3月15日 読売新聞編集手帳
ボクシングなどで、
タイミングをはずして相手を惑わす動作を「フェイント」という。
パンチが来ると思って備えを固めると、来ない。
来ないと思えば、来る。
東京電力のフェイントには惑わされた方が多かろう。
地域ごとに電力の供給を停止する「計画停電」である。
前夜に公表された計画に従い、
停電を覚悟していると、
当日朝になって
「実施しない」「いや、実施するかも…」と、
説明は二転三転した。
節電に協力する鉄道各社が列車の運行本数を減らし、
電力需給の見通しが狂ったための混乱というが、
鉄道各社と事前に十分な調整をしていれば避けられたことである。
停電するのか、しないのか、
直前までテレビにかじりついていないと分からないというのでは「計画」の名に値しない。
連日の悲惨な映像でずたずたの神経を、
つまらないフェイントでいじめないでほしいものである。
家を失い、
肉親の安否も知れぬまま避難所生活を送る被災者を思えば、
日に数時間の停電がもたらす不便など、
何ほどのパンチでもない。
従容と受け入れる人がほとんどだろう。
要は東電の、
政府の、手際しだいである。