杯が乾くまで

鈴木真弓(コピーライター/しずおか地酒研究会)の取材日記

天空の茶産地

2009-03-22 10:53:34 | 農業

 18日夜のしずおか地酒サロンの余韻(酔い)を引きずりつつ、翌19日(金)は朝一で川根本町まで車を飛ばしました。JA静岡経済連情報誌『スマイル』のお茶特集の取材です。

 

 

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 川根路のお茶取材は過去何度か経験がありますが、この日訪ねたのは旧中川根町から国道362号線をさらに車で20~30分、旧春野町との境界に近い山奥。自分の車はJA大井川川根茶業センターに置いて、JAの社用車(軽自動車)に乗っけてもらったのですが、国道とは思えないクネクネの林道を軽で揺られるうちに、みるみる二日酔い状態に。前夜、「竹島」で何も口にできず、二次会に寄った「まる井」でつき出しの漬物とビール1杯、冷酒1~2合呑んだだけなのに、やっぱり緊張していたんでしょうね…。

 

 車中で、川根茶業センターの芦沢哲哉センター長が「こんなに空気がきれいなところはない。朝起きると、空気の重量すら感じるぐらい。たまに東京とかに行くと本当に息苦しくなりますよ」とさかんに地元自慢をするのも馬耳東風状態。窓を開けたくても花粉が怖くて、ひたすら忍の一字状態でした。

 

 

Imgp0734  案内された川根本町久保尾地区の茶園は、標高500メートルにあり、山の急斜面に民家と茶園が張り付いているようなところ。雨上がりの早朝には山霧が一帯を覆い、幻想的な風景を醸し出すそうです。この山霧が、茶葉にとっては自然の“被覆”となって、玉露産地などで黒い幕を覆って日光を遮断し、旨味をギュッと凝縮させる作りをするのと同じ効果を生みだします。

 

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 標高の高い茶畑は、そんな自然の恩恵がある反面、茶農家の作業負担が大きく、平地で生産効率の高い大規模農園に比べたら様々なリスクを抱えています。急斜面に急角度で広がるお茶の段々畑を見れば、「よくこんなところで作業ができるなぁ」と驚くばかり。

 

 芦沢さんから「茶畑ってこんもり丸い形と四角い形の2種類あるけど、違いがわかりますか?」と聞かれ、「茶刈り機の性能の差ですか」と応えた私。四角ばった刈り方をしている茶畑は、大型機械を使っている証拠、こんもり型の刈り方は小型もしくは手刈りの証拠で、「お茶の木は本来、こんもり丸型に育つもの。人間にとっては手間がかかっても、お茶にとっては自然に近い状態なんです」と芦沢さん。確かに急斜面で面積も広くとれず、作業しにくい条件だと思いますが、こんもりした茶畑が段々とつらなる景色は、見た目にも美しく、これぞお茶の里!って感動を伝えてくれます。

 

 「川根路は、茶畑が60kmも続き、車で1時間走っているうち50分は茶畑が見える。こんな場所は日本でここだけです」と芦沢さんは自信を込めます。

 見た目の感動といえば、川根路はSLと茶畑のイメージもよく知られていますが、芦沢さん曰く「本当はSLの蒸気は、茶葉にとってはマイナス要因で…」と苦笑い。イメージ作りって難しいですね。

 

 

Imgp0727  この一帯では、山茶らしさをアピールしようと、今、「おくひかり」という品種に力を入れています。おくひかりは、平地より寒く「やぶきた」が作りにくい川根の奥地で、この地に適応した新しい品種を作ろうと町内農林業センターで試行錯誤をし、昭和62年に品種登録されたもの。なかなか「やぶきた」の牙城に食い込むことは難しいようですが、町内では少しずつ栽培面積が増え、品質の良さや安定性も認められ、こうなったら山の不利な条件を逆手にとって「おくひかり」の産地として積極的にアピールしようという動きに。

 

 平成19年度から、町内標高500メートル以上の茶産地を「天空の茶産地」と命名し、新銘茶の産地としてエリアセールスにも力を入れ始めたのです。「天空の茶産地って素敵なネーミングですね」と褒め、命名者は誰か訊ねると、JAの幹部がこの地を視察に来た時、天空の茶畑だなぁとつぶやいたのがきっかけだとか。コピーライターが机上で作ったのではなく、現場の人が現場で素直に感じた言葉が使われたことに、私も素直にうれしく思いました。

