電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

中公文庫編集部編『文房具の研究~万年筆と鉛筆』を読む

2014年08月10日 06時08分46秒 | 手帳文具書斎
書棚を整理していたら、何冊かの文具系の古い文庫本を見つけました。その一冊が、中公文庫ビジュアル版というシリーズから、『文房具の研究~万年筆と鉛筆』。中公文庫編集部編によるもので、手もとにあるのは、1996(平成8)年に発行された初刷本です。

本書の構成は、次のようになっています。

「人間は考える葦」であるならば (野沢松男)
■鉛筆が原点にあった
イギリスで発見された黒鉛と、ニュールンベルクの職人が築いた創世期。以来、鉛筆はある種の郷愁を誘い、ロマンを誘う、魅惑の筆記具であり続けた
鉛筆のサイズはアタから生まれた
鉛筆大好きー鉛筆の魅力の再発見ー (勝呂弘)
鉛筆物語:ファーバー・カステル、ステッドラー、スワン・スタビロ、カランダッシュ、三菱鉛筆
小さくなればなるほどいとおしうて、私のないじなもんになった"ちびえんぴつ" (大村しげ)
鉛筆に隠された地図 (伊藤喜栄)
■万年筆、この一本
明治の文豪たちが万年筆を愛用しはじめた底には、実用便利だけでない心のときめきがあったにちがいない (八木佐吉)
万年筆とワープロを巧みに融和 (西尾忠久)
万年筆物語:ウォーターマン、ペリカン、クロス、モンブラン、シェーファー、パーカー、パイロット
万年筆の旅 (朝倉則幸)
世界に一本しかない自分だけの万年筆~出会いがあり、育っていく筆記具の魅力 (中谷宗平)
コックは横文字が書けなければならない。このことから始まった私の万年筆コレクション (村上信夫)
ペン先は調整師に磨かれ、調整の技は客によって磨かれる
最後の万年筆職人:一本の手作り万年筆の向こう側には、四人の職人さんたちの顔があった (笠井一子)

1996年の暮れに購入し、その日のうちに読んだ記録が残されていますが、全く記憶に残っていませんでした。たぶん、DOS/VのコンピュータでWindows95とコンピュータ組版システム(TeX/LaTeX)に明け暮れていた頃です。文房具にずっと興味は持ちながらも、あまりピンとこなかったのではないかと思います。

再読して見て、感じたことが一つあります。それは、コンピュータなどデジタルな要素を廃し、郷愁と感性・感情に訴える構成になっていることです。かろうじてワープロを話題にしている西尾忠久氏の文章も、「ぼくは一通きりのハガキもワープロで打ってフロッピーディスクに記録を残しているが、署名は先刻も記したように緑インクの万年筆でしている」(p.85)という具合です。万年筆や鉛筆で原稿用紙を埋めているような、古いタイプの編集者が、自分たちのスタイルや、時代の証を残そうとしたのかもしれません。たぶん、コンピュータや情報機器と併存し、互いに補い合うような視点がなかったことが、ピンとこなかった原因ではないかと思い当たりました。

ただし、写真はきれいですし、ベテランの薀蓄は参考になります。例えば三菱鉛筆の創業者・眞崎仁六がパリ万博に参加して鉛筆の製造を志すくだりなどは、むしろ「歴史技術科学」カテゴリーで取り上げたいくらいです。文庫本というコンパクトな判型で、重たく大きい雑誌のかわりに寝床で懐かしく眺めるにはちょうどよい大きさです。

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