既存建物をデイサービスに改装する工事は遅々として進んでいなかった。
夫とその親友Mは素人なので、工事業者からいいようにされているのかもしれない。
当座の費用にと出し合った資金はもう底を尽きかけているとのことだったし、Mが担当の銀行融資も可否すらまだ出ていない。
やまねこデイサービスの業務につきながら、私の頭の中はこれら懸案事項でいっぱいになりつつあった。
休日、改装現場へ行ってみて、驚いた。
便器は多機能のハイグレードのものだし、梱包されたままのテーブルセットは見るからに高価そうで、私なら絶対に買わないような品物だった。
さらに、外にはピカピカの車イス積載車が停まっていた。
嫌な予感がして夫に尋ねると、なかなか高かったよ、とあっさり答える。
リースやローンにしなかったのか、と重ねて尋ねたところ、言葉に詰まってぷいと横を向いてしまった。
数日後、新しい事業所の指定申請を担当しているKから、書類を書き上げたので県への提出に同行してくれないか、と連絡があった。
私は管理者予定者の義務感から、了承した。
県の担当者は窓口のテーブル越しにレントゲンのような視線で私たちの顔を交互に見ながら言った。
書類には雇用契約書の写しも必要ですが、開所予定日までにあなた方がそれぞれ退職されることを、現在の事業主さんたちには話しているのですよね?
私は返事をしなかった。
担当者も答えを期待していなかったかのように、書類に目を落とした。
申請書類はあっという間に訂正のペンで真っ赤になって行った。
私は思った、なごやかの理事長がよく言ってたっけ、指定申請書類は特殊なので書ける者はあまりいない、その書類をルーティンワークと捉え、一発で、訂正なしで通るように書きたい、またそれが相手へのマナーだと思っている、と。
そして何名かの職員に実際に作成方法を教え、書かせてもいた。
握った手のひらが汗ばんでくるのを感じた。
やっと訂正が終わった。
担当者はトントンと書類を机の上で整えると、私たちの前へ静かに押し戻した。
私はとても恥ずかしかった。
提出のレベルに達していないと思われているのは明白だった。
庁舎を出ると、口の中でなにか言い訳を続けているKを振り払うようにして自分の車に乗った私は、まっすぐやまねこデイサービスへ向かった。
(つづく)
大震災直後から、たくさんの支援を全国から賜りましたこと、職員一同心より感謝申し上げます。
また、私たちと共にあって、懸命に復興に取り組んでいらっしゃる関係者の方々に対しても厚く感謝申し上げます。