私は、若いベートーヴェンの音楽を、わりに好んで聴いています。しかも、ピアノ三重奏曲第1番、ピアノソナタ第1番、ピアノ協奏曲第1番、交響曲第1番、弦楽四重奏曲第1番など、なぜか第1番には、自信作でステキな曲が多いと感じています。それは、チェロとピアノのためのソナタでも同様であり、Op.5-1という作品番号を持つこの曲は、当方お気に入りの音楽でもあります。
青木やよひ著『ベートーヴェンの生涯』によれば、作曲年代は1796年とのことです。フランス革命の後の反動の時代、前年にブルク劇場で自作のピアノ協奏曲や即興演奏を披露してウィーンに公開演奏会デビューしたベートーヴェンは、シュパンツィヒらの優れた弦楽器奏者を抱えていたリヒノフスキー侯爵邸で新作を発表し、話題となっていました。翌1796年には一人で演奏旅行に出かけます。プラハ、ドレスデン、ライプツィヒ、そしてベルリンへと旅をしますが、ベルリンに滞在した際に、音楽愛好家でチェリストでもあったプロイセン国王フリードリヒ・ヴィルヘルム二世のために、新たにチェロ・ソナタを書き下ろします。これが、Op.5 の2曲のチェロソナタというわけです。王は、ベートーヴェンに金貨のつまった金の嗅ぎ煙草入れを贈り、宮廷楽長への就任を打診したそうですが、まもなく王が死去したために、この話は立ち消えになったそうな。(p.95~6)
なるほど、そういう経緯を知ると、この曲の堂々としたポジティブさが、ストンと納得できます。
第1楽章:序奏部はアダージョ・ソステヌート(音をじゅうぶんに保って)、ヘ長調、4分の3拍子。それまでは脇役に甘んじることが多かったチェロの音を主役に押し出して、印象的な始まりです。主部はアレグロで、ヘ長調、4分の4拍子。ここでは、朗々と主題を歌ったチェロが、ピアノとともに、様々に変奏を展開していきます。若々しく、かつ堂々たる音楽です。
第2楽章:緩徐楽章を持たず、すぐにアレグロ・ヴィヴァーチェ、ヘ長調、8分の6拍子で。ロンド形式を取り、主題がチェロに、ピアノに、何度も繰り返されて演奏されます。この前進力は、たしかにベートーヴェンのものでしょう。
従来、第3番や第5番を聴いてきたのは、ロストロポーヴィチのチェロとスヴャトスラフ・リヒテルのピアノによる、気魄に満ちた大きな演奏(*1)でしたが、近年は著作隣接権の保護期間が満了し、めでたくパブリック・ドメインの仲間入りをした、ピエール・フルニエのチェロとフリードリヒ・グルダのピアノによる演奏で、この若いベートーヴェンの音楽を聴くことが多くなっています。
第1楽章では遅すぎず、第2楽章も速過ぎない、ちょうどよいテンポで進みます。日常生活における親しみやすさという点で、繰り返し聴くにはフルニエ盤を選んでしまうのかもしれません。1959年の録音です。棚中のCDを発掘しなくても、パソコンの画面上ですぐにどちらかの録音を選ぶことができるのも、PCオーディオの恩恵の一つでしょう。
参考までに、Ubuntu-Linux 上で再生しているソフト RhythmBox のタイム表示で測った演奏時間を記しておきましょう。
■フルニエ(Vc)、グルダ(Pf)盤
I=14'39" II=6'44" total=21'23"
■ロストロポーヴィチ(Vc)、リヒテル(Pf)盤
I=16'32" II=6'33" total=23'05"
(*1):ベートーヴェン「チェロソナタ第3番」を聴く~「電網郊外散歩道」2006年6月
青木やよひ著『ベートーヴェンの生涯』によれば、作曲年代は1796年とのことです。フランス革命の後の反動の時代、前年にブルク劇場で自作のピアノ協奏曲や即興演奏を披露してウィーンに公開演奏会デビューしたベートーヴェンは、シュパンツィヒらの優れた弦楽器奏者を抱えていたリヒノフスキー侯爵邸で新作を発表し、話題となっていました。翌1796年には一人で演奏旅行に出かけます。プラハ、ドレスデン、ライプツィヒ、そしてベルリンへと旅をしますが、ベルリンに滞在した際に、音楽愛好家でチェリストでもあったプロイセン国王フリードリヒ・ヴィルヘルム二世のために、新たにチェロ・ソナタを書き下ろします。これが、Op.5 の2曲のチェロソナタというわけです。王は、ベートーヴェンに金貨のつまった金の嗅ぎ煙草入れを贈り、宮廷楽長への就任を打診したそうですが、まもなく王が死去したために、この話は立ち消えになったそうな。(p.95~6)
なるほど、そういう経緯を知ると、この曲の堂々としたポジティブさが、ストンと納得できます。
第1楽章:序奏部はアダージョ・ソステヌート(音をじゅうぶんに保って)、ヘ長調、4分の3拍子。それまでは脇役に甘んじることが多かったチェロの音を主役に押し出して、印象的な始まりです。主部はアレグロで、ヘ長調、4分の4拍子。ここでは、朗々と主題を歌ったチェロが、ピアノとともに、様々に変奏を展開していきます。若々しく、かつ堂々たる音楽です。
第2楽章:緩徐楽章を持たず、すぐにアレグロ・ヴィヴァーチェ、ヘ長調、8分の6拍子で。ロンド形式を取り、主題がチェロに、ピアノに、何度も繰り返されて演奏されます。この前進力は、たしかにベートーヴェンのものでしょう。
従来、第3番や第5番を聴いてきたのは、ロストロポーヴィチのチェロとスヴャトスラフ・リヒテルのピアノによる、気魄に満ちた大きな演奏(*1)でしたが、近年は著作隣接権の保護期間が満了し、めでたくパブリック・ドメインの仲間入りをした、ピエール・フルニエのチェロとフリードリヒ・グルダのピアノによる演奏で、この若いベートーヴェンの音楽を聴くことが多くなっています。
第1楽章では遅すぎず、第2楽章も速過ぎない、ちょうどよいテンポで進みます。日常生活における親しみやすさという点で、繰り返し聴くにはフルニエ盤を選んでしまうのかもしれません。1959年の録音です。棚中のCDを発掘しなくても、パソコンの画面上ですぐにどちらかの録音を選ぶことができるのも、PCオーディオの恩恵の一つでしょう。
参考までに、Ubuntu-Linux 上で再生しているソフト RhythmBox のタイム表示で測った演奏時間を記しておきましょう。
■フルニエ(Vc)、グルダ(Pf)盤
I=14'39" II=6'44" total=21'23"
■ロストロポーヴィチ(Vc)、リヒテル(Pf)盤
I=16'32" II=6'33" total=23'05"
(*1):ベートーヴェン「チェロソナタ第3番」を聴く~「電網郊外散歩道」2006年6月