
読書

高校時代に読んだ「青葉繁れる」以来の井上ひさし。
「終わらざる夏」(浅田次郎)「八月十五日の開戦」(池上司)と千島列島最北端でのロシアと日本の悲惨な戦いを読んだ後、シベリア抑留についての物語を探していたところ見つかったのがこの一冊。
太平洋戦争中、古書店店主を隠れ蓑にした小松修平という共産党員がMという人物の謀略にかかり上海で日本の官憲に逮捕され刑に服すことになる。刑期を終えた小松はMを追い満州に渡るが終戦を迎えソ連に囚われシベリア抑留の身となる。シベリアの強制収容所の環境、待遇は劣悪そのもの、しかも、日本軍の縦割り構図がそのまま残っていて下級兵士は60万人の十分の一が死んで行くような有様だった。そんな中、語学に堪能な小松はハバロフスクでソ連軍・共産党が作る日本新聞社に雇われ日本軍医の脱走劇を聞き出すこととなる。その中で、ソ連中枢にとっての機密文書であるレーニンの手紙が軍医から小松にもたらされ、この手紙をめぐる小松対ソ連政府の虚虚実実の駆け引きが展開するのであった。
以上の展開が1週間の日々の出来事を追って語られて行く物語。
国際法に無頓着で人権を省みない日本軍の姿に暗澹たる気持ちになる。また、表面は穏やかなロシア人が突如凶暴さを表す場面に戦勝国の傲慢さを感じる。厳しい寒さに閉ざされた極東の地・ハバロフスクが春を迎える場面の表現が美しい。
冒険物?政治物?戦争物?う~む、変わった長編。あっけない最期がなければ評価5だったのだが・・・かなり、ロシア・ソビエトに興味がわいてきた昨今、次回は井上ひさし夫人のお姉さんでロシア語翻訳者の米原万里さんの「嘘つきアーニャの真っ赤な真実」を読むのだ!