジークフリート。
今のロイヤルで、この演劇的でちょっと賑やかな「白鳥の湖」を観るのなら、この2人でやはり正解だったのかもしれません。
大スターが次々と退団し、かつての華やぎは夢のまた夢・・・という過渡期にあるロイヤル・バレエ団であり、その来日公演ということで色々と危惧しておりましたが、バレエ団の伝統とソリストの充実ぶりはしっかりとアピールできたのではないでしょうか。
次回のJapanTourが今から楽しみなロイヤル・バレエ団、でした