日暮しの種 

経済やら芸能やらスポーツやら
お勉強いたします

冷酷な現実

2011-03-14 22:00:19 | 編集手帳
  3月14日 読売新聞編集手帳


  「遠く離れた…」と言うとき、
  人はどのくらいの距離を思い浮かべるだろう。
  〈ほととぎす自由自在に聞く里は酒屋へ三里豆腐屋へ二里〉。
  不便と同居する風流人を詠んだ歌にもあるように、
  2~3里(1里=約4キロ)はじゅうぶんに遠い距離と誰もが思う。

  今回の東日本巨大地震では人家と樹木を根こそぎにして、
  海岸線から“遠く離れた”2~3里も先、
  10キロほど内陸に入った地域にまで津波がおよんでいる。

  身を省みて、
  津波とは堤防の釣り人や海沿いの住民が警戒するもの――
  という思いこみがなかったとはいえない。

  地震発生から津波来襲まで、
  最も早い地域ではわずか30分であったという。
  津波を伴う地震はどこで、いつ起きてもおかしくない。
  「きょう」かも知れないその時、
  限られた時間内にどう行動するか…。
  海とも陸ともつかぬ無残な光景が問うている。

  ニュースに耳をすますたび、
  何十人の単位で死者・不明者が増えていく。
  ほんとうならば教訓うんぬんはひとまず後回しにして、
  いまはただ犠牲者に瞑目(めいもく)し、
  不明者の無事を祈るときだろう。
  地震大国の冷酷な現実が、それを許してくれない。
コメント