ニューヨーク・タイムズは朝日新聞と同じに毎年十二月八日の開戦記念日に、日本は悪かった的な話を載せる。
今回は証券アナリストから戦史家に転向したイアン・トールに山本五十六を書かせていた。
五十六は下戸で、その分女遊びに耽(ふけ)ったとトールは書く。虚実ないまぜ、礼節のかけらもない筆致だ。
五十六は海軍武官として米国に行く。デトロイトやテキサスを見て圧倒的な米国の国力を知らされた。
それで彼は対米戦に反対する。米国と戦えば長い消耗戦を強いられ、挙句、「日本の都市は米軍機の空襲で廃墟となるだろう」と。
しかし運命は皮肉なもので、彼は海軍の総帥として心ならずも真珠湾攻撃を立案実行する。
あとは彼の予想通り。日本は強い米国に潰された。「敗北によって日本人は五十六の正しさが分かった」というのがトールの結論だ。
ただ気になるのは「強い米国」は同時に「正しい米国」と決めてかかっている。
彼らはインディアンの国に勝手に来た。族長から七面鳥を貰って越冬すると翌春には命の恩人のインディアンを殺してその頭蓋骨を二十年も晒した。族長の妻も子も戦士たちもカリブの奴隷に売り払った。
彼らはメキシコを騙して領土を広げ、ハワイもフィリピンも乗っ取って太平洋も取ろうとした。
米国は強いが、正しい国ではなかった。現に日本を侵略国家と罵り、蒋介石を日本軍にけしかけている時期、中立国のはずの米国はデンマーク領アイスランドを武力占領していた。言い訳もできない国際法違反行為だ。
もっとも米国の新聞が「我が国は見下げ果てた悪い国です」と書くわけもない。
五十六を臆病者にして、それでも米国に立ち向かった日本の浅はかさを笑えばいい読み物にはなる。
ただ一か所、日本を経済封鎖し、目いっぱい挑発しているさ中の「一九四十年、ルーズベルトはわざわざ米太平洋艦隊を日本の手の届くハワイに移した」ことを明かしている。
「五十六がそれに飛びついて真珠湾攻撃をやった」と続く。どうです。かくも周到な罠だったんですよという風に読める。
(以下次回)
変見自在
「マッカーサーは慰安婦がお好き」
高山正之 より