 

 

 おくひかりは、淡い渋みと清涼な香味が特徴(静岡酵母の吟醸酒みたい…!)で、湯のみに注いだときの緑の色がとてもきれいです。やぶきたよりも収穫期が遅いのも特徴です。

 

 

 2009030609270000 JA大井川川根茶業センターでは、「天空の茶産地」で栽培されたおくひかりを、ブランド商品化すべく、『天空の茶産地 黒ラベル奥光』『天空の茶産地 赤ラベル奥光』のセット販売を平成21年度より本格的に始めます。

 

 黒ラベルのほうは、ミル芽(早熟)で摘んだ生葉を上蒸製造し、強火仕上げ加工したもの。湯のみに注いだときは澄んだ緑色で、香りは香ばしく、ほどよい苦渋味と甘みやコク、まろやかな旨味が特徴です。

 赤ラベルは、成熟した生葉を普通蒸製造し、風通火仕上げ加工したもの。湯のみに注いだときは透きとおった金色で、程よい渋みとさわやかな香り、すっきりとした飲み味が特徴です。

Imgp0695  現在、JA大井川川根茶業センター(TEL 0547-56-1142)の売店コーナーで試験的に販売していますので、興味があったらぜひ!

 

 ついつい酒に喩えてしまう悪い癖ですが、黒ラベルはふくよかな味わいを楽しむ純米系、赤ラベルは食中酒として何杯もお代わりできる本醸造系かな。日本茶インストラクターと、きき酒師のみなさんがコラボしたら、面白いお茶会(お酒会)が企画出来るかも…!

 そんなことをつらつらイメージしていたら、二日酔いもすっかりさめ、お茶もお酒もおいしい静岡で暮らせる幸せをしみじみ噛みしめました。

 帰路、私が好きな中川根・光林堂の茶ようかんと「奥光」セットを手土産にし、静岡まで戻って「竹島」へお礼に。光林堂もおくひかりのこともご存じで、さすが食のプロ!と感服しました。


竹島×松崎スペシャルサロン

2009-03-20 11:52:23 | しずおか地酒研究会

Dsc_0020  18日は12時からの静岡県清酒鑑評会一般公開、16時からの同表彰式を撮影後、しずおか地酒サロンを開催する静岡市葵区常磐町の「竹島」へ移動しました。

 

 

 しずおか地酒研究会で、松崎晴雄さん(酒類ジャーナリスト・日本酒輸出協会理事長)を毎年定期的にお招きして鑑評会の裏話や全国の日本酒動向、海外市場の様子などを聞くサロンを始めたのは1999年から。99年しずおか地酒塾「異郷人が楽しむ静岡の酒」は、松崎さんとジョン・ゴントナーさん(SAKEジャーナリスト)を招いて、日米SAKE談義を楽しみ、70名以上の聴講者で大賑わいでした。

 

 2000年には、6月開催でしたが、やはりこの2人をお招きし、静岡市国際交流協会の協力で地酒サロン「しずおかの酒で国際交流」を開催。市内在住の外国人の方に静岡酒を楽しんでいただきました。

 2001年から静岡県清酒鑑評会の審査方法が変わり、松崎さんも民間代表で審査員に加わったこともあって、9月に松崎さんをお招きしてしずおか地酒サロン「どうなる、どうするお酒の評価」を開催。

 

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 02年からは県鑑評会一般公開&表彰式の夜、松崎さんと、県知事賞受賞の蔵元を招いて「新酒鑑評会を振り返る」と題したサロンを恒例開催しています。松崎さんが仕事の都合で一般公開表彰式の日に来静できない年は、少し日をずらすなどして、地酒研会員からも「毎年この日が楽しみ」と期待されるサロンに成長しました。受賞を逃した蔵元も、「松崎さんの話を聞きたいから」と自費参加してくれるようになりました。これも、静岡へ来たら地酒研の皆さんに会うのが楽しみ、とおっしゃってくださる松崎さん&蔵元の皆さんのご協力あってのこと。ほんとうにありがたく思います。

 

 

 さて、今年の“松崎サロン”は、ブログでもご紹介したとおり、静岡県の大吟醸を40年前、客に初めて呑ませた伝説のすし職人・竹島義高さんのお店を会場に、竹島さんには静岡吟醸の歴史を、松崎さんには最新の動向をうかがう特別企画。

