8月6日 NHK海外ネットワーク
ベルギー生まれの人気漫画「タンタンの冒険」は、
くるんと跳ね上がった前髪がトレードマークの少年タンタンと、
相棒のスノーウィが世界中を旅する、ヨーロッパを中心に世界中で愛されてきた冒険物語。
原作を元にした映画が今年公開される。
タンタンの冒険シリーズは80カ国以上に翻訳されて、
これまでに2億部以上出版されている。
ベルギー・ブリュッセルの玄関口となる駅ではタンタンの大きな壁画が出迎えてくれ、
町のあちこちでその姿を見ることができる。
主人公タンタンは少年記者で、
愛犬スノーウィと世界中を飛び回り冒険や謎解きに巻き込まれていく。
アフリカではゾウに追いかけられ、ヒョウにも狙われる。
ところが、タンタンは虫眼鏡で太陽の光を集めゾウを撃退、
ヒョウには鏡を使って危機を脱出。
知恵と機転で乗り切る。
「タンタン」の作者、ジョルジュ・レミは今から100年余り前ベルギー・ブリュッセルで生まれた。
子供向けの編集長を務めていた21歳のときに、
「エルジェ」というペンネームで「タンタン」を書き始めた。
海外特派員にあこがれていたエルジェは、
見たこともない世界に行ってみたいという夢をタンタンに託した。
その一作目の舞台はソビエト。
当時、世界初の社会主義国家として誕生して間もなかったソビエトは、
西側諸国にとって厚いベールに包まれていた。
タンタンは新聞社からソビエトのルポを送るよう命じられる。
そこで目にしたのは煙を上げてフル稼働する工場。
しかし何かがおかしいと思ったタンタンが工場の中をのぞくと、
中はハリボテでわらを燃やして工場が稼動しているように見せていたのである。
首都モスクワで飢えた市民がパンの配給に並ぶ姿。
後にエルジェ自身が旧社会主義体制を批判的に描き過ぎたと述べているが、
その時代に沈黙されていた世界の舞台を意欲的に描こうとしている。
1953年と翌年に発表された「タンタンの月への冒険」では、
エルジェは膨大な資料を集めそこに想像力を加え、
誰も知らない世界へタンタンを送り込んだ。
タンタンは宇宙遊泳をし、
『これまでの人類が一人として踏んだことのない月世界の土。
それを今ぼくはふみしめています!』
タンタンのこの言葉が現実のものとなったのは、それから16年もあとのことだった。
アポロ アームストロング船長
『これは人間の小さな一歩に過ぎないが、人類にとって大きな飛躍だ。』
子供の頃からのファンは、大人になって読み返すたびに新しい発見があるという。
専門家は、エルジェの時代や将来を見る目が作品の魅力になっていると評価している。
そのタンタンがハリウッドの最新のデジタル技術を駆使して映画化された。
手がけたのは巨匠スティーブン・スピルバーグ監督。
そして「ロード・オブ・ザ・リング」を手がけたピーター・ジャクソン監督。
スピルバーグ監督
「行ったことがない場所でも情熱があれば伝えられる。
想像力と場所の歴史が組み合わさることで、より壮大な冒険が生まれる。」
ジャクソン監督
「紙に描かれた絵本を3次元の立体にすることで、
20世紀を象徴する作品に21世紀の技術を注ぎ込めた。」
見たことのない世界へいざなってくれるタンタン。
世代を超えて愛され続けている。