1月15日 読売新聞「編集手帳」
葉をすっきりと落とし、
裸になっている木を見かけると、
明治生まれの詩人・八木重吉のごく短い詩を思い出す。
『冬』と題す。
<木に眼めが生なって人を見ている>
結核で29歳で夭折(ようせつ)した重吉の詩は生命の息づかいに触れる作品が多い。
体が弱く床に伏しがちだった詩人が裸の木にこしらえた眼は、
一行しかないだけに、
冬の街を歩く人の何を見ているのだろうかと想像させる。
きのう横断歩道で信号待ちしていると、
向かい側の人たちがほぼ全員マスクをしていた。
風邪気味の人の感染を広げないためのエチケットであり、
かたや予防であり。
人間だからできることだろう。
沖縄で豚(とん)コレラ(CSF)の感染の広がりが懸念されている。
農林水産省は特産の「アグー」豚を守るため、
施設に隔離する検討を始めたという。
絶滅寸前だった「島豚」を殖やしてきた地元の努力を無にしないよう、
迅速な対応が望まれる。
重吉に『豚』という詩もある。
<この
豚だって
かわいいよ
こんな
春だもの
いいけしきをすって
むちゅうで
あるいてきたんだもの>。
春が来る頃には感染が終息し、
外に出られるといい。