2021年2月9日 NHKBS1「キャッチ!世界のトップニュース」
一昨年 政府に対する大規模な抗議活動が行われていた香港。
しかし
去年6月に施行された反政府的な動きを取りしまる香港国家安全維持法により
民主派の活動家が次々と逮捕されるなど
抗議活動がほとんどできない状況になっている。
“新たな法律は社会の安定をもたらした”と
中国・香港の政府が胸を張るその影で
市民の失望感は深まる一方である。
そんな香港市民の思いが込められた本がいま反響を呼んでいる。
去年11月
古い住宅が立ち並ぶ街の一角で開かれた本の展示会。
「100人の物語」と題され
真っ白な表紙の本100冊が並んでいる。
抗議活動を経て感じる無力感や将来に対する不安など
100人の普通の市民の思いが吐露された
市民ひとりひとりが主人公の小さな物語である。
(本より抜粋)
香港国家安全維持法やコロナ禍
さまざまなことが起き
心が病みました
「読めば読むほど打ちひしがれます。
でも“じぶんだけじゃないんだ”と感じられます。」
「“香港には希望がないが香港人には希望がある“
という言葉がありました。
無力感はありますが
頑張ろうと思えます。」
訪れた人は2週間余で2,200人。
入場まで1時間待ちという日もあった。
展示会を開いたのはアーティストの含畜さん(33)。
友人とともに市民100人にインタビューし
それぞれの物語を1冊ずつ本にまとめた。
(アーティスト 含畜さん)
「予想以上の反響です。
抗議活動が落ち着き
自分の気持ちと向き合い始めたのです。」
6年前から創作活動を行なう含畜さん。
白い背景に
黒いサインペンで無表情の人を描くのが特徴である。
「100人の物語」のアイデアは
激しい抗議活動が続いた香港の人たちを癒したいとの思いから生まれたという。
(アーティスト 含畜さん)
「みんな まず自分の理念を夢中で話し
次に抗議活動
そして日常を語ります。
私は日常の話を採用しました。
彼らの生活や
どんな問題に直面しているかということを伝えたいのです。」
本になった1人 林さん(41)。
音楽や映画に関わる仕事を続けながら
自分でも映画を撮りたいと準備を進めているが
今の香港では思うように表現できないと感じている。
香港で創作活動は不可能だと思いました
仕事をする私は死んだも同然でした
「これはヘルメット
あとゴーグルを使いますがあまり有効ではありませんでした。」
林さんは一昨年以降 抗議活動に熱心に関わってきた。
しかし自分たちの意見を聞き入れようとしない政府の態度に失望し
そのうえ抗議の声を押さえつけようとする法律にも怒りを募らせていた。
(林さん)
「これほど大きな圧力がかかると将来の展望を失います。
半年後の自分や
社会がどうなってほしいのか
わからなくなりました。
これが一番心が折れます。」
含畜さんと同じように香港の人たちの心の内を表現したい。
林さんはそのためには香港を離れることもいとわないと考えている。
香港を離れることと
みんなだ闘うことは
相反しないと思いました
これは一時避難なのです
自由を味わった人はー
理念を譲ることはできません
行き場のなくなった市民の思いをすくい取りたい。
含蓄さんは
香港の人たちがどんな思いで生活しているのか
多くの人に知ってもらいたいと話す。
(アーティスト 含蓄さん)
「抗議活動や新型コロナなど
皆さまざまな問題に直面しています。
かつての日常には戻れませんが
共に歩いている気持ちを伝えられたと思います。」