「Maury モーリー」と聞いて、どの国のどの地方か、わかった方は、よほどのワイン通です。
モーリーは、南仏ラングドック・ルション地方の
ルションの中のアペラシオンです。
2月にモンペリエで開催されたワイン展示会
「Vinisud」で、
ルションワイン協会のエリック・アラシル氏のガイドによるテイスティングと、翌日にはエノロジストでもあるエリック氏が講師を務めるマスタークラスのセミナーに参加してきましたので、リポートします。
Eric Aracil
(Responsable export Conseil Interprofessionnel des Vins du Roussillon)
ルション地方は
フランスとスペインの国境の地中海側に位置してます。
この辺りは、“ピネレー=オリエンタル地域”と呼ばれます。
ルション地方のブドウ栽培、ワインづくりの歴史は2800年。
地中海に近いですが、
山がちで、畑の80%が斜面にあり、標高は600mにもなります。
小さな家族経営の生産者が多く、その数は2200にもなり、うちワイナリー数は345、協同組合は25。
気候は
地中海性気候で、
23種類のブドウ品種が栽培されています。
そのうち
15品種がAOCで認められています。
Vins du Roussiloon のブース(Vinisud)
ルション地方には
14のAOC(AOP)と3のIGPがあり、
さまざまなタイプのワインがつくられていますが、特徴的なのはアルコール度の高い
天然甘口ワイン(Vins Doux Naturels、VDN)で、5つのAOCがあります。
ピネレー=オリエンタル地域のワイン生産量はフランス全体の
2%と少量ですが、
VDNは全フランスの80%がこのエリアで生産されています。
ルションの5つのAOCのVDNは以下の通り
○Banyruls
○Banyruls Grand Cru
○Muscat de Rivesaltes
○Rivesaltes
○
Maury Doux
VDNの中に、今回フォーカスする
「AOP Maury Doux」が入ってきます。
そして、辛口の9のAOPワインの中に、
「AOP Maury sec」が入ってきます。
実は、
2011年の収穫よりモーリーのAOP規定が変わりました。
AOP Vins Doux Naturels Maury は AOP Maury Doux に名称変更
※
甘口のVins Doux Naturelsで、タイプは4つ
AOP Maury Sec 誕生(2011年11月24日)
※
赤の辛口スティルワインで、60~80%はグルナッシュ、ただし、2種類以上のブレンドが必須
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/4c/f0/85c516bd8d9b80eedc2bf7aaaed18d92.jpg)
Maury Secは20011年ヴィンテージから
モーリーといえば、アルコール度の高い天然甘口ワインの産地として名を馳せていました。
しかし、近年、甘口ワインの産地はどこも苦戦をしています。
現代人のライフスタイルが変わり、嗜好は辛口にシフトし、甘口ワインを飲む機会が減っています。
そのため、甘口のワインをつくっていた伝統産地でも、テーブルワインとして日常的に楽しめる辛口ワインにも力を入れるようになってきました。
モーリーでも
辛口ワインへのシフトが必然的に起こりました。
しかし、手をかけて高品質の辛口スティルワインをつくっても、AOPでは
「Côtes du Roussillon」や
「Côtes du Roussillon Villages」がせいぜいだったのです。
そこで、辛口ワインの新たな名称を求める声が実を結び、
辛口ワインの名称として、元々の「Maury」をベースにした「AOP Maury Sec」が誕生しました。
これにより、似た名称で混乱を招くとして、「Côtes du Roussillon Villages Maury」は廃止となっています。
「AOP Mauryには DouxとSecの2つがある」 ことを覚えましょう
モーリーは、海岸線より内陸に入った場所にあり、
標高100mから400mに位置します。
北はコルビエールの山に、南はピレネー山脈の急傾斜に守られ、
長さ17km、幅4kmにブドウ畑が広がります。
土壌は非常に貧しく、周囲には南仏特有のガリーグと呼ばれる灌木が見られます。
土壌は白亜紀のシストとマールで、それほど深くなく、
calco-schist(カルコ=シスト)と呼ばれる茶色い部分が所々に見られるのが特徴といいます。
「カルコ=シスト(石灰片岩)は要チェック!と」エリック氏。
AOP Mauryの畑面積は
600haで、
栽培ブドウの90%がグルナッシュになります。
古木で、根っこが深く張っているものが多く見られます。
エリック氏のセミナーに登場した試飲ワインは8種で、最初の4種がMaury Sec(赤ワイン)でした。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/13/f2/6f14e2370e919a6a63bd1c22b72199fa.jpg)
左より)
1)Rocher des uis 2014 Les Vignerons de Tautavel Vingrau
2)Legende 2014 Mas Amiel
3)Cuvee Bastoul Laffite 2014 Domaine des Soulanes
4)Montpin 2013 Domaine Pouderoux
1)はグルナッシュ75%+シラー25%、真ん中2本はグルナッシュ80%+カリニャン20%、4)はグルナッシュ80%+カリニャン15%+シラー5%。
土壌もそれぞれ異なり、畑を耕すのに馬を使ったり(2)、オーガニックだったり(3,4)、醸造方法も異なり、味わいも異なります。
1)はエレガント系、2)はタンニン量が多いけれど丸みがあり、ほっこり。3)もタンニンが多く、野性的なニュアンスがありながら、まろやか、4)はタンニンくっきり、スッキリの洗練エレガント系。
後半4種は
Maury Douxで、4タイプのうち3タイプが登場しました。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/77/d1/3ff612b5873b57f4c8685904e2c323da.jpg)
5)Maury
Blanc 2014 Domaine Thunevin Calvet
6)Maury
Grenat 2015 Mas Janeil -Francois Lurton
7)Maury
Grenat La Cerisaie 2013 Domaine des Schistes
8)Maury
Tuilé Cuvee du Centenaire
4タイプとは、上の3種(
Blanc, Grenat, Tuilé)+ Ambré。
“色の違い”(白、グルナ、チュイール、琥珀色)のほか、ブドウ品種、醸造方法、熟成方法の違いで分類されます。
5)は白ワインとまったく同じ外観なので、普通の辛口白と思って飲むと、甘さにビックリします。
白とアンバーには、最大20%までのミュスカが使われるのが特徴です。このワインはマカブー100%なのでマスカットの風味はありませんが、ハチミツの風味の中にフレッシュな酸が感じられました。
6)7)はグルナ。ガーネットです。6)は赤ワインのようなガーネット色で、ワインとしてほどよいボリュームと心地よい甘さがあります。
7)は黒っぽくて少しにごり、コショウ、リコリスなどのスパイスが味わいにも加わり、タンニン量もたっぷり。
8)はチュイール。レンガ色。ナッツの風味があり、甘さの中に酸化のニュアンスが加わり、長い余韻があります。
8)で“酸化のニュアンス”と書きましたが、
甘口のモーリーには「酸化」「還元」という2つのワインメーキング方法があります。
今回は詳しくは説明しませんが、2つの手法があることだけ知っておいてください。
セミナーの進行はフランス語でしたが、英語バージョンの同じ内容の資料が用意され、スクリーンでも表示されたので、大変理解しやすいセミナーでした。
名前は知っていても、なかなか実際に飲む機会が少ないモーリーなので、最新情報を知ることができ、比較試飲できたのは大きな収穫で、特に、辛口のMaury Secは興味深いものとなりました。
Special thanks to Eric!