6月1日 編集手帳
中国は昔から、
途方もないものを造ってきた。
その代表である「万里の長城」はかつて、
「宇宙から肉眼で見える」と言われた。
科学的には否定されたようだが、
さもありなんと思わせる壮大な歴史遺産だ。
中国は今また、
恐るべき規模の土木工事を進めている。
場所は南シナ海。
ベトナムやフィリピンも領有権を主張する岩礁を次々に埋め立てている。
みるみる広がる「陸地」は、
「砂の長城」と呼ばれるようになった。
各国の人工衛星や航空機が、
上空から、
建設中の港や滑走路の姿をとらえた。
中国政府は工事について、
「救難活動や環境保護、
航行の安全などでの国際的責務を果たすため」と説明する。
だが、
周囲を圧する力を背景に、
恒久的な軍民の活動拠点を設けて、
海の支配強化を図る動きにしか見えない。
地域の安定を脅かす独善的な「長城」には、
巨額の資金が投じられるだろう。
格差の是正や教育の充実など、
有用な使途は他にいくらでもあろうに。
万里の長城を築いた歴代王朝は、
内憂外患の窮地に陥った末、
消えていった。
地上には、
長城が残った。
そんな歴史の記憶さえ、
ふと頭をよぎる。