新宿少数民族の声

国際ビジネスに長年携わった経験を活かして世相を論じる。

我が国の対アメリカの貿易交渉

2019-03-15 09:10:56 | コラム
農業分野か自動車か:

マスコミの一部にはアメリカのUSTRは農業分野から入ってくるだろうとの観測を採り上げていた。13日のテレ朝の羽鳥慎一のモーニングショーではゲストの早稲田大学教授・中林美恵子氏がトランプ大統領は対日貿易赤字削減の為にも、これまで「日本が数百万台もの自動車を輸出してくるのはアンフェアーである」と繰り返し主張してこられたことであり、この問題を避けて交渉してくることはあるまい」と予想していた。

中林教授は更に「これは如何にも古き認識である」とも指摘された。この点は私も全く同感であり「認識不足と自動車の輸入問題の歴史を正確に把握しておられないようだ」と思っている。いや、ご存じであっても一旦言いだした以上引く訳にはいかないのかとも疑っているのだが。

結論めいたことを先に言ってしまえば、「トランプ大統領というかライトハイザー代表は「認識不足だろうと歴史がどうあろうと、この件については大統領の公約であった以上強行に押してくるだろう」ということだ。故に日本側の姿勢としては*飽くまでも徹底抗戦に出るか、*輸出数量の制限に応じるか、*アメリカの現地生産を増強するかという辺りに絞られていくと予想できる。

FNNは本日トヨタはケンタッキー州の工場を増強する為に830億円を投じて600人を新たに雇用すると発表したと報じていた。これには既にトランプ大統領は好感を示していたともあった。トヨタは先手を打ったかの感もあるが、私は同社にとっては決して簡単な負担ではないだろうと察している。トランプ大統領が「アンフェアーだ」と言われた背景には、日本から数百万台(実際は160~170万台/年)を輸出しながらアメリカ産の車をごく僅かしか買わない」という実態がある。

だが、我が国の自動車メーカーは数十年前からアメリカ政府(デトロイトを保護したい)のたっての要望により現地生産に切り替えていたのである。また、トランプ大統領が就任後に日本が輸入しないことを非難され増加を強硬に要望された際には、デトロイトは大統領にそのような請願はしていなかったとまで発表していた。私はデトロイトは日本市場に対しては半ば諦めの境地にあり、フォードなどは既に我が国から引き上げているのが現状である。

アメリカ製の車が我が国で不人気な原因は数々あると思うが、最も単純明快の原因は「未だに左ハンドルの車の生産に執着していること」だと思う。次には労働力の質の問題等が未だに解決(向上していないと言えるか)されていないので、我が国の基準を満たすに至っていないことがあるのだが、これをアメリカ側から見れば「非関税障壁」だということになって、大統領が言われる「アンフェアー」視されているようだ。

だが、アメリカは我が国を非難するか責める前に自国内でどれほど多くの外国車(ドイツ、イタリア、韓国、日本等々)の車が走っているかを見れば解ることだ。私は在職中にも、その後でもアメリカの街角に立って走っていく車の群れを見ながら「なるほど、アメリカでも未だフォードア・セダンの自動車を造っているのだ」と何度も思わせられたほど、アメリカ産の乗用車の数が圧倒的に少ない事を観測していた。

こんな経験をしたこともあった。それは取引先の某船社の論客の営業担当者が新車を買ったと誇らしげに言って見せてくれたのが日本車だったので、「貴方ほどの愛国者が何故貿易赤字問題を顧みずに敢えて日本車を買ったのか」と尋ねてみると「自分が自分の好みで価格も予算内に収まった品質が優れた車を買ったらそれが偶々日本車だったという簡単な理屈だ。何が故に自分の資金で自分の車を買うときに“trade deficit”の心配をしなければならないのだ」と答えたのだった。私は良くも悪くもこれが自己主張が強いアメリカ人の典型的な物の考え方だ」と思って聞いていた。

私はライトハイザーUSTR代表は強硬派だと聞いているが、そんなことに怖めず臆せず茂木大臣以下は我が国が正当に主張すべき事は真っ向から主張すると共に、恐らくライトハイザー氏は承知しているはずだと思う(トランプ大統領の敢えて事実と歴史誤認だと言うが)これまでに如何なる交渉を経てきたかを解説して輸出の自粛であるとか高率の関税を課されるような事態を回避すべく堂々と交渉してほしいものだと思っている。

何度でも同じ事を言うが「論争と対立を怖れず」、「これを言うことで何を失うか」という断固たる姿勢で臨んで頂きたいのだ。但し、その為には玉砕戦法ではなく、何らかの“contingency plan”を用意しておく必要があるのをお忘れなく。