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敗者のリアリズム

2015-06-01 07:30:00 | 編集手帳

5月19日 編集手帳

 

喜劇王チャップリンは日本訪問の折、
歌舞伎を見物した。
剣士は距離をおいて斬る真似(まね)をする。
現実味の乏しい所作が印象に残ったらしい。
〈ところが、
 ひとたび死の場面になると、
 俳優たちは急にリアリズムに切り替わるのだ〉
(新潮文庫『チャッ プリン自伝』)

その人の記者会見を聞きながら、
喜劇王の感想を思い浮かべた。
これまでのケレン味あふれる挑発調は鳴りをひそめ、
反省と感謝を口にする姿に敗者のリアリズムを感じた方は多かろう。

大阪市長の橋下徹氏である。
唱えてきた「大阪都構想」が住民投票で否決され、
政界からの引退を表明した。

神話や物語のトリックスター(スサノオ、孫悟空など)を思わせる人気と暴れん坊ぶりに好き嫌いはあれ、
その発信力は誰もが認めるところであったろう。

チャップリンには、
自身の最高傑作を問われて「ネクスト・ワン」(次の作品だ)と答えたという出典不明の名言が伝わっている。
せっかく苦い敗北でリアリズムを習得した橋下氏に、
政治家としてのネクスト・ワンはないらしい。
潔さを感じる前に、
肩すかしをくらったような物足りなさも残る。

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