電網郊外散歩道

本と音楽を片手に、電網郊外を散歩する風情で身辺の出来事を記録。退職後は果樹園農業と野菜作りにも取り組んでいます。

有川浩『フリーター、家を買う』を読む

2014年08月02日 06時04分12秒 | 読書
はじめは男性作家だと思っていた(*1)有川浩さんの『フリーター、家を買う』を読みました。2009年に単行本として発表され、2012(平成24)年に文庫化されたもので、幻冬舎文庫です。人気作であることは知っていましたが、フリーターが家を買えるはずもないし、あっと驚く一攫千金のサクセス・ストーリーかな、などと予断と偏見を持っておりました。たまたま出先の書店で時間調整をしていたときに、この文庫本を見つけ、ほかには目をひくものもないし、ためしに読んでみようかと購入。いや~、思わず寝るのも忘れて読みふけってしまいました。おかげで、翌日は眠い眠い~(^o^)/



第1章:「フリーター、立つ。」 主人公・武誠治クンは、そこそこの高校へ行って、一浪したけれどそこそこの私大に行き、そこそこの会社へ就職して、自己啓発型の新人研修に違和感を持ち、三カ月で辞表を出してフリーター生活に入ってしまいます。
うーむ、ここですでに、自宅から大学に通い就職もできるという点で、都会の若者の恵まれた条件が明らかになっています。田舎の同世代ならば、下宿生活にアルバイト、就活だってお金がかかり、親がしゃかりきになって働かなければ、仕送りなど続くわけがないという状況にありますからね~(^o^;)>poripori
その甘えに気づかず、堅物オヤジに反発してプー太郎生活を続けるうちに、母親が心を病んでしまいます。背景には、父親の酒癖の悪さとともに、団地の中であるにもかかわらず社宅族というやっかみも加わって、地域の中でイジメに耐えてきた、というストレスがありました。それが、息子のプー太郎+父親との対立という生活で、セロトニンだかドーパミンだかの分泌が変調を来してしまったようです。
猛姉にズバズバ指摘され、猛姉とダメ親父との対決を見せられ、母の異常さを間近に見て、誠治クンはようやく「これではいけない!」と立ち上がります。そのきっかけになったのが、姉チャンがポンと置いて行ってくれた百万円でした。

第2章:「フリーター、奮闘。」 誠治クンは、就活をして面接は受けるのですが、連戦連敗。とりあえず金は貯めようと、時給の高い建設業の人夫を志願。いわゆるガテン系です。そこで数ヶ月働くうちに、音を上げない感心なヤツだということで、やがて気のいいオッサンたちの仲間に入れてもらえるようになります。

第3章:「フリーター、クラスチェンジ。」 オッサンたちの助言もあり、父親に今までの履歴書を見てもらい、自分の考え方の幼さに気づきます。なんとか格好をつけて応募したところ、一次試験に通ってなんとか二次の面接にこぎつけますが、母親が薬の置き場所を見失ってパニックになり、電話をかけてきます。向精神薬を飲んでいるのに今にも車で医者に行きそうな勢いの母親をなんとか制止して、面接直前に事情を話し、キャンセルして家に戻ります。でも、バイト先の大悦土木が、思いがけない好条件を提示してくれました。

第4章:「元フリーター、働く。」 大悦土木で、正社員としての仕事は、業務部とのことです。将来的には経理をやることになっていますが、当面はパソコン一式をそろえて事務文書の電子化から始めます。OCR(光学読み取り装置)を通じて紙の伝票やら工程表やらを読み取り、修正を加えてフォルダに収めていくというやり方です。ふーむ、誠治クンは、伊達にパソコンをやっていたわけではなさそうですね。普通、今どきの大学生といっても、せいぜいワードをいじれるくらいで、エクセルの関数やOCRを用いたドキュメンテーションなどは、苦手にしている人が多いというのが実態だと思うのですが(^o^)/
そして次の仕事は、なんと採用人事でした(^o^)/
第5章:「元フリーター、家を買う。」 母親の心の病は、誠治クンが家にいないせいもあり、一進一退。新規に採用した社員は二人とも「当たり」だったみたい。
あとは家を買う話ですが、わずか380ページで軟弱息子が心を病む母親を面倒見ながら家を買うまでに成長するのですから、いささか出来杉君のストーリーですが、なかなかおもしろく読みました。



ところで、お母さんが心を病む経緯ですが、ご近所のイジメがずっと続いていた中でも、娘(姉)との会話などが慰めとなり、それなりに安定していたわけでしょう。ところが娘は嫁に行き、息子(誠治クン)が会社を三カ月で辞めてしまい、フラフラしたフリーター生活を続け、夫(父親)との折り合いが悪いという状況になります。おそらくお母さんは、その間ずっと、夜も眠れないほど悶々としたのでしょう。先に興味深く読んだ岩波ジュニア新書『脳科学の教科書・こころ編』等(*2,3)に基づき推測すれば、本来は良質の睡眠によって脳外に排出されるはずの老廃物が長期間排出されず、脳神経系、とくに海馬の周辺がダメージを受けたのかも。終日緊張状態が続き、セロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質の分泌や調節をつかさどる器官が「くたびれはててしまった」状態なのだろうと思います。

そう考えると、ダメ親父に描かれたお父さんだけでなく、主人公の誠治クンの責任は重いはず。これくらいシッカリしてくれないと、話の都合上も困りますね~(^o^)/

(*1):有川浩『三匹のオッサン~ふたたび』を読む~「電網郊外散歩道」2012年7月
(*2):岩波ジュニア新書『脳科学の教科書・こころ編』を読む(1)~「電網郊外散歩道」2014年5月
(*3):岩波ジュニア新書『脳科学の教科書・こころ編』を読む(4)~「電網郊外散歩道」2014年5月

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