18日夜のしずおか地酒サロンの余韻(酔い)を引きずりつつ、翌19日(金)は朝一で川根本町まで車を飛ばしました。JA静岡経済連情報誌『スマイル』のお茶特集の取材です。
川根路のお茶取材は過去何度か経験がありますが、この日訪ねたのは旧中川根町から国道362号線をさらに車で20~30分、旧春野町との境界に近い山奥。自分の車はJA大井川川根茶業センターに置いて、JAの社用車(軽自動車)に乗っけてもらったのですが、国道とは思えないクネクネの林道を軽で揺られるうちに、みるみる二日酔い状態に。前夜、「竹島」で何も口にできず、二次会に寄った「まる井」でつき出しの漬物とビール1杯、冷酒1~2合呑んだだけなのに、やっぱり緊張していたんでしょうね…。
車中で、川根茶業センターの芦沢哲哉センター長が「こんなに空気がきれいなところはない。朝起きると、空気の重量すら感じるぐらい。たまに東京とかに行くと本当に息苦しくなりますよ」とさかんに地元自慢をするのも馬耳東風状態。窓を開けたくても花粉が怖くて、ひたすら忍の一字状態でした。
案内された川根本町久保尾地区の茶園は、標高500メートルにあり、山の急斜面に民家と茶園が張り付いているようなところ。雨上がりの早朝には山霧が一帯を覆い、幻想的な風景を醸し出すそうです。この山霧が、茶葉にとっては自然の“被覆”となって、玉露産地などで黒い幕を覆って日光を遮断し、旨味をギュッと凝縮させる作りをするのと同じ効果を生みだします。
標高の高い茶畑は、そんな自然の恩恵がある反面、茶農家の作業負担が大きく、平地で生産効率の高い大規模農園に比べたら様々なリスクを抱えています。急斜面に急角度で広がるお茶の段々畑を見れば、「よくこんなところで作業ができるなぁ」と驚くばかり。
芦沢さんから「茶畑ってこんもり丸い形と四角い形の2種類あるけど、違いがわかりますか?」と聞かれ、「茶刈り機の性能の差ですか」と応えた私。四角ばった刈り方をしている茶畑は、大型機械を使っている証拠、こんもり型の刈り方は小型もしくは手刈りの証拠で、「お茶の木は本来、こんもり丸型に育つもの。人間にとっては手間がかかっても、お茶にとっては自然に近い状態なんです」と芦沢さん。確かに急斜面で面積も広くとれず、作業しにくい条件だと思いますが、こんもりした茶畑が段々とつらなる景色は、見た目にも美しく、これぞお茶の里!って感動を伝えてくれます。
「川根路は、茶畑が60kmも続き、車で1時間走っているうち50分は茶畑が見える。こんな場所は日本でここだけです」と芦沢さんは自信を込めます。
見た目の感動といえば、川根路はSLと茶畑のイメージもよく知られていますが、芦沢さん曰く「本当はSLの蒸気は、茶葉にとってはマイナス要因で…」と苦笑い。イメージ作りって難しいですね。
この一帯では、山茶らしさをアピールしようと、今、「おくひかり」という品種に力を入れています。おくひかりは、平地より寒く「やぶきた」が作りにくい川根の奥地で、この地に適応した新しい品種を作ろうと町内農林業センターで試行錯誤をし、昭和62年に品種登録されたもの。なかなか「やぶきた」の牙城に食い込むことは難しいようですが、町内では少しずつ栽培面積が増え、品質の良さや安定性も認められ、こうなったら山の不利な条件を逆手にとって「おくひかり」の産地として積極的にアピールしようという動きに。
平成19年度から、町内標高500メートル以上の茶産地を「天空の茶産地」と命名し、新銘茶の産地としてエリアセールスにも力を入れ始めたのです。「天空の茶産地って素敵なネーミングですね」と褒め、命名者は誰か訊ねると、JAの幹部がこの地を視察に来た時、天空の茶畑だなぁとつぶやいたのがきっかけだとか。コピーライターが机上で作ったのではなく、現場の人が現場で素直に感じた言葉が使われたことに、私も素直にうれしく思いました。
おくひかりは、淡い渋みと清涼な香味が特徴(静岡酵母の吟醸酒みたい…!)で、湯のみに注いだときの緑の色がとてもきれいです。やぶきたよりも収穫期が遅いのも特徴です。
JA大井川川根茶業センターでは、「天空の茶産地」で栽培されたおくひかりを、ブランド商品化すべく、『天空の茶産地 黒ラベル奥光』『天空の茶産地 赤ラベル奥光』のセット販売を平成21年度より本格的に始めます。
黒ラベルのほうは、ミル芽(早熟)で摘んだ生葉を上蒸製造し、強火仕上げ加工したもの。湯のみに注いだときは澄んだ緑色で、香りは香ばしく、ほどよい苦渋味と甘みやコク、まろやかな旨味が特徴です。
赤ラベルは、成熟した生葉を普通蒸製造し、風通火仕上げ加工したもの。湯のみに注いだときは透きとおった金色で、程よい渋みとさわやかな香り、すっきりとした飲み味が特徴です。
現在、JA大井川川根茶業センター(TEL 0547-56-1142)の売店コーナーで試験的に販売していますので、興味があったらぜひ!
ついつい酒に喩えてしまう悪い癖ですが、黒ラベルはふくよかな味わいを楽しむ純米系、赤ラベルは食中酒として何杯もお代わりできる本醸造系かな。日本茶インストラクターと、きき酒師のみなさんがコラボしたら、面白いお茶会(お酒会)が企画出来るかも…!
そんなことをつらつらイメージしていたら、二日酔いもすっかりさめ、お茶もお酒もおいしい静岡で暮らせる幸せをしみじみ噛みしめました。
帰路、私が好きな中川根・光林堂の茶ようかんと「奥光」セットを手土産にし、静岡まで戻って「竹島」へお礼に。光林堂もおくひかりのこともご存じで、さすが食のプロ!と感服しました。