 

 Dsc_0044_2 いつもどおり松崎サロンの開催店を探していた時、病気療養中だった竹島さんがお店に復帰しているらしいと聞き、なんとしてでも竹島さんのお元気な姿と貴重なお話を『吟醸王国しずおか』の映像に残したい、竹島さんの功績を若い蔵元が受け継ぐという画を撮りたい…という思いと、松崎さんという日本を代表する酒類評論の雄が静岡吟醸の発展にこれだけ寄与している姿を残したいという思いがクロスしたのでした。

 

 17時過ぎに「竹島」へ着いたら、参加者のお一人・染色画家の松井妙子先生に出迎えられました。竹島さんは松井先生が30年ほど前、作品を展示販売し始める前からコレクターとなった、松井先生にとっては“初めての大切なお得意様”。JR静岡駅前のホテル地下にあった入船鮨ターミナル店の壁絵、暖簾、座布団類は、すべて松井先生の作品で統一されました。そんな間柄だったので、松井先生も今回は自宅療養中のお母様の体調を気にしながらも「なんとか参加したい」とおっしゃり、この夜はいの一番に来てくださったのでした。

 

 Dsc_0068 ない松井先生とこなみ先生に来ていただけるのは感無量で、お2人にはお隣同士で座っていただきました。

 静岡酒に特別強いというわけではないお2人の両脇には、青島孝さん(喜久醉)と片山克哉さん(かたやま酒店)に座っていただきました。

 

 

 

 

 

 19時まで開かれていた県もくせい会館の関係者による懇親会を中座してきてくれた松崎さん、青島孝さん、日比野哲さん(若竹)が到着し、サロンがスタート。まずは今年の県知事賞の開運に祝意を込め、竹島さんのお店にしかない開運(本醸造1合徳利)で乾杯し、竹島さんのお話。お話が始まるとついつい止まらなくなる竹島さんですが、今も治療中の身で、長い時間話し続けると口が乾くため、やや強引に途中で区切って、参加蔵元2社と酒販店主4社が持参した“隠し酒”の試飲に移らせてもらいました。ラインナップは以下のとおり。

 

Dsc_0071_2開運大吟醸 昭和59酒造年度(篠田酒店)

小夜衣純米大吟醸 平成8酒造年度(ときわストア

鎮国之山(高砂)吟醸 平成8酒造年度(すずき酒店

Dsc_0069静ごころ大吟醸 平成10酒造年度(すずき酒店)

白隠正宗純米大吟醸 平成17酒造年度(篠田酒店)

喜久醉大吟醸 平成19酒造年度県知事賞(青島酒造)

初亀 岡部町限定若宮八幡宮千百年祭記念ラベル(ときわストア)

開運 初蔵純米粋酔倶楽部限定ラベル(かたやま酒店

若竹 静大そだち(大村屋酒造場)

若竹 純米大吟醸(同)

 

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 ホスト役の私はまったく呑めなかったので、詳しくは参加酒販店さんのブログ等をご覧いただくとして、参加者からは「持参酒の銘柄がダブらないのはさすが地酒研会員店」と喜ばれました。

 

 

 この日参加してくれたのは、蔵元2人、酒販店4人のほか、『吟醸王国しずおか』の製作を精神的にも資金的にも支えてくれた、私と成岡さんにとって救世主のような人々ばかり。この日の夜は静岡市内に多くの酒造関係者が集まる年に1度の機会でもあり、他にも酒の会やらお誘いやらたくさんあったと思いますが、この会を選んでくれて、感謝の気持ちでいっぱいでした。東京からは、この会のためだけに里見美香さん(dancyu plus 編集長)が駆けつけてくれて、終了後は「来た甲斐があった」と喜んでくださいました。

 

 松崎さんや里見さんのように情報感度の高い方に、「静岡は酒もいいけど、人もいいね」と感じていただけるようなサロンにしたい、その姿を映像に残したいと願っていた私を、会員さんたちの笑顔と紳士的な態度が支えてくれました。誰かが話を始めると自然に静かになり、メモを取る人も。お酒を乱暴に呑む人や騒ぎ立てる人は皆無です。

 この会のことを「酒蔵や酒屋に酒をたかっている会」とか、「お高くとまっている」「レベルが高くて気軽に呑めない」と誤解する人もいる中、「静岡で一番、静岡の酒を大切に呑む会」と言われるようになりたいと努力し続け、この日はそれを心から実感できました。本当にありがとうございました。

