CubとSRと

ただの日記

信じるか信じないかはあなた次第

2022年07月01日 | 心の持ち様
書評 BOOKREVIEW 
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 

 ウクライナ戦争を横目に、本書を読むとものごとの本質がみえてきた
  愛と憎しみの大地で「神は死んだ」。日本の武士道も死に絶えようとしている

   ♪
 執行草舟『日本の美学』(実業之日本社)
 @@@@@@@@@@@@@@@@@

 おりからロシア v ウクライナ戦争の原稿を評者(宮崎)は書いていた。      
 キリスト教が分裂し、東ローマ帝国が崩壊した後、ヴィザンツの東方正教会の教えはポスポラス海峡を越えて、アナトリア半島から北東へ向かい、アルメニア、グルジア、ウクライナからロシアへ達した。
 他方、ポーランドはカソリックであり、その昔、ポーランド領だったウクライナの西側はカソリックが強い。憎しみがうずまくウクライナのカソリックvs東部のウクライナ正教が、この戦争の基層にある。
 執行言行録がはじまる。「人間とは魂の生き物なのです。魂を失えば、我々の肉体は犬や豚と何ら変わりません(中略)。人間の価値というのは何かと言うと、その肉体の中に入っている魂の問題なのです」(38p)。
 しかし「キリスト教は(仏教と比べると)つまらない。その本質が信じるか、信じないかだけだからです。信じれば善人で、信じない者は悪魔です。しかし、そのつまらない所がキリスト教の力」であって、「キリスト教徒でない人間などは、殺したほうが良いくらいに思っています。だから戦争も強い」(52p)。
 なるほど、いまのウクライナを観ていると、まさにそうではないか。
 欧米政治とは欺しあい、過酷な外交合戦であり、偽善がはびこる。そのなかで残虐にも手を染め狡智なはかりごとにも手を出して、交渉ごとに手腕を発揮した老獪な政治家に、クレマンソーがいる。
 筆者の執行氏は「なぜ偉大な政治家になれたか」と問い、それは「心の中が美しかったから」。だからこそクレマンソーは「必要悪である残酷なことや悪いことも逆に出来た」(140p)。日本で言うと徳川家康か。
そこへいくと、チャーチルは善悪二元論の世界観しか持たなかった。
 執行は「民主主義社会の最大の敵」は「魂の未熟」だと言う。即ち、「大人に成長したのに、子供のままの者」、或いは「子供じみた精神を持った人が『悪人』だ」とトマス・ホッブスが言ったことを紹介する(156p)
 いま流行の若者言葉で言うと「子供部屋おじさん」だろう。
 そうした子供じみた精神をもった欧州の政治家が、ロシアを相手にまともな勝負が出来ず、ウクライナ支援にも熱狂的にのめり込めない。
 「ヨーロッパはすでに崩壊を始めています。(中略)魂を失ってしまった。つまり神を見失ったのです。ヒューマニズムという人間中心主義の果てに、神を失い人間は滅びるしかなくなってしまいました」(330p)
 ウクライナ戦争は事実上、ウクライナの国土と民を犠牲にしたNATOとロシアの代理戦争であり、信仰心の薄くなったほうがいずれ敗れるだろう。

 さて本書には執行氏の読書遍歴も語られ、葉隠、道元、カント、三島、ウノムーノとなると俄然、熱がこもる。青年時代の執行氏が三島由紀夫と深く共鳴しあい、哲学を議論したというのは、おそらく葉隠であったのだろう。
 氏の書斎を三回ほど訪問したことがあるが、はたと気がついた。ざっと観ても数万冊の蔵書だが、古典、文学、詩集、哲学、思想書がぎっしりと並ぶ本棚に、時局もの、ハウツー読本、いわゆるビジネス書、経済書が一冊もないことに!

 現世に興味がないという霊境が氏の書斎、思考空間である。



「宮崎正弘の国際情勢解題」 
      令和四年(2022)6月30日(木曜日)
          通巻第7388号  より
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする