中学校には、ふつう1校に何人かは、自分の性(生物学性)に違和感を感じている生徒がいます。
思春期の一過性の場合もありますが、社会では一生涯にわたり性的マイノリティに位置づく生徒が在籍しているのが、いまの学校の現実です。
女子生徒とまわりから見なされるが、自分は男子生徒であるという自覚をもつ子、その逆もあります。
このとき、本人たちが戸惑うことの一つは制服です。
私の校長経験では、スカートをはくことに違和感をもつ子「女子生徒」がいました。その生徒は自分は男子であるという自覚をもっていた子でした。
その中学校の制服は、上着が男女共用の紺色のジャケット(ブレザー)で、男子はグレーのズボン、女子はグレーのスカートときまっていました。
本人と親御さんからの申し出がありました。「スカートでなく、ズボンをはきたい」ということでした。
事情を聴き、学校としてズボンの着用を認めました。周りの生徒たちは、「ズボンをはいた女子生徒」を自然に受け入れていました。
次に校長を務めた学校は、冬服について、男子は黒色の詰め襟上着に、黒色のズボン、女子は紺色のセーラー服(ネクタイはエンジ色)と同色のスカートでした。
夏服は、男子が白のカッターシャツと黒のズボン、女子は白のセーラー服と紺色のスカートでした。
ズボンをはきたい「女子生徒」がいることを、学年の教職員がつかんでいましたが、その生徒は校則にあわせて、本意ではなかったのですが、スカートの制服を着ていました。
このタイプの制服の場合、学校は難しい判断を迫られることになります。いわゆる「女子生徒」が詰め襟の学生服を日常的に着用するかどうかという問題に突き当たるのです。
その問題を解決することになるかはともかくとして、いま、いくつかの中学校では生徒や保護者の声を受け、制服の見直しをするケースが出てきています。
兵庫県姫路市立のある中学校は、制服検討委員会を作り、開校以来男子は詰め襟、女子はセーラー服と決めていた校則をあらため、ブレザーとズボンを男女の標準的な制服に変更しました。
このように、ブレザー型の制服は、下にスカートをはくか、ズボンをはくかという違いだけなので、対応しやすいのです。
ただ、この中学の場合は、さらに柔軟な対応を盛り込み、「スカートの制服には、ある種の憧れがある」という保護者の声を受け、申請すれば男女ともスカートを選ぶことができる柔軟なとりきめをしました。
結果、この中学では「女子」の場合、ズボンをはく生徒とスカートをはく生徒が混じり合って学校生活を送っているようです。
ここまで、いろいろ考えなければならないのなら、いっそうのこと私服にすればいいでないかという声もあるかもしれません。
しかし、現状での子どもの意見は、「制服を着たい」が主流です。とくに、高校の女子生徒の場合、自校の制服に愛着をもっている生徒がけっこう多いです。
「制服を着られるのは、JKの間だけだもの」という思いがあります。
中学3年生の場合、「あの高校の制服を着たい」という意向も、高校を選択する条件の条件の一つにもなるぐらいです。
ということですので、現状では制服があるものとして、LGBTQの生徒の願いもほかの生徒の願いも、最大公約数的に充足できる服装を、話し合いできめることが、いま学校ができることだと考えます。