モリモリキッズ

信州里山通信。自然写真家、郷土史研究家、男の料理、著書『信州の里山トレッキング東北信編』、村上春樹さんのブログも

俯いて 知らぬ間に消ゆ 貝母哉(妻女山里山通信)

2010-03-13 | アウトドア・ネイチャーフォト
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 特に珍しい花ではないのですが、時に熊も出没する斎場山の藪の奥にはバイモ(貝母)の群生地があります。2週間ほど前から一斉に芽吹き始めました。花の内側の紋様から編笠百合と呼ばれるバイモは、ユリ科バイモ(フリティラリア)属 。享保(1716-1736)年間に中国から薬用植物として入ってきた花です。最初に栽培されたのは奈良県で、大和貝母と呼ばれます。貝母と書くのは、球根が二枚貝に似ているからとか。咳止め、解熱、去痰の効能があるそうです。その鱗茎の形から、別名を母栗ともいいます。薬草ですが、同時にかなり強い毒草なので、庭に植えようなどと思わないことです。無毒の園芸種が売られています。

 リンクは、去年の春に撮影したバイモの蕾バイモの花です。葉の先がくるりと丸まるのが特徴で、花は俯いて咲くのが特徴。花も葉や茎とあまり色が違わず、下から覗き込まないと赤紫の網目模様も黄色い雄しべも見えないという一見地味な花ですが、なぜか心惹かれるものがあります。しかし、遠目に見ても花が咲いているようには見えないので、知らなければ、ただの山野の雑草として全く注目されることもないかもしれません。改良されて園芸用では売られているようです。

 極めて質素な花なので、茶花として好まれるそうですが…。
「編笠の 内に秘めたる 貝母百合」 林風
 貝母百合のような乙女とはどんな人なのでしょう。何を秘めていることやら…。花後は、地上部が枯れてなくなってしまうので、時期を外すとお目にかかれない植物です。カタクリやセツブンソウなどと同じく、スプリング・エフェメラル(Spring ephemeral)、春の妖精・春の儚い命のひとつです。

 昨春にバイモの開花期にこの群生地を訪れたら、足元から突然野兎が飛び出して驚いたことを思い出しました。百合根を食べるのは、日本と中国だけだそうですが、貝母の球根は苦くて薬用にはなっても食用には不適なようです。猪も食べないのか、掘り返した跡もありません。貝母は以前栽培地だったところにしか生えていないようで、一般の山野にはあまりないためか植物図鑑にもほとんど載っていません。群生地も斎場山近辺ではここだけしか見られないので貴重です。

 なぜここに群生地があるのかといいますと、戦前から川中島南原の薬草屋が山を借りて漢方薬の原料として栽培していたからなのです。それが放置されて群生地になったというわけです。栽培を止めてから既に数十年は経っています。その間、ほとんど誰にも知られず、毎年咲いては散ってを繰り返してきたのでしょう。
 中国では、主産地が浙江省で、特に象山で採取された「浙貝母」は最も高品質といわれています。信濃では、象山ではなく尾根続きにある斎場山が産地だったというわけです。

「俯いて 知らぬ間に消ゆ 貝母哉」 林風

★ネイチャーフォトは、【MORI MORI KIDS Nature Photograph Gallery】をご覧ください。キノコ、変形菌(粘菌)、コケ、花、昆虫などのスーパーマクロ写真。滝、巨樹、森の写真、森の動物、特殊な技法で作るパノラマ写真など。
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