 

 サロンの様子は『吟醸王国しずおか』でご覧いただくまでお楽しみ、ということで、竹島さんと松崎さんのお話で心に残った言葉をご紹介しておきます。

 

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  「入船鮨ターミナル店は客単価が4万5千円ぐらい。とにかく静岡で最高の鮨を出すことにプライドをかけていた。しかし帰り際にお客さんから“酒がうまかった”と言われると、自分の料理は静岡の酒に負けたのか、と思い知らされた」(竹島さん)

 

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 「今年の県鑑評会の審査員を務めた東京農大の進藤先生が、“全国にはいろいろな吟醸造りの流儀があり、酵母開発もさかんになったが、〇〇吟醸と聞いて一番しっくりくるのが静岡吟醸だ。静岡にはそれだけのスタイルがあ り、吟醸といえば静岡とイメージできる力がすでに確立されていると思う”とおっしゃっていた。石川県などが白山周辺の“菊”が付く酒銘の蔵元の集合体を“白山菊酒”と称して、コニャックやシャンパーニュのように産地名イコール銘酒のイメージングを進めているが、静岡吟醸こそ日本で最初にそう評価されるべき」(松崎さん)。


県清酒鑑評会一般公開

2009-03-19 21:54:24 | 地酒

 18日(水)は静岡県清酒鑑評会の一般公開&表彰式が静岡市葵区の県もくせい会館で行われました。

 

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 昨年に引き続いて、『吟醸王国しずおか』の撮影を行いましたが、今回は撮影スタッフに新メンバーが加わりました。フリーディレクターの井内雲二彦(いうち・くにひこ)さん。カメラマンの成岡正之さんが信頼している映像作家で、一緒にテレビ番組や企業ビデオなどを制作しています。

 

 吟醸王国しずおか映像製作委員会の会員だけ先行告知してあったのですが、実は、『吟醸王国しずおか』パイロット版を観たSBS静岡放送の幹部社員から、成岡さんを通じてテレビ特番(1時間番組)の制作をオファーされました。成岡さん曰く「コンテンツの良さもさることながら、一年以上に及ぶ取材の質が評価された」とのこと。…無理もありません、1年以上かけて一つのテーマを映像で追いかける番組作りなんて、NHKならまだしも、地方の民放局では不可能でしょう。

 

 

 『吟醸王国しずおか』は、私が個人的に追い続けた20年あまりの地酒取材をベースにしたドキュメンタリーで、特定のスポンサーに頼らず、純粋に支援してくださる個人・グループの出資をもとに製作しています。作品が目指すものも実際の撮り方も、根本的にテレビの番組作りとは違うので、最初に聞いた時は正直、尻ごみしたのですが、通常、民放のテレビ番組は提供スポンサーや番組の時間帯の電波料など多額の金が必要で、厳しい経済状況の中、時間枠を出してくれるスポンサーなど早々に見つかりません。それを、内容を評価し、テレビ局側から時間枠を用意してくれて、番販(番組販売=局側が営業してスポンサーを探す)扱いするという。番組制作の下請けで苦労してきた成岡さんからしてみたら、「夢のような話」でした。

 

 

 手弁当で協力してくれる成岡さんが、映像カメラマンとして、また映像制作会社の経営者として内外に「これが自分の作品だ」と胸を張って示すことができるというのは、私にとってもありがたいこと。過日のSBSテレビ夕刊のニュースでは、私ばかりが目立ってしまって成岡さんの周辺から不評を買ったことを思うと、少しでも成岡さんの顔が立つことなら…と、このオファーをお受けすることにしました。

 

 ただし、局が提示したオンエア時期は3月中旬。話を聞いたのはその2週間足らず前だったので、「そんな短期間に出来るものなのか…」という不安が立ち、「3月12日に県清酒鑑評会があり18日に一般公開と表彰式があるので、目玉の映像になりますよ」と局側にそれとなく相談をかけ、調整してもらって、いったんは4月5日に決まって映像製作委員会の皆さんにも告知したのです。

 

 ところが、年度替わりの改編期で単発の特番が変動されやすい時期にあたり、とりあえず今のところ決まっているのは4~5月中の日曜午後オンエアということだけです(吟醸王国しずおか映像製作委員会の皆さん、すみません、先延べになりましたので、ブログ等で紹介済みの方は訂正してください)。

