新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

我が国とアメリカの取締役会の違い

2018-10-14 17:52:25 | コラム
アメリカの取締役会:

もう21世紀の時代であるから、我が国の取締役会がアメリカのそれとは大きくその性質も機能も構成も異なっているとご承知の方は多いと思うが、ここにあらためてアメリカの取締役会を語って見ようと思う。

先ず第一にアメリカでは新卒で入社した社員が順調に昇進して取締役に任じられることは先ずないと言って誤りではない。即ち、言ってみれば「新卒で採用されてから懸命に努力して優秀な成績を残して社員から取締役に任命されるような出世がない」のがアメリカの会社組織なのである。そもそも「取締役会」(=Board of directors、略してBOD)は実務を担当する「会社側」と別個な機能を有する存在で、構成している取締役(=directors of the board)のほとんどが他社の社長や取締役会の人物なのである。

私が理解しているBODの機能は「会社側の運営を大所高所から言わばカタカナ語で言う「チェックする」か「監視」し、その他の重要な任として会社側から提案される会社の実務運営上の提案や新規の投資計画等を審議して決済する」ものなのである。その構成員は、例えばW社の取締役には同じワシントン州内の最大の雇用主(employer)であるボーイング社の会長やシアトル最大の銀行のCEO等々の有力財界人や大手法律事務所の弁護士が入っているのだった。

念の為に確認して置くが、W社のオウナーファミリー出身のCEOであるジョージ・ウエアーハウザーはBODの会長を兼務していたと同時に、当時はワシントン州に本社を置いていたボーイング社の取締役でもあった。従って、我が国のように、新卒の社員がその会社の取締役になることを目指していくというような目標にはならないのが、アメリカの株式会社における取締役なのである。ジョージ・ウエアーハウザーの姪であるボーイング社の副社長、ニコル・パイアセッキさんは往年のウエアーハウザーの役員でもあった。

副社長兼事業本部長以下の我々社員にとってはBODとは厳しいと言うか怖い存在で、そこに提出する事業の拡張や設備投資案等々を準備には事業部を挙げてそれに集中的に作業していた。極端な表現を用いれば「お客様との対応は最低限に止めることを厭わない場合すらあった。兎に角、全員で資料の取り揃え、如何なる表現で起案すれ承認されるかの討論に全員で没頭していたものだった。そして、審議される当日は全員が固唾をのんで、結果が知らされるのを待っていたものだった。

私のような東京勤務の者が実際にその準備に加わった事は数回しかなかったが、その凄まじい緊張感は他の場面では経験できないものがあった。事業部の命運がかかったような重大な大仕事なのだから、承認された時の達成感と喜びはまた格別だった。

では、アメリカの株式会社では何を以て出世とするかという疑問があるだろうと思う。何度か述べてきたが、製造業では新卒の定期採用もなければ、我が国のような新卒の新入社員を教育する習慣はない。必要によって即戦力となる経験者を中途入社で集めた世界であるし、言うまでもないが「今やIvy League等の有名私立大学のMBAが所謂スピードトラックに乗って早い時点でマネージャーの肩書きを得て昇進し、その先にあるのが副社長であり、概ね事業部長を兼務する要職に任命されるで世界である。

しかも、その事業部長と雖も部内から昇進することもあるが、ある日突然他社から転進してきたかヘッドハンティングされた者が着任することも日常茶飯事である。また、上層部が将来は事業部長に昇進させる候補者としている者がMBAではないような時には会社側が命じてハーバード等のビジネススクールに派遣するか自費で行かせるか、短期コースで学ばせて有資格者にすることもある。繰り返しなるが、仮令副社長に任命されても、その先に取締役という席が待っている訳ではないのがアメリカである

一口に「我が国との文化の違い」と言ってしまえば簡単だが、アメリカのビジネス社会では誰でもが懸命に勉強して、新卒で入社した会社で懸命に努力すれば、我が国のように順調に段階を踏んでに昇進して取締役に任じられるのではないのがアメリカなのである。