7月1日(金)の続き
帰路、珈琲店に寄る。
短時間なら歩道上にカブを停めたって大丈夫。今日は久しぶりに豆を買うついでに、コーヒーを一杯飲むつもり。
車だったらいつ取り締まりに来るか分からないけど、「歩道上、カブ」なら慌てて出てくりゃ何とかなりそうな気がする。
店の前の歩道は広い。5メートル幅くらいある。車道寄りに停めれば、通行の邪魔にはならない。
そこにカブを停めようと思うのだが、今日はその場所の歩道寄りにぴったりとくっつけてトラックが停まっている。そして荷物を運び出そうとしている真っ最中。
台車を出して、重そうな壁か床のシートみたいな巻物をひとつ、また一つと台車に積み始める。巻物を抱えた踏ん張り具合、台車に積み上げるときの台車の揺れ具合で、相当な重さだろうことが分かる。
台車に乗せた巻物の山は、珈琲店隣の内装業の会社まで運ばれる。大汗かいて一往復したトラックの運転手は、また同じ作業を始める。
これが終わってトラックが移動してくれなければカブを停められないのだが、この作業、先が見えない。
カブにまたがったまま、しばらく作業を見ていたがこれでは埒が明かない。だからと言って「いつまでかかるんだ!」、なんて文句を言いに行くわけにはいかない。彼は仕事、こちらは個人の嗜好。
だったら、いつもの通りコーヒーを買って帰るだけ。それなら少し離れた場所に停めれば良い。
店に入って豆を購入し、礼を言って出る。
ヘルメットをかぶって、
(家を出る時はそうでもなかったのに、ここにきて急に暑くなってきたな)
、と思いながらエンジンキーをひねり、キックアームを出し、スロットルと同調させながらキックアームを踏み、エンジンをかける。
そしてカブを出そうとしたら、その数十秒の間にトラックが台車をしまい、走り出した。
(えっ?まだ歩道に荷物が沢山あるけど?)
彼の仕事は配送のみだったらしい。歩道上に積まれた荷物は内装業の会社から使用先に運ぶために出しておいたものだろう。
いずれにせよ、目論んでいた場所は思った以上に大きな駐車スペースとなって目の前に「在る」。
あと数十秒、つまり店を出る前にトラックがいなくなっていたらコーヒーを飲んでいた。いつまでかかるか分からないから豆を買うだけにした。実際、ヘルメットをかぶって、出ようとした。
それが、目の前でトラックは消えてなくなった。
何だか狐に化かされて、炎天下に放り出された気分。
絶妙な間の悪さだけど、考え直してまたヘルメットを取って店に入る。
店主があれっ?という顔をする前に
「トラックがいなくなったので一杯いただいて帰ります」
と、我ながら訳のわからないことを言ってブレンドを一杯注文。
疑問符に囲まれたであろう店主に要領の悪い説明をし直す。
淹れ立てのコーヒーを飲みながら、
(やっぱり、慌てずゆっくり飲んで、飲み終わる頃には冷めて味が丸くなっている方がいいかな)
と思ったりする。
急いでやっているつもりが単に慌てているだけで、文字通り心が荒んでいたり、心が亡くなっていたり、みたいな日常を、知らず繰り返しているんだろうな。