 タイトルは仮題ですが「しずおか吟醸物語」。映画版とはあえてタイトルを変えさせてもらいました。テレビ版はテレビ版で、独立した作品として楽しんでいただければ、と思います。

 

 

 

Dsc_0013  私自身はテレビ番組の作り方はまったくの素人で、不特定多数の視聴者向けに、このコンテンツを分かりやすく噛み砕き、なおかつ作品が目指すものを損なわずにひと月足らずの間に編集加工するなんて不可能。そこで成岡さんが助っ人に呼んだのが井内さんというわけです。

 

 で、昨日18日の一般公開&表彰式から、井内さんが撮影に立ち会うことになり、私は少し離れたところから成岡さんと井内さんの撮影風景を眺めることに。私が側からああだこうだ口を出すと、井内さんがやりにくいだろうと配慮したつもりでしたが、井内さんが会場で試飲中の人にインタビューを取ろうとすると、ついつい「その人は業界関係者だからダメ」とか「あの人はオタクだからやめといたほうがいい」とか、余計な口をはさんでしまいました(苦笑)。

 写真は、私が口出しをして「この人のコメントをもらったほうがいい」と推した英君の望月裕祐さんを撮影中の2人。鑑評会の蔵元代表審査員を今年初めて務めた望月さんのコメントは、地酒ファンなら気になるところだと思ってのことですが、井内さんにはピンとこなかったかも…。

 

 話はそれますが、12日の審査会で、望月さんが香水をつけた女性新聞記者を煙たがってたことをブログに書いたところ、同じく蔵元審査員を務めた小夜衣の森本均さんが「香水も言語道断だが、審査員のすぐ脇に近寄って手元や口元をズケズケ撮影してたテレビ局の連中はけしからん。審査会場を何だと思っているんだ」とおかんむりでした。ずっと外側のポジションから撮影していた私も成岡さんも、気になっていたのですが、会場にいた酒造組合の会長・副会長・事務局長が何も言わないので、私たちが出しゃばって注意するのも…と躊躇したのがいけなかった。私たちまで「けしからんマスコミの連中」扱いされると困りますから、これからは遠慮なく注意させてもらいます!

 

 

 

Dsc_0008  話はもどり、そのうち、あんまり成岡さんと井内さんの動きを気にしていたら、自分がこの会場でなすべきことを見失いそうになると思い、今年は昨年よりも人数が多いとか、女性も多いとか、蔵元で誰が一般公開に来ているかとか、どんなモチベーションで来ているのかなど、ひたすら来場者の観察に努めました。直接、撮影という行為にはかかわらなくても、鑑評会の一般公開という会場がどういう性格のものか、年によって変わるのかをしっかり取材することが、いざ、映像を編集するときにモノを言うんですね。

 

 ただ現場映像が撮れればいいというニュースや情報番組ではなく、私が作りたいのは、メッセージ性のあるドキュメンタリーですから、どんなナレーションを付けるか、テロップにどんなトーンの言葉を持ってくるか等は、現場をどれだけしっかり取材したかにかかわってきます。

 会場には顔見知りの方がたくさんいましたが、私が仏頂面でいたので、たぶん声をかけにくかったと思います。こちらから挨拶もせず、失礼をしちゃってすみません。

 

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 12時から14時までの一般公開は、出品酒を一滴も試飲できず、人の顔ばかり凝視する2時間でした。昼食を済ませて14時30分に戻り、2階に用意された関係者だけの試飲会場(製造技術研究会会場)におじゃまして、ひととおり試飲を済ませ、1階ロビーにもどると、蔵元さんたちがテレビの前に釘付け。WBCの対韓国戦の中継に見入っています。高校球児だった井内さんは、劣勢の試合状況に「観ちゃいられない…」と背を向けていました。

…この先、オンエアになる「しずおか吟醸物語」も、こんなふうに大勢が見入ってくれるような作品になればいいなぁと思いますが、どうなりますか。

 


ぶらんどJA in 成田空港

2009-03-17 11:53:28 | 本と雑誌

 昨日(16日)は、JA静岡経済連の情報誌『スマイル』の取材で、成田空港まで遠征してきました。第二ターミナルビルに、全農連のアンテナショップ「ぶらんどJA」というのがあって、静岡県のお茶なども販売しているのです。

 

