9月1日 キャッチ!
経済大国となった中国だが都市と農村の格差は依然として深刻なままである。
その大きな要因の一つとみられているのが中国の戸籍制度である。
中国の戸籍制度の大きな特徴は
都市の出身者には都市戸籍
農村出身者には農村戸籍が与えられ
その区分が厳格に管理されていることにある。
この戸籍制度は1958年 農村から都市への人口移動を制限するために設定された。
現在 都市戸籍の保有者は約5億人
農村戸籍の保有者は約9億人と言われている。
中国では社会保障や公共サービスはこの戸籍に基づいて提供されていて
都市戸籍の保有者には一般的に医療や年金、生活保護などの手厚い社会保障制度が整備されている。
一方で農村戸籍の保有者には農地の割り当てがあるものの
失業保険の対象にならないなど社会保障の待遇に差があるうえ
義務教育など公共サービスも十分に受けられない。
ある調査では都市労働者と農民の受給年金額の差は24倍にもなるということである。
この格差から抜け出そうと農村から都市へ人口の流入が止まらない。
こうした人々は農民工と呼ばれているが
都市戸籍を持たないため様々な公共サービスが受けられず劣悪な環境での労働が強いられており
近年 社会問題化している。
そうしたなか北京市の戸籍を不法に売買していたとして
8月末 国有会社の人事担当十数人を含む犯罪グループが摘発された。
犯罪グループのリーダー田容疑者は2011年ごろから友人の子どもに北京戸籍を取得させるために奔走していた。
北京の国有企業に就職すれば北京戸籍を取得できることを知った容疑者は
その制度を悪用し不法な戸籍あっせんを計画した。
(犯罪グループリーダー 田容疑者)
「私は北京戸籍を必要とする人を探して企業の幹部に紹介するんです。
その幹部も最終決定者ではありません。
彼らもまたどこかに頼みます。
1本のチェーンのようになっているんです。
2011年からおそらく数十人に北京戸籍をあっせんしたと思います。」
この犯罪グループには元国有大手企業の幹部が多く含まれていた。
(元国有企業幹部 張容疑者)j
「私たちの企業は政府の人材交流センターから毎年5~6人の北京戸籍の定員を割り当てられます。
私があっせんした学生30人は企業に名目だけ採用されましたが実際には会社に行っていません。
大体1年後には転職を理由に会社を辞めます。
彼らの目的はあくまで北京戸籍を取得することなんです。」
田容疑者によれば戸籍のあっせんで1度に得た金額は最高で33万元(約550万円)にものぼったということである。
農村戸籍を持つ人が北京や上海などの都市戸籍を取得することは高学歴のエリートでも極めて難しく
戸籍のあっせんをめぐる犯罪は後を絶たない。
こうしたなか中国国務院は7月末
都市戸籍と農村戸籍を2020年までに統一することを柱とした戸籍制度の改革方針を打ち出した。
住んでいる場所に応じて公平な公共サービスが受けられるように再度を整備し
さらに1億人の農民を都市部に定住させることを目的としている。
(みずほ総合研究所 アジア調査部中国室 三浦祐介主任研究員)
「都市戸籍と農村戸籍の統一はこれまでは一部の地方政府が個別に取り組んできただけだった。
これに対して今回は中央政府が全国を対象とした制度改革の方針を示したという点で
改革を大きく前進させようという習近平政権の意思はうかがえる。
ただ改革案の内容については既存の政策や各地方の取り組みがベースとなっており
目新しいものはあまりない。
中国政府が戸籍を統一しようとする狙いは3点ほど挙げられる。
公共サービスや社会保障など社会的な権利の格差を解消することで
所得格差拡大の芽を摘み社会不満の増大を抑えたい狙いがある。
また農民工の都市への定住を促し
農業よりも生産性の高い工業やサービス業に従事する人を増やすことで産業の高度化をさらに進めたいという狙いもある。
農民工が都市に定住し働くことで収入も向上する。
これにより個人消費を拡大させ投資依存の経済成長から脱却を図ろうという思惑もあると考えられる。
ただ形式上戸籍を統一するだけでは狙いを達成することは難しい。
公共サービスや年金など関連する他の制度も地域で分断されているためだ。
戸籍の違いによる権利の格差を解消するためにはこうした他の制度についても全国で統一していく必要がある。
このことは改革案でも言及され中国政府も十分に認識している。
しかし公共サービスの拡充による財政負担の増加にどう対応するか
年金財源の統一にあたり地域間の利害調整をどう図るか
大都市に集中する人口をどう分散させるのかなど
多岐にわたる問題に対し具体的な道筋は十分に描けていない。
複雑に絡み合った取り組みを首尾よく進めることが出来るのか
習近平政権の実力が試されているといえる。」