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今年の桜の季節は

2021-03-04 07:00:13 | 編集手帳

2021年2月10日 読売新聞「編集手帳」


島崎藤村の詩「別離」に季節の花と向き合いながら、
どこかせっかちになってしまう人の心情をつづる一節がある。

<梅の花さくころほひは
 蓮さかばやと思ひわび
 蓮の花さくころほひは
 萩さかばやと思ふかな>
(「ころほひ」は古語で「時節」の意)。
春の梅から夏以降の花にそわそわと気持ちが移っていくが、
細かくいえば、
梅の次に桜、
桜の次は藤といった思いも隠れているだろう。

去年、
春の花々と戸惑いながら向き合ったのを思い出す。
桜の名所で宴会が禁止になり、
藤にいたっては初の緊急事態宣言のさなかに見頃が遭遇し、
紫に染まる枝を泣く泣く伐採した名所もあった。

民間の気象会社の開花予想によると、
今年のソメイヨシノは全国的に平年より早い地域が多く、
一番は東京で3月18日、
続いて福岡が20日、
名古屋21日、
鹿児島23日、
大阪24日…と開花していく。
西日本より東京が早いのは、
寒さが一定期間続くことで花芽の休眠打破が促されるためという。

桜が満開になるころ、
私たちはどうしているだろう。
舞い散る花びらのもと、
親しい人たちと車座になる景色は残念ながら浮かばない。




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