9月9日 編集手帳
衝撃というほど大げさではないが、
しばし考え込んだ覚えがある。
何年か前、
甲子園の高校球児が自身のブログに対戦相手を侮辱するような書き込みをして小 さな騒ぎになった。
〈変な顔のやつばっか、笑 昭和くさい〉と。
激動の昭和に生まれ育ったことをいくらか誇らしく思う身には“くさい”呼ばわりが理解できなかったのである。
平成の世となって四半世紀が過ぎた。
「昭和くさい」の表現に抵抗を感じぬ若い人は増えているだろう。
昭和天皇87歳の生涯を編年体で詳述した『昭和天皇実録』(全60巻)が公表された。
戦争で流れた血と涙の総量を思えば、
過ぎ去った昔をただ懐かしがることは許されないが、
起伏の激しい昭和の山坂を通らねば、
日本人の「いま」がなかったのも確かである。
人々が拠(よ)って立つ足もとを見つめ直そうとするとき、
昭和天皇実録は良き案内役となってくれるだろう。
〈チャンネルをまだ回してたころだつた家族は丸く小さく座つた〉 (目黒哲朗)。
鼻をつまんだ君よ。
貧しさと混乱のなかにも、
香料にだって劣らぬかぐわしい風景があったことを知ってもらえたらうれしい。