 パスポートを持たずに成田空港に来たのは、もちろん初めて。「ぶらんどJA」があるのは、ターミナルビルの入場制限区域内(出国手続き済みの人しか入れない場所)なので、初めて海外旅行をしたときのように右往左往しっぱなし。事前の取材申請はJA静岡経済連が全農連を通してやってくれたのですが、身分証明書の提出やら持ち込むカメラの機種とシリアルナンバーの申請などなど、今まで20数年取材活動をしてきて、こんなに多くの“関所”越えをしなければならない経験は初めてでした。

 

 

 税関で入場証をもらって職員専用の出入り口を利用する時も、海外旅行用の手荷物ではなく、いつもの取材バッグにいつもどおりの小道具がゴチャゴチャと入っていたので、手荷物検査で何度もブザーにひっかかり、気が付くと後ろに制服を着た空港職員や販売員の人が何人も行列を作っていました(恥・・・)。

 

Dsc_0003  それでも、やっと関門をくぐりぬけて、海外ブランドの免税店などが並ぶお馴染みのフロアにたどりつくと、黒で統一されたシックな店構えが目に飛び込んできました。お店の大きさは、駅のキヨスク程度ですが、シックな内装の中に、いちご、りんご、オレンジなど色鮮やかな生鮮フルーツが並び、カラフルな千代紙の茶筒に入った静岡茶も彩りを添えていました。食品、とくに生鮮品を扱うお店は、こういう場所では珍しいので、どんな見せ方をするのかなと思っていましたが、カラーコーディネートをきちんと考えた品のよい店構えでした。

 

 商品は、全国のJAから取り寄せた選りすぐりのもの。生鮮品の持ち込みができるシンガポール、香港、マレーシアの便を使うお客さんでは、お米と果物が人気ナンバーワンだそうです。いちごは強力ブランドの「とちおとめ」「あまおう」が置かれ、1パック1000円ぐらい。セットで3000円以上のものがよく売れるそうです(すかさず、販売員さんに「静岡のあきひめと紅ほっぺもよろしく」と一言添えておきました)。

 

 全農連では、とくに有名産地のものだから置くというわけではなく、むしろ新しい商品を積極的に扱いたいので、各JAさんからぜひ推薦を上げてほしいとのこと。

 Dsc_0001_2 それでも、「お茶は、宇治、伊勢、静岡の3ヶ所のものを扱っていますが、一番ブランド力があるのは静岡。高くても売れますよ」と嬉しいお言葉。伊勢茶を試飲させてもらいましたが、香りがあんまりなくて…うん、やっぱり静岡茶のほうが「これぞ緑茶の王道」って感じ!

 

 

 この店の存在は、まだまだ農業関係者に浸透しているわけではないようですが、空港利用時に偶然見つけて「あの県の〇〇〇より、うちのほうがうまい」とか、「故郷の〇〇〇がこういう店で置かれていると誇らしい」といった反応も。作り手のモチベーションを刺激し、高めるようになるなら、こういう場所での農産物のアンテナショップってすごく価値ある存在になりますよね。

 

Dsc_0017  ちなみに最近のヒット商品は、大分県の「柚子胡椒」で、肉料理を好む外国人や、海外で日本料理店を経営している人などが大量に買っていくそうです。また「あんぽ柿」や「干し芋」といった素朴な甘味が、とくにアジアの人に大人気だとか。

 富士山静岡空港で物販事業を予定している人は参考にしてみてはいかがでしょうか?


上槽の朝の神棚

2009-03-15 16:06:56 | 吟醸王国しずおか

 今日(15日)は朝一で、初亀醸造の純米大吟醸上槽(搾り)の様子を撮影しました。

 仕込み蔵へ入ろうとしたら、蔵元の橋本謹嗣さんが、入口の扉頭上にある神棚に二礼二拍手。この神棚は、今期杜氏1年目を務める西原光志さん以下、蔵人のほとんどが刷新されることになって、造りに入る前に神神社の宮司さんに造りの無事を祈祷していただくため新設したものです。

 毎月1日と15日の朝は、必ず手を合わせてから入るという橋本さんの、杜氏や蔵人を思いやる気持ちが痛いほど伝わってきて、カメラを回すからもう一度、とお願いしました。

 

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 「おぉ、いい光が射し込んで来た!」とカメラマンの成岡さん。ちょうどカメラを向けたとき、神棚に朝の光がピンポイント照明みたいに射し込んできました。写真、すごいでしょ。自然光ですよ、これ。…陽光に照らされる神棚にお出迎えされるなんて運がいい!

