3月22日 読売新聞編集手帳
堀口大学の『わが詩法』に
〈言葉は浅く/意(こころ)は深く〉
とある。
宮城県石巻市の津波で倒壊した家から祖母と孫が9日ぶりに救出されたニュースに、
その詩句が重なる。
「将来、何をしたい?」。
80歳の祖母を守り抜いた高校1年生の阿部任(じん)さん(16)を発見・救出したとき、
県警の石巻署員は衰弱した任さんに尋ねたという。
もう大丈夫だ…
助かったぞ…
生きているんだ…
がんばれ…
もろもろを込めた「将来、何をしたい?」であったろう。
語り口は世間話のように浅く、
思いやりは深い。
任さんは「芸術家になりたい」、
そう答えたという。
これから出動するよ――
被曝(ひばく)の危険が待ち受ける原発事故現場の放水作業に向かうとき、
東京消防庁の総隊長(58)は妻にメールした。
1行の返事が来た。
「日本の救世主になってください」。
夫が身を捨てて救世主になることを望む妻は、
いない。
心配していると告げれば、
しかし、
夫の覚悟が鈍る。
ドーンと背中を叩いた1行の向こうに、
神仏に合掌してすすり泣く人の姿が透けて見える。
意は深く…。
「崇高」という言葉は知っていた。
意味するところを、
いまにして知る。
堀口大学の『わが詩法』に
〈言葉は浅く/意(こころ)は深く〉
とある。
宮城県石巻市の津波で倒壊した家から祖母と孫が9日ぶりに救出されたニュースに、
その詩句が重なる。
「将来、何をしたい?」。
80歳の祖母を守り抜いた高校1年生の阿部任(じん)さん(16)を発見・救出したとき、
県警の石巻署員は衰弱した任さんに尋ねたという。
もう大丈夫だ…
助かったぞ…
生きているんだ…
がんばれ…
もろもろを込めた「将来、何をしたい?」であったろう。
語り口は世間話のように浅く、
思いやりは深い。
任さんは「芸術家になりたい」、
そう答えたという。
これから出動するよ――
被曝(ひばく)の危険が待ち受ける原発事故現場の放水作業に向かうとき、
東京消防庁の総隊長(58)は妻にメールした。
1行の返事が来た。
「日本の救世主になってください」。
夫が身を捨てて救世主になることを望む妻は、
いない。
心配していると告げれば、
しかし、
夫の覚悟が鈍る。
ドーンと背中を叩いた1行の向こうに、
神仏に合掌してすすり泣く人の姿が透けて見える。
意は深く…。
「崇高」という言葉は知っていた。
意味するところを、
いまにして知る。