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日暮しの種 

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言葉は浅く 意は深く

2011-03-24 22:41:55 | 編集手帳
  3月22日 読売新聞編集手帳


  堀口大学の『わが詩法』に
  〈言葉は浅く/意(こころ)は深く〉
  とある。
  宮城県石巻市の津波で倒壊した家から祖母と孫が9日ぶりに救出されたニュースに、
  その詩句が重なる。

  「将来、何をしたい?」。
  80歳の祖母を守り抜いた高校1年生の阿部任(じん)さん(16)を発見・救出したとき、
  県警の石巻署員は衰弱した任さんに尋ねたという。

  もう大丈夫だ…  
  助かったぞ…
  生きているんだ…
  がんばれ…
  もろもろを込めた「将来、何をしたい?」であったろう。
  語り口は世間話のように浅く、
  思いやりは深い。
  任さんは「芸術家になりたい」、
  そう答えたという。

  これから出動するよ――
  被曝(ひばく)の危険が待ち受ける原発事故現場の放水作業に向かうとき、
  東京消防庁の総隊長(58)は妻にメールした。
  1行の返事が来た。
  「日本の救世主になってください」。
  夫が身を捨てて救世主になることを望む妻は、
  いない。
  心配していると告げれば、
  しかし、
  夫の覚悟が鈍る。
  ドーンと背中を叩いた1行の向こうに、
  神仏に合掌してすすり泣く人の姿が透けて見える。
  意は深く…。

  「崇高」という言葉は知っていた。
  意味するところを、
  いまにして知る。
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もう我慢しなくてもいいんですよ

2011-03-24 13:38:50 | 編集手帳
  3月20日 読売新聞編集手帳


  日本には「腕時計の針を電車の到着時刻で合わせられる」ような秩序があり、
  何事も予測がつく安心感がある。
  そんな国の人々が先が読めない大混乱に直面して、
  子供の頃から教えられた道徳を守り抜こうとしている。
  我慢が大切というものだ。

  巨大地震に見舞われた日本人の姿を、
  米紙の記者はそう評した。
  英紙のコラムニストは、自分の身を守るより、
  棚から落ちる商品を必死で押しとどめようとする店員の姿に、
  「ひそかな献身」を見たと書いた。

  過労死や援助交際など日本の負のイメージを強調しがちだった欧米メディアのほめ言葉は、
  面映(おもは)ゆい。
  殊に、
  たかが“計画停電”に通勤の足を奪われただけでうろたえていた己には。

  もし我慢や献身が今も日本人の美徳だとすれば、
  それを最も失わずにきたのは、
  東北地方のお年寄りだろう。
  大津波はそんな人々の慎(つつ)ましい生活を奪い去った。

  「物言わぬ」と言われる人たちは、
  避難先でテレビのマイクを向けられても、
  救援物資の遅れに怒りやいらだちをあらわにすることはまずない。
  「もう我慢しないでください!」。
  画面に向かって、
  思わずそう告げたくなる。
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