  

 

 Dsc_0004 中では一昨日に槽(ふね)に積み、搾り終わった酒袋から酒粕をはがす作業をしていました。槽搾りも、量が多い初亀では一日置きに積み上げ、一昼夜圧力をかけ、時間をかけてていねいに搾ります。そして酒粕をはがし終わった袋を、そのまま続けて次の搾りに使います。袋に変な匂いやクセがつかないよう、なるべく時間をおかずに袋を連続して使うのがポイント。これはどの蔵でも同じようです。

 

 

 Dsc_0015 初亀の槽は、今まで見た中では一番大きくて、底も深くて、袋を積み上げるのに結構な体力を使っていました。西原さんはまだ30代、補佐する蔵人も20代ですから体力的には問題なさそうですが、前杜氏の滝上秀三さんや能登の蔵人さんたちは60~70代でした。こういう作業を目の当たりにすると、高齢の杜氏や蔵人の負担がいかに重かったかを実感させられます。

 西原さんは会うたびに色白でスリムになっていました(うらやまちぃ!)。「僕、この造りで体重が10キロ落ちました」と吐息まじりに語る西原さんを見ていたら、うらやましいだなんて思うだけでも失礼ですよね・・・(反省)。

 

 

 高齢化が問題になっているのは、人間だけではありません。「昨年から今年にかけて、蔵のあちこちで機械が故障したりトラブルが起きたりで大変でした」と橋本さん。昨春、滝上さんとともに引退した能登の蔵人さんたちが、帰郷する前に「最後のお勤めだから」と、いつも以上に丁寧に蔵の隅々まで掃除をしてくれたそうです。ところが気持ちが入り過ぎたのか、そのあと、冷蔵設備用のファンの配線が故障してしまい、別の冷蔵設備に負担がかかり過ぎてそちらも故障してしまうトラブル・スパイラルが起きてしまったとか。

 暖地・静岡での酒造り、とりわけ低温発酵や低温貯蔵が必須である吟醸造りを主体にしていれば、冷蔵機器は年中フル回転せざるを得ず、メンテナンスも相応に気を遣います。

 

 

 このように、静岡みたいなところでは、人の手当と同時に、蔵の維持や設備のケアにも大変な労力が必要です。この春、残念なことに宝歴元年(1751)創業という県内屈指の老舗酒蔵「忠正」の吉屋酒造(静岡市葵区)が、のれんを降ろすことになりましたが、酒造業を継続するということは、並大抵のことではありません。

…だからこそ、今、がんばっている酒蔵―とりわけ若い杜氏や蔵人を雇用して頑張ろうという蔵元や、蔵元自身が身を削ってのれんを守ろうとしている酒蔵を、応援せずにはいられなくなるのです。

 

 

 

 初亀の仕込み蔵は、昭和初期の建造物と、昭和30年代の高度成長期に導入が進んだ機器が未だ現役で稼働しています。「台風のシーズンなんか、ちょっとした強風や大雨がくると、瓦が飛んで、そのつど雨漏りです」と苦笑いする橋本さん。フツウの製造業者のように、どこかに場所を移して、一から新しい建物と設備を導入して、人間の負担を減らせるようなモノづくりができれば、あるいは滝上さん世代の造り手がもう少し長く勤められたのかもしれません。古い機械をだましだまし使わなくても済むのでしょう。

 

 酒蔵が背負っているものって、本当に一言では表現しきれないほど重いんですね。と同時に、使えるものはなんとかマンパワーでケアして使う酒蔵のモノづくりって、“MOTTAINAI“精神を体現しているんだと思います。

 

 

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 考えてみると、日本酒ってゴミがでない産業なんです。原料米は、精米した後のヌカもちゃんと二時利用できるし、水は多くの蔵が井戸水利用だし、酒を搾った後の粕も二次利用するし、瓶はリサイクルできる。冷蔵設備用の光熱費はなかなか削減できないけど、いずれは太陽光発電など自然エネルギーの導入が進めば、本当にエコ産業の代表格になるはず。

 

 酒蔵のあるべき理想に向かって前進しようとする橋本さんや西原さんたちの志を、どうか手厚く見守ってください…と、私も神棚に手